インタビュー
プレイヤーとの約束は必ず守ります。新体制への刷新が行われた「FINAL FANTASY XIV」緊急インタビュー。FFXIVを託された吉田氏はどんな人物なのか
12月10日,突然発表されたMMORPG「FINAL FANTASY XIV」(PC / PS3,以下,FFXIV)の,運営/開発チーム全面刷新(関連記事)。この発表には,プレイヤーに限らず,多くの人が驚いたのではないだろうか。
さまざまな問題を抱えたままローンチとなった本作は,日本のみならず,海外のプレイヤーからも厳しい評価を受けていた。だが,11月下旬に行われたアップデートによって,ユーザーインタフェースやラグなどが,かなり改善されている。まだまだ足りないものはあるものの,これから改善が1歩1歩進んでいく,そう思われた矢先の出来事だっただけに,プレイヤーは驚き,期待,不安とさまざまな感情が入り交じっているのではないだろうか。
では,新たなプロデューサーにして,ディレクターを兼任する人物として登場した,吉田直樹氏(以下,吉田氏)はどのような人物なのか。MMORPGを担当するにあたって,どれだけMMORPGに通じているのか。これからのFFXIVの行く末を考えれば,そのあたりは非常に気になるところ。
4Gamerでは今回の発表を受けて,さっそくインタビューをお願いしてみた。体制変更直後であり,12月中旬のアップデートもある上,ただでさえ忙しい年末という時期だけに,今年中は難しいかなと思っていたのだが,吉田氏は快く引き受けてくれた。
年内最後となるFFXIVがらみのインタビューをお届けしよう。
「FINAL FANTASY XIV, The Lodestone」公式サイト
「FINAL FANTASY XIV」公式サイト
突然の開発体制の変更発表
信頼を取り戻すために会社全体でFFXIVに取り組んでいく
本日はよろしくお願いします。今回の突然の新体制の発表は驚きました。正式サービスが開始されて,3か月に満たないタイミングで,ここまで大きな体制の変更は,異例と言える発表だと思います。
吉田氏:
お騒がせして申し訳ありません。ですが,正式サービスから3か月の今だからこそ,ファイナルファンタジーの名に相応しいMMORPGへと抜本的な変革をもたらすべきと判断し,今回の体制変更となりました。
The Lodestoneでの“所信表明”にありますように,すべてのお客様に対して,スクウェア・エニックス一丸となって,満足頂けるサービスを提供できるよう,今後はこれまで以上に邁進していきたいと思います。今日はよろしくお願いします。
4Gamer:
おかしな表現かもしれませんが,この決定に,やはりスクウェア・エニックスとしてのFFXIVの立ち位置,ナンバリングタイトルの重みを感じました。
吉田氏:
もちろん最重要コンテンツであるという認識は強く持っています。継続的にアップデートを繰り返して,3年,6年,10年と戦っていけるだけのコンテンツにしなければいけません。ましてや,それが“ファイナルファンタジー”のナンバリングタイトルですから,それを改めて会社全体で認識しましょうということです。
4Gamer:
だからこそ,会社全体を巻き込んだ,大規模な体制の刷新が行われたわけですね。
吉田氏:
はい。例えば,皆川(※)はついこの前まで,ディレクターとして「タクティクスオウガ 運命の輪」の開発をしていましたが,「皆川さん,今回はUI(ユーザーインタフェース)を集中的に頼みます!」とお願いしました。FFXIIのディレクターを任された人物に,UIに集中してくれと言うのは,それだけスクウェア・エニックスが,FFXIVに対して本気であることの表れになります。
※皆川裕史氏,リードUIアーティスト兼リードWebコンテンツアーティストに就任
4Gamer:
たしかに発表では,これまでFFに関わってきた,そうそうたる顔ぶれが並んでいますね。
吉田氏:
そうですね,ほかのタイトルはどうするんだと言うくらいに。しかし,MMORPGというものは,長期的にプレイヤーのみなさんとコミュニケーションを図っていくタイトルです。信頼を取り戻すためには,全力で取り組まないといけません。そして,グローバルで同時展開していくためには,これくらいのメンバーが必要なくらいに,FFXIVは巨大なタイトルであるということです。
4Gamer:
ちなみに体制刷新は,どこまでの規模で行われているものなんでしょうか? おそらく,名前が出ていない部分でもいろいろと動きがあるのではと思うのですが。
吉田氏:
単純に人員を足したり入れ替えたからといって,うまくいくかと言えば,そういうものではありませんし,ただ単に上が変わったからといって,ゲームの内容はそうそう変わりません。
むしろ必要なのは,一つ一つスタッフがやるべきことを整備し,ちゃんとマイルストーンを切って,テクノロジーで問題になっている部分を解消してあげる。その上でプレイヤーの声を聞き,適切な優先順位をつける。これを行わない限り,開発のスピードも正確性も望めません。まずはそこからですね。
そして,潤沢にアップデートを提示し,そして溜めずにリリースする。プレイヤーが求めている声に対して,考えているものをきちんと繰り返し提供していける環境を作っていくつもりです。
4Gamer:
なるほど。そのためには,全体を見渡せる環境/配置が必要になるはずですね。
吉田氏:
そうですね。僕がプロデューサーとディレクターを兼任する意図が,まさしくそこにあります。すべてを把握している人間をまず一人作ったうえで,開発の正確性をあげていきたいわけです。
4Gamer:
バラバラに管理するのではなく,意思の統一を図るということなんでしょうか。これまでプレイしていたなかで強く感じられたのは,チグハグ感と言えば良いのか,一つ一つがまとまっていない印象でしたから。
吉田氏:
スタッフの誰と話しても,FFXIVに対して本気で,もの凄く力が入っていました。やはり,FFXIの印象もあり,もちろんFFXIVというプレッシャーのかかるタイトルということもあって,一人一人力が入っているのですが,それをきちんと整理しきれていなかったのかなとは思っています。ですので,そこは一度,整理してあげようというのが,今のスタンスです。
4Gamer:
ところで,この新体制はすでに本格始動していますか。
吉田氏:
ええ,もう動いています。
4Gamer:
では,新体制の効果が見え始めるのは,いつ頃になるでしょうか。
吉田氏:
今はまだお答えできません。これは僕の性格なんですが,お出しできる中身や時期など,本当にはっきりと言えないこと,つまり「正確な約束」ができないことは,できるだけ言わないようにしています。ですので,今回のインタビューでも,お答えできないことがあると思いますが,どうかご了承ください。これからちゃんと,潤沢にアップデートが行える環境が整備できあがれば,それ以後は,もっと大きなマイルストーンの話もできると思います。
4Gamer:
分かりました。12月のアップデートもそうですが,きっと,今後しばらくは前体制から引き継いだものを中心に,取り組んでいくと思っています。それらが一段落して,いまの新体制の取り組みが表立って出てくるのはいつになるのかと気になっていたんですよ。
そうですね,インゲームについては,前体制でプレイヤーに約束していることを,最優先で,かつ良い状態で達成するように,開発/運営に言っているところです。やはりすでにお客様に対して約束していることは,きっちりと果たそうと。
そのうえで情報を整理し,テクノロジートラブルの原因も究明したうえで,次のステップになります。ただし,今後はもっともっとプレイヤーのみなさんと対話をしていきたいので,その皮切りとして,1月1日にはまたコメントを出します。そこで一つの動きを入れているので,そちらを楽しみにしてもらえればと思います。
4Gamer:
1月1日にコメントですか。「あけまして……」とかではなくて。
吉田氏:
もちろん,ご挨拶もそうですが,来年1年の抱負や新体制がどういうポリシーで,どんな展開をしていくのか,そのキーワード的なものを出そうかと思っています。
とにかく,すでにお客様に対して約束をしていることを果たせていない状態で,さらにこの先の約束をするのは,どうだろうと思います。ですので,年内にきちんとやることをやった上で,1月1日に改めて,今後の動きを出せていけたらと思っています。
4Gamer:
分かりました。1月1日のコメントには注目しておきたいですね。
ルールが分からなければ,面白さも分からない
FFXIVに必要なのは“分かりやすさ”
4Gamer:
では,FFXIVについてお聞きします。正式サービス後のプレイヤーからの評価を,吉田氏はどう感じていますか。
まず,この体制の変更は,11月末〜12月に行われましたが,僕が実際にクライアントをプレイし始めたのはそれからです。
4Gamer:
つまり,(11月下旬の)1回目の大規模アップデートで,以前よりもインタフェースが改善された後からだったわけですね。
吉田氏:
はい。ですので,本当の意味でのローンチ直後の感想ではないということをお断りさせていただいた上で,答えさせていただきます。MMORPGにはローンチ時点で,当たり前のように揃っていなければならない要素があります。ただ,この当たり前に揃っているべき要素のハードルは,年々高くなっていますよね。
というのも,現在はWoWやFFXIなど,長年の長期運用で出来上がったものが比較の対象になるので,必要最低限と言われる要素の水準が非常に高いんです。そのため,最初から豊富なコンテンツを求められたり,アドオン要素が当たり前だったりと,日本に限らずどのMMORPGでも新規タイトルが着地するのは,大変な状態になっています。
また,エンドコンテンツには何が用意されているのか,そこまで到達するのに,どれくらい時間が掛かるのか,ということもすごく重要です。FFXIVは,それぞれの要素をプレイしていただく上で,UIやコンテンツルール,用語,導線など,そういった部分が未整理状態だったと思いますし,面白い面白くない以前に,分かり辛いゲームになってしまっているなと。
4Gamer:
たしかに,ゲーム内容について面白い面白くないよりも前に,インタフェースなどの問題で,始めの部分でプレイが止まっていて,ゲーム内容そのものの評価まで至っていない人も多いのではという印象でした。
吉田氏:
ドラゴンクエストの関係で,堀井雄二氏と一緒に仕事をさせて頂いたときに,一番言われたのが,「面白さの前に,分かりやすさだよ」ということでした。要は,ルールが分からなければ,遊んでくれたお客様は,それが面白いのか,面白くないのか,判断すらできないということで,まずは分かりやすさを最優先するべきだと教えていただいたわけです。
とくに,MMORPGはこの「ルールを覚えること」のハードルが高いです。最初からアクセスできるコンテンツが多くて,その上,耳慣れない言葉も多い。FFXIVの場合は,これに加えてオリジナルの用語や通貨概念がありますから。UIの使いやすさもそうですが,ゲームそのものを,分かりやすくしていくことが,大切だろうと思っています。
4Gamer:
ルールが分からなければ面白さの判断ができないというのは,たしかに現状ではFFXIVに足りない部分と言えそうです。一方で,新体制の発表時に,無料期間の延長についての項目で,「十分なサービスがお約束できるまで」という言葉が使われていました。それはつまり,FFXIVという製品としてのクオリティの部分を指していると思うのですが,十分なサービスとは,どの程度のものを想定しているのでしょうか。
吉田氏:
製品としてのクオリティを上げていくことは当然ですが,FFXIVはすでにサービスを開始している作品です。ですので,運営サービスとして,お客様の声をちゃんと聞ける体制を整え,聞いたうえで,それに応えていける環境を作るということです。
4Gamer:
そのためには,いま何が必要だと思いますか?
吉田氏:
例えば,事前に告知を出した上で,特定のバージョンアップを行うという行為は,プレイヤーのみなさんとの約束事だと思っています。所信声明でも書いたように,私自身が約束を大事にしたいという性格なので,みなさんの声を聞いたうえで,いつまでにこの内容を,このように実装しますと約束できて,それをちゃんと守れる体制を作れてこそ,十分なサービスが提供できるという意味と考えています。
いま,そこへ到達するために何をすべきかを調査し整理しているところです。とにかく今のFFXIVに必要なのは,約束を一つずつ確実に守っていくこと。それ以外にお客様の信頼を取り戻す方法はないと考えています。
優れたUIは真似るべきである
これからFFXIVはどう変わっていく?
4Gamer:
次にFFXIVというゲームそのものについてお聞きします。以前,メールインタビューをお願いしたときに,FFXIVにある問題点として,「UI」「ラグ」「運営/開発方針」という三つをあげましたが,この三つについて吉田氏の意見をお聞かせください。
まず,UIについてですが,11月,12月のアップデートにおいて,試行錯誤されつつも,かなり良くなっていると思います。しかし,UI以外にもまだまだやるべきことは多そうです。
おそらく,プレイヤーのみなさんは,これだけ多岐にわたるポイントを,どう改編していくのだろうと,一番思われているでしょう。
まずは,ポイントをある程度絞りたいと思っています。今プレイしている,いろいろな層のプレイヤーに対して,最も早く,ピンポイントに刺さる部分がどこなのかを調べること,みなさんの声を聞くことで,それをキチンと明らかにして,一つずつお約束していこうと考えている段階です。とくに年内はそこに注力します。
また,すでに年内にお約束していたアップデートの開発は継続的に行っています。その間,新体制のメンバーはかけずり回って調査をしている状態です。おそらく年明けぐらいから,プレイヤーとこれまで以上のコミュニケーションを取りながら,具体的に一つ一つ明らかにできるようになると思いますので,それをお待ちください。当たり前のことですが,みなさんと約束をしたら,その約束は守る。約束ができる準備が整うまでは,正直に「まだ分かりません」と答えます。期待感を煽ることも大切ではあるのですが,今はそれをすべきではないと思います。
4Gamer:
発表されたものが,いつ出てくるのか。期待が大きいほど,もしそれが実現しなかったときの失望感も大きくなります。中には,「できないなら発表するな!」くらいに厳しいことを言われることもあるでしょうね。
吉田氏:
なので,序盤はとくに信頼を回復することです。友達関係でもそうですが,どんなに仲が良くても,たった一度でも約束を破ることのダメージはすごく大きいんです。その関係を修復するためには,常に真摯でいることが必要です。もちろん,それがある程度信頼できる関係になれれば,もっと希望に満ちた,先の話をしたいと思いますが,いまそれを言ったところで,それがいつ達成できるのか,本当にできるのか,という話に変わってしまうでしょうから。
4Gamer:
ともかく,実績を重ねてプレイヤーとの信頼関係の回復に務めていくと。
吉田氏:
はい。それが一番大事だと思います。
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