イベント
桝田省治氏が「俺の屍を越えてゆけ」の“次”の方向性についてもコメント。リメイク版「俺屍」が正式発表された,ライブイベント「樹原涼子のひな祭り -俺屍復活祭-」レポート
この催しは,1999年にPlayStation用ソフトとして発売され,現在はPlayStation Storeでゲームアーカイブスとして配信されている,RPG「俺の屍を越えてゆけ」(以下,「俺屍」)の主題歌「花」を手がけた,アーティストの樹原涼子さんによるライブイベントだ。
イベント自体は,樹原さんがひな祭りの時期に開催している毎年恒例のもので,既報の通り,今回は「俺屍」のゲームデザイナー,桝田省治氏がトークゲストとして出演している。このイベント内では,「俺屍」リメイク版が正式に発表されたほか,桝田氏が“次の企画”についての方向性を一部コメントするなどの話題が出た。
なお,このイベントはニコニコ生放送で中継され,延べ7500人以上の視聴者および2万3000以上のコメントを集めた。
「俺屍」プロジェクトサイト
イベントは2部構成となっており,第1部では,ライブのあとに桝田氏と作家の光原百合さんをゲストに迎えたトークコーナーが実施された。2人は以前から樹原さんのファンで,年に何度もライブに足を運んでいるという。
一方の光原さんは,仕事がきっかけで樹原さんの楽曲を知り,感銘を受けたそうだ。その曲の歌詞へのアンサーとなる詩を,光原さん自身の詩集に収録したことから交流が始まり,現在は樹原さんの楽曲に歌詞を提供している関係とのこと。
まずは,桝田氏と光原さんの作家としてのスタイルについての話題となった。
桝田氏は作家に会うと,どのように小説を書いているかを聞くが,その答えは人それぞれで,回答の内容はいつも違っているそうだ。なお光原さんは,最初に結末を決め,そこからさかのぼって構成を決めていくというやり方とのこと。途中で伏線を張ったりしていくと,予定していた原稿量を超えてしまうことも珍しくないそうだ。
なお,桝田氏の著作で,2011年2月28日に発売されたばかりの児童書「透明の猫と年上の妹」では,樹原さんが解説を執筆している。
樹原さんはこの作品について,「仕事をしながら,主夫として家事もしている桝田さんだから書けた本。女心をすごく分かっている面と,男の子が抱く母親に対する気持ちの両方が表現されている」と賞賛していた。
光原さんは,桝田氏の執筆した「ゲームデザイン脳」を読み,小説とゲームの作り方の違いに関心を持ったという。中でも,小説では基本的に自分の作りたい世界を描いていくが,ゲームでは「こういう場合,あなたはどうしますか?」と受け手に対して問いかけをしていくという違いが興味深かったと話していた。
桝田氏は,「例えばゲームでは,誰かを裏切ったら,こういうデメリットが発生するということを提示する。それを知ったうえで,それでもあえて裏切るのであれば,それと受け入れられる作りにしている」と説明していた。
なお,桝田氏の著書「ゲームデザイン脳」については,4Gamerで以前紹介したことがあるので,興味のある人は「こちら」の記事を読んでみてほしい。
桝田氏は,リメイクについて,「12年前に70点くらい取った試験を,今度は100点取れるようにしているようなもの。もう問題は分かっているし,ネットを介してお客さんが答えを教えてくれる。さまざまな事情があるので100点満点は難しいが,今の段階で90〜95点は見えている」と説明した。
ただし,対応プラットフォームをはじめとする詳細な情報は,この場ではしゃべってはいけないと言われたとのことで,明らかにはされなかった。
また,“「俺屍」の先”にあるという桝田氏の新たな企画については,まだ公開できないとのこと。しかし桝田氏は「これではサービスにならないので」と前置きし,「試験に例えるなら,さらなる高得点を狙うのではなく,『俺屍』が算数だとしたら,今度は国語だったり英語だったり,それともいきなり数IIIに飛んだりと,別の教科を受けるような感じ。今度は,違った面白さを求めていく」とコメントした。
そのほか,トークの中で桝田氏は,15年近く前の「俺屍」の企画当初を振り返り,樹原さんがライブで演奏した「花」を聴いて,主題歌起用を打診したエピソードを披露。樹原さんからOKが出たときは,「勝った!」と思ったそうだ。
一方の樹原さんは,あるシーンに合わせて作ったはずの曲が,桝田氏の采配によってまったく別のシーンに振り分けられていく,という過程が非常に面白かったとのこと。樹原さんは「その曲が当初のシーンにうまくハマらなくとも,別のシーンに当てはまることがある。まるで人生みたい」と感想を述べた。
樹原さんは,ゲームを通じて自分の曲を繰り返し聴いてもらえると述べ,光原さんとともに「自分の作ったものが,誰かの人生に影響を与えているかもしれない。大切にしていただけるのが,すごく嬉しい」と話していた。
ちなみに樹原さんは,光原さんの著作「銀の犬」に触れ,アイルランドを舞台に,吟遊詩人が音楽で死者の魂を救済していくという内容が,ゲーム向きではないかと桝田氏に提案していた。
このライブイベントでは,「花」をはじめとした,樹原さんの手がけた楽曲の数々が披露された。第2部で演奏された以下の曲は,“桝田氏のお気に入り”であり,これらの曲は,ニコニコ生放送に寄せられたコメントなども参考に,今後リリースされる桝田氏のゲームに採用される可能性があるとのこと。
なお,樹原さん自身の一押しは,自身初の“命令形の歌詞”で,ドラマチックな展開が印象的な「愛する者たちよ」とのことだった。
「その手を胸に」
「旅立ち」
「どんな日も どんな日も」
「祈り」
「ROUND AND ROUND」
「愛する者たちよ」
イベントの最後では,樹原さんが「ゲーム音楽とクラシック音楽はかけ離れていると思われがちですが,私の中では同じ“音楽”というカテゴリー。『俺屍』に携わり,人を感動させるゲームがあることを知ることができて,一人の母親としても凄くよかった」と述べ,「どんなジャンルであっても,誇りをもって“いいモノ”を作ろうとするクリエイターと,それを支えるスタッフがいることは素晴らしい。そこに携われて,幸せです」と締め括った。
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(C)Sony Interactive Entertainment Inc.
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