レビュー
事実上の「DRTCM37&38後継製品」は買いなのか
CM Storm Mizar,Alcor
Cooler Master Technologyはその類似性を否定しているが(関連記事),エンドユーザーからしてみれば,どこまでそっくりで,果たしてDRTCM37&38からの買い換え先として機能するかのほうが重要だ。今回は,かつてDRTCM37&38の開発に少しだけ関わった筆者が弄り倒して,MizarとAlcorが信用に足るのかどうかを検証してみたいと思う。
DRTCM37&38とは異なり,明確にMizarが上位モデル
Alcorはいろいろ削られている
DRTCM37&38がそうであったように,形状がそっくりのMizarとAlcorも,右手用のワイヤードマウスだ。Mizarがレーザーセンサー搭載モデル,Alcorが光学センサー搭載モデルだ。
そんな4製品の主なスペックは下の表にまとめたとおり。MizarとAlcorのスペックは「未公開」というのが多いのだが,搭載されるセンサーがDRTCM37&38と同じことから,推測できるところは( )付きで記載している。
Mizar | DRTCM38 | Alcor | DRTCM37 | |
---|---|---|---|---|
接続インタフェース | ワイヤード | ワイヤード | ワイヤード | ワイヤード |
持ち手 | 右手用 | 右手用 | 右手用 | 右手用 |
ボタン | 左右メイン,センタークリック機能付きスクロールホイール,スクロールホイール手前×2,左サイド×2,右サイド×2 | 左右メイン,センタークリック機能付きスクロールホイール,スクロールホイール手前×1,左サイド×2 | 左右メイン,センタークリック機能付きスクロールホイール,スクロールホイール手前×2,左サイド×2,右サイド×2 | 左右メイン,センタークリック機能付きスクロールホイール,スクロールホイール手前×1,左サイド×2 |
搭載センサー | PixArt Imaging |
PixArt Imaging |
PixArt Imaging |
PixArt Imaging |
最大トラッキング速度 | 未公開(おそらく150IPS) | 150IPS |
60IPS |
60IPS |
最大加速度 | 未公開(おそらく30G) | 30G | 20G | 20G |
フレームレート | 未公開(おそらく12000fps) | 12000fps | 未公開(おそらく6400fps) | 6400fps |
画像処理能力 | 未公開 |
未公開 |
未公開 |
未公開 |
DPI/CPI設定 | 200〜8200 DPI(※100 DPI刻み) | 200〜8200 CPI(※1 CPI刻み) | 400〜4000 DPI(※ファームウェアによる) | 400〜3500 DPI(※1 CPI刻み,一部エミュレーション) |
USBレポートレート(ポーリングレート) | 100 |
125 |
125Hz | 125 |
データ転送フォーマット | 未公開 | 16bit | 未公開 | 16bit |
リフトオフディスタンス | 未公開(※おそらく1mm) | 可変(※設定可能) | ファームウェアによる | 可変(※設定可能) |
設定内容保存用フラッシュメモリ | 内蔵 | 内蔵 | 内蔵 | 内蔵 |
実測本体サイズ | 68.0(W) |
68.0(W) |
68.0(W) |
68.0(W) |
実測総重量※ | 約120g | 約127.5g | 約120g | 約129.5g |
実測本体重量※ | 約86g | 約89g | 約86g | 約91g |
マウスソール | 未公開 | PTFE | 未公開 | PTFE |
ケーブル長 | 約2.0m | 約1.7m | 約2.0m | 約1.7m |
ただそれだけに,AlcorでUSBレポートレート(ポーリングレート)が125Hzに固定されている点は気を付けておくべきだと思う。Cooler Masterの発表だとAlcorのUSBレポートレートは1000Hzなので,どういう理由なのかは分からないが,複数の個体でこの結果を確認できたので,少なくとも2014年12月初旬時点のファームウェアでは125Hz固定だと理解しておいてもらえれば幸いだ。
MizarとAlcorの外観について述べると,Mizarでは本体左右側面に滑り止め用のラバーが貼られているのに対し,Alcorにはそれがない。MizarのスクロールホイールにはLEDの発光ギミックがあるのに,Alcorにはやはりないという違いがある。
DRTCM37とDRTCM38は「同じ製品ランクで,センサーが異なる」というものだったが,MizarとAlcorでは前者が上位モデル,後者が下位モデルという印象を強く受ける。
左右メインボタンはセパレートタイプを採用。人差し指と中指を置く部分はごくわずかに凹んだ形状となっており,自然とベストポジションに指を配置できる。
スクロールホイールは幅が実測約7.3mmで,幅約5mmのラバーが中央にぐるりとホイールを一周するように取り付けられている。このラバーには滑り止めとして,幅約1mm長さ3mmの突起が1mm間隔で2列あり,指先での操作を快適に行えるようになっていた。センタークリックは適度な硬さで押下でき,押し返しも適切な硬さだ。
左側面にあるサイドボタンは,上面部の左メインボタンと上面カバーとの溝に沿うように配置されている。本体奥側(=左右メインボタン側)のボタンは全長が19mm,本体手前側(=後側)は28mmで,幅は8mmあった。
DRTCM37&38と持ちやすさは変わらず
あえていえばMizarはグリップが良好
以上,DRTCM37&38と“かなり同じ”なMizarとAlcorだが,それだけに,当然のことながら,握ったときのフィーリングはDRTCM37&38と変わらず,端的に述べてとても持ちやすい。あえて違いを指摘するならば,側面にラバーが貼られているMizarが持ちやすさでは一段上だが,別にAlcorが特別にグリップ力で劣るということはない。
実際に握ってみた印象は,以下,写真とともに短評でまとめてみたので,参考にしてほしい。
いや,それにしても,本当に握った印象は同じであり,驚いた。「そのまんま」という言葉がこれほど適切なケースは滅多にないだろう。
細かな設定が可能なのはMizarのみ
Alcorは非常にユニークな仕様を採用
MizarとAlcorは,DRTCM37&38と同じくWindowsのクラスドライバで動作するので,いわゆるドライバレス仕様のマウスということになる。しかし,その能力をフルに使い切るためには,Cooler Master Gamingのサポートページから入手できる専用のソフトウェアとファームウェアを入れておく必要がある。
……と書くと,両製品に対して専用ソフトウェアが用意されているように思うかもしれないが,実のところ,専用ソフトによる細かな設定が可能なのはMizarのみ。Alcorでは,「特定のゲームジャンルに向けたファームウェア」の入れ替えによって,最低限のカスタマイズを行えるという,妙な方式が採用されている。
というわけで,Mizarでのみ利用可能な設定用ソフトウェア「Mizar Software」を見てみよう。下に示したのは,設定ソフトウェア起動直後のスクリーンショットで,上部には「メインコントロール」「プロパティ」「マクロ」「ゲームプロファイル」「ライブラリ」「サポート」という6つのタブから,メインコントロールが開いた状態になっている。6つあるタブから,設定したい項目を選んで調整していくという,よくあるデザインだ。
そのほかの項目はスクリーンショットとキャプションでまとめたので,参考にしてもらえればと思う。
プロパティではDPI設定だけでなく,10段階で設定可能なポーリングレート,さらにLEDイルミネーションの設定,直線補正の有無を調整可能 |
マクロに用意されたマクロ機能は,ゲーマー向けマウスにおける標準的なものといった感じ。使い方の難度も標準的だ |
ゲームプロファイルでは,複数のプロファイルから,Mizarに保存する4つを選択することが可能 |
一見分かりにくいが,ライブラリでは,作成したマクロをプロファイルに組み込んだり,ボタンに割り振ったりできる |
サポートでは,使用しているファームウェアのバージョン確認と,英語サポートサイトへのジャンプができる |
Mizar Softwareは,日本語化されているうえに細かいところまで設定でき,見た目もごちゃごちゃしていないため,初心者から上級者まで安心して扱える印象だ。マクロも含めて(OSと連動する項目以外では)すべての設定内容をプロファイルとしてMizarに保存できるため,プロファイルごとに,マウス側のボタンへプロファイル切り替えを割り当てておけば,Mizar SoftwareがインストールされていないPCでも,すぐに設定した状態で使えるのはいい。
個人的に面白かったのはやたらと細かなポーリングレート設定だったが,なぜこんなことになっているのか,Cooler Master Gamingはとくに説明していない。
前述のとおり,「8ms」表記の有無にかかわらず,レポートレートは125Hz(=8ms)固定なので,正直,「8ms」表記の有無が意味するところはよく分からない。
説明がないので分かりにくいのだが,分かる範囲で紹介しておくと,Originalを使うメリットはあまりないので,FPSかRTS/MMOを選んでおくといいのではなかろうか。本稿では以下,「FPS」を使ってテストを行っていく
Mizarのセンサー性能は優秀
一方のAlcorは気になる部分が多い
MizarとAlcorが搭載するセンサーは,いずれもDRTCM37&38に搭載されていたのと同じだ。最近のトレンドからするとやや古めのセンサーだが,定評ある旧Avago Technologies製センサーなので,致命的なことにはなっていない可能性が高いだろう。
ただし,マウスの読み取り性能というものは,センサーだけで決まるものではない。細かいチューニングが必要で,そこにメーカーの個性が出るのだ。そこで,今回も,リフトオフディスタンスの計測と,ネガティブアクセルの計測を行っていきたい。
テストに用いたPCの構成とテスト条件は下にまとめたとおりだ。
●テスト環境
- CPU:Core-i7 4770(定格クロック3.4GHz,最大クロック3.9GHz,4C8T,共有L3キャッシュ容量8MB)
- マザーボード:GIGA-BYTE TECHNOLOGY GA-Z87X-UD4H(Intel Z87 Express)
※マウスのレシーバーはI/Oインタフェース部のUSBポートと直結 - メインメモリ:PC3-12800 DDR3 SDRAM 8GB×2
- グラフィックスカード:GIGA-BYTE TECHNOLOGY GV-760OC-2GD(GeForce GTX 760,グラフィックスメモリ容量2GB)
- ストレージ:SSD(CFD販売「CSSD-S6T128NHG5Q」,Serial ATA 6Gbps,容量128GB)
- サウンド:オンボード
- OS:64bit版Windows7 Ultimate+SP1
●Mizarテスト時のマウス設定
- ファームウェアバージョン:V1.2.0
- ソフトウェアバージョン:V1.0.8
- DPI設定:200〜8200 DPI(※主にデフォルト設定の1600 DPIを利用)
- レポートレート設定:100/111/125/142/166/200/250/300/500/1000Hz(※主にデフォルト設定の1000Hzを利用)
- Windows側マウス設定「ポインターの速度」:左右中央
- Windows側マウス設定「ポインターの精度を高める」:無効
●Alcorテスト時のマウス設定
- ファームウェアバージョン:V2.2.1(FPS version)
- ソフトウェアバージョン:なし
- DPI設定:400/800/1600/2000 DPI(※主に800 DPIを利用)
- レポートレート設定:125Hz
- Windows側マウス設定「ポインターの速度」:左右中央
- Windows側マウス設定「ポインターの精度を高める」:無効
まずはリフトオフディスタンスからだが,今回,新たにSteelSeriesの新製品である布系マウスパッド「SteelSeries DeX」を入れ,代わりに「Razer Sphex」を外したことを,あらかじめお断りしておきたい。
テストに用いるのは,厚さの異なるステンレスプレートで,これらを重ねながら,カーソルの反応が途絶えるポイントをチェックしている。その結果が下の表だ。
Mizar | Alcor | |
---|---|---|
ARTISAN 隼XSOFT(布系) | 1.1mm | 2.1mm以上 |
ARTISAN 疾風SOFT(布系) | 1mm | 2.1mm以上 |
ARTISAN 飛燕MID(布系) | 0.9mm | 2.1mm以上 |
Logicool G440(プラスチック系) | 0.7mm | 2.1mm以上 |
Logicool G240(布系) | 0.8mm | 2.1mm以上 |
Razer Destructor 2(プラスチック系) | 0.8mm | 2.1mm以上 |
Razer Goliathus Control Edition(布系) | 1.1mm | 2.1mm以上 |
Razer Goliathus Speed Edition(布系) | 0.9mm | 2.1mm以上 |
Razer Manticor(金属系) | 0.8mm | 2.1mm以上 |
SteelSeries 9HD(プラスチック系) | 0.8mm | 2.1mm以上 |
SteelSeries DeX(布系) | 0.9mm | 2.1mm以上 |
SteelSeries QcK(布系) | 1.0mm | 2.1mm以上 |
ZOWIE G-TF Speed Version(布系) | 1.1mm | 2.1mm以上 |
ZOWIE Swift(プラスチック系) | 0.7mm | 2.1mm以上 |
Mizarは,おそらくターゲットとなる距離が1mmなのだと思われるが,2mm以下なら合格ラインといえるゲーマー向けマウスのなかにあって,とても良好なチューニングがなされていると断言できる。一方のAlcorは,適用したファームウェアだとリフトオフディスタンスは1.7mmのはずなのだが,すべて2.1mm以上。追加テストしてみると,軒並み4mmで,Originalとされるファームウェアの設定値と大して変わらなかった。露骨なチューニング不足,といった感じだ。
続いて,「MouseTester」を使ったセンサー性能の検証に入ろう。ここでは,マウスパッドにARTISAN 隼XSOFTを使うこととし,Mizarではレポートレートを最大の1000Hzに設定したうえでDPI設定は800/1600/3200/8200の4段階,レポートレートが125Hz固定のAlcorはDPIを400/800/1600/2000の4段階に切り替えながらテストを行った。
グラフではY軸のプラス方向が左への移動,マイナス方向が右への移動時におけるそれぞれカウント数,横軸がms(ミリ秒)をそれぞれ示す。青い点が実際のカウント,青い波線はそれを正規化したもので,簡単にいえば,波線が上に乗っかっていればいるほどセンサーの性能が良好だということになる。カーブがプラスからマイナス,あるいはその逆のところでブレているようだと,いわゆるネガティブアクセルが疑われる,といった感じだ。
それを踏まえたうえで,下のグラフ計8枚をチェックしてほしい。
センサーが異なるので,挙動が異なるのは想像できていたが,ここまでMizarとAlcorに違いがあるとは思わなかった。Mizarは800DPI設定時に若干の不安があるものの,全体的には優秀な結果になったといえるだろう。一方,Alcorは2000DPI設定時に良好であるものの,それ以下では気になるところが目立った。
DRTCM37&38の後継といえるMizar。Alcorは微妙。気になる内部構造は後編で
一方のAlcorは,形状以外のすべてがMizarの劣化版,といった印象だ。ファームウェアが改良されれば,状況は変わってくるかもしれないが,少なくとも現時点では,DRTCM37&38と比較する以前の問題であり,わざわざ選択する価値はない。
……と,普段ならここで締めるのだが,本稿でMizarとAlcorの分解を行っていないことに気づいただろうか? いつもは筆者が自分でマウスを分解しているのだが,今回は,スペシャルゲストを招いた「分解セッション」を,別途,お伝えしたいと考えている。
後編は近日中に掲載する予定なので,お楽しみに。
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CM Stormの新型マウス「Mizar」「Alcor」レビュー後編。スペシャルゲストとともにその内部構造へ迫る
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