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「放課後ライトノベル」第79回は新人賞特集の第2弾。8年ぶりの大賞受賞作が出た『第13回えんため大賞』4作品をどーんと紹介
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印刷2012/02/11 10:00

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「放課後ライトノベル」第79回は新人賞特集の第2弾。8年ぶりの大賞受賞作が出た『第13回えんため大賞』4作品をどーんと紹介



 もうすぐ,みんなが待ちに待ったバレンタインデー。女の子にとっては好きな男の人に愛を伝える一年で最大のチャンス! 皆さんは,プレゼントするチョコレートの準備はしただろうか? お金をかけて高級なチョコを贈るのもいいけれど,好きな人のための本命チョコなら,やっぱり手作りが一番。だって,少しくらい形や味がイマイチでも,チョコに込められた想いが一番の隠し味なんだよ(空想)。

 えっ! そうは言っても,チョコレートなんてどんな風に作ればいいか分からない? ならば,今回の「放課後ライトノベル」では,番外編としてそんな恋する乙女たちを応援するために特製チョコレートのレシピを紹介してしまおう。出来上がったチョコはどしどし筆者に送ってほしい,いや,送ってください。手作りチョコ……一度くらいもらってみたいです。

 ……っていうのは,やっぱりダメですか? ダメですね,すみません。(※編注:そもそもライトノベルの紹介じゃないし
 というわけで,今回も前回に引き続き,ライトノベル新人賞受賞作を特集していこう。今回紹介するのは,何と8年ぶり,歴代で2回めの大賞受賞作が登場したファミ通文庫の「第13回えんため大賞」だ! 大賞作のお宝探しアドベンチャーのほかにも,ミステリー(?)に,寿司に,弓にといろいろ揃っています。


●大賞『龍ヶ嬢七々々の埋蔵金』


『龍ヶ嬢七々々の埋蔵金 1』
著者:鳳乃一真/イラストレーター:赤りんご
ファミ通文庫
価格:651円(税込)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#001のサムネイル/「放課後ライトノベル」第79回は新人賞特集の第2弾。8年ぶりの大賞受賞作が出た『第13回えんため大賞』4作品をどーんと紹介
 2003年の『吉永さん家のガーゴイル』以来8年間現れなかった,えんため大賞の大賞受賞作。家業を継ぎたくないという理由で,父親から勘当された八真重護(やまじゅうご)は,学生特区と呼ばれる人工島・七重島の高校へ強制的に転校させられてしまう。ろくに金を持たされていなかった重護は,不動産屋が紹介する家賃5000円の格安アパートに飛びつく。だが,そこで彼を待っていたのは,美少女地縛霊の龍ヶ嬢七々々(りゅうがじょうななな)だった!

 彼女を成仏させるには,10年前に彼女を殺した犯人を見つけなければならない。しかし,すでに迷宮入りになっている殺人事件の犯人を,一体どうやって見つければいいというのか? そこで物語の鍵を握るのが,本作のタイトルにもなっている“龍ヶ嬢七々々の埋蔵金”こと「七々々コレクション」である。

 普段は一日中,部屋に引きこもり(地縛霊なので),なぜかプリンを食べて,ネトゲ三昧の七々々だが,かつては七重島を作った「GREAT7」と呼ばれる7人の天才学生たちのリーダーだった。その彼女が生前集めていたものが,「七々々コレクション」と呼ばれる不思議なアイテムの数々。他人の嘘を見破る宝石や,茶葉がいらない急須など,特殊な力を持ったこれらのアイテムは,彼女が死んだ今も島のどこかに隠されているという。そして,「七々々コレクション」をめぐり,自称名探偵,怪盗団《祭》,七重高校冒険部など,さまざまな奇人変人達による争奪戦が幕を開ける!

 美少女幽霊と同居という設定だけを聞くと,キャッキャウフフな日常ラブコメものを想像してしまいがちである。本作にもそういった要素がないことはないのだが,それだけにとどまらないからこその大賞受賞作なのだ。本作の中心となるのは,「七々々コレクション」を求める者を襲う,危険な罠。取引きや裏切り,財宝を悪用しようとする者とのバトルといった,ロマン溢れる宝探しの物語が繰り広げられる。

 宝を求めるキャラクター達が,ただの変人や性格破綻者に終わらず,それぞれの信念や夢を持った,一本筋の通った人物として描写されているのも素晴らしい。また,「誰が七々々を殺したのか?」という物語中最大の疑問や,まだ見ぬ「GREAT7」の面々など,これからのシリーズ展開に向けての引きも十分であり,大賞の名に相応しい一作だ。


●優秀賞『明智少年のこじつけ』


『明智少年のこじつけ(1)』
著者:道端さっと/イラストレーター:春日歩
ファミ通文庫
価格:609円(税込)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/「放課後ライトノベル」第79回は新人賞特集の第2弾。8年ぶりの大賞受賞作が出た『第13回えんため大賞』4作品をどーんと紹介
 続いて紹介するのは,優秀賞受賞作の『明智少年のこじつけ』。「踊るガイコツ」「神隠しの妖精」「水面上の大足」などなど,学校で噂される七不思議に,高校生・明智京太郎(あけちきょうたろう)が挑む! ……と書くと,一見普通に見えるが,そうではない。本作のキャッチコピーは「その場しのぎのNEO的学園ミステリー!!」。一体何がNEOなのか? その秘密は明智少年の推理にある。彼の“クリア色の脳みそ”から放たれる推理は,毎回彼の友人である小林修司(こばやししゅうじ)を,あの手この手で犯人に仕立て上げようとする“こじつけ”なのだ!

 本作は短編形式で進んでいくのだが,明智少年のもとに事件が持ち込まれる→犯人扱いされた小林が反論→事件が解決する,というお約束が,わずか二話めにして完成しているのは,ある意味凄い。凄いのはそれだけではない。タイトルにもなっている,こじつけっぷりも凄い。その時間にはアリバイがあるという小林の主張に対して,「君には双子の兄弟がいるに違いない」と平然と言ってのける明智。そして彼の周囲の人物は,そんな滅茶苦茶な推理に対しても,「さすが,京ちゃんね! 見事な推理だわ!」と持ち上げたりして,いろいろ凄い……っていうか酷い不条理が展開されていくのだ。

 というわけで,真面目な推理小説を期待する人にはあまりオススメできないが,吉本新喜劇的なお約束のギャグに乗れる人だったら楽しんで読めるのではないだろうか。全体的にスラップスティックなギャグが中心だが,ラストではちょっとしたシリアスな展開があり,明智少年の推理にまつわる秘密も明かされるので,読み返してみるとまた違った発見があるかもしれない。個人的には力技なこじつけだけでなく,もうちょっとロジカルな推理を期待したかったが,そこは好みの問題だろう。


●特別賞『SUSHI-BU!』


『SUSHI-BU! 1貫目』
著者:西野吾郎/イラストレーター:よう太
ファミ通文庫
価格:630円(税込)
→Amazon.co.jpで購入する
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 特別賞を受賞した本作の題材は,タイトルにもなっている「寿司」。そんな本作の主人公は,自己紹介のたびに爆笑されるというトラウマの持ち主。なぜなら,井園(いその)カツオという,どこかで聞いたような名前だから。しかし,笑う者あれば,拾う者あり。彼の名前に目をつけて,上級生の江戸前素子(えどまえもとこ)が部活の勧誘に来てくれたのだ。その部活の名は「江戸前寿司部」。名前を聞いただけではどんな部活か分からないけど,とっても残念な感じがするね!

 なにせ寿司部である。当然,そんなワケの分からない部活に入ろうと思う者は少ない。そのためカツオたちは,部活を学校から承認してもらうために部員集めに奔走したり,生徒会と戦ったりする。一見するとイロモノっぽい本作だが,部活モノの王道を忠実に再現しているのだ。そして,寿司部というだけあって,人間関係のトラブルの解決に寿司を使った例え話が出てきたり,他人を説得するためにスペシャルな寿司を食わせたりと,要所要所で寿司がしっかりキーアイテムとなっているのも見事。

 また,主人公の名前からも察せるように,パロディ多めのコメディとしても面白い。寿司部に集まる部員も,ツンデレ暴力少女や男の娘など変り種ばかりだが,やはり印象的なのは部長の素子。小学生に間違われそうな見た目に反して,ライトノベルのヒロインでは珍しい,べらんめぇ口調がチャームポイント。対抗勢力の妨害工作によって,自分が辛い目にあっても耐えてみせるが,仲間が傷ついた時には迷わず怒ってみせる彼女の心意気は,まさに江戸っ子の鑑。出身は静岡だけど……


●特別賞『キュージュツカ!』


『キュージュツカ!(1)』
著者:関根パン/イラストレーター:小路あゆむ
ファミ通文庫
価格:588円(税込)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#004のサムネイル/「放課後ライトノベル」第79回は新人賞特集の第2弾。8年ぶりの大賞受賞作が出た『第13回えんため大賞』4作品をどーんと紹介
 もう一つの特別賞受賞作は,ファンタジー世界の戦士養成学校の弓術科に通う少年少女を描いた物語。勇者たちによって魔王が封印されてから50年。しかし,予言によると魔王の封印が解けるまで,まだ50年あるので,学校に通う生徒たちはとくに緊張感もなく,平和なゆる〜い日常を送っている。

 そんな本作の最大の特徴は,幕間を除く作中すべてが,2ページ完結の超短編形式になっていること。テンポよく,サクサク読めるところは,まさにライトノベル。まんがタイムきららなどの4コマ漫画が好きな人には,ぜひオススメしたい一作だ。イラストも4コマ漫画になってるし。

 弓術科を舞台にしているので,登場人物の9割が弓使いな本作。「明らかにキャラ被るだろ,そんな設定で大丈夫なのかよ!」と言いたくなってしまうが,心配はご無用。主人公のミカが,弓を射る前に射法八節を唱える正統派の弓道少女であるのに対し,ほかのキャラは機械仕掛けのクロスボウを持ち込むエルフや,矢が無くても戦えるように弓そのものを武器にして肉弾戦に臨む少女など,同じ弓使いでもしっかり個性が書き分けられているのだ。

 また,ファンタジー世界ならではの“あるあるギャグ”が上手に書かれているのも面白い。剣士や魔法使いが主役級のカッコイイ扱いなのに対して,弓矢に関しては「弓は人気がないっ!」とか「持ち運びが不便だ」とか「弓矢使いなんてのは,せいぜい四番手か五番手ぐらいの仲間だ」とか,身も蓋もない発言が多い。そして,最終的に「斧よりはマシだ」と斧を見下したりするのもお約束です。自分よりダメなものを見つけて安心するのって,よくあるよね!

■■柿崎憲(ライター/敏腕プロデューサー)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。「もうすぐバレンタインですが,予定が詰まって大忙しですよ。いやぁ,ラブプラスの新作ぐらいしか予定がない皆さんが本当羨ましいなあ」と言いながら,血走った目で携帯の液晶に映る「アイドルマスター シンデレラガールズ」のアイドル達をじっと見つめる柿崎氏。モバマスの敏腕プロデューサーたる彼に休息のときはないのだ。
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