インタビュー
【PR】「二ノ国 白き聖灰の女王」に込められた思い,そしてスタジオジブリから学んだこと。レベルファイブの日野晃博社長と本村 健チーフディレクターに聞く
スタジオジブリから学んだ
キャラクターに「仕事をさせる」手法
4Gamer:
よろしくお願いします。
本村さんは,二ノ国という作品で,ディレクターとしてどんなお仕事を手がけられたんですか?
僕がDS版に関わり始めたのは,ゲームの部分が形になるかならないかぐらいのタイミングでした。なのでそれを磨き上げていった感じです。イマージェンのバトルシステムを詰めたり,ほかの細かい仕様を詰めたり,出来上がっていないシステムの提案をしたり,といったところです。
実はDS版と同時に,PS3版にも比較的最初の頃から関わったんですが,まずは「ジブリの絵をCGで再現するための絵作り」を中心に進めていきましたね。CGにしようとすると,どうしてもジブリっぽい絵にならないという時期があって,話し合いや試行錯誤を繰り返した覚えがあります。
DS版を終わらせたあと,本格的にPS3版のディレクションに入ったんですが,そこではDS版のいいものを残しつつ,そのままPS3版には持って行けないものをどうやってアレンジするか……といった仕事も担当していました。
4Gamer:
日野社長にもお聞きしたことなんですが,二ノ国という作品を,スタジオジブリさんや久石さんと共に作ることになったとき,どんなことを考えましたか?
本村氏:
実は僕が二ノ国にディレクターとして参加した時点で,絵コンテなどは出来上がっていたので,それを見て「ああ,ジブリさんとやってるんだなぁ」と思った感じでしたね。
僕自身,ジブリファンですから,絵コンテをいち早く見ることができたのは凄く嬉しかったです。「本当にジブリだ!」って(笑)。
4Gamer:
ファンにとっては嬉しいですよね(笑)。
本村氏:
ええ。でも同時に,そこで凄いクリエイターの方達と一緒にやっていくからには,勉強をしたい,刺激を受けたいという生意気なことも考えていました。実際に勉強になりましたし,刺激も受けました。
4Gamer:
プレッシャーなどはありませんでしたか?
本村氏:
僕自身の資質的なものかもしれないんですけど,プレッシャーはとくにありませんでした。たぶん,日野にはあったと思うんですが……というか,日野が僕の上でいろいろやってくれたからこそ,プレッシャーを感じずに済んだんだろうと思います。
4Gamer:
スタジオジブリや久石さんと制作を進めていく過程で,学んだことなどはありましたか?
本村氏:
久石さんは,ノウハウとかそういうものではなく,ただただ凄かったです。DS版のときに,久石さんからラフスケッチのような形で,ピアノだけで演奏された音楽が全曲分届いたんですが,それがオーケストラの音に聞こえたんですよ。なんでピアノだけのはずなのに,こんなに壮大に聞こえるんだろう? と,感動しましたね。それに,オーケストラの収録にも立ち会わせていただいたんですが,そのときもひたすら圧倒されていました。
そうそう。サウンドを組み込むスタッフや,効果音を作るスタッフは,相当刺激を受けていたようですよ。
4Gamer:
久石さんの音楽に負けず,かといって音楽の邪魔にならないような効果音を作らなければならないわけですからね。
本村氏:
ええ。だからきっと,彼らはかなりのプレッシャーを感じていたでしょうね(笑)。
ジブリさんには,演出においてキャラクターをどう見せるか,どう動かすかという部分を学ばせていただきました。
細かい話なんですが,キャラクターの顔のアップを映すときに,おでこまででフレームを切るのか,それとも頭まで全部入れるのかという部分が,すべて計算されていたんです。確かに,それだけでその絵の持つ意味が変わるんですよ。
アニメーションパートはジブリの百瀬(義行)監督と一緒にやらせていただいたんですが,そのときに教えていただいた言葉で印象的だったのは,キャラクターに“仕事をさせる”というものです。
4Gamer:
仕事……?
本村氏:
はい。ただ会話のシーンを描くにしても,キャラクターが手持ちぶさたに突っ立ってしゃべるというのではなく,動きを付けながらしゃべるのが重要だということなんです。
二ノ国だと序盤の,オリバーが荷物を片付けながらしゃべり,お母さんは料理をしながらしゃべるというシーンが,まさにそれです。ああいうものを百瀬さんは「仕事をさせる」と表現していました。
4Gamer:
そういえばジブリ作品には,そういうシーンが多いですよね。
本村氏:
アニメーションだからこそ,その中の世界には動いていてほしいというところから来ているそうなんです。
イベントシーンも含め
百瀬監督と共に作り上げることができた
4Gamer:
PS3版で,ジブリの絵がうまく表現できなかったとおっしゃっていましたが,それをどうやって乗り越えていったのかも教えてください。
本村氏:
ひたすら頑張りました(笑)。
ジブリアニメをあらためてたくさん見て研究はしましたが,作ったものを百瀬監督に見ていただいてアドバイスをもらい,それにひたすら食らいついていくというのが,一番大きかったですね。
4Gamer:
どんなアドバイスがありましたか?
カットチェンジの流れが悪いとか,この人が動いていないとか,このアングルはきついとか,そういう細かいものでした。
先ほども例に出した冒頭のシーンだと,食事をするときにベーコンや卵を食べる様子を,最初はしっかり見せていたんです。これまで作ってきたゲームと比べて,ちゃんと食べている表現ができたという満足感もあったんですが,ゲームとは関係のない映像畑の方から見ると,「全然なってない」そうなんです。
百瀬監督によると,アニメーションでも食べるシーンは難しいそうで,「ここは頑張らないで,普通にカメラで逃げたほうがいいよ。もぐもぐやっている雰囲気さえあれば,口を映す理由がない。これ,やりたいだけでしょ?」みたいな,そういうご指導をいただきましたね(笑)。で,実際にそのとおりにしてみると,食べている雰囲気がちゃんと出るんです。
こういうことがPS3版では頻繁にあって,地道にクオリティを上げていったんです。
4Gamer:
基本,百瀬監督はダメ出しをする立場という感じだったんでしょうか?
本村氏:
いえ,それだけじゃなく,こちらから「こうしたらどうですか?」という提案もしました。それに対して百瀬さんは,いいものに関しては「それ,いいんじゃない」って言ってくださいましたよ(笑)。
4Gamer:
では,本当に共に作り上げることができたという感じなんですね。
本村氏:
ええ,百瀬監督にはアニメーション監督としてだけでなく,“3Dイベント監督”というような形でも関わっていただけたのは,非常に大きかったです。福岡まで来ていただいて,合宿みたいに数日缶詰状態でやってもらいましたし。
そういえば,モーションキャプチャーも使ったんですが,そのときの役者さんの演技指導も百瀬監督に担当していただきました。基本的にモーションキャプチャーをそのまま使うのではなく,アニメっぽくするためにかなり手を入れるんですが,それ以前の段階から「こういう演技をしたほうがいい」とご指導いただけたのは,かなり助かりましたね。
4Gamer:
それは具体的にどういう演技指導だったんですか?
本村氏:
例えば,カウラ女王が起き上がる動作も,何も指示をしなかったら役者さんは普通に「よっこらしょ」みたいな雰囲気の演技をするんですけど,百瀬監督に「これだけ重い人だったら,立ち上がるのも一苦労だよ」という話をしていただいて,かなり大げさに立ち上がってもらいました。
走り方にしても「子供だったらそういう足の上げ方はしないよ」とか,立ちモーションでも「オリバーは子供だから,もっと顎を引いたほうが子供らしく見えるんじゃない?」とか。そこまでやっていただいたんです。
4Gamer:
では,声優さんの演技も百瀬監督が?
本村氏:
DS版のアニメのパートでは,百瀬監督も立ち会っていたそうですが,僕がDS版に加わった段階では,それはもう出来上がっていました。PS3版では,声のディレクションのほとんどを日野がやっていましたね。そしてたまに僕が……という感じで。
4Gamer:
そうだったんですね。どこをとっても,ちゃんとジブリっぽい声の演技になっていると感じたので,それは意外でした。
本村氏:
日野がかなり,役者さんの選択からセリフまで,ジブリさんを意識していましたしね。
……実は日野って,けっこう現場でセリフを変えるんですよ。それが見ていて面白いというか(笑)。
4Gamer:
そうなんですか?
本村氏:
まあ,突拍子もないことをしているわけではなく,できるだけ分かりやすくしよう,難しい言い回しは避けようという意味が大きいんですけど。
ほかにも声に出してみて,言いにくそうだったりすると,その場で変えるとかですね。とくに関西弁だと,こちらが関西弁を分かっているつもりで書いていても,実際に関西の人がしゃべると違うことがありますから。シズク役の古田新太さんには「こういうことを言ってくれれば語尾なんかはお任せします」という感じでお願いしていました。
4Gamer:
その段階で,絵は出来上がっていたんですか?
アニメの部分は,ほとんど出来上がっていましたね。少なくとも線画の状態にはなっていました。
ゲームのイベントは,絵が出来ているところもあったんですが,絵コンテ動画みたいなところもありましたし,動きがついていなかったり,絵がいっさい無いこともありましたが……まあ,7割ぐらいは絵がありましたよ(笑)。
ただ,アニメとゲームで若干違うのは,とくにPS3版の場合,音声に合わせて口パクをあとから付けられるんです。アニメだったら,口パクに合わせた演技をしないといけないんですが,そこはゲームならではの融通が利く部分だと思います。現場はたいへんですけど。
4Gamer:
細かい部分ほど,こだわりだしたらキリがないですよね。
本村氏:
そうなんですよ。ただ,時間が無限にあるわけではないですから,締め切りを設定して,優先順位を付けて一つ一つ可能な範囲で取り組みました。それでもギリギリまで粘ったんで,満足度がかなり高い状態まで手を入れられました。
4Gamer:
本村さんがこれまでに関わってきた作品と比較しても,高い満足度を得られたということでしょうか?
本村氏:
ビジュアルに関しては,かなりいいところまでいったんじゃないかと思います。たぶん,僕よりもデザイナーのほうが,それは感じていたんじゃないでしょうか。
4Gamer:
だからこそ,PS3版ではイベントシーンとプレイシーンが切り替わっても,ほとんど違和感のない状態にまで仕上げられたんですね。
本村氏:
ありがとうございます。そこはできるだけシームレスに繋がっているような感じになるよう,こだわりましたから。
4Gamer:
そこでは,どんな工夫をしたんですか?
本村氏:
これもやっぱり,地道な頑張りですね(笑)。
ただ,ライティングに関しては,イベント中とリアルタイムで操作している部分とで変えているんですが,そこがうまく繋がるようには気を使っています。
あと,そのことに関連している話で,本当はオリバーだけでなく,マルやジャイロを操作する要素も入れたかったんですが,それをやるとイベントとうまく繋がらなくなるんですよね。そこは悩みに悩んで,操作できるのはオリバーだけにしようということに決めました。
4Gamer:
ああ,オリバー以外を操作できるようにするアイデアもあったんですね。
本村氏:
はい。ただ,結果論ですけどオリバーに絞ったことで,オリバーのモーションにもこだわれましたから,判断は間違っていなかったと思っています。
やっぱり同じ開発期間で三人を操作できるように作り上げようとすると,こだわりが分散してしまうんですよね。
4Gamer:
単純に工数が3倍になってしまいますからね。
ジブリ的な世界で自由に動ける作品を目指し
3D CGで2Dのジブリっぽさを再現
4Gamer:
DS版とPS3版では,当然のことながらプラットフォームもプレイスタイルも異なるわけですが,その二つに向けて二ノ国という作品を作り上げていくにあたって,どんなことを心がけていましたか?
本村氏:
DS版は,携帯ゲーム機ですからお手軽なプレイ感覚を目指しました。さらにバトルに関しては,2画面を生かしたプレイ感,DSならではの対戦の楽しさといったところに気を配りましたね。ほかにも,豪華なビジュアルと音楽の魅力を,DSというハードでギリギリまで引き出すために,出来るだけ多くの色を使ったり,ビットレートを上げたりもしました。
PS3版では,第一にアニメーションや音楽の素晴らしい素材を100%生かすことを目指しています。
4Gamer:
それぞれのプラットフォームを生かした“入口”を用意したという感じですね。
本村氏:
ええ。そうそう,PS3版のフィールドのデザインに関しては,当初,一人称視点みたいな形で描くことで,PS3版ならではの豪華さみたいなものを出せるんじゃないかとも考えていたんですが,日野から「昔のRPGを今の技術で作るとこうなる,みたいなものにしたらいいんじゃない?」という提案があって,それをやってみたら,なかなか面白い感じに仕上がりました。
4Gamer:
あのスケールのある絵は,携帯機では出せないですよね。背景グラフィックスの中にキャラクターが歩いている姿もまた,ジブリアニメっぽく見えますし。
そういう意味では,色の使い方なんかも,PS3版ではかなり苦労されたのではないかと思いました。
DS版は,背景に関しては一枚絵の2Dですから,絵さえちゃんと描けばそれっぽくなるんです。でもPS3版は,ポリゴンでジブリ感を出さなければならないので,おっしゃるとおり色で一番苦労しましたね。
これはもう,デザイナーがよく頑張ってくれました。単純なレンガにしても,ただレンガの色だけを使うんじゃなく,紫を混ぜたり青を混ぜたり,とにかくさまざまな色を混ぜてジブリ感を出しています。デザイナーの机の周りには,ジブリの美術設定が張り出されていて,常に研究できるようになっていましたよ。
4Gamer:
目で見て盗むというか。
本村氏:
ええ。常にジブリのアニメを再生しているモニターを置いたりもしていましたし。とにかく,体で覚えていきました。
4Gamer:
最初のうちはどんな感じだったんですか?
本村氏:
綺麗にしようとすると「白騎士物語」のようなリアルテイストになってしまったりしましたね。決して白騎士物語が悪いということではなく,ジブリっぽさを出そうとなると,ライティングからして違うものにしなきゃいけないんです。影をできるだけ黒くしないとか,そういったところも含めて。
4Gamer:
受け取る側として「ちゃんとジブリっぽい」とは思ったんですが,作る側はジブリっぽさとは何か? というのを把握できていないと,再現はできないですよね。……となると,何をジブリっぽさであると考えて,二ノ国を作ってきたんですか?
本村氏:
うーん。「これとこれを押さえればジブリっぽい!」みたいなことは,今でも分からないです。きっと絵だけの問題だけじゃなくて,思想だったり内容だったりで,ジブリっぽさというのは出来上がるものであって,二ノ国がどこまで迫れたのかは正直,自信がありません……。
4Gamer:
そ,そうですかねぇ?
本村氏:
ただ,パッと見では,背景の色であったり,自然物の多さあたりでしょうか。多くのゲームでは,何種類かの植物を作って使い回すようなところでも,容量を割いて草の種類を多くして,多様性を出すようデザイナーに伝えましたし。あとは,キャラクターの線が少ないところですかね。ゲームって,キャラクターの線が多くなりがちですから。
イベントシーンに関しては,百瀬監督から「変なことをしない」ということを言われましたね。カメラワークも,派手に動かすのではなく,素直でスタンダードなことをすることで,ジブリっぽい絵作りになるようです。
4Gamer:
素直でスタンダードなこと,ですか?
本村氏:
例えば二人が向かい合ってしゃべっているシーンで,しゃべり手が変わるごとにカットを変えていくと,格好良くはなるんですけど,絶対にジブリっぽくはならないんですけれど,定点カメラみたいに二人を映して,素直なカメラワークを心がけると,ジブリっぽくなるんですよ。百瀬監督からは,普段,そういう素直な撮り方をしているからこそ,演出的にキメたいときにちょっと変わったことをすると,それが生きてくるというアドバイスもいただきましたね。
4Gamer:
そういった部分も,ゲームっぽい絵作りや演出とはかけ離れていますよね。カメラワークにしても,ゲームって基本は派手なものが多いですし。
本村氏:
そうなんですよ。CGって動かせちゃうから,ついつい動かしたくなるんです。そこをあえて,実写を撮る感覚でやるっていうのは,今回,ジブリさんと一緒にやって,凄く勉強になったところだと思います。
どっちがいいという問題ではなく,今回はそうやったということなんですけどね。
4Gamer:
二ノ国という作品の場合,ジブリ的な手法を多く取り入れたほうが,より“らしくなる”ということですよね。
本村氏:
そうです。先ほども少し言いましたが,キャラクターの線が少ないのも,ただ単純に見えるということではなく,アニメーションとして描く場合には,そのほうが動きに集中できるという理由があるんです。
ゲームはCGですから,線が多かろうが少なかろうが,動きをつけるときの手間は変わらないんですけど,アニメっぽく見せるためには,やはり線は少ないほうがいいと。
4Gamer:
そういう理由があったんですね。
本村氏:
ええ。さらに言うと,キャラクターの質感もあまり描き込んでいません。途中の段階ではキャラクターの髪の毛にハイライトを付けたりしていたんですが,ベタっぽいほうが,2Dに見えやすいということで,いろいろ研究した結果,今の形になりました。
自分達でもスクリーンショットを撮影するときに,2Dっぽいなぁと思う瞬間がたまにあって,そういうときにはしめしめって思いましたね(笑)。
4Gamer:
つい忘れがちですけど,3Dで描きながら2Dに見せているんですよねぇ……。
そういった手法をとったことは,二ノ国以前にもありましたか?
本村氏:
以前,レベルファイブで「ドラゴンクエストVIII」を開発したときも,戦闘画面でモンスターが並んでいる絵は,3Dで描きながら2Dっぽく見せるということをやっていました。
4Gamer:
ああ,あれもそういえば3Dなんですよね。
本村氏:
なので,ノウハウはある程度あったんですが,もちろんそれだけじゃなくて,今回あらためて試行錯誤したこともたくさんありましたね。
例えばうちのゲームでは,輪郭線がついているものが多いですし,ある意味でこだわりの部分ではあるんですが,今回はアンチエイリアスをかけることで,柔らかい感じにしています。輪郭線がシャープにパキッと出ていると,どうしてもゲームっぽい見た目になってしまうんです。些細な差ではあるんですが,見比べるとやっぱり別物になるんですよ。
4Gamer:
そういった細かい部分を一つ一つ積み重ねることによって,3Dでありながらジブリアニメっぽい絵を作り上げたということですね。
その結果として,プレイヤーがジブリのアニメを動かしているような感覚を味わえるようになった,と。
本村氏:
最終的にはそこを目指していましたから。どこまで実現できたかは,プレイヤーさんに判断していただくしかないですが。
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