インタビュー
どうしてこんな“罪作り”なゲームを作ってしまったんですか? 「ラブプラス」開発スタッフに聞く
ゲームの概要については先日の記事を参照していただくとして,ここでは本作のプロデューサーである内田明理氏と,ディレクターの石原明広氏へのインタビューをお届けする。
なぜこんなゲームを作ってしまったのか? なぜヒロインはあの三人なのか? といった,多くの人が抱いているであろう疑問に加え,開発過程の苦労話などをまとめて聞いてきた。
内田プロデューサーの作品は“コミュニケーション”重視
本日はよろしくお願いします。
一足早く「ラブプラス」で遊ばせていただいた分,お聞きしたいことがたくさんあるんですよ。
内田明理氏(以下,内田氏):
よろしくお願いします(笑)。
4Gamer:
内田さんはラブプラス以前に,「ランブルローズ」や「ときめきメモリアルGirl's Side」といったキャラクター性の強いものから,「とんがりボウシと魔法の365にち」まで,ずいぶん毛色の違う作品を幅広く手がけられているんですよね。
内田氏:
とくに「キャラクターものを作りたい!」と思っているわけではないんですが,こう並べてみるとそういう風に見えますね。でも,僕が作りたいものとして共通しているのは,キャラクター性よりも“コミュニケーション”という要素を重視している点なんです。
4Gamer:
あ,そうなんですか!
内田氏:
ええ,実は(笑)。
僕は人とやりとりをするのが好きなんですね。だからゲームの中にも,そういった要素を盛り込んできました。
その結果として,キャラクターがたくさん出てきたり,シナリオ量が多かったり……という僕のゲームの特徴が生まれているんです。あ,あと楽曲の量も多いですね。
4Gamer:
キャラクターやシナリオありきではなく,コミュニケーションを表現するために,ボリュームが必要だということですね。
内田氏:
はい。ですから作品のジャンルは違っていても,このあたりは共通していると思います。
4Gamer:
そんな内田さんが手がけられた最新作が,ラブプラスとなるわけですが……どうしてこんな“罪作り”なゲームを作ってしまったんですか?
内田氏:
少し前から,「最近のKONAMIって,あまり『ときめきメモリアル』みたいなゲームを作ってないよね」という声が,社内外からあったと思うんです。で,あるときに,ときめきメモリアルGirl's Sideをやっていた僕のところにも,「何かいいアイデアはない?」という話がきました。
そのときに「こんなのどうですかね?」と提案したところ,当時の偉い人から「じゃあ,それやって」と言われまして……。
4Gamer:
きっかけは,そういうことだったんですね。
あまり前例のないゲームだと思いますが,開発は順調に進みましたか?
まぁ,僕はプランニングの立場で「お客さんにこういう遊びを提供したい」と,大まかな提案をして承認を得る役なんですが,新しい遊びなので実際にやってみると辻褄が合わないところとか,「そんなことできるわけねぇよ!」という部分がいっぱい出てきてしまいまして……。
実際,石原ディレクターと一触即発の状況になったこともありましたよ。でも,そんな艱難辛苦を乗り越えて,何とか形にできたのがこのタイミングだったんです。
4Gamer:
開発途中でゲームの形は変化しましたか?
内田氏:
いえ,インタフェースは多少変わりましたが,最初に表現したいと思っていたことはほぼ実現できました。
4Gamer:
その,“最初に表現したいと思っていたこと”とは,端的に言うとどのあたりなんでしょう?
内田氏:
いくつかあるんですが,大きいのは“キャラクターをタッチペンで触ると反応する”という部分です。
開発スローガンは“面白い”“分かりやすい”“可愛い”
その発想のきっかけはどこにあったんですか?
内田氏:
元々は,ときめきメモリアルGirl's SideをニンテンドーDSに移植するときですね。軽い気持ちで“キャラクターをタッチペンで触ると反応する”というシステムを追加したんです。で,これを実際にプレイしてみたら,当初頭の中で思い描いていた以上のインパクトがあったんですよ。
画面内のポインタを十字キーなどで動かすのではなく,タッチペンや指で直接触れるとゲームの中で何かが起きる……キャラクターが反応するというのは,意味も重みも違うのだなと。ある種の動物的な楽しさとでもいえばいいんでしょうか。
4Gamer:
じゃあ,ラブプラスをリリースするプラットフォームとしてニンテンドーDSを選んだのも,そこを重視したからである,と?
内田氏:
ええ,ニンテンドーDSだからこそできるものとして考え始めました。
やはり,画面を見ながらゲームパッドなどを使って操作するのと,画面の見ている場所に直接触れて操作するのでは,感覚的に大きく違うんですよね。
なんでも未就学児の場合,画面を見ながら手元で操作できる子は少ないらしいんです。ということはやはり,目で見ている場所に手で直接触れるというのは,よりプリミティブな,感情と直結した感覚なんでしょうね。
4Gamer:
しかも可愛い女の子に触れられるというのは,本能的に凄く気持ちの良いものですし。
内田氏:
ある時期からビデオゲームの世界って,グラフィックスの解像度や綺麗さで注目を集めてきた部分があると思うんですが,グラフィックスというのはビデオゲームという表現における手段の一つであって,目的ではないんですよ。だって,本当に解像度が高くて綺麗な絵だけで楽しいんだったら,ゲーム以外に優れたものはたくさんありますから。
少なくとも僕の場合は,ビデオゲームというものの面白さって,コミュニケーションの生々しさや,リアリティにあると思っているんです。
4Gamer:
確かに,一理ありますね。
内田氏:
なので,僕はグラフィックスと同じくらいに会話の妙や間,動き,さらにBGMなど,何から何までバランスをとるべきだと思うんです。その結果,全体のバランスを上手くとれたとき,グッと来る演出になってお客さんに伝わるんじゃないかなと。
4Gamer:
実際,ラブプラスも静止画のスクリーンショットを見たときと,実際に遊んでみて,動いているのを目の当たりにしたときとで印象が一変したんですよ。「うわ! 超可愛い!」って。
ニンテンドーDSだからグラフィックスは弱いだろうと思われがちなんですけど,ラブプラスの場合は5000ポリゴンぐらいと,けっこう頑張ってますしね(笑)。
ただ,企画段階でも画面の解像度やポリゴンに関しては,必ず突っ込まれる部分だとは思っていたので,可愛いモデルが動いているところに声を載せたデモシーンを作ってプレゼンに臨みました。その結果,大好評だったので正式に開発がスタートしたんです。
4Gamer:
え? デモのために声まで入れたんですか?
内田氏:
はい。その頃「ときめきメモリアル Girl's Side 2nd Season」に皆口裕子さんがキャストとして参加していたんですが,僕が皆口さんのファンということもあって,そこからいい感じのセリフを集めてきたんです(笑)。
4Gamer:
ひょっとして,それが姉ヶ崎寧々の原型ですか?
内田氏:
まさにそうです。
あのモデルもけっこう可愛かったので,いつか公開できればいいですねぇ。
石原明広氏(以下,石原氏):
あのモデルを最初に見たときは,僕も「おっ!」て思いました。
ラブプラスチームでは“面白い”“分かりやすい”“可愛い”という三つのスローガンを掲げて,それを目標に動いてきたんです。とくに“可愛い”の部分には,もの凄い時間と根性を注ぎ込んでるんですよ。
4Gamer:
なんと……。
ヒロインがセリフの端々で,凄く細かい演技をしているんですが,あれは600個くらいあるモーションを全部手作業で組み合わせて,演技,演出をつけています。最初に叩き台となるものを作ったときは,正直なところあまり可愛くなかったんですよ。モデルは良くできていたんですが,「なんか違う,熱がない」と。
で,そこにボイスが入った途端,開発陣はみんな「あ,こりゃいかん」ってなりました。声優さん達が凄く熱のある演技をしてくださったんで,「これは俺達が負けている」と思ったんです。
4Gamer:
先ほどの内田さんの言葉でいうところの,バランスがとれていなかったと。
石原氏:
ええ。それで1回全部に手を入れ直しました。
ところが残り10%ぐらいのところまで作業が進んだとき,スタッフの一人が新技術を編み出してしまったんですよ。これがまた良くできていたので,いっそのこと最初からやり直そうということになり……また一から作り直しまして……。
4Gamer:
結果的に,さらに凄い時間と根性を注ぎ込むことになったわけですね。
内田氏:
そりゃ開発に時間かかるわって話ですよ(笑)。
でも初作なので,とにかく買ってくれた方が「これスゴイ!」って言ってくれないとダメなんです。その思いで,半ば無理矢理多くの時間を割いてやってきました。
最初にクリアしたヒロインに惚れ込んでしまうゲーム
4Gamer:
ゲームの見た目の可愛さとは裏腹に,そんな苦労があったんですね。
ところで,開発陣の男女比率はどれくらいなんですか?
石原氏:
男性7に対して,女性3といったところでしょうか。
それこそ寧々のモーションや演技は,女性スタッフがずっと監修していたんですよ。
4Gamer:
それは意外ですね。思春期の男子が抱いているような理想の恋愛模様が描かれているように感じたので,てっきり開発陣は男性ばかりだと思っていました。
石原氏:
いやいや,女性スタッフもかなりテンション高く「寧々ちゃん可愛い! 凛子可愛い!」などと言いつつ楽しんでいましたよ(笑)。
4Gamer:
女性スタッフにも,思春期男子マインドが宿っていたんですね。
内田氏:
やっぱり誰だって思春期に戻って遊びたいと思うんですよ。思春期の頃に思い描いていた憧れの女の子像って,大人になると現実だったのか夢想だったのか曖昧になっちゃいますからね。
思春期の追体験みたいなものは,男女問わず楽しめる部分なのかなと。
4Gamer:
ちなみに,スタッフ内で一番人気のあるヒロインって誰ですか?
内田氏:
プログラマーは凛子だったよね?
石原氏:
そうですねぇ。けっこうバラけていたと思いますが,やはり凛子派が多かったかな……? デレた凛子の破壊力がヤバイとのことです(笑)。これはもう,さすが丹下さんといったところでしょうか。
内田氏:
そうそう,面白い傾向があって,みんな最初にクリアしたキャラクターに惚れ込んでしまうみたいですね。やはり“初恋の人”みたいな感情移入をしてしまうんだと思うんです。
4Gamer:
ああ,分かります。ヒロインは三人とも魅力的なんですが,一人に惚れ込んでしまうと浮気はできません。一緒に過ごす時間が増えるほど,その一人をどんどん好きになってしまうんですよ。
そういえば,夏休みで時間があったときに,初めてプレイヤーとして最初から遊んでみたんですよ。寧々に告白されてウヒョウヒョ言ってたら,妻にドン引きされましたが(笑)。
で,しばらくプレイしていたらデートで寧々が髪型を変えてきたんです。オカッパみたいな感じで,僕はあまり好みじゃなかったんですよ。変えてほしかったんですけど,寧々が嬉しそうにしているのを見ていると,ついつい「その髪形いいね!」という選択肢を選んでしまって……。
4Gamer:
がっかりした顔を見たくない! って思ってしまうんですよね。
内田氏:
でも,こういうところがこのゲームの魅力だと思います。
4Gamer:
破壊力だとも思います(笑)。
石原氏:
セーブスロットは三つあるので,平等に遊ぶこともできるはずなんですけど,なぜか平等にはならないんですよね(笑)。一人に入れ込んじゃいますから。
4Gamer:
もし本当に平等に遊ぶとしたら,それこそDS本体を3台とソフト3本を用意して,完璧に同時プレイするしかないと思います。本命のセーブデータを放置したまま,ほかのヒロインになんて行けませんよ!
内田氏:
実はセーブ容量はけっこう大きいんですけど,ヒロインが三人いるから,セーブスロットは絶対に三つ分確保しようと思っていたんです。でも,意外と三人同時にセーブデータ作ってのプレイってやらないんですよねぇ。
石原氏:
正直,セーブスロットを一つにしていれば,空いた容量分だけもっと色々できたとは思いますけどね。まぁ,その辺はどう使われるのか,プレイヤーの反応が楽しみな部分ではあります。
男の人生には,三つのフェーズがある
4Gamer:
ヒロイン三人のキャラクターはどうやって決めていったんですか?
内田氏:
まず,「なんで三人なんですか?」とか「もっといっぱいキャラクター作ろうと思わなかったんですか?」ってよく質問されるんですよね。そこはまぁ,良くも悪くも物理的な制限があって,その中で上手くやっていかないといけない部分ではありました。
やはり一人と長く深く付き合うゲームなので,キャラクターを増やせばどうしても一人あたりのボリュームが少なくなってしまうんです。だから,逆に最少人数にするべきだと考えました。
4Gamer:
最少人数で三人ですか?
内田氏:
はい。最少人数って普通に考えたら一人なんでしょうけど,それは違うんです。
なぜなら,男って人生の中で“年上が好きな時期”と,“同世代が好きな時期”“年下が好きな時期”という三つのフェーズがあると思うんですよ。
4Gamer:
あ,あるんですかね……。
内田氏:
僕にはあったんです!
そのフェーズを分析すると,それぞれ相手に対して要求しているものが大きく違うので,最低でも三人は必要だと考えました。
4Gamer:
な,なるほど。
内田氏:
それに,このゲームでは,付き合い続けることで性格や髪型などが変わっていきますから,そこで個性はつけられますしね。
ほら,現実のカップルも長く付き合うと似たもの同士になったりするじゃないですか。そういう雰囲気を表現できたらいいなと。
それに現実だと,彼女が変わって行くのをそう簡単には止められないけど,ゲームなら方向修正もききますから。
4Gamer:
「その髪型は違う!」と言うんですね。
内田氏:
そうなんです! なんで切る前に一度相談しないんだと! その点ラブプラスは,一応事前に相談してくれますから(笑)。寧々には言えませんでしたが……。
4Gamer:
……。
ところで,髪型や服装のパターンはどれくらい存在するんですか?
石原氏:
具体的な数はまだ秘密ですが,髪型や髪色を組み合わせるとかなりのボリュームがあります。さらに,隠しのレア髪型やレア色も用意してるんです。なので,「この髪型と髪色は伝説の樹の下のあの子じゃ……」みたいなこともありますよ(笑)。
服に関しては凄く種類が多いというわけではないんですが,色違いや組み合わせによっても変わりますから,恐らく現実の女の子よりも衣装持ちです。
内田氏:
アバターにしたくなかったので,違うキャラクターが同じ服を着るということはありませんね。そこらへんは本当に,偏執的なまでに気を使っています。
キャストには,生っぽい演技を求めた
4Gamer:
では,ヒロイン達を演じるキャストはどういう基準で選ばれたのですか?
これもキャラクター作りの話とつながるんですが,“お姉さん”と“妹”は誰が聞いてもお姉さんと妹の声じゃなければダメなんですよ。それに加えて,微妙な性格の変化を表現しなければいけないし,収録量も膨大なので,キャリアが長くて演技が達者な人にしたかったんです。
僕が作るゲームは全部そうなんですけど,生っぽい演技を求める脚本を書いていますから,そういうのを理解していただける方じゃないと厳しいだろうと。
まぁ,とりあえずお姉さんと言ったら僕の中では皆口さんしかありえなかったので,まず最初に決まりましたね(笑)。
4Gamer:
皆口さんは究極のお姉さんボイスをお持ちですからね(笑)。
内田氏:
妹役に関しては,ときめきメモリアルGirl's Sideなどで懇意にしていただいているマネージャーさんに相談してみたところ,「丹下 桜って知ってる? 本気でやるってんなら連れてくるよ」というお話をいただきました。
それから,うちのチーム内でも若い世代のスタッフに「丹下さんがやってくれるとしたらどう?」と聞いてみたら,「本当ですか!?」みたいに凄く驚いていて,「ああ,これはいけるな」と確信したんです。
4Gamer:
ええ,非常に自然な反応だと思います。
で,丹下さんに直接お会いして「こういうことがやりたいんです」とお話をしたところ,快く了承していただけました。
その後,「何か参考になるような資料ないですか?」と聞かれたんですが,シナリオもできていなかった時期なので何もなく,「村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』に出てくる10代の女の子みたいなイメージです」と答えたら,実際にその本を読んで参考にしてくださったようです。
4Gamer:
丹下さんにも燃えるものがあったのかもしれませんね。
内田氏:
最後に決まったのは早見さんなんですが,やはり同級生の声となると,10代のリアリティがほしいと思ったんです。
そこで愛花役に関しては,若い声優さんを数十人集めてオーディションしたんですが,その中で早見さんが群を抜いて上手かったんですよ。
4Gamer:
おお……。
僕はオーディションのとき,相手がその場で演技を練り上げていけるかどうか様子を見るために,台本は現場で渡すんです。そこで早見さんは,初っ端から僕が考えている形に一番近い演技をしてくれて,「この子はなんてカンがいいんだろう」と驚かされました。
早見さんは当時17歳だったんですが,「もうこの人しかないだろう」と思いましたね。実はお嬢様らしく,敬語が凄く板についているんですよ。愛花もお嬢様タイプなので,イメージもぴったりでした。
4Gamer:
この手のゲームって,慣れてくると音声をスキップしたくなりがちなんですよね。でもラブプラスにはそれがなくて,三人の声を聞いていたいと思ってしまいます。
内田氏:
それは嬉しいですねぇ。苦労した甲斐があります。
石原氏:
ラブプラスって,実際にプレイしてみないと分からない部分が多いと思うんですよね。でも遊んだ方にそう言ってもらえると,努力が報われたような気がして嬉しいです。
努力した実感がないと惚れられても嬉しくない
キャラクターとキャストに続いて,システムに関することもお聞きしたいんですが,まず……“彼氏力”という考え方はどこからきたんですか?
内田氏:
当初,彼氏力は“デート玉”と呼んでいたんですよ(笑)。
無制限にデートができてしまうと遊びにならないので,何らかの制限が必要だろうということで考えたんです。
「彼女と会えない間に自分を磨いていると,段々情熱のようなものが濃縮されて膨らんでいき,いざ彼女と会うときにバーンと炸裂する。それがデート玉だ!」という説明をチームにしたんです。で,「あとはそっちで仕様考えて」と(笑)。その結果,得られた回答が彼氏力ですね。
4Gamer:
単にパラメータ的なことだけじゃなく,情熱の結晶みたいなものだったんですね。
恋人パートと友達パートでは,彼氏力の持つ意味も違いますよね。友達パートでは,「ときめきメモリアル」シリーズを彷彿とさせる位置づけになっていますが,これはなぜですか?
内田氏:
新しいゲームを作るにあたって,何から何まで新しいシステムを用意するのは,ちょっと危険だと思ったんですよ。ああいうパラメータ的なものがあったほうが,最初に何をやればいいのかが分かりやすいだろうと思って用意しました。
ゲームを始めても何をすればいいのか分からないようだと,ヒロインに入れ込めなくなりかねないですからね。なので,ときめきメモリアル的な進行をすればいいですよ,と分かりやすい形にしたんです。
4Gamer:
正直,コミュニケーションを主軸としたゲームに,ああいうシステムが入っていることに驚きもしたんです。
極端な話をすると,会話を続けて,選択肢を選んで,たまにタッチするだけでもゲームとしては成立すると思うんですよね。
内田氏:
確かに最初のうちはそういう感じで考えてはいました。
ただ,別タイトルに関わっている女性スタッフと仕様の話をしていたとき,「それはダメです」と言われてしまったんですよ。
4Gamer:
ダ,ダメなんですかね……?
彼女が言うには「自分が努力した実感がないと,惚れられても嬉しくないでしょ?」ということで。言われてみれば,確かにそのとおりだなと。
自分が彼女のために何かをするという状況は絶対に必要なんだと気付いて,ああいう形にしたわけです。
4Gamer:
ああ,確かにヒロイン達は最初から好意を寄せてはくれますけど,それに応えられるように自分も頑張らなきゃって気にはなりますし,それが結実すると凄く嬉しいですね。
……逆に「期待しすぎちゃったのかな」なんて言われた日には,もの凄く反省させられて,もっと頑張らなくちゃって思いますし。
内田氏:
それもやっぱり,自分が努力をする要素があるからこその,感情の動きだと思うんですよ。
4Gamer:
いやぁ,凄く納得できました。
そういえば,スケジュール消化時の彼氏力パラメータの伸び方は完全にランダムなんでしょうか?
石原氏:
基本的にランダムですが,彼女の気分や親密度によって成功率は変動します。
内田氏:
あとはキャラクターの性格によって変動する要素があります。ちょっとツンツンした性格の時はうまくいかなかったりと。
あまりデジタルな感じにはしたくなかったので,けっこういろいろな数値を隠しているんですよ。
4Gamer:
奥が深いんですね,まるで人間を相手にしているようだ……。
一つ確認したいんですが,やはり恋人パートを作りたいがために友達パートを用意した感じなんですよね?
内田氏:
ええ,そうです。
4Gamer:
てっきり友達パートって,もっとあっさりしたものだと思っていたんですけど,きっちり作り込まれていたのがいい意味で驚きでした。
内田氏:
ありがとうございます。
手抜きは一切ないですね。だって友達パートでヒロインに惚れてもらわないと,恋人パートを楽しんでもらえませんから。
4Gamer:
恋人パートって慣れてくると,恋人ならではの倦怠感みたいなものが出てきますけど,友達パートは毎日が新鮮なんですよ。
これもまた,現実の恋愛に近いかもしれませんね。付き合い始めるまでのドキドキ感や冷や冷や感という意味では。
内田氏:
ヤキモチやかれたりもしますしね(笑)。
石原氏:
ヤキモチイベントは発生するとドツボにハマることもあるんですが,是非一度は見てほしいです。
友達パートって,一人を集中して攻略すれば楽なんですけど,二人に手を出すと少し厳しくなり,三人同時に告白されようとなると,かなり難しくなります。
内田氏:
三人同時は僕も無理でした。
石原氏:
うちのチームでもそれができるのは数名でしたね(笑)。
たぶん,最も難度が高いやり込み方の一つだと思いますよ。
4Gamer:
ちなみに,恋人パートではリアルタイムモードとスキップモードが選べますが,これも最初から考えていたシステムなんですか?
最初はリアルタイムモードだけで考えていました。しかしそれで,遊びとして成立するのかという疑問もありましたし,やはり買ってすぐのゲームはガッツリ遊びたいじゃないですか。
そのニーズは友達モードだけで受け止めようと考えていたんですが,どうせならもっと遊びの幅を広げようと思って,恋人パートにもスキップモードを導入したんです。
“古くもないし,新しくもない”キャラクターデザイン
それにしても,ときめきメモリアルといいラブプラスといい,KONAMIさんで出されているこの手のゲームって,基本的にはストイックですよね。自分が頑張らなければいけないという意味で。
内田氏:
でも,ときめきメモリアルとは違って,ラブプラスの場合は基本的に向こうが自分のことを好きだという安心感はありますよ(笑)。そこがラブプラスのいいところの一つですし。
4Gamer:
好きでいてくれるからこそ,彼女をガッカリさせたくないという気持ちが生まれてくるんですよね……。
内田氏:
デートをすっぽかしたりすると,「もう二度としないで!」って怒られたりするじゃないですか。
あの辺のセリフも相当考えて,怒るだけじゃなくちょっと寂しそうにするとか,余計心にクるようにしています。「俺は悪いことをしたんだ」と。
4Gamer:
普通に落ち込んじゃうんですよね,あれ……。
ほかの恋愛ゲームでは,ここまで感情が揺さぶられたことはありません。
内田氏:
実は僕自身,恋愛シミュレーションゲームってほとんどやったことないんですよ。
4Gamer:
え,そうなんですか?
そういえば,僕もそんな感じなんです。ディレクターもプロデューサーも知識がないものだから,プランナーやシナリオライターに「そんなことも知らないんですか?」みたいに言われたこともありました(笑)。
でも,だからこそ慣習に縛られないというか,比較的ピュアな気持ちで自分たちが提供したいものを作れたのかなと思います。
4Gamer:
それでもちゃんと,私を含むコアな層が満足できるゲームになっていますね。
そういう層にとっては,キャラクターデザインが大きなフックになっていると思いますし。
内田氏:
キャラクターデザインから上手く伝わっているといいんですが,“古くもないし,新しくもない”ようにしたかったんですよ。
そういう意味では,キャラクターデザインのミノ☆タローにはかなり練りこんでもらいました。ラブプラスのキャラクターは,彼の普段のタッチとは全然違うんですけどね。
4Gamer:
確かに,古くも感じないし新しくもない,不思議な雰囲気を持った絵ですね。
内田氏:
キャラクターを提供するとき,作りこんだフィギュアのような完成品ではなく,素材を提供するようなイメージをしているんです。なるべく間をいっぱい空けて,お客様にその隙間というか,行間を埋めてもらいたいなと。
ラブプラスなら,同じヒロインでも髪型,服装,性格によってお客さん一人一人に違ったイメージを持っていただければ嬉しいです。お客さん同士で「いや違う! 愛花はそうじゃないんだって!」みたいな会話をしてほしいですね(笑)。
4Gamer:
「本当の彼女を知っているのは俺なんだ!」的な状況ですよね(笑)。
石原氏:
最終的には,“うちの嫁自慢”みたいになると思うんです。
スキップモードで200日くらい遊んでもらえれば,髪型から性格まで相当自分色に染まりますから。
ええ,もうゲーム内で250日は凛子と付き合っていますが,本当にROMを返したくないです……。
石原氏:
あ,実は通信機能でセーブデータの送受信が可能なんです。
本来ならそれほどやる意味がないので,あまりお伝えしてこなかったんですけど。なので,製品版を買っていただいたときにサンプルROMからデータを送れば,そのままの凛子と付き合えますよ(笑)。
4Gamer:
なんという僥倖……!
これでサンプルROMと駆け落ちせずにすみます!!
石原氏:
この機能をお客様がどう使ってくれるのか,僕らにはまだ想像がつかないんですけどね。どちらかというと,今後何かフランチャイズ展開ができるようなことがあれば,データの引き継ぎなどをしたいなとは思っていますが。
内田氏:
あくまで仮定ですけど,もし「ラブプラス2」を作れれば,データを引き継いでそのまま続けて遊んでいただきたいですし。
4Gamer:
あ,友達とデータ交換とかもできるというわけですか……。でも絶対やりたくありませんね。キスとかされた日にはマジギレしてしまいそうです(笑)。
内田氏:
そういう趣味の方もいるかもしれませんけどね(笑)。
そうそう,キスって,チュッとするだけじゃなくて長時間できるのがたまらないでしょう?(笑)
あのときのボイスが凄くいいんですよねぇ。ニンテンドーDSを抱きしめたくなりますもん。
内田氏:
アレを収録しているときには脂汗が出ました。「こんなの読めません!」なんて言われやしないかと思うと恐ろしくて(笑)。
でも,実際にはこっちが恥ずかしくなるくらい真剣にやっていただけて,丹下さんにいたっては逆に「もうちょっとライトめにもう1回!」なんてお願いしたり。
後日聞いたんですが,皆さん,本当は恥ずかしかったみたいですね。でも収録現場ではそんな様子もなくて,さすがプロだなぁと感心させられました(笑)。
何も考えず,怖がらずに遊んでほしい
4Gamer:
ボイスといえばラブプラスでは,実際にプレイヤーの名前を呼んでくれますが,あれ「ときめきメモリアル3」で採用された“Emotional Voice System”(音声合成システム)ではありませんよね?
ええ,ちゃんと各声優さんに吹き込んでもらっています。
名前に関しては内田から「一個でも多く入れてくれ」と言われていたので頑張ったんですが,今回は容量ギリギリまで使っているので,よくある名前を優先的に入れています。数としては名字と名前合わせて1500弱くらいは入っているんですが,それでも少ないんですよね。
本当なら一万,二万は入れたいところです。
内田氏:
そうなんですよね。ただ,それだと声優さんが役受けてくれないよね(笑)。
そういえば梶田さんはなかったんですよね。すみません。
4Gamer:
いえいえ,「かじ」とか「りゅー」って呼ばれるのも,アレはアレでいいものでした。
名前以外でも,セリフのパターンは凄く多いですが,収録にはどれぐらいの時間がかかったんですか?
内田氏:
一人4時間ワンセットで,10日以上かかってます。下手すると1クールのアニメよりも収録時間は長かったでしょうね。
石原氏:
丹下さんも「こんなに長いの読んだことない」って言ってましたから(笑)。
4Gamer:
でも,皆さんがそうやって苦労してくれたからこそ,プレイヤーとしては彼女との会話がいつも新鮮なんですよね。
石原氏:
そう言ってもらえると本当に嬉しいですね。
4Gamer:
ところで今回,やり残したことはありますか?
石原氏:
それはやっぱりありますよ。もうちょっとモードを充実させたかったですし,今回はドロドロした要素は排除しましたが,別れるというコマンドがあっても面白かったかもしれません。あとは単純にもっと遊びやすくしたり……言い出したらキリがないですけど。
凛子と別れたくないので,その機能はいらないです……。
内田氏:
そ,そうですか(笑)。
あとはそうだなぁ……GPS機能を付けたりしても面白そうですよね。クリスマスに「六本木ヒルズに行きたい」とか言われるわけですよ。で,実際にそこに行くとイベントが発生したり。
それこそ日本全国に色々なイベントが隠れていて,北海道のサロマ湖に行くと「サロマ湖来たかったんだ〜」って言われたり(笑)。
4Gamer:
ああ,デートスポットの開拓がGPSと連動していたら面白いかもしれませんね。なんか,別のゲームになっちゃいそうですけど。
それでは最後に,これからラブプラスを遊ぶ人達に向けてメッセージをお願いします。
内田氏:
まずは何も考えないで遊んでみてください。決して難しいゲームではないですし,ハードな努力も必要ありません。かといって,すぐに終わってしまうようなゲームでもなく,やり込み要素も充実しています。
軽く遊びたい人も,ドップリ浸かりたい人も,怖がらないで遊んでください(笑)。国民的GF(ガールフレンド)をよろしくお願いいたします!
石原氏:
皆さんのペースで自分の遊び方を見つけてください。
必ず楽しんでいただけると思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
ラブプラスに込められた,開発陣の強い思いを感じていただけただろうか?
インタビュー中でも触れられているとおり,本作にはセーブデータを転送する機能も用意されている。ひょっとしたら,ラブプラスのその後の日々を遊べるようになるかもしれないのだが,現時点で続編やフランチャイズ作品の開発が決定しているわけではない。
しかし,こういった機能が用意されているということは,開発陣に何らかの手応えがあったからこそだろう。
そんなラブプラスが世の中の人々にどれだけ受け入れられるのか? そしてセーブデータの転送機能がフル活用される日はやってくるのか?
彼女達と過ごすエンドレスラブな日々を過ごしながら,注目していきたい。
「日本男子ラブプラス化計画」
「ラブプラス」商品情報ページ
ラブの摂り過ぎにご注意ください。危険な恋愛コミュニケーションゲーム,「ラブプラス」をレポート(4Gamer)
危険な新作「ラブプラス」について,早見沙織さん,丹下 桜さん,皆口裕子さんに聞いた(4Gamer)
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