レビュー
PMW3360センサーを搭載する「ECシリーズのバリエーションモデル」は買いか
BenQ ZOWIE EC1-B,EC2-B
今回取り上げるのは,BenQ ZOWIE(以下,ZOWIE)製の右手用ワイヤードマウス「EC1-B」「EC2-B」だ。ZOWIEの原点とも言える右手用ワイヤードマウスであるECシリーズの「新型」にして「バリエーションモデル」という,ちょっと不思議な立ち位置の製品だが,ゲーマーはこれらをどう受け止めるべきだろうか。現行モデルである「EC1-A」「EC2-A」と比較しながら,その実力を明らかにしてみたい。
それに先だってお伝えしておくと,EC-Bシリーズの主なスペックは以下のとおりだ。
●EC1-B,EC2-Bの主なスペック
- 基本仕様:光学センサー搭載ワイヤードタイプ
- 搭載センサー:PixArt Imaging製「PMW3360」
- ボタン数:5(左右メイン,センタークリック機能付きスクロールホイール,左サイド×2)
- メインボタン耐久性:未公開
- 最大トラッキング速度:未公開
- 最大加速度:未公開
- 画像処理能力:未公開
- フレームレート:未公開
- トラッキング解像度:400/800/1600/3200DPI
- ポーリングレート(USBレポートレート):125/500/1000Hz
- オンボードフラッシュメモリ:なし
- データ転送フォーマット:未公開
- リフトオフディスタンス:未公開
- LEDイルミネーション:非搭載(※本体底面にLEDインジケータは搭載)
- 実測本体サイズ:【EC1-B】69(W)×128(D)×43(H)mm,【EC2-B】64(W)×120(D)×40(H)mm
- 実測重量:【EC1-B】94g(※ケーブル除く),【EC2-B】88g(※ケーブル除く)
- マウスソール:未公開
- 実測ケーブル長:2m
- 保証期間:1年間
形状は同じながら外装の肌触りが変わり,機能が使いやすくなったEC-B
そういうわけなので,EC1-Bの形状はEC1-Aと,EC2-Bの形状はEC1-Bとそれぞれ同じ。いわゆる「IntelliMouse Explorer 3.0」(以下,IE3.0)クローンで,EC-Bシリーズの表面は若干の光沢感があり,触ったときには粗めの肌触りがあるという,いままでにないものとなっている。少なくともマット加工されていてさらさらした肌触りのEC-Aシリーズとはまったく別モノだ。
念のため付記しておくと,EC-Aシリーズにはツルツルした表面加工の白モデルもあるのだが,それともEC-Bシリーズの表面加工は異なっている。
一方で,底面はかなり変わっている。まず目を惹くのは,EC-Aシリーズだと従来のEC系同様に,半円状の大きな黒いソールを2枚,マウスの前後に配置する仕様だったのが,EC1-BとEC2-Bでは半円に近い形状の小さな白いソールを4枚四隅に配置しつつ,センサー周辺をドーナツ型のソールで囲むデザインに変わっている。
ソールのサイズは摩擦抵抗に影響するため,単純に考えて(いいか悪いかはさておき)EC-Bシリーズのほうが滑りやすくなる。
LEDインジケータが赤(400 DPI)→紫(800 DPI)→青(1600 DPI)→緑(3200 DPI)→赤→……と順繰りに切り替わる仕様はEC-Aシリーズと同じで,色とDPI設定の関係も変わっていないが,底面に移動したことで,「ゲーム中,ころころと変えるものではない」というZOWIEのメッセージは,より分かりやすくなったと言えるだろう。
もう1つのボタンはUSBレポートレート(ポーリングレート)の順繰り変更用だ。EC-AまでのECシリーズは,「製品ボックス側面の説明書きに従って特定のボタンを押しながらマウスのケーブルを差す」ことで変更するという,かなり面倒な仕様だったが,EC-Bではこの底面にあるボタンを押すことで標準の1000Hzから125Hz→500Hz→1000Hz→……と順繰りに変わるようになった。切り替わると,それに合わせてボタン近くの3連インジケータが白く光るので,どの設定値なのかは非常に分かりやすい。
中身はEC-BとEC-Aでどう違うのか,分解して見てみる
外観を押さえたところで,今回は分解からの内部構造を確認してみようと思うが,先にお伝えしておくと,EC1-BとEC2-B,EC1-AとEC2-Aはそれぞれ採用する基板が完全に同じだったため,基本的にはより大きな「1」のほうで比較することにする。「2」のほうは筐体の内部デザインが若干異なるだけという理解でいいだろう。
2枚の基板は一部が重なるようにして筐体に収まっているが,その上段側にスイッチ系が,下段側にセンサーとマイクロコントローラが載る構造になっている。すぐ上で紹介したとおり,搭載するスイッチはすべてHuano製。スイッチの側面には型番らしきものが書いてある……のかと思いきや,刻印は電源規格に関するもののようで,スイッチレベルの耐久性などを推測させてくれるような刻印はなかった。左右メインボタン用だけ突起が青で,それ以外は赤だったことから「おそらく青色突起のほうが耐久性は高いのだろう」くらいしか言えない。
EC1-Bが搭載するセンサーはもちろん発表どおりの「PMW3360」。EC1-Aは同じPixArt Imaging製ながら一世代前のモデルとなる「PMW3310」(ADNS-3310)を搭載している。
組み合わせてあるマイクロコントローラはいずれもCypress Semiconductor製で,型番はEC1-Bが「CY7C64356-48LTXC」,EC1-Aが「CY7C64215-28PVXC」。どちらも8bitプロセッサ「M8C」を統合するタイプなので,マイクロコントローラは純然たる世代違いと言っていいだろう。
※注意
マウスの分解はメーカー保証外の行為です。分解した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。分解によって何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は筆者が入手した個体についてのものであり,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」と保証するものではありません。
EC-Bの性能はEC-Aとどう異なるのか
EC1-BとEC2-B,EC1-AとEC2-Aでそれぞれ内部構造が同じと確認が取れたところで,ここから筆者の手に馴染みやすい「大きいほう」であるEC1-BとEC1-Aを使って,センサー周りの検証を行っていきたい。PMW3360センサーを搭載するEC1-Bと,一世代前のPMW3310を搭載したEC1-Aで,挙動に違いが出ることはまず間違いないが,どう出るかを確認しようというわけである。
検証環境と条件は下にまとめたとおりだ。
●テスト環境
- CPU:Core-i7 7820X(8C16T,定格クロック3.6GHz,最大クロック4.3GHz,共有L3キャッシュ容量11MB)
- マザーボード:MSI X299 TOMAHAWK(Intel X299)
※マウスのケーブルはI/Oインタフェース部のUSBポートと直結 - メインメモリ:PC4-19200 DDR4 SDRAM 8GB×4
- グラフィックスカード:MSI GeForce GTX 1080 GAMING X 8G(GeForce GTX 1080,グラフィックスメモリ容量8GB)
- ストレージ:Intel SSD 600p(SSDPEKKW128G7X1,NVM Express 3.0 x4,容量128GB)
- サウンド:オンボード
- OS:64bit版Windows 10 Pro
●テスト時のマウス設定
- ファームウェアバージョン:10.0.16299.15(※デバイスマネージャで確認)
- DPI設定:400/800/1600/3200(※主に800 DPIを使用)
- レポートレート設定:125
/500 /1000Hz(※主に1000 Hzを使用) - Windows側マウス設定「ポインターの速度」:左右中央
- Windows側マウス設定「ポインターの精度を高める」:無効
まずは最も気になるセンサー性能検証からだ。
今回もテストに用いるのは「MouseTester」。ここではEC1-BとEC1-AをそれぞれARITISAN製マウスパッド「飛燕 MID」と組み合わせ,400,800,1600,3200といった4つのDPI設定値に切り替えながらマウスを一定のリズムで左右に振り,その挙動を確認することになる。
結果はEC1-B,EC1-Aの順に並べることとした。いずれのグラフでもY軸のプラス方向が左への振り,マイナス方向が右への振り,横軸がms(ミリ秒)単位での時間経過を示している。
DPI設定値ごとにグラフは2枚用意しているが,どちらも青い点は実際にセンサーが読み取ったカウントだ。青い波線のほうは,左だとカウントを正規化したもの,右だとカウント同士をつないだものとなる。どちらでも見やすいほうで参照してもらえれば幸いだ。
EC1-B
EC1-A
テスト結果を見ると,PMW3360センサーを素に近い状態で使っているような印象のEC1-Bに対し,一昔前のセンサーらしい挙動を見せるEC-Aといったところだろうか。
続いてはリフトオフディスタンス検証である。
ここでのテスト方法はシンプルで,厚みの異なるステンレスプレートを重ねていき,その上に乗せたマウスの反応が途絶する高さを0.1mm単位で計測するというものになる。こちらのテストでも比較対象としてEC1-Aを用いたが,結果は表1のとおりだ。
4Gamerとしては2.0mmを合格ラインとしているが,EC2-Bは全12枚中11枚がこれをクリア。対するEC2-Aがクリアしたのは7枚であり,この結果から,センサー性能を計測したときと同じような印象を筆者は両製品に対して抱いている。
続いてはセンサーの直線補正だ。ここではWindows標準の「ペイント」で線を引き,入力に対して補正が行われているかを見るが,結果は下に画像で示したとおり。両製品とも体感できるレベルの補正はかかっておらず,とくに違和感はない。
センサー周りのテストを終えたところで,メインボタンの入力遅延検証に移ろう。
ここでは,マウスクリックをしてから音楽制作ソフト上のシンセサイザが音を鳴らすまでの遅延を,それぞれのマウス間で比較する。その手順は,ざっくり説明すると以下のとおりだ。
- テスト対象のマウスを定位置で固定する
- マイクスタンドに吊したRazer製マイク「Razer Seirēn」を,マウスの左メインボタンすぐ近くに置く
- Windowsから音楽制作ソフト「Fruityloops」を起動。同アプリ上にあるソフトウェアシンセサイザの鍵盤をクリックする
- クリック音をRazer Seirēnで集音しつつ,「XSplit Gamecaster」を使って,「Razer Seirēnで集音した音」と「Fruityloops上の鍵盤で鳴った音」をミックスし,映像として録画する
- 動画編集ソフト「AviUtl」で,音声をWaveファイルとして切り出す
- サウンド編集ソフト「Audacity」でWaveファイルを開き,クリック音とシンセサイザの音が出るまでの時間を計測する
- テストを連続30回行ったうえで,ブレ対策のため最初の5回をカット。6回めから30回めの平均を取ってスコアとする
ここではEC1-Aのほか,Logitech G(日本ではLogicool G)の「Pro Gaming Mouse」と「G403 Prodigy Gaming Mouse」(以下,G403),Razerの「Razer DeathAdder Elite」(以下,DeathAdder Elite)も比較対象に加えた。その結果が表2である。
結論から言うと,EC1-Bは最近のゲーマー向けワイヤードマウスとしてはやや遅い。標準的なEC1-Aと比べても,数字は明らかに大きい。テストのミスかと何度かやり直しても結果は――ときおり極端に高い値が出る点も含めて――変わらなかったので,特性としてはこういうことになるのだろう。
「ECシリーズの新しいバリエーション」というZOWIEの位置づけは正確か?
ただ,テストを終えて判断する限り,EC-Bシリーズのハードウェアはどう見てもEC-Aシリーズの後継である。センサーの世代が新しくなったことと,ソールの変更により確実に滑りやすくなったことを「好みの問題」だとするにしても,無意味に光らせないというZOWIEのポリシーに沿う形でDPIのLEDインジケータが底面に移り,不便だったUSBレポートレート変更機能の使い勝手が向上しているのだから,やはりEC-BシリーズはEC-Aシリーズのリファイン版と言わざるを得ないだろう。
ボタン入力遅延,というか入力遅延値の大きなブレは確かに気になるため,ここを理由にEC-Aシリーズを選択するという人はいると思うが,EC-BシリーズとEC-Aシリーズでどちらを選ぶかと言われれば,筆者はためらいなく前者を選ぶ。
それを踏まえて,2018年の国内ゲーマー向けマウス市場における評価だが,サイズにかかわらず9400〜1万50円程度(※2018年4月7日現在)というのは,正直,高いと思う。もちろん,いわゆるドライバレスで利用でき,すべての機能をマウス側だけで利用できるというメリット,そしてIE3.0クローンの中でも評価の高い形状を採用しているメリットはあるのだが,6000円台後半から7000円台で勝負しているG403やDeathAdder Elite,あるいはSteelSeriesの「Rival 310」に割って入れるかというと,正直,厳しいと言わざるを得ない。
良いか悪いかと言えば良いマウスながら,この店頭価格を見ると真顔になってしまうというのが,筆者の評価だ。もう少し戦略的な価格設定になってくれれば,面倒なドライバソフトウェア設定などなしに,いきなり戦場で使える右手用マウスとしてお勧めできるようになると思うのだが。
EC1-Bをパソコンショップ アークで購入する
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ZOWIE公式Webサイト
(静態写真撮影:佐々木秀二,握りテストおよび分解撮影:BRZRK)
- 関連タイトル:
ZOWIE(旧称:ZOWIE GEAR)
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