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圧倒的な文章量ながら,それを感じさせないくらいの“魅せる”テキストが秀逸な推理アドベンチャー,「流行り神3 警視庁怪異事件ファイル」のレビューを掲載
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印刷2009/09/08 10:30

レビュー

都市伝説推理アドベンチャー「流行り神」シリーズの最終作にして最秀作

流行り神3 警視庁怪異事件ファイル

Text by 御簾納直彦


画像集#001のサムネイル/圧倒的な文章量ながら,それを感じさせないくらいの“魅せる”テキストが秀逸な推理アドベンチャー,「流行り神3 警視庁怪異事件ファイル」のレビューを掲載
 今回紹介する「流行り神3 警視庁怪異事件ファイル」(以下,流行り神3)は,“消えるヒッチハイカー”“口裂け女”“人面犬”“トイレの花子さん”などでおなじみの都市伝説/怪談をテーマとしたPSP用ソフトだ。本作は2004年に産声を上げたPlayStation 2用“都市伝説推理アドベンチャー”「流行り神」のシリーズ最新作で,移植作を除き,初のPSP用新作タイトルとなる。
 プレイヤーは“警視庁編纂室”に勤務する風海純也(名前変更可能)となり,次々と舞い込んでくる怪異事件を解決に導くことになる。本シリーズでは,事件を“科学的見地”と“オカルト的見地”という二つの見地から捜査でき,どちらのルートを進むかによって,事件の展開が大きく変わるのが特徴だ。
 また“カリッジポイント”や“セルフ・クエスチョン”といった,シリーズ独自のシステムも,流行り神を語る上で欠かせないシステム。これらの詳細については,公式サイト「こちら」の記事も参照してほしい。

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基本はオーソドックスなテキストアドベンチャーだが

随所に「流行り神」ならではのスパイスが盛り込まれている


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 「流行り神」シリーズはいわゆる,ノベルタイプアドベンチャーゲームのシステムを踏襲しており,次々と表示されるテキストを読み進めながら,ストーリーを進行させていく。
 選択肢が表示される場面では,先述したカリッジポイントというシステムが登場する。カリッジポイントとは,選択肢が表示される場面において,重要な項目や,勇気を試される言動を選ぶ際に必要となるリソースだ。このポイントには限りがあり,安易に消費していってしまうと,ストーリー後半の重要な場面において,カリッジポイントが必要な選択肢が選べなくなることがある。
 そうなってくると,当然のことながらストーリー展開にも悪影響を及ぼすことがあり,最悪,ゲームオーバーもありうる。事件を解決へ導くために,プレイヤーは後々のことも考えつつ,カリッジポイントの使いどころを見極める必要がある。
 一見,ハードルが高いように感じる人もいるかもしれないが,カリッジポイントの存在こそが,本作のストーリーに程よい緊張感と戦略性を与えることに,一役買っているのは間違いない。

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 もう一つの特徴的なシステムである,セルフ・クエスチョンについても説明しておこう。これは,ストーリーがある局面に差し掛かると発生し,主人公が自問自答しながら,今後の捜査方針を決めていくというシステム。ここで,矛盾をはらんだ選択ばかりしていると,クリア後の評価に悪影響が及んでしまうので注意が必要だ。
 なおセルフ・クエスチョンは,今後の捜査が,科学ルートとオカルトルートのどちらに進んでいくかの分岐点になる場合もあるので,できるだけ慎重に選んでいきたいところだ。

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 そして流行り神といえばもう一つ,“推理ロジック”も忘れてはならない。推理ロジックとは,プレイ中に手に入れたキーワードや人物名を相関図の空欄に当てはめて,最終的な相関図を完成させることが目的のシステムだ。
 空欄には,これまでに手に入れたキーワードが表示されるのだが,ストーリーの進め方次第では,最も適切なキーワードが手に入らないまま,最終的な推理ロジックを組み立てなければならない場合もある。
 なお推理ロジックは,ストーリーの終盤で完成形を求められるタイミングがやってくるものの,基本的にはプレイ中いつでも埋められるので,ある程度捜査が進んだ段階で,こまめにキーワードを埋めていきつつ,自らの考えも整理しておきたい。

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 ゲームに直接絡んでくるわけではないが,“データベース”の存在も流行り神を語る上では外せない要素である。
 データベースとは,ゲーム中に出てきた警察用語やオカルト用語が,自動的に登録される機能。これらの用語は,誰もが知っている有名なものからマイナーなものまで幅広く,読み物として楽しめる内容となっている。
 一度登録された用語はいつでも閲覧できるので,ちょっとした息抜きにぴったりだ。ゲームをより深く楽しむために,あるいは純粋に雑学として,ぜひ目をとおしてほしい。
 ちなみに前作と前々作では,データベースを埋めていくことで,隠しシナリオがアンロックされる仕組みが用意されていた。流行り神3ではどうなのだろうか……?

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 また本作から,これまでに通ってきたシナリオをすべて把握できる“分岐ツリー”が追加された。これは,シナリオの流れを把握するためだけのものではなく,分岐ツリーで選択したシーンへと一気にジャンプすることもでき,バックログ機能と合わせて使うと非常に便利。既読率100%やデータベースの回収などといった,ヤリ込み要素を手助けする機能として大いに役立ってくれる。

 加えて,本作の楽曲を堪能できる“音楽保管室”や,最大6人まで楽しめるミニゲーム“旧校舎のメリーさん”なども用意されており,本編以外のお楽しみ要素も抜かりはない。データベースと同様,ちょっとした息抜きとしてこれらの要素を堪能するといいだろう。

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プレイヤーをグイグイとストーリーに引き込む文章の魅せ方はさすがの一言

かゆい部分に手が届く親切設計も嬉しい


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 都市伝説や謎解き要素ばかりがピックアップされがちな本作ではあるが,もちろん魅力はその部分だけに留まらない。個性の塊のような魅力的なキャラクター達が,本作への没入度をより一層高めている。
 個人的には,キャリアも長く(犬童蘭子を除けば)編纂室で最年長なのに,なぜかいじられる役が多い小暮宗一郎や,登場するなり,いきなり風海純也を毒づき倒した,インパクト大の初登場シーンが忘れられない賀茂泉かごめ(「2」にて初登場)といったキャラクターが非常にツボだった。
 筆者としては,これらの個性溢れるキャラクター達が,ただ会話している,事件について議論しているという,ミステリーアドベンチャーではとくに珍しくもない光景を見ているだけでも,非常に楽しめた。キャラクターの魅力やストーリーの見せ方次第で,テキストアドベンチャーはこうも面白くなるものかと,素直に感心させられたものである。
 文章量としてはかなりのボリュームがあるものの,それを感じさせないくらいスムースにストーリーを進められるので,活字に慣れていない人でもさほど厳しくないはずだ。

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 また,先述したバックログ機能や分岐ツリーといった,ノベル作品の“基本”ともいえる部分をちゃんと抑えている点も評価したい。これらの機能があるからこそ,秀逸なシナリオもより活きてくるし,データベースや既読率をコンプリートしようという,モチベーションにも繋がってくる。どんなにシナリオが良くても,繰り返し楽しむのが前提のこういった作品においては,実に重要な要素だろう。

 ちなみに本シリーズは,(初期状態では)全5話からなるオムニバスストーリーとなっているので,「3」で初めて流行り神をプレイするという人でも,とくに話についていけないということはない。過去作がどうしても気になってしまうという人は,「1」と「2」それぞれのPSP版,NDS版が発売されているので,そちらをオススメしたい。ノベルゲームということもあり,電車の中や寝る前など,ちょっとした時間に小説感覚で楽しめるはずだ。

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人は選ぶが,ハマる人はとことんハマる没入感が魅力的

良質なオカルト/ミステリーに飢えている人はぜひプレイを


 ここまで,本作の魅力について紹介してきたが,不満点がないわけではない。個人的には,せっかくのナンバリングタイトルなので,キャラクターデザインを全キャラ一新してほしかったというのが正直なところ。とくに,小暮宗一郎や医師の式部人見,民俗学者の霧崎水明といったキャラ絵が前作と変わってないのは残念だった。続編発売の際には(シリーズ最終作といわれているが……)ぜひとも,新たなグラフィックスでこの三人を見てみたいものである。またゲーム中のイベントCGなども,もう少し枚数を増やして欲しかったというのが率直な意見だ。

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 とはいいつつ,これらをさっ引いても本作が非常に満足できるタイトルであることは間違いないので,興味を持った人は,ぜひ手に取ってほしい。
 ちなみに現在,PlayStation Storeおよび,公式サイトのFlash体験版で,本作の第零話が体験できる。まずはゲームの雰囲気を実際に確認してみたいという人は,そちらを遊んでみるといいだろう。
 加えて,「こちら」の記事でもお伝えしたように,8月26日には本編シナリオからのスピンオフとなる「追加シナリオ 薫編」の無料配信がスタートしている。これは,本編シナリオ第2話「赤いちゃんちゃんこ」と同じタイミングで発生した「トイレの花子さん」にまつわる事件を,流行り神3の新キャラクターである羽黒 薫が,単独で捜査するという内容。超メジャー怪談をモチーフとしたシナリオが楽しめるうえ,薫という人物の“謎”にも迫れるのだから,こちらもプレイしない手はない。

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 本作は,決して目立つタイトルではないし,万人受けするタイトルでもない。ノベルゲームの中においても,都市伝説という特殊な題材を選んでいることもあって,かなり人を選ぶ作品だ。良くも悪くも“マニアック”という言葉が当てはまる作品である。
 しかし逆に,オカルトやミステリーといったキーワードにアンテナが反応する人ならば,迷わずプレイしてほしいタイトルでもある。筆者も結構な数のホラー/ミステリー作品に触れてきたが,「流行り神」シリーズは中でもかなり“怖い”部類だし,ストーリーの質/ボリューム共に満足のいくものだった。
 ホラーにうってつけの夏はもうそろそろ終わるが,読書の秋はすぐそこまでやってきている。PSPで“読める”良いゲームを探している人に,都市伝説推理アドベンチャーの最終作にして最秀作をオススメしたい。

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