連載
まさかの円谷プロ公認! 「放課後ライトノベル」第86回は『ウルトラマン妹』で凶悪な宇宙人の魔の手から地球を守ります
広い世の中では「まさかこの作品とこの作品が!?」という,驚きのコラボレーションが行われることがしばしばある。前回軽く触れた「ポケモン+ノブナガの野望」などは,まさにその代表といえるだろう。単純に意外性の高い組み合わせだったり,いわゆる「夢の対決」的なものだったりと方向性はさまざまだが,いずれもファンに驚きと興奮を与えてくれるものであるのは間違いない。
今や定番の作品である「スーパーロボット大戦」シリーズも,よく考えれば最初の発想は異なる作品同士の夢のコラボ。今後,「ストリートファイター」と「鉄拳」のキャラクターが闘ったり,照英が「ファイナルファンタジーXI」の親善大使になったり,京極夏彦の小説の表紙を「ラブプラス」のキャラクターが飾ったりすることもあるかもしれない。えっ,もう全部ある……だと……!?
そんな中,先日ライトノベルでも異色のコラボ作品が刊行された。タイトルは『ウルトラマン妹(シスターズ)』。特撮ヒーローの代表であるウルトラマンと,「萌え」の象徴とも言える妹の組み合わせというだけでも驚きだが,何より驚くべきはこの作品が円谷プロダクション公認であるということ。一体どんな作品に仕上がっているのか,その実態に「放課後ライトノベル」が迫る!
『ウルトラマン妹(シスターズ)』 著者:小林雄次 イラストレーター:水瀬凛 監修:円谷プロダクション 出版社/レーベル:PHP研究所/スマッシュ文庫 価格:650円(税込) ISBN:978-4-569-67808-5 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●妹,ウルトラマンに変身! 妹作戦第一号
かつて世界は,何度も宇宙人や怪獣の襲撃を受け,そのたびにウルトラマンに救われてきた。だが,ここ数年は平和な日々が続き,ウルトラマンの存在は人々の記憶から薄れつつあった。
目下,就職活動に絶賛苦戦中の月島翔太(つきしましょうた)は,妹のあかりと共に訪れた採用面接の帰り道,突如現れた怪獣に襲撃される。2人が絶体絶命の危機に陥ったその時,2人の身体をピンク色の光が包み込む。直後,怪獣の巨体が吹き飛ばされ,光の中から現れたあかりが叫んだ。
「お兄ちゃん! 私、ウルトラマンになっちゃった!」
「はあ? ウルトラマン!? ってゆうか、お前、女の子だから『マン』じゃないだろ!」
翔太のツッコミを華麗にスルーしつつあかりが語ったところによると,光の中であかりは,光の国からやってきたウルトラマンの少女・ジャンヌと一心同体になったのだという。ウルトラ戦士として未熟な彼女は,地球の文化を学ぶために研修にやってきたところ,月島兄妹の危機に遭遇し,あかりの身体に入り込むことでその危機を救ったのだ。
こうして突然,「ウルトラマンの妹を持つ兄」となった翔太。ところが……。
●ダメダメでもがんばります! 小さな英雄たち
ウルトラマンといえば,作中でも語られているとおり,これまで数多くの奇跡を起こしてきた勇敢な戦士たち。だが,兄思いだが何かと暴走しがちのあかりと,半人前でドジっ娘のジャンヌのコンビには,大変残念なことにそうした伝説の戦士たる威厳はかけらもない。
学校に遅刻しそうだという理由でジャンヌに変身して飛んで行こうとしたり,そのうえうまく飛べなくて無人島に行きついてしまったり,無人島に着いたところで3分経ってしまい家に帰れなくなったり。しかも地球に不慣れなため,ウルトラマンなのに巨大化できない(人間と同じサイズにしかなれない)という体たらく。おまけにジャンヌと同化したあかりはエネルギー補給のために大量の食事をとる必要があり,月島家の家計はあっという間に大ピンチに。
なんだかウルトラマンがやってきたことで,かえってトラブルだらけになってしまった感のある翔太の日常だが,そこにお約束のように怪獣が襲撃してくるからさあ大変。ここでも当然,あかり&ジャンヌのコンビはほとんど戦力にならず,新たに現れたウルトラ戦士,アムールの力を借りてかろうじて怪獣を撃退していく。
だが,終盤ではそうしたほのぼのした雰囲気が急展開,既存のウルトラシリーズを彷彿させる一大バトルへと発展する。そして地球の運命を左右する戦いの中で試される,翔太とあかりの兄妹愛。もっとも,そんなクライマックスでもボケを忘れないあたりは,実に本作らしいと言えるだろう。
●もはや故郷は地球!? 広がり続けるウルトラシリーズ
良くも悪くも,読者が抱く既存のウルトラマン像を叩き壊してくれる本作だが,冒頭で述べたとおり,驚くべきことに円谷プロが監修している「公認」作品なのである(商業流通している以上,当然といえば当然なのだが)。
もっともよくよく振り返ると,円谷プロ自身,毎年エイプリルフールの企画でウルトラシリーズのイメージをぶっ壊していることを考えると,本作の企画もそう驚くようなものではないのかもしれない。加えて著者は過去に何度もウルトラシリーズの脚本を手掛けており,人選として実に的確。まさに「公式が病気」の見本といえるだろう。
実際,作中では本人たちの登場こそないものの,たびたび過去のウルトラ戦士についての言及がある。そして終盤には,あの「隊長」が(姿は見せないが)よもやの活躍を見せてくれる
ウルトラマン+妹という前代未聞の組み合わせさえ受け入れてしまえば,中身は円谷プロ監修の名に恥じないクオリティに仕上がっている本作。ウルトラマンシリーズのファンならもちろん,そうでない人にもぜひ手に取ってほしい。そして明日4月1日はぜひ,円谷プロの公式サイトにアクセスして「ウルトラマンってこんなに自由なんだ……」という思いをより強固なものにしていただきたい……って,期待していいですよね,円谷プロさん?
■これが「妹組」の創刊ラインナップだよ,お兄ちゃん
この3月にスマッシュ文庫から刊行されたのは『ウルトラマン妹』を含め4冊だが,そのすべてがなんと「妹もの」。これに際してスマッシュ文庫では,レーベル内レーベル「妹組」が立ち上げられている。今回のコラムでは,『ウルトラマン妹』以外の3作についても簡単にご紹介。
『イモート・オブ・ザ・リング』(著者:乙鳥形奈,イラスト:塩原信一/スマッシュ文庫)
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乙鳥形奈の『イモート・オブ・ザ・リング』はタイトルから分かるとおり,のちのファンタジーに多大な影響を与えたトールキンの『指輪物語』のパロディ。といっても指輪をめぐる戦いというモチーフが核になっているほかは,舞台が現代日本になっているなどオリジナル色が強い。主人公兄妹が共にオタクということもあって,その手の小ネタも豊富な「トールキン先生も大絶賛(嘘)」(帯より)の1作となっている。
大橋崇行の『妹がスーパー戦隊に就職しました』の兄妹は,タイトルのとおりスーパー戦隊の一員。(株)人智戦隊シュタイナーの,兄は正社員,妹はアルバイトとして,次々に発生する謎の怪物・堕身と戦う。敵を倒した報酬より出した損害が多いと始末書,といった世知辛さは会社組織ならではだが,最も切ないのは18歳にして頭髪が薄くなり,さらに戦うたびに髪の毛を抜かなければいけないという主人公の境遇だろう。
これに,かねてよりシリーズ展開していた伊東ちはや『妹がゾンビなんですけど!』の3巻を合わせた計4作が,妹組の創刊ラインナップとなっている。
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