インタビュー
「タクティクスオウガ」は若さ故の作品――ゲームデザイナー・松野泰己氏が語るクリエイターとしてのルーツとは
気になる松野氏の新作ゲーム
4Gamer:
松野さんの新しいゲームをやってみたいというファンは,たくさんいると思うのですが,例えばオウガシリーズの続編などは考えていますか?
それは和田社長のような偉い人に聞いてください(笑)。
4Gamer:
仮にオファーがあったら作りたいですか?
松野氏:
そうですね。ただ難しいのは,先ほども話題に上がりましたが,皆さんが“オウガ”に期待していることが,それぞれ違うってところなんですよね。
4Gamer:
なるほど,つまり“僕のオウガ”って奴ですね。
松野氏:
そうです。だから,運命の輪でも辛かったのは,どこかを犠牲にしなきゃならなかった部分があったので,結果的に裏切る事になってしまうファンの方に対して,「本当にごめん!」と思いながら作っていました。ですので,このゲームの新作となると,余計辛いと思います。
4Gamer:
でも,ファンとしてはやっぱり続編を遊びたいんですよね。
松野氏:
仮にオウガシリーズとして何か続編を作るなら,たぶんオウガバトルともタクティクスオウガとも違うシステムで作るんじゃないかなと思います。同じものは作らない……というより,僕は飽きっぽいので作れないですね(笑)。
4Gamer:
では,オウガシリーズとは別に,いま松野さんが作ってみたいのはどんなゲームですか。
松野氏:
最近,僕はもう歳なんで,あまり野望みたいなものはないんですよね(笑)。大きな会社であれば,何十,何百万本を売らないといけないとか,ちゃんとしたIPを立ち上げないといけないとか,いろいろなプレッシャーがあるとは思いますが。僕は最近,まず「自分が遊んで面白ければオッケーかな」と思いつつあるので。
4Gamer:
そこは根っこになるモチベーションの一つですよね。
松野氏:
でも一方で,自分が遊んで面白いということは,限りなく“自分の欲に従ったゲーム”ということですよね。それはつまり,万人向けのゲームかと言えば――たまたま万人向けになるかもしれないけれど――そうならない可能性が高いわけです。
そうなると,商売的にはバジェット(予算)をかけられません。だから,わりと小規模な感じで,好きなものを作っていくのがいいのかな。大作がやりたくないってわけではないんですが(笑)。
4Gamer:
うーん,松野さんの“好きに作ったゲーム”は是非遊んでみたいですね。
松野氏:
まぁただ,僕が今なにをやっているかは別にして,ゲームマーケットという意味で見れば,今はまだ据え置きのHD機と,携帯ゲーム機の市場,さらにスマートフォンでも遊べて,ブラウザでも遊べるというタイプの市場の3つがすでに存在する。孔明が唱えた「天下三分の計」のように,もう存在しちゃってるんですね。柔軟にやっていきたいなとは考えていますよ。
4Gamer:
市場の趨勢についてはどう見ていますか?
おそらくですけど,どれかがどれかを駆逐するというのはもう考えにくくて。それぞれがリンクしながら,一定のポジションを確保するんじゃないかと思います。
僕は,どの市場が大きいというのは,あまり興味がありません。クリエイターは,それぞれの市場(器機)にあったものを作れば良いだけなんです。
4Gamer:
Next Generation Portable(以下,NGP)もそうですが,発売されたニンテンドー3DSなど,新しいゲーム機について思うところはありますか。
松野氏:
それぞれの市場が成立すると思いますよ。それぞれのハードはその指向性が異なっていますので,比較すること自体がナンセンスで。ハードの特性に合わせたソフトがきちんと発売されることで,ユーザーは自ずから付いていくと考えています。やはり最後は,どれだけ面白いソフトがコンスタンスに数多く発売されるかでしょうね
4Gamer:
新しいゲーム機の発表を受けて,「暖めていたあのアイディアが実現できるな!」みたいなものって,松野さんの中では何かあったりしましたか?
松野氏:
多分,これは多くの方に誤解されていると思うのですが,プランナーとしての僕は,実はお題を作ってもらったほうが考えやすいタイプです。
4Gamer:
そうなんですか?
松野氏:
はい。だから例えば,「オンラインのゲームで,こういうターゲットを狙ってくれ」と言われたほうがやりやすくて,逆に「何を作っても良いよ」といわれると一番考え辛いですね。だってそう言われると,「じゃあ好きなものを作るけど,売れないかもしれませんよ?」という話になっちゃうじゃないですか(笑)。
4Gamer:
松野さんが好きに作ったゲームっていうのも遊んでみたいですけどね。こっそりスマートフォン向けのゲームを作っていたりってことは……。
松野氏:
スマートフォンと言えば,このあいだグラスホッパーの須田さんから勧められた,iPhoneの「FROG MINUTES」というカエルを捕まえるゲームにハマっていまして。
4Gamer:
ああ。確かウチの編集者が「坂本真綾さんの声で誉められるゲームだ!」という切り口で紹介してましたね。
これも,子供のときのカエルを捕まえて遊んでいた感覚をゲームにしていて,僕は「こういうのもアリだよな」って思うんですよね。それにこういうゲームって,スーパーファミコン以降は「作っちゃいけないタイプのゲーム」だったじゃないですか。
4Gamer:
確かにそうですね。
松野氏:
それがスマートフォンなど,“軽いゲームを作れる環境”が出てきたことで,今まで商売にならなかったものが商売として出せるようになったわけですよね。僕は,これは凄く良いことだと思うんですよ。
4Gamer:
黎明期的な良さ,とでも言うんでしょうか。
松野氏:
こういう環境の中で生まれるさまざまなアイデアが,いずれ大きなIPになるかもしれない。我々の世代がファミコンやスーパーファミコンという環境の中で,他のジャンル(映画やアニメ)では商売になりにくいアイデアで勝負をして,成功していったように。そうした体験を,今の若者にとってはやりやすくなっているはずです。
4Gamer:
有象無象の中から生まれる何か,若者がチャレンジできる環境だからこそ生まれる新しいもの,というのはあるように思います。
松野氏:
これは昔からよく思うことではあるんですが,ゲーム制作を志すにあたって,FFを作りたいからとか,ドラクエを作りたいからとか,もしくは豪華なHD機でゲームを作りたいという気持ちは分かるんですよ。
ですが同時に,そこに「成功の道はない」とも思うんです。若い人が成功するには,やっぱり別のところで成果を出さないといけない。小さなものを沢山積み上げていかなくてはいけない。そういう小さなところに,本当の意味での“独創的なアイデア”があると思うんですよね。
4Gamer:
そうですね。
松野氏:
これは映画なんかでも同じですよね。最初は短編映画やショートの映像作品から始まって,そこをステップに大きな監督になっていくわけですから。短編映画だって,人々から「素晴らしい」と言われる物を作れるし,お金を掛けなきゃ面白いものが作れないわけでもありません。
だから,スマートフォンだから,ガラケーだからとバカにしちゃいけないと思います。逆になぜそれらが成功しているのかを見極めないといけません。もちろん,ゲームとしては微妙なものも多数ありますが,そうじゃない作品もあります。そこを冷静に分析して真摯な態度で受け止めていくというのが,僕らも含めて,いま必要なんだろうと感じています。
タクティクスオウガは,僕の原点の一つとなっている作品
4Gamer:
そういえば,5月にタクティクスオウガのアートブックが発売されるそうですね。
松野氏:
今回の「運命の輪」は商業的にも成功して,一定の評価をいただきました。ファンの支持もありましたし,新たにファンになってくれた人もいました。そこから「欲しい」という声があったので,アートブックを制作するという流れになりました。
キャラクターデザインを務めた当の吉田は昔の絵を掲載することを嫌がっていたらしいんですが,ファンのためと思い直し,最後には承諾してくれました。発売は5月19日ですね。
4Gamer:
過去のイラストは必要です。ファンの方は絶対見たいと思いますよ。
松野氏:
ぶっちゃけると,これはもう商売というよりは「ファンのために1回だしておこう」って意味合いが強い書籍ですね。またこれとは別に,電撃さん(アスキー・メディアワークス刊)からファンブックが出るんですが,これも同様です。
4Gamer:
今時,こうしたファンブックなどが発売されるほど“熱のある作品”というのは珍しいですよね。
それはほんと,ファンのみなさんのおかげだと思います。
4Gamer:
では改めてお聞きしますが,タクティクスオウガがこんなにも“熱”を持っている理由はなんだと思いますか。
松野氏:
なんでしょうね。正直いって,ホントのところは僕にもよく分からないんです(笑)。スタッフ全員がこだわりと愛を持って作ったことが皆さんに届いたということでしょうかね。
4Gamer:
結果として,タクティクスオウガは多くのファンの心に刻まれる作品になりました。
松野氏:
そうですね……。やはりタクティクスオウガは「若さ故の作品だった」とは思います。良くも悪くも。
4Gamer:
分かりました。松野さんの手による新たなオウガシリーズも(勝手に)期待しています! 本日はありがとうございました。
松野氏:
ありがとうございました。
あの緻密に作り込まれたタクティクスオウガの世界を,松野氏は,どのようにして描いていたのか。今回のインタビューでは,それを知る手がかりが得られればと思っていた。
タクティクスオウガという作品が,当時としては尋常でない完成度だったのは確かだし,そんなゲームを作り上げた松野泰己というクリエイターはどんな人物で,その原点はどこにあったのか。一人のファンとして興味が尽きなかったからである。
しかしインタビューを終えてみると,当初,筆者が想像していたものとはまったく違う松野氏の姿が,そこにはあったように思う。
話を聞いていくうちに浮かび上がってきたのは,歴史的なうんちくやテーマ性などではなく,ある意味でもっとも根源的な部分……原体験とも言える少年時代の情景と,若く未熟ながらも必死にゲーム制作に取り組む,当時の松野氏の姿であった。
自分の創造力の原点を“ごっこ遊び”や“妄想”だと言う松野氏。
もちろん,これはゲームに限らず,あらゆる創作活動において必要な,無から有を生み出す原動力なのだと思う。しかし一方で,タクティクスオウガを「商品として狙って作った」という言葉からもうかがえるように,氏が客観的な分析力を併せ持っている点も見逃せない。
妄想を実現させ,そこに説得力やリアリティを持たせ,さらには商品としてまとめ上げる……。こう書くと当たり前の話に思えるかもしれないが,そのバランス感覚の良さこそが,松野泰己というクリエイターの特徴なのだろう。
そんな松野氏が,今後どのようなゲームの制作に携わり,持ち前の妄想力と分析力で,我々にどういった面白さを提示してくれるのか。いつ,どのようなシステム,ジャンルになるのかは分からないが,氏が作り上げる新作を心待ちにしたいと思う次第だ。
もちろん一ファンとしては,新しいオウガバトルサーガの登場も願ってやまない。
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(C)1995,2010 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
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