インタビュー
今後のPlayStationプラットフォームは,どのような道を模索していくのか――SCEJプレジデント河野氏に聞く,PS Vitaの今と,PlayStationプラットフォームのありよう
2006年11月に登場し,すでに安定稼働で収穫期に入ったPlayStation 3と(余談だが,PlayStationは1994年12月,PlayStation 2は2000年3月に登場しており,その間すべてキレイに6年。PS4の足音がそろそろ聞こえてきてもいいのだが),「究極のポータブルエンタテインメントシステム」を標榜し,携帯ゲーム機初の3G通信にも対応して華々しく登場したPS Vita,そしていまだ現役で並行販売されているPSPと,SCEのゲームプラットフォームは3種で展開されている。
さらにPlayStationプラットフォームは,ソニーグループらしく「Video Unlimited」「Music Unlimited」をはじめ,JOYSOUND DIVE(カラオケ)などのエンタメコンテンツにも対応,ネットワーク機能に注力したPS Vitaについては,Twitter,Skype,YouTube,Facebookなどのソーシャルサービスの対応にも取り込んでいる。先ごろ買収を発表したクラウドゲーミングサービス「Gaikai」の展開を控え,期待の新サービス「PlayStation 2アーカイブス」も始まり,プラットフォーム全体を取り巻くコンテンツの多種多様さが,むしろ混迷を極めているという状況だろう。
Music Unlimited |
ほんの10年前は,ゲームができてDVDが観られただけでも存在価値のあったゲームプラットフォームだが,技術の進歩と共に,携帯型でさえあらゆることが出来るようになってきた。だがそれは違う側面から見れば,ほかのプラットフォーム――具体的にはスマートフォンを指す――もまた,技術の進歩と共にあらゆることが出来るようになってきたわけで,少なくともスペック上の話だけをするならば,両者の区別は非常に曖昧なものになりつつある。
そんな混迷の中で,あらゆる種類のコンテンツを抱えるソニーグループの,デジタルコンテンツの先鋒であるSCEは,PlayStationというプラットフォームを,どのように舵取りしていくのだろうか。日本国内向けのビジネスを担当するSCEJプレジデントである河野氏に時間をもらうことができたので,そのあたりを重点的に聞いてみた次第だ。
ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン プレジデント 河野 弘氏 |
本日はよろしくお願いします。
実は河野さんが4Gamerにご登場いただくのは初めてなので,まずは経歴からお話いただけますでしょうか。
河野氏:
どこから話しますか? 最初から話すとすごく長いですよ(笑)。
4Gamer:
ええと,ではほどほどのところからでお願いします(笑)。
河野氏:
ではソニーに入社するあたりはいいとして,その後私は,ベルリンの壁が壊れたあたりで,東欧に行っていたんですね。1989年に壁が壊れたので,私が行っていたのは90年からですね。ソニーのビジネスの立ち上げで。
4Gamer:
そのころって,それこそ「何も」ない混沌とした時代ですよね。
河野氏:
大変な時代でしたね……。私が行ったあとくらいにドイツが通貨統合をして,国の統合まであって,何から何まで大混乱でした。西でも東でも。私なんかも,常にKGBの人が横にいましたよ。
4Gamer:
け,KGBですか……。
河野氏:
当時は共産主義が崩壊したばかりで,それまで禁止だったビジネスを始められるようになったわけです。でも単に「始められる」っていうだけで,想像できないくらい何もない状況にポイッと放り込まれて。実は最初,不本意だったんですけど(笑)。
4Gamer:
どういった経緯で,東欧に行くことになったんでしょうか。
河野氏:
壁が壊れた次の日くらいに社長が急に「東欧のプロジェクトをやるぞ」って言い始めて。それで当時の人事部長に出したヨーロッパ行きの人材の条件というのが「若くて,体力があって,あんまり頭がよくないやつ」って(笑)。
4Gamer:
なんとなく理解はできますが,最後の条件はすごいですね(笑)。
河野氏:
ああいう大混乱のところは,思い通りに物事が運ばないですからね。こうやってこうやったら,きっとこうなる,みたいな考えではうまく事を運べないんですよ。
4Gamer:
コモンセンスもビジネスセオリーも,一切通用しないでしょうしね。
河野氏:
なので「まあ,なるようになるか」くらいの考え方のできる人がいいんじゃないか,って。
4Gamer:
オプティミスト代表として選抜されたわけですね。
そうそう(笑)。なにせ私は当時27歳で,元々体育会なわけですね(編注:河野氏は慶應義塾大学野球部出身)。
若くて元気であんまり頭が良くない,っていう条件に見事合致しまして,その人事部長が「河野というものがいます」と。「実は彼はアメリカに行く準備をしているのですけど,変えますか?」と,どんどん進めてしまって(笑)。
4Gamer:
具体的にはマーケットの開拓を?
河野氏:
はい。最終的に現地の法人を作りました。「ソニーって何をやってる会社?」みたいに言われていた時代があって,そこからアメリカに出て行き,ヨーロッパに出て行き,アジアにも出て行き,それぞれみんながその国のオペレーションを作って,現地の販売会社を作って,現地法人を作ったと。
まぁ,私が入社するころにはもうほとんどそれらも出来上がっていたわけなんですが,やはりいくつかまだ未開拓だった国なり地域は残っていたわけです。
4Gamer:
ソニーが何屋なのか知られてない時代もあったんですね。
河野氏:
そうです。まぁそういうところの開拓っていうと,普通は特別なチームが送られるわけですけど,なぜか東欧の場合は,まず私が1人で行きまして,社員がいないどころかオフィスもありません。なにしろ,私が到着したその前日まで,ビジネスが禁止されていたようなところなんですから。
……実は,もともと私はアメリカに住みたいがためにソニーに入ったんですね(笑)。
4Gamer:
なぜアメリカだったんでしょう。
河野氏:
私は学生時分に野球をやっていたのですが,その関係で2回くらいアメリカに遠征をしてまして。そのときに,やはり日本にないものがあってすごく楽しくて。日本の野球は「体育会」ですが,向こうの野球は「ベースボール」だといえばいいですかね。とてもエンジョイするんです。
4Gamer:
なるほど,フィーリングとして理解できます。
河野氏:
まぁ上を目指すとものすごく厳しいので,基本的には「ベースボールを楽しむ個人」というものがあるわけです。個人というより「個」ですね。1回の表から送りバントなんて絶対にしないわけですよ。
それがすごく楽しくて,野球以外のスポーツをやる機会もあって,絶対この国に住みたいと思って。
4Gamer:
すごく若者らしい理由ですね(笑)。
河野氏:
そうですね(笑)。
でもソニーはそういうところに結構チャンスがあって,何でもアリみたいな会社だったんですよね,当時から。それで,自分ではすっかり行くつもりで,アメリカ行きのオリエンテーションまで受けていたのに,それがある日突然変わったので,ヨーロッパに行く動機が見つからなかったんですね。
そしたら「よし,動機を探してこい。今日は仕事しなくていいから」って。
4Gamer:
マンガみたいなやり取りしてますね。
河野氏:
言われて探しに行ったはいいけど,もちろん見つからないわけですよ。まぁでも結局は行くことにしました。やっぱりビジネスの立ち上げというのはやりがいがありますよね。人が作ったものに入っていくのではなくて,自分が作るわけですから。
4Gamer:
それほどまでの仕事はそうそうないですし。
河野氏:
はい。そういう意味で面白いかな,と思って行ったんですが,それはもうすごいカルチャーショックでした。道の名前とかもですね……。
4Gamer:
道の名前?
河野氏:
もともとの通りの名称が体制の関係でロシアの名前に変えられていたのですが,それが革命によって元の名前に戻ったわけです。
地図なんかまったくアテにならないし,街の人とかに聞いても,なんだか50年くらい前の名称でしゃべるわけです。でも,その名称が使われている地図なんかないので,どこを指してるのかさっぱり分からないんですね。
ご存じだと思いますが,アメリカやヨーロッパはすべてストリートネームで住所を書くので,そもそも通りが分からないと,どこに何があるのかさっぱり分からないわけです。想像もつかない。挙げ句,信号は全部切れているし,西側からかけても電話はまったくかからないし。
4Gamer:
想像を超えるカオスぶりですね……。
河野氏:
元々が先進国だった国々で,非常に優秀で人間的にも素晴らしい人達なのに,それまでの体制でそんな風に変わってしまったんですね。そういう状況が作る難しさの中で,ビジネスをやっていました。
92年〜93年くらいには状況はだいぶ変わって,工場なんかもどんどん作られるようになってきていましたが,90年とか91年あたりはホントにすごかったですね。
4Gamer:
東欧にはいつごろまでいらしたんですか?
河野氏:
94年の末頃までかな。だいたい4年ちょっといました。
4Gamer:
けっこう長い期間いましたね。
河野氏:
そう簡単には物事が進みませんでしたしね。でも途中から人も増えて,いつしかチームになって,ポテンシャルがすごくあることが分かって。結局29か国くらい担当だったんですね。
4Gamer:
そんなに……? あ,なるほど。ソ連やユーゴの崩壊で,国が一気に増えたんでしたね,あのころは。
河野氏:
そうなんです。ソ連も分かれ,ユーゴスラビアも分かれ,それぞれが全部国になったわけです。すごい数ですよね。
ソニーマーケティングとの兼務ーーやるんだったら両方やったほうが価値がありそうだと思って
4Gamer:
その後,日本に戻ってからは?
河野氏:
東京に帰ってきて,しばらくは普通に仕事をしていました。私は元々現場系だったので,東欧に行く前は秋葉原の営業をやっていました。週末は店頭に立って販売したりとか。
でもその後,CFOのサポート(Chief Financial Officer:最高財務責任者)をやれといきなり言われて。
4Gamer:
いつも急ですね(笑)。
河野氏:
そうなんですよ。ソニーってそういうところだったんですよ。CFOサポートって,要するに内容が経営企画だったりM&A(Mergers&Acquisitions:企業の買収/合併)だったりIR系(Investor Relations:投資家に向けての広報活動)だったりするわけで,なぜ私なのかよく分からない。だって私の周りには,バンカー(編注:ここでは銀行のbankの意)みたいな人がいっぱいいたわけですよ。
4Gamer:
確かに東欧での実績があるとはいえ,戻ってきてみたら営業からCFOのサポートとはまたすごい。
河野氏:
すごいというかよく分かりません(笑)。「なんで僕なんですか?」と聞いたら「現場系の視点を持った人が必要なんだ」と。大丈夫,みんな回りは頭いいヤツだから。ファイナンシャルの知識(=財務の知識)持った人はいっぱいいるし,河野君にはそれ期待してないから大丈夫だよって。
4Gamer:
なんだかすごい言われようですが(笑)。
ひどいですよね(笑)。まぁとにかく,現場の視点をちゃんと入れておかないと間違えるからと言われて,しばらくやって,とても勉強にはなりました。
その後,またもや急に「社長のかばん持ちをやれ」と言われてやって,2002年の末くらいにはようやくアメリカに行きました。2010年までいましたね。
4Gamer:
……そういえば永住する予定だったのでは。
河野氏:
そうなんですよ。
でもそのときSCEの社長だった平井(平井一夫:現ソニー取締役/代表執行役 社長 兼CEO)から連絡があって,「帰ってきて日本でゲームビジネスをやってくれよ」と。いやちょっと待ってください,僕はアメリカに永住するつもりでやっているんだと言ったんですけど,なだめられて。
4Gamer:
ここでようやく河野さんがSCEに来るところまできました(笑)。
河野氏:
そうですね(笑)。2010年の春からSCEJに来ましたが,やっぱりゲーム業界はビジネスとしては初めてだし,なにしろ業界の関係者の方とのコネクションも何もないですし。
もちろんビジネスの経験としては色々なことをやってきましたが,ゲームに対する理解や経験がない状態でのスタートとなったので,各パブリッシャさんに色々教えてもらおうと思って,とにかく回ってました。
4Gamer:
ご自身自ら,ですか?
河野氏:
元々妙なプライドもないので,知らないことは知らないので教えてください,って聞きにいける性格なんですね。
4Gamer:
メーカーさんもさすがに最初は面食らったのでは。
河野氏:
「ソニーの本社でいろんなビジネスやっていたエリートが来るらしいけど,きっとアメリカ人みたいな雰囲気の偉そうな奴なんじゃないの?」とか言われていたらしいです(笑)。
4Gamer:
もしそう思われていたなら,会ってみたら「あれ?」ですね。いえ,むろん良い意味で。
河野氏:
ですね(笑)。
それで色々と教えてもらいながらの始まりだったのですが,それはもう,ウチの社員にだってエキスパートがいっぱいいるわけですよ。ゲームファン代表みたいな人もいるし,業界のことにとても詳しい人もいるし。
そういうスタッフ達と業界の方達に,本当にいろんなことを教えてもらって,それを繰り返しているうちに,なんといいますか……溶け込んでいくというか。
4Gamer:
経緯は大変よく理解できたんですが,それだけ初めてのことをやりながら,ソニーマーケティングの代表取締役まで兼務するのは大変ですね。ソニーマーケティングの件は,さすがに最初は異動という話だったんでしょうか。
そうですね。でもまぁ結局,やるんだったら両方やったほうが価値がありそうだなと思いまして。一つには,ゲーム会社さんとの関係を持ったままやったほうがいいのではないかと思ったのと,もう一つは,PlayStation全般のビジネスを考えるときに,PlayStationというハードウェアの側面を補強するのにいいな,と思いました。
4Gamer:
ハードウェアの側面というのは,PlayStationというプラットフォーム全体を指してます?
河野氏:
PlayStationのプラットフォームというものは,ゲームの中だけで完結しなくなっているんですね。それで終わらせるのはもったいない。ソニーグループとしてゲーム事業をやっているのであれば,ゲームの専用機をゲームだけで完結させるのではなくて,トータルのプラットフォームとして広げていく必要が見えてきますから。
そういう動きはすでに始まっているし,そう考えると,ゲームはゲーム,モバイルはモバイル,家電は家電,って分けている意味は,実はあまりないんですね。
4Gamer:
確かに,カスタマーへの距離が近いのは「マーケ」ですし,一緒にやることには大きな意味がありそうです。
河野氏:
意味というかメリットというか,戦略的な意味がありそうですよ,と平井にも言いました。そもそも,ソニーとして「One Sony」(編注:迅速な意思決定によるソニーグループ一体となった経営)というプレゼンをしているじゃないですか,と。実際に実践する現場がそうなっていないと,結局できないですよね,とも言いました。
4Gamer:
なるほど,One Sonyを体現するよい場ではありますね。ジャンル的にも合致してますし……というか,ソニーマーケティングと「相性の悪い」ものって,そうそうないとは思いますが。
河野氏:
そのOne Sonyの実現によるフィードバックが商品に反映されていくわけだから,それを実践する現場が必要です。
まだ始まって間もなくて,3か月くらいしか経っていませんが,間違いなくこの道は正解だったと思います。例えば,nasne(ナスネ)という製品がありますが,あれはSCEが開発した,SCEの製品です。でも,説明するまでもなくお分かりのように,あの製品の使われ方は,本当にAVライクなんですね。
4Gamer:
nasneにせよtorne(トルネ)にせよ,ゲームの周辺機器という枠組みでは収まらない製品ですよね。
延期されていたnasneの発売日も,無事に8月30日で再決定した |
河野氏:
ええ。結局あれって,ゲーム感覚のAVの楽しみ方を提案している,すごくユニークな製品なんですね,いろんなデバイスと連携するわけですよ。例えばVAIOと一緒に使うとか,タブレットと一緒に使うとか,スマートフォンと一緒に使うとか。なのでそういう提案もしていますが,まあnasneをアピールしやすいのは,おそらくVAIOの売り場でしょう。もしくはタブレットの売り場ですかね。
4Gamer:
なるほど。そこでソニーマーケティングが生きてくる,と。
河野氏:
そうです。そこへのアクセスやリーチを持っているのは,ソニーマーケティングなんですね。SCEの製品を,ソニーマーケティングのルートで販売させていただくわけです。当然,私がその両方を見ているわけで,そのときのビジネスの条件とか,マーケティングアプローチとか,そういうものを同じボイスでコーディネイトされた状態で展開できるわけです。
4Gamer:
逆に,SCEの「ゲーム機」という範疇でのマーケティングだけではなく,例えばテレビであり,例えばタブレットであり,例えばウォークマンであり,そういうものと絡めたゲームプラットフォームの展開もやりやすくなるということですね。
河野氏:
ええ。たまたまnasneが出るタイミングなので,よく皆さんに「だからやってるんですか?」と聞かれるのですが,それはあくまでも偶然です。でもせっかくの偶然は生かしたいですし,ある意味そういうものも「流れ」なわけですよね。
マーケットが進化していくためには,コンテンツのイノベーションと技術系/通信系のイノベーションが欠かせない
4Gamer:
我々はゲームメディアですから,河野さんに限らず,こういうインタビューはゲームに特化した話題に終始してしまうことが多いんですが,SCEに関しては,単にPlayStationプラットフォーム上のゲームの話をすればいいような,そういう話だけではないように思えるのです。
河野氏:
といいますと?
4Gamer:
ソニーグループが抱えるエンターテイメント全般の事業と,相互に深く絡めたゲームプラットフォームを展開できるのが,PlayStationフォーマットの強みなわけですよね。デバイスを超え,エンタメのジャンルを超え。河野さん自身,それを最大限に生かせる位置にいるわけですし。
河野氏:
そうです。やっぱりソニーがやるんだったら,そういうことをしないと意味がないと思うんです。ゲームプラットフォームとしての戦いだけをしていても,もったいないな,と。
ソニーグループでやっている意義というものはそういうところにもあるので,やっぱりそういうテクノロジーなりデバイスなり,もっともっと,みんなが「おっ!」と言ってくれるものを出さないといけないと思っています。
4Gamer:
とはいえそれは,ゲームが軽視されるという意味ではないですよね。
河野氏:
むろんです。私も2年間やらせていただいて強く意識しているのは,SCEがやっている「ゲーム」の部分が軸なんですね。ここだけは絶対に軽視できないし,ブレるわけにもいきませんし,ここをどうやって楽しんでいただけるか,です。
4Gamer:
おっしゃるとおりです。
河野氏:
ゲームをお客さまに楽しんでいただくために,いろいろなハードなりテクノロジーなりがサポートするといいますか。それを「エンハンサー」と呼んでいるのですが,エンハンサーがゲームプレイの楽しさを高める役割を演じられればいいな,と思っています。つまりハードありきという話ではないんですよね,まったく。
4Gamer:
ええ,コンテンツありき,ですね。
河野氏:
コンテンツありきで,それはすなわち,それを作っている現場のクリエイティビティありき,です。ここが一番大事なところです。
このクリエイターさんのクリエイティビティと,ハードメーカーとしてのエンジニアのクリエイティビティ――エンジニアとしての発想と言い換えてもいいですが――これってすごく似ているんですよ。
4Gamer:
アウトプットの媒体が違うだけで,確かに行為そのものの本質は同じかもしれません。
そう,「何かを生み出す人達」という意味で同じなんですよね。
この何かを作り出す人達というのは,すごく価値があるわけです。それは,ゲームにおいてはクリエイターの人であるわけで,この人達が何かチャレンジしてみたいと思うような技術提案をするとか,この技術があれば,コンテンツがこんな風に膨らませられそうだとか,そういうものを私達はもっと持っていかなくてはいけないと思っています。それを期待されているとも思いますし。
4Gamer:
マーケットの発展のためにはテクノロジーのイノベーションが欠かせない?
河野氏:
単にそういう話でもありません。マーケットがどんどん進化していくためには,やはりコンテンツのイノベーションと,技術系/通信系のイノベーションが合致する必要があると思うんですね。なので私達の「軸」として,コンテンツ系のより良いクリエイティビティやイノベーションをどれだけ引き出せるかが重要だと思っていて,それはすなわち,作る人達とのパイプを持ち,たゆまぬコンタクトをして,その人達が何を考えているか,いま何に行き詰まっているか,そういうことを理解していくことだと思うんです。
4Gamer:
それもあってご自身でメーカー周りをしていたんでしょうか。
河野氏:
私のこの2年間は,確かにそこが重点領域といいますか,その方達と話をすることで理解を深めていったわけです。その後こちら側のエンジニアとも話をしながら,「こういうことをサポートできる方法はないのかな」とかね。
4Gamer:
では,その2年間の足で通った成果はぼちぼち……ですかね。
河野氏:
ゲームコンテンツは,いろいろな要素があって出てくるものなので,なかなか難しいところもありますが。開発のサイクルであったり,順番みたいなものであったり。
ある種の成果という意味では,今年のPlayStation 3のタイトルなんかを見てもらえば分かりますが,強力なタイトルが年末に向けて控えているわけですね。
4Gamer:
Vitaはいかがでしょう。
河野氏:
PlayStation Vitaはまだ新しいプラットフォームですが,相当良いものも揃ってきていますし,6月も非常に手応えがありました。
4Gamer:
河野さん的には,6月は手応えありました?
河野氏:
ありましたよ。
まず,ガンダムSEED(機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY)が出ましたよね。そのすぐあとにペルソナ(ペルソナ4 ザ・ゴールデン)が出ました。ペルソナもあれだけの数(編注:2012年7月15日時点で20万本)が出て,PS Vitaプラットフォームを牽引してくれました。
「機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY」 (C)創通・サンライズ |
「ペルソナ4 ザ・ゴールデン」 (C)Index Corporation 1996,2011 Produced by ATLUS |
4Gamer:
ペルソナは売れましたねえ。
河野氏:
本当に素晴らしいと思います。そのあとMETAL(METAL GEAR SOLID HD EDITION)が出て,そろそろタイムトラベラーズが出て,パワプロ(実況パワフルプロ野球2012)が出て,ミク(初音ミク −Project DIVA− f)が出ます。年末にかけても結構ありますし。
「METAL GEAR SOLID HD EDITION」 (C)Konami Digital Entertainment |
「タイムトラベラーズ」 (C)LEVEL-5 Inc. |
「実況パワフルプロ野球2012」 (C)Konami Digital Entertainment |
「初音ミク -Project DIVA- f」 (C)SEGA / (C)Crypton Future Media, Inc. www.crypton.net |
盛り上がるPS Vitaと,それを周知させることについて
4Gamer:
河野さんご自身が,以前から「PS Vitaは6月を見ていてくれ」という感じのことをおっしゃっていましたが,それにしては盛り上がり感にちょっと欠けたかな? という気がしているんです。いえ,確かに台数も順調に伸びていますし,タイトルも揃いつつありますし,話題にあがったペルソナなどを筆頭に,売り上げも上々な感じなんですが。
ただ申し訳ないことに,6月全体でPS Vitaが盛り上がった感というのがイマイチ感じられなかったな,と思っているんです。
数字的な事は細かく触れませんが,直近は特によく動いてくれました。あと,PlayStation Networkでのアクティブ度合いとか,PS Vitaを購入したあとでのトランザクションとか,そういったアクティビティなどを見ると,PS Vitaプラットフォームそのものが盛り上がったのはよく分かります。
あと本数という話ですが,店頭発売と同時にダウンロード版の発売もしているわけです。そちらの数字は公表していないのですが,PS Vitaはネットワークにより親和性の高いハードウェアだけあって,その部分がかなり異色の数値になっています。
4Gamer:
ダウンロード版の販売本数は相当なものがある?
河野氏:
活発ですよ,すごく。
4Gamer:
我々4Gamerに限った話ではないですが,ゲームメディアなどによく売上本数のランキングが出ているじゃないですか。PS Vitaの場合,ダウンロード版の販売がそこまで良いのであれば,それが見えてこないのはちょっと不利じゃないでしょうか。
河野氏:
ただそこは,ゲームのパブリッシャさんとコミュニケーションをキチンととっていれば,問題はないと考えています。
4Gamer:
私も個人的には売上本数のランキングとかは,別に気になりません。「売れているもの」を選ぶわけではないですし,自分が選んだものの数字が高かろうが低かろうがそこは関係ないので。ただ,PV(ページビュー)の多さを鑑みても,業界の人だけではなく広く見られていることは容易に想像が付きますし,そういったときに,目に見える数字の大小だけで「面白そうに見える/見えない」のフィルターがかかりそうなことを,若干なりとも危惧しているんです。
河野氏:
これからも,自社やパブリッシャさんからタイトルを供給していただけるようSCEJも協力できるところは可能な限りサポートします。例えばFree to Playのパフォーマンスなんかは手応えを感じているわけで。
4Gamer:
サムドラ(サムライ&ドラゴンズ)なども,大変調子が良いそうですね。
ご自身がおっしゃったようにパブリッシャさんだったり,SCEさんだったり,あとはこうやって直接話をお伺いできるメディアであったり,そういう人達であれば分かりますが,ユーザーにはいま一つ見えないわけですよね。体感で「なんとなく分かる」部分はあるかもしれませんが。
「サムライ&ドラゴンズ」 (C) SEGA |
河野氏:
そうですね。
4Gamer:
私は,今後のPS Vitaプラットフォームの盛り上がりを考えたときに,そこを懸念しているんです。
それでちょっと話を戻してしまうんですが,先ほどの6月の話はそこが起点でして,端的に言うと「PS Vitaやっぱすげえ!」って思える何かが欲しいな,と思っているんです。とくにいまの段階で買ってくれているユーザーは,いわゆるコアゲーマーと呼ばれる人達がメインでしょうし。
河野氏:
なるほど,確かに我々にとってもすごく重要な方々ですね。
4Gamer:
そうですよね。何につけ,最初のトリガーを引いてくれる人達です。別にその人達に媚を売るとかそういうことじゃなくて,なにかこう「やっぱりPS Vitaすごいじゃん?」とか「PS Vita買ってよかった」っていうものがあったほうが良かったんじゃないかな,と思ったんです。
河野氏:
なるほど。いろんなコミュニケーションを取ったり,いろんなことを周知したり,そういう努力はもっともっとやるべきですね。
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