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アーケードゲームのアプローチをスマートフォンアプリに導入,Smart phone 2011 Spring「カプコン流アプリ開発のキモ」レポート
セッションの冒頭で,手塚氏は“パッシブユーザー”というものを定義した。これは手塚氏の造語で,“キッカケがあればやる人”を意味する言葉。つまり,自らアクティブに情報を探し求めることはなくとも,テレビや雑誌で知ったり知人に誘われたりすることで,ゲームなどのエンターテイメントに手を出すような人達のことである。手塚氏は,ゲームビジネスに携わっていると,こういった層を忘れてしまいがちになるが,モバイルビジネスでは重要な存在であると指摘する。
続いて手塚氏は,現在,ゲームのプレイヤー層が,「モバイル端末を使って操作の簡単なゲームを無料でカジュアルに遊ぶ層」と「高価な機器を買って複雑なゲームを楽しむ層」とに二極化している状況を説明。それを踏まえて「カジュアルに遊んでいる層にゲームの面白さを知ってもらい,より本格的なタイトルに興味を持ってもらいたい」と述べる。
手塚氏は,カジュアルに楽しめて本格的なゲーム体験を安価に楽しめるタイトルが必要とし,そのプラットフォームとしてはスマートフォンが最適であることを示唆した。
ゲームにおいて,「カジュアル」と「本格的」という要素は矛盾するのではないかという疑問に対して,手塚氏はアーケードゲームを例に挙げて答えた。
アーケードゲームはリッチな内容でありながら最初は100円で遊べるようになっており,面白ければもっと料金を払って遊べるという段階的なシステムになっている。そのほかにもアーケードゲームはチュートリアルに相当する0ステージを用意したり,あるいは単機能であったり,2ボタンのシンプルな操作体系であったりと,パッシブユーザーを呼び込む仕掛けが用意されていたと手塚氏は説明。すなわちアーケードゲームは,モバイルゲームやソーシャルゲームで重要といわれる要素を内包していたわけである。
それを踏まえて,手塚氏はiPhoneアプリを作るときに「マニア向けでもカジュアルでもない,アーケード感覚」を心がけているという。
また,取扱説明書は基本的に読んでもらえないこと,ゲームリテラシーの高い人達が使う俗語による表現──例えば,ボタンを押し続ける“溜め”や,攻撃動作後の硬直を解除する“キャンセル”──は,「普通の人」であるパッシブユーザーに通じないことなどを意識しなければならないとも説明した。
操作説明が初回起動時に問答無用でなされるようになっていたり,難度の基準をコンシューマ版などより1段階ほどやさしく設定していたりするのも,パッシブユーザーを意識しての仕様である。さらには,かつてスーパーファミコンで「ストリートファイターII」をプレイした経験のあるパッシブユーザーに向けて,馴染みのあるキャラクターを多数登場させたことにも,あらためて言及していた。
そのほか,用語に関しても,パッシブユーザー向けに変更。チュートリアルは「遊びながら理解してほしい」という意図から,「道場」という名称となった。またメニューのデザインも,ほかとは大きく差をつけて「何かあるのではないか」と思わずタッチしてみたくなるものにしたという。
上記の“キャンセル”も「動作をスキップして,次の技を出す」という表現になっているが,手塚氏曰く,こうした変更は「ゲームを知らないオカンに説明するつもりで」なされていったとのこと。
さらにはゲージタップで「ウルトラコンボ」を出せるようにしたのも,そこまでゲームをやり込まないであろうパッシブユーザーに向けた配慮である。
なお,iPhone版ストリートファイターIVの企画・開発の経緯は,4Gamerで以前掲載した手塚氏へのインタビュー記事でも触れられているので,興味のある人はぜひ目を通してほしい。
手塚氏は,パッシブユーザーが遊んでみたくなるようなゲームを開発し,それを継続できるようビジネスを回す仕組みを作り,その結果としてゲーム人口を大きく拡大していくことがゲーム開発者のミッションであるとまとめた。
また,手塚氏は,急速に普及が拡大するAndroidの例を出すまでもなく,スマートフォン時代は確実にくると指摘。「リスクを取る」という考え方が身についている企業にとっては大チャンスではあるが,ベンチャー企業はもう少し待ったほうがいいし,収益モデルが硬直化している企業は参入自体が難しいのではないかと,自身の見解を述べた。
さらに北米におけるiPhoneアプリ市場で,基本無料でアイテム課金のソーシャルゲームまたはカジュアルゲームがセールスの上位を占めることから,日本のデベロッパにもまだまだチャンスがあると述べる。
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ストリートファイターIV
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ファイナルファイト@カプコンアーケード
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