インタビュー
時代を超え受け継がれる「KOFイズム」とは。西川善司が挑む,AC「THE KING OF FIGHTERS XIII」開発者インタビュー
そんな筆者がリリースを心待ちにしていたのは,もちろんシリーズ最新作である「THE KING OF FIGHTERS XIII」(以下,KOF XIII)だ。今年7月中旬より全国のアミューズメント施設での稼動が始まっており,にわかに盛り上がりを見せ始めている。思えばKOF'94からKOF2000までの7作は毎年夏に稼動していたために,筆者のような古参のファンにとっては「KOF発売は夏のイベント」という認識がある。そう,今作KOF XIIIは久々の「夏のKOF」……なのである。
筆者もさっそく地元さいたま市のゲームセンターを確認したところ,さっそく新台が稼動しており,黒山の人だかりができていた。2001年以降は秋冬リリースになってしまっていたし,前作は春稼働だったため,なんだか,昔懐かしの「夏の興奮」が帰ってきたようでワクワクする。
そんなワクワク感が冷めやらぬうちに4Gamer編集部から依頼されたのは,大阪にある本作の開発元,SNKプレイモアへのKOF XIIIの取材であった。本稿は,そんなそんな純粋な“いちKOFファン”である筆者が,大阪にあるSNKプレイモアを訪れ行った,開発者インタビューだ。ふだんは技術関連の取材が多く,なんだか堅ーい記事が多い筆者だが,本稿では,意外にも普通にゲームのことを聞いているので,安心して読んでほしい。
「THE KING OF FIGHTERS XIII」公式サイト
7年越しの「アッシュ」編完結
選ばれた登場キャラクターの理由は?
その年に一度の「お祭り」は,格闘ゲームファンの裾野を一気に広げた第1作の人気もあり,KOF2003が発売された2003年までは,毎年新作タイトルとしてリリースされ,2D格闘ゲームの一大ブランドへと成長していく。
KOFシリーズは,その第1作であるKOF'94こそ,SNKキャラクター達のドリームマッチ的外伝作品として登場したものの,翌年のKOF'95からは独自のストーリー展開がスタートし,KOFオリジナルのキャラクターが続々と生み出されていった(そして彼らもまた大きな人気を獲得した)。
KOF'95〜KOF'97までは主人公・草薙京とそのライバルである八神庵といった,炎の使い手と,地球意志的な存在である"オロチ"との戦いを中心に描いたストーリーが綴られる「オロチ編」が展開された。
オロチの呪われし血を受け継ぐ八傑集に,餓狼伝説シリーズのキャラクター・山崎竜二も組み入れられたことで,KOFのストーリーがほかのシリーズにまで波及するという,世界観の広がりを見せたのが印象深い。
続くKOF'98が,オロチ編のお祭りタイトル的な立ち位置でストーリー進行のない作品としてリリースされたのち,KOF'99〜2001までは,世界侵略を企む秘密結社「ネスツ」による“草薙京量産計画”などを基軸に,新たなストーリーが展開された。この「ネスツ編」では,ネスツからの脱走戦士である「K'」などの新主人公達が設定され,従来の人気を引き継ぎながらも,新たなファン層を獲得している。
そしてオロチ編のお祭り作品的なKOF2002を挟み,KOF2003からスタートしたのが,今回完結を迎えた「アッシュ編」である。緑の炎を操る三代目主人公・アッシュと,「遥けし彼の地より出づる者」との戦いが描かれるこのアッシュ編は,シリーズのリリースが毎年ではなくなった影響もあって,結果的に7年にも及ぶ長期シリーズとなった。プレイヤーの側からすれば,ようやくの完結といえるアッシュ編,このストーリーラインは7年前から決まっていたものなのだろうか。
そうですね。だいたいは。
山本圭氏(以下,山本氏):
KOF2003の最初のアッシュ編の開発の時点で,主人公・アッシュの基本設定と,どういう顛末を経て物語が収束に向かうか,という大枠の部分はだいたい決まっていました。ただ,ストーリーに絡んでくる各キャラクターや各チームの物語は,それぞれの開発タイトルの開発時期に設定されています。図らずもアッシュ編は,KOFシリーズで完結までに最も時間が掛かってしまった物語なので,開発チームとしても,今回やっと完結できたという想いで一杯です。
――アッシュ編の第一作がKOF2003。2004年にはKOFがリリースされなかったため2005年以降のKOFは作番が後ろに付けられるようになり,KOF XI(2005年)がアッシュ編の第2章にあたる。前作であるKOF XII(2009年)はストーリーが進展しない,どちらかというと純粋な対戦ツールとしての作品だったのだが,KOF XIとKOF XIIの間が結構空いてしまったのはどうしてなのだろうか。
久木野氏:
KOF XIの開発が2005年に終わり,その後,KOFを生まれ変わらせる必要がある,ということになりました。KOF XIIの開発プロジェクトはそこからスタートしています。ただ,リリースされたKOF XIIのスタイルに至るまでには,何度かプロトタイプの開発を行っています。いろいろ試行錯誤を重ねた結果,KOF XIIの開発は長くなりましたね。一方で,KOF XIIIの開発は,パートによってはKOF XIIと並行するような形で行われました。
――前作KOF XIIは,昨年(2009年)4月にアーケード版が稼動し,同年7月末には家庭用としてPlayStation 3版,Xbox 360版のリリースが行われている。今作KOF XIIIも同様の展開を期待したいところだが……。
格闘ゲームは,やっぱり人と人との“生”のコミュニケーションが重要だと考えています。ですので,まずはアーケード版での展開に注力していきたい。家庭用への展開はその後に考えることになるかと思います。今はこれ以上いえませんが,家庭用への展開は乞うご期待ということで(笑)。
――前作KOF XIIと比較して,近作における分かりやすい相違点の筆頭は総キャラクター数だ。前作(アーケード版)での総数は20名で,近作のKOFと比べると少ないといわざるを得なかった。しかし,今作は31名へと増加し,まさにKOFらしい顔ぶれが揃ったという印象がある。
久木野氏:
前作は主だったストーリー進行がありませんでしたが,今作はアッシュ編の完結編という位置付けということもあり,アッシュ編のストーリーに関与する多くのキャラクターが登場しています。また今作では「KOFらしさ」――我々は「KOFイズム」と呼んでいるんですが,それを甦らせることを主軸にしています。ですので「KOFイズム」を体現するようなキャラクターを積極的に登場させました。また新しくなったゲームシステムを活用したときの奥深さを体感してもらうため,一般的なキャラ人気だけにとらわれない,キャラクター選定も心がけています。
――KOF XIIIの追加キャラクターでは,KOF初参戦となったホア・ジャイの登場が目を引くところだ。正直なところ,それほど人気の高いキャラクターとはいえない彼なのだが,これが「人気だけにとらわれない選定」ということなのだろうか。
ホア・ジャイの登場にはいろんな理由があるんですが,一番はやはり「面白そうだから使ってみたい」と思わせるキャラクターとしてチョイスしました。ホア・ジャイは歴代のSNKゲームに背景キャラとしていろんなところに顔を出してきた関係で,知名度はそこそこあるんですけど,実は初代『餓狼伝説』(1991年)の登場キャラで,KOFには初参戦です。なので,あまり色が付いていないといいますか……今作でいじってもファンに怒られることがないだろうと(笑)。
久木野氏:
あと,今回はキムチームでの参戦となるわけですが,前作からの流れでキムチームにライデンが加わるならば,やはりホア・ジャイがいいだろう……と。前作KOF XIIでは,主人公クラスの有名キャラを勢揃いさせることはできたのですが,逆にKOFらしい,お遊び系のインパクトのあるキャラがいなかったんです。その反動でホア・ジャイはイロモノ枠といいますか(笑)。
――いささか気の早い,そして欲張りな話でもあるのだが,やはりKOFファンとしては次回作以降もこうしたサプライズキャラクターの参戦を期待してしまう。そこで疑問として出てくるのが,KOFシリーズにおける参戦キャラクターの選定条件だ。例えば「サムライスピリッツ」シリーズのような人気タイトルのキャラクターは,当然ファンからも要望が高いと思うのだが……。なにか具体的な条件があるのだろうか。
山本氏:
KOF XIで風雲スーパータッグバトルのキャラクターが何体か参戦していますし,「KOF MAXIMUM IMPACT REGULATION "A"」では,許可を得て「ファイターズヒストリー」シリーズの溝口誠なども登場してもらってますから,明確な参戦条件というのは設けているつもりはないですね。ただKOFは拳と拳のぶつかり合いが基本テーマですから,剣などの武器を持ったキャラクターの参戦は難しいでしょう。闘い方,世界観,他タイトル(「NEOGEO BATTLE COLISEUM」など)との兼ね合いで決定しています。とはいいつつも,ビリー・カーンのような棒術使いは参戦していますけど(笑)。結局,最終的に決め手となるのは,KOFに登場して楽しくプレイできるかという点です。今後も,ご期待ください。
KOF XIIIが目指した「KOFイズム」とは?
新システムが採用された理由とゲームバランス
少し話が前後するが,先ほど久木野氏から飛び出した言葉に「KOFイズム」がある。本作の開発において重視したという,このKOFイズムとは,具体的に何を意味しているのだろうか。
我々はKOFイズムを3本柱として捉え,KOF XIIIではその体現に努めました。一つはKOFならではのオールスター感の強いキャラクターの魅力や,プレイして楽しいキャラクターを提供することです。キャラクターの選定に際しては,これに配慮した結果といえます。二つ目はKOFらしいゲーム性です。従来のプレイヤーが慣れ親しんだパワーゲージシステムと,今回新たに加えられたハイパードライブゲージを軸とする新システムが,これに該当します。そして最後がストーリー性です。ストーリーが進行しない,KOF'98やKOF2002,そしてKOF XIIなどのシンプルで純粋な,お祭り的意味合いが強いKOFもアリですが,今作ではKOFらしいストーリー展開を盛り込んでいます。
――なるほど。KOFイズムを体現する三つの要素,ストーリーとキャラクターについては先に伺ったので,ここでは最後のゲーム性について詳しく聞いてみたい。本作KOF XIIIでは,KOF XIIのシステムがほぼ全廃され,一新されるに至っている。前作から1年という開発スパンにおいて,これはかなり大胆な変更に思えるのだが,そこに至る経緯はどうだったのだろうか。
山本氏:
KOF XIIではグラフィックスの大幅な改変に伴い,新しいゲーム性と新しいゲームシステムを模索しようという意図で制作が進められました。しかし今作は,これまでのKOFシリーズらしいKOFというものをさらにもっと深く追求――KOFイズムの実現を重視したため,結果として従来のパワーゲージ+新ゲージという組み合わせを選択しました。
「パワーゲージ」は,敵に攻撃を当てるかダメージを受けることで溜まり,ストックされたゲージを消費することで,ガードキャンセルや超必殺技といった強力な攻撃を発動できるという,KOFシリーズのファンにはお馴染みのシステムである。
これに加え,今回新設された「HDゲージ」では,ゲージを溜める方法は共通ながら,必殺技から必殺技へ繋ぐ“ドライブキャンセル”,必殺技から超必殺技へ繋ぐ“スーパーキャンセル”,また一発逆転を狙える“ハイパードライブモード”の発動と,「パワーゲージ」とは異なる用途に使用できる。
2本のゲージを管理するこのシステムは,初心者プレイヤーにとって一見複雑に見えてしまうように筆者は感じたのだが……。
「鬼焼き」をキャンセルして…… | |
「七拾五式・改」に繋ぐ“ドライブキャンセル” |
久木野氏:
KOFシリーズならではのゲームの楽しみ方というと,やはりゲージ類を使いこなすという点にあると思います。歴代のKOFシリーズの根底に共通するプレイ感覚を守りつつも,新要素も同時に感じさせるゲージシステムとはどんなものがいいのかと,いろいろと思案した結果,今回の仕様に落ち着きました。
新ゲージのHDゲージは,当初はパワーゲージに統合する案もありました。しかしあえてHDゲージとして分離することには,段階を踏んでもらうというメリットがあると考えたんです。従来のKOFファンや初心者の方には,まずパワーゲージだけを意識して遊んでもらう。それだけで十分に楽しめるゲームになっていますので。
そして上級者や,さらに上を目指したいプレイヤーには,そこではじめてHDゲージを使いこなしてもらって,今度は“KOF XIIIらしい”プレイスタイルに成長できる。
長いシリーズのタイトルなので,従来ファンに新システムを押しつけるのではなく,従来のKOFシステムに新要素を+αで追加するというようなコンセプトを目指しました。
――実際にプレイしてみると分かるが,なるほどHDゲージを意識しなくとも,本作はKOFシリーズの雰囲気を十全に感じることができる。ただ,それは同レベルの初心者同士の対戦や,CPU戦に限った話でもある。乱入上等のアーケードにあっては,もちろんHDゲージが使いこなせるプレイヤーが強いことに変わりはない。
逆に考えるならば,それこそが重要なのかもしれない。初見で雰囲気を感じとったあと,HDゲージを使いこなすプレイヤーと対峙すれば,自ずとHDゲージへの興味が湧いてくるハズ。「何から何まで新しくしました」ではなく,「KOFイズム」を軸にしつつ,さらにもう一歩先を目指す――本作が目指したのはそうしたデザインということだろう。
――では格闘ゲームのデザインにおけるもう一方の課題,ゲームバランスについてはどうだろうか。これまでのシリーズ見る限り,KOFはとくにこの部分について課題を抱えているものが多い気がする。KOF XIIIは登場キャラクターも31キャラと多く,またチームマッチというシステムからしても,そのバランシングは難しそうに思えるのだが。
山本氏:
まずKOF XIIIの開発で心がけたのは,各キャラクターが「触ってみて楽しい」と感じられることです。そしてキャラクターの性能を丸めずに「各キャラクターの個性を生かす」こと。キャラクターには当然近距離,遠距離などの得意な戦術スタイルがあって,相性によって有利不利というものは,やはり存在しています。
ですが,すべてのキャラクターに対し,性能をオールマイティにしてバランシングするようなことは,あえてしていません。もちろん攻略が進む中で,強い/弱いが出てくるとは思いますが,各キャラクターには,互角以上に戦える「対抗キャラクター」を設定するようなバランス取りを心がけました。KOFシリーズは3人のチーム戦なので,3人の総合力で勝負を楽しめるようなゲーム性が理想と考えています。
――山本氏は,前作KOF XIIにおける草薙京が,こうしたチーム全体でのバランシングに配慮する形で,性能を決定したエピソードを教えてくれた。KOF XIIもそうだが,KOF XIIIの草薙京は,KOF'96以降の接近戦タイプ(いわゆる“荒咬み京”)ではなく,KOF'94〜95ベースの,飛ばせて落とす遠距離タイプ(いわゆる“'闇払い京”)に変更されている。
これはチームメイトの紅丸/大門が,かたや中距離攻撃型,かたや超接近戦タイプの投げキャラとなっているために,チームバランスを整える意味で遠距離タイプの京を復活させたのだという。
――KOFシリーズは元来,1キャラを極めていくよりも,多くのキャラクターをそつなく使いこなしたほうが強い……というか楽しめるタイプのゲームだ。キャラクターの選択,そしてオーダーセレクトの時点から読み合いが始まっているというのもKOFならではで,そうした緊張感は今作にもしっかりと継承されているようだ。
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THE KING OF FIGHTERS XIII
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