連載
本日の活動内容は“暗殺”です。「放課後ライトノベル」第104回は『僕の学校の暗殺部』で血みどろの青春を謳歌
最近,週刊少年ジャンプで連載が始まった,『魔人探偵脳噛ネウロ』の作者・松井優征による『暗殺教室』が面白い。触手を生やした謎の生物,殺(コロ)せんせー。彼の目的は,自らをターゲットにして,生徒全員を立派な暗殺者に育て上げること。
生徒達が来年の3月までに彼を暗殺できなければ,地球は殺せんせーによって破壊されてしまう。設定といい外見といい,あまりにもシュールなのだが,この殺せんせーが意外と良い先生だから驚きである。ちなみに「こちら」で第1話が読めます。
やはり,この厳しい世の中,暗殺の一つもできなきゃ渡っていけませんよね,ということで,今回の「放課後ライトノベル」で紹介するのは,やはり暗殺を扱った作品,『僕の学校の暗殺部』。作者はガンアクションに定評のある深見真だ。世界で一番血生臭い部活がここに登場する。
『僕の学校の暗殺部』 著者:深見真 イラストレーター:ふゆの春秋 出版社/レーベル:エンターブレイン/ファミ通文庫 価格:588円(税込) ISBN:978-4-04-728207-0 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●爽やかな朝の,殺人の瞬間から始まるボーイ・ミーツ・ガール
高校2年生ながらも157cmという低身長がコンプレックスの少年,深作零士(ふかさくれいじ)。背の低さを体力でカバーにするために,毎朝家の周りをランニングするという涙ぐましい努力を行っていた彼は,ある朝とんでもない風景を目撃してしまう。それは自分と同じ学校の女子が,人を銃で撃ち殺す瞬間だった。
少女は,隣のクラスの未但馬裕佳梨(みたじまゆかり)。殺害現場を目撃されたというのに,彼女は「平気よ」と言って冷静さを崩さない。
「これはいるか狩りだから」
そう言って彼女が撃ち殺された人間の頭を踏み潰すと,そこから飛び出したのは脳味噌ではなく,半透明状のいるかによく似た奇妙な物体だった。口封じのために自分も殺されると思い,死を覚悟する零士だったが,それと同時に自分が裕佳梨に一目惚れしたことにも気づく。
その裕佳梨は零士に意外な提案をする。
「零士くん、うちの部活に入らないか?」
彼女が所属するのは,正袈裟高校の暗殺部。暗殺部とは一体何なのか? いるかとは何か? そもそもこの感情の源は単なる吊り橋効果なのでは? 数々の疑問が渦巻くが,それでも少年は少女の誘いに乗ってしまう。
かくして,くすぶっていた少年の青春は,恋と殺戮によってにわかに妖しく輝きだす。
●世界一危険な部活動。その内容とは?
放課後,裕佳梨に呼び出された零士は,学校の片隅にある卓球場へ向かう。暗殺部の部室として使用されていたその場所で彼を待っていたのは,裕佳梨と部長の岡本鬼一(おかもときいち)。鬼一は暗殺部に入部するという零士に対し,いきなり銃を向けてゴム弾を発射。その後に部室の地下1階に監禁するという過酷な入部テストを行う。さすが暗殺部。最初からスパルタである。
そんな拷問じみた体験を強制させられる零士だったが,どうにか入部テストをクリアして,晴れて暗殺部の一員になる。では,暗殺部とは一体何をする部活なのか。暗殺部の主な活動内容は,いるかに取り付かれた“いるか人間”たちを,部活名のとおり暗殺していくこと。いるか人間という可愛らしい名前に反し,彼らは身体能力と暴力性が著しく向上しており,些細なことで怒り,他人を殺す最悪の存在なのだ。
そのいるか人間に対抗するだけあって,暗殺部の部員は曲者が揃っている。零士をスカウトした暗殺部のエース・裕佳梨や,面倒見のいい部長の鬼一,ナルシストの副部長・小沢晃生(おざわこうせい)。それに加えて,日本刀の達人である石井輝佳(いしいてるか)や,狸っぽい可愛らしさを持つスナイパー・原田魅杏(はらだみあん)など,魅力的な女性陣もいる。
零士は,これらの部員たちから拳銃やライフルの扱い方を教えてもらうのだが,具体的な銃の名前を挙げながら,銃器の外見や構造を丁寧に説明し,銃を撃った時の感触を臨場感たっぷりに描写していく様は,ガンマニアである作者ならではのものだ。そして零士は,部員が生け捕りにしてきたいるか人間を実際に撃ち殺し,「甘やかされた殺人者」として確実に成長していく。
徐々に経験を積んだ彼はやがて実戦にも参加。暗殺を終えたあとに,皆でラーメンを食べに行ったりする姿は,まさに部活動っぽい。さらに裕佳梨との距離も徐々に縮まっていく。これぞ青春だ! こいつはもう立派なリア充だ!
だが,そうした楽しい時間はいつまでも続かない。殺すこともあれば,当然殺されることだってあるのだから……。
●いるか人間の圧倒的暴力描写に震えろ!
本作最大の読みどころは,やはり暗殺部といるか人間が対決するアクションシーンだろう。いるか人間は大変邪悪な存在だが,彼らは外見だけならば普通の人間と区別がつかない。そんな相手に銃を向けて平然と引き金を引いていくのは,倫理的にいかがなものか。だが,そんな甘っちょろい疑念は,いるか人間たちによる残虐な暴力描写によって,あっさり吹き飛ばされる。
中でも第八章の「ラーメンとギョーザ虐殺」で描かれる虐殺の様子は圧巻であり,普段の生活で身の回りに存在する道具を的確に使って,次々と周りの人間を殺していくいるか人間の姿は,読んでいておぞましい気分になること間違いなし。暗殺部の視点から描かれる,スピード感に溢れ,爽快感さえあるガンアクションと,いるか人間の視点から描かれる,一般市民に対するあまりにも凄惨な暴力描写。この二つが組み合わさることで本作は独特の凄みを発揮していく。
こうした巧みな暴力描写は,作者の映画好きによる部分も大きいだろう。余談ではあるが,本作の主要な登場人物には,バイオレンス描写に定評のある邦画の監督名が使われている。また,零士の精神がどこへ行き着くかという点も大いに気になるところだ。
零士は初めての殺人の時に,無事にいるか人間を殺せたことで,誇らしさや達成感まで感じてしまっている。いるか人間は確かに邪悪な存在だが,そうした感情は明らかに日常から逸脱したものだ。単なるいち高校生であった零士が,度重なる殺し合いを通じてどのような境地に辿り着くのか。歪な物語のこれからの道筋に要注目である。
■いるか人間じゃなくても分かる,深見真作品
深見真は2000年,第1回富士見ヤングミステリー大賞を受賞した『ブロークン・フィスト 戦う少女と残酷な少年』でデビュー。すでに50冊以上の出版点数を持つ多作な作家で,徳間書店から『ヤングガン・カルナバル』,ファミ通文庫から『疾走する思春期のパラベラム』,ガガガ文庫から『武林クロスロード』,富士見ファンタジア文庫から『GENEZ』など,多くのレーベルでさまざまなシリーズを展開している。
『シークレット・ハニー 1. 船橋から愛をこめて』(著者:深見真,イラスト:しゅがすく/富士見ファンタジア文庫)
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またライトノベルだけではなく,『ゴルゴタ』(徳間書店)や『猟犬』(講談社)など,一般書籍の分野でも活躍し,さらに最近では『ちょっとかわいいアイアンメイデン』というSM4コマ漫画の原作を手がけるなど,その活動は幅広い。
そしてこれらの作品に共通するのは,銃と格闘技に関する豊富な知識を活かしたアクション描写。硝煙弾雨のハードな世界で,男たちが血を流し,レズビアンが跳梁跋扈し,読み終わる頃には死体の山というのが,深見作品の伝統だったのだが,先日発売された『シークレット・ハニー』ではそうした認識を揺るがす異常事態が発生。同作では,死者が一人も出ないのだ! デビューから10年以上も経つというのに,作者曰く「初めて殺人描写が無い一冊でした」
というわけで,『僕の学校の暗殺部』の暴力描写がキツそうだなあと思った人には,こちらをオススメ。日英中露の多国籍な美少女たちによるハニートラップと銃弾が飛び交う比較的なマイルドな一冊……あっ,やっぱ銃弾は飛び交うんだ。
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