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【鈴木謙介】「“クリア後の世界”を考える」
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印刷2011/04/28 20:08

連載

【鈴木謙介】「“クリア後の世界”を考える」

鈴木謙介 / 社会学者

画像集#001のサムネイル/【鈴木謙介】「“クリア後の世界”を考える」

鈴木謙介の「そこ見るんですか?」

ブログ:http://blog.szk.cc/


終わらないゲーム


 いつからでしょうか,RPGやアクションゲームなどの分野で「クリア後の世界」がプレイできるものが増えています
 この連載で何度か述べてきたとおり,〈ゲーム〉というものはその内部に「終わり」を指示するルールがありませんから,原理上はいつまでも遊び続けられるものです。
 一方,多くのビデオゲームはそれを一つのタイトルとしてリリースするために,何らかのストーリー的要素を持っているのが一般的です。そのため,たいていの場合「クリア」とは,この「ストーリー」部分の結末にたどり着くことを指すわけです。
 つまり「クリア後の世界」とは,ストーリーは完結したものの,〈ゲーム〉自体はまだ遊べる,あるいは,クリア後に展開していく新しいストーリーを持つ世界ということになります。ただし,クリア後のストーリーに,それ以前のストーリーと関連した結末にたどり着く,いわゆる「トゥルーエンド」がある場合は,まだクリアしていないものと考えるべきでしょう。

 「クリア後の世界」をゲームソフト内に組み込むことには,作り手にとってもプレイヤーにとってもさまざまなメリットがあります。
 作り手はプレイヤーに対し,〈ゲーム〉としてその作品をずっと遊んでもらえる,いわゆる「やりこみプレイ」を期待できます。プレイヤーも,純粋に〈ゲーム〉としてその作品を遊び続けられることで,自分なりの楽しみを追求する余地が生まれます。
 例えば,2010年7月の記事(「戦争シミュレーションと〈ゲーム〉のしくみ」)で取り上げた戦争シミュレーションゲーム(WSG)や,次回で取り上げる予定のパズルゲームなどはその典型でしょう。
 こうしたジャンルのゲームにストーリー性が加わることで,〈ゲーム〉の面白さが広がったり,世界観が深まったりすることもありますが,〈ゲーム〉自体が楽しくて,ストーリーとは関係なく遊べるものも多いはずです。

 また,一部のRPGでは,本筋のストーリーとは独立したストーリーで展開する〈ゲーム〉(サブミッションとかクエストなどと呼ばれます)が,クリア後にも用意されているパターンが目立つようになりました。
 こちらは,ストーリーそのものは〈ゲーム〉をプレイするためのきっかけに過ぎず,レアアイテムを手に入れるとか,極端に強い敵を攻略する,つまり難度の高い〈ゲーム〉になっていることが多いようです。
 こうした「一粒で二度おいしい」的なゲームが当たり前になっていくと,またも積みゲーが増えていくので個人的には困るのですが,その話とは別に,考えられなければならないテーマが出てきます。それは,「ではゲームにおけるストーリーの意義とは何か?」ということです。


シナリオ間の整合性


シャイニング・ハーツ
画像集#002のサムネイル/【鈴木謙介】「“クリア後の世界”を考える」
画像集#003のサムネイル/【鈴木謙介】「“クリア後の世界”を考える」
 ゲームにおけるストーリーは,2010年11月の記事(「〈ゲーム〉にエンディングは必要か」)で述べたとおり,「終わりの存在しない〈ゲーム〉を終わらせるための指標」であるエンディングへと向かうものです。
 感動的なエンディングのあと,実はまだ飽きるまでゲームを続けることができるんだよというメッセージが表示されたとき,プレイヤーはどう思うでしょうか。嬉しい人もそうでない人もいるでしょうが,少なくとも,そこに行き着くまでにストーリーが持っていた意味が薄れてしまうこともあるように思います。
 こうした現象は,〈ゲーム〉だけをストーリーから切り離しやすいアクションゲームやパズルゲームよりも,サブシナリオ,サブクエストといった形でストーリーもセットにしないと〈ゲーム〉が提供しにくい側面を持つ,RPGやアドベンチャーゲームで起こりがちです。
 ここでは一つの例として,2010年12月に発売された「シャイニング・ハーツ」のケースを見ていきましょう。

 この作品では,記憶を失ってウィンダリア島に流れ着いた主人公リックが,パートナーと協力しながら,カグヤという謎の女性の心を取り戻すべく冒険を続けるというおおまかなストーリーが用意されています。
 カグヤに関するイベントが起きると,彼女が心を取り戻すための「鍵」が手に入るのですが,そのイベントを起こすためには,いくつかのサブクエストをこなさなければいけません。

 サブクエストは,だいたい二つに分けられます。
 一つは,主人公達が働いているパン屋の仕事。パン屋の女主人であるマデラから町の住人へのパンの配達を頼まれたり,住人達から直接,特定のパンの配達を依頼されたりするのです。配達だけでなく「パンを焼く」こともクエストの中に含まれるのですが,評価の高いパンを焼くためにはそれなりの材料を集め,レシピを研究するというプロセスが欠かせません。こちらのクエストは,主として「依頼されたパンを焼く」ことが〈ゲーム〉になっていると言えるでしょう。
 もう一つは,パーティメンバーとなるキャラクターや,その他のNPCからの依頼です。こちらは一般的なRPGのクエストと同じく,敵を倒してこいとか,ダンジョン探索に付き合えといったものがメインです。そのほか,アイテムやパンの材料を集めてこいというものもあります。

 この作品をプレイしていて気になったのは,複数のクエストを通して展開するシナリオ間の整合性です。
 例えば,カグヤに関するシナリオを「メインシナリオ」とすると,カグヤに関わるイベントを起こし,シナリオを進めるために必要なクエストの量は,それほど多くありません。そのため,非常にテンポ良くシナリオが展開していく一方,ほかのキャラクターのお願いを聞いたり,パンの配達を受けたりするクエストを,ついつい後回しにしてしまいがちです。
 ただしこれらのクエストの一部は,「クリア後の世界」のためにとっておくこともできます。パーティキャラクター達とのクエストは,彼らの好感度を高め,「合体技」の発動を可能にしますから,〈ゲーム〉攻略のための一つの要素ではあります。しかしシナリオとして考えた場合,具体例は割愛しますが,いくつかの違和感もありました


フラグとサブの切り分け


戦場のヴァルキュリア3
画像集#004のサムネイル/【鈴木謙介】「“クリア後の世界”を考える」
画像集#005のサムネイル/【鈴木謙介】「“クリア後の世界”を考える」
 「クリア後の世界」を奥深く楽しめるように,いわゆる「本筋」とはそれほど関係のないシナリオをたくさん用意するというのは,最近ではよく見られる手法です。しかし,それらとメインシナリオの関係をうまく整合するためには,それなりの工夫が必要になります。

 この点について,同じセガの作品である「戦場のヴァルキュリア」シリーズは非常に良くできています。
 この作品については,前述した「戦争シミュレーションと〈ゲーム〉のしくみ」でも触れていますが,あらためて確認しておくと,限られた資源の中で最大限に合理化された戦略を立て,実行することが最大のだいご味で,「最大の資源を持つものが最強の軍隊を動かす」という,大砲巨艦主義とは異なる思想に基づいて設計されているのでした。
 さて,こうした戦略の必要性をプレーヤーに印象づけるために,「戦場のヴァルキュリア」シリーズでは,ストーリーの初期段階においてさまざまな制約条件が課されます。
 最新作「戦場のヴァルキュリア3」では,主人公クルト・アーヴィングが突如「ネームレス」という懲罰部隊に転属させられるところから話が始まります。使い捨ての懲罰部隊故に隊員の士気は最低,当初はクルトも指揮官として認められていないという制約条件や,クルト自身の「天才的な指揮能力がある」という設定付けにより,プレイヤーはこのゲームの本質が「戦略」にあることをスムーズに理解できます。
 しかし何より大事なのは,逆境から始まるストーリー故に,隊員達にまつわる多くのサブクエストを,うまくメインストーリーの中に組み込むことに成功しているということでしょう。
 クルトは隊員達の才能を発見したり,一緒にミッションをクリアしたりすることで信頼関係を築き,当初の問題を着実に解決していきます。ということは逆に言えば,そうした「信頼を得る→部隊の能力が向上する」というシナリオを展開するフラグにならないようなミッションは,「クリア後の世界」に攻略すれば良いものになるわけです。


ストーリーはなぜ必要か


 こうして考えていくと,ゲームの中にストーリーを持ち込み,それが〈ゲーム〉とうまく整合する設計を考えるのは,実は並大抵のことではありません。開発チームの規模が大きくなれば,そのハードルはさらに上がるでしょう。
 しかし,そもそもなぜゲームの中にストーリーが必要なのでしょうか。今回,「クリア後の世界」について述べてきましたが,思い返してみれば「ウィザードリィ」などはメインとなるストーリーのほうがむしろおまけで,プレイヤーはクリア後もひたすらレベルを上げたり,レアアイテムの獲得に血道を上げたりしていたものでした。
 「ドラゴンクエスト」シリーズと「ファイナルファンタジー」シリーズが競い合っていたごく初期の頃,〈ゲーム〉の設計上の制限はあるものの基本的に自由にフィールドを移動して冒険できる前者に比べ,単線的なストーリーに沿ってプレイすることになる後者はつまらない,という声があったことも事実です。
 メインストーリーがあるようでないようなゲームの特徴は,そうしたメインストーリーを展開するためのフラグとなるミッションが,「いつ攻略してもいい」くらいのゆるい縛りでプレーヤーに提示されているところにあったと思います。
 しかしながらデータ量が増え,長大なゲームが作れるようになったことで,近年,プレーヤーに飽きさせずにゲームを楽しんでもらうためには,全体を貫くストーリーが大事だ,ということになってきたのでしょう。
 クエストとかミッションという用語は,おそらくはオンラインゲーム,とくにMMORPGの世界で一般的に用いられると思います。こうしたゲームにあまりなじみはないのですが,複数のプレイヤーが異なるタイミングで参入し,レベル差も顕著に表れる世界であるために,メインストーリーなるものを用意しにくいだろうということは想像に難くありません。
 ここにきてゲームは再び,「ストーリー」のほうがおまけで,「クリア後の世界」が広大に広がるという時代に回帰しつつあるのかもしれないという気がしています。

 個人的には,ストーリーのあるゲームのほうが好きなのですが,ボリューム増加のためにストーリーと整合しない「クリア後の世界」がたくさん追加されていくくらいなら,ストーリーはおまけと割り切ったゲームのほうが楽しめるのかもしれませんね。

■■鈴木謙介(関西学院大学准教授)■■
社会学者として教鞭を執る傍ら,TBSラジオ「文化系トークラジオ Life」やNHK教育テレビ「青春リアル」に出演中。次回は「魔人と失われた王国」と「キャサリン」を題材に,アクションパズルのことを考えていく予定だそうですが,予定はあくまで予定です。ちまたでは「難しい」と言われているキャサリンについて鈴木氏は,「イージーモードなら何とかいけます」と断言していました。
  • 関連タイトル:

    戦場のヴァルキュリア3

  • 関連タイトル:

    シャイニング・ハーツ

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