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[SIGGRAPH]CG映像の祭典「エレクトロニックシアター」公開〜見応えある入選作をムービー中心で紹介(後編)
2010年7月31日に掲載した「前編」はこちら
Logorama
〜H5/Autour de Minuit Productions
世界中の商標だけで作られた架空世界「LOGORAMA」(ロゴラマ)で,お馴染みの商標キャラクター達がナンセンスなストーリーを紡いでいくショートムービー作品。
McDonald's(マクドナルド)のドナルドがマシンガンを持ち歩いて悪事を働き,Pringles(プリングルス)の髭オヤジらはESSO(エッソ)のしずくちゃんをナンパする。ファミレスチェーンのBig Boy Restaurants(ビッグボーイ)は不良少年で悪態ばかり。この世界の住人は,何から何まで,我々の世界にある商標キャラクターなのだ。
トゥーンシェーディングベースの3Dグラフィックスで描かれた各社のロゴが,我々がいつも現実世界で見ている「止め絵」以外のアクションを見せてくれるのが楽しい。少々悪乗りが過ぎたためか,入選はしたもののオフィシャルサイトはホームページを残して閉鎖されてしまい,SIGGRAPH 2010のET公式ガイドからもページがカットされている。
しかしETではちゃんと公開され,大きな拍手喝采を浴びていた。いわゆるパロディ作品だが,ここまでやりきれば賞賛に値しよう。
Logorama from Marc Altshuler - Human Music on Vimeo.
The Kinematograph
〜Agnieszka Piechnik/Platige Image
ライティングは最近よく見られるラジオシティ系のタッチだが,モデルデザインに独創性がある。制作担当はポーランドのポストプロダクションスタジオ,Platige Image。
Visualizing Empires Decline
〜Pedro Cruz/Centre for Informatics and Systems of the University of Coimbra
18世紀の大航海時代,植民地政策を推し進めたイギリス,フランス,スペイン,ポルトガルといった列強国は領地を拡大し栄華を極めたが,19世紀に入るとその力は陰りを見せ始め,20世紀に入ると植民地の独立ラッシュを迎えることになる……という作品だ。
独創的なのは,植民地を持っていた列強国の強さを,領地面積の大小で細胞のように表現しているところ。各列強国細胞の浮遊位置は地球地図上のおよその位置になっているのだが,18世紀の初期状態では,面積が大きすぎて(=植民地が多すぎて)動きが不安定である。
時間が進んで植民地の独立が起こると,独立した国々は地球上の実在位置に移動を始める。この移動アニメーションには流体物理シミュレーションが適用されているとのことで,その動きは何とも生物的で面白い。
なお,オフィシャルサイトでは,Cruz氏による,別のデータビジュアライゼーション作品も見られる。
Empires decline ? revisited from Pedro M Cruz on Vimeo.
The Light of Life
〜Daihei Shibata
ラストにカットインする美しい女神像は,SIGGRAPH 2010におけるCAFのイメージショットや,各種広報素材ポスターに広く活用された。映像の全編は,制作者である柴田大平氏のWebサイトで視聴可能だ。
The Making of Nuit Blanche
〜Marc-Andre Gray/Stellar Scene
1950年代のリアルな町並みや,行き交う人々,クラシカルな車両の数々といった,すべてがCG。主要人物は実写なのだが,それもテクスチャ素材として扱われている。
俳優をデジタル化して,映像作品に出演させる技術をデジタルキャスティングというが,本作は,その最先端を垣間見ることができる。驚かされるのは,この作品が圧倒的な少人数,低予算で作られたという事実だ。
Making Of Nuit Blanche from Spy Films on Vimeo.
Milk Sad Princess
〜Adam Coffia/Psyop
一見おとぎ話風だが,「牛乳は生理痛を和らげる」という,牛乳の現実的な効能を具体的に語る切り口が面白い。
デフォルメされたキャラクター達がコミカルに動き回るが,シェーディング自体はリアル系。王女の肌は表面下散乱処理が施され,透き通るような白さの美肌感が再現されている。
Nokia Focus Group
〜Luke Colson/The Mill
N900に関しての意見交換をしているグループ会議中,主人公の青年の体に異変が起き始める。N900の性能が凄すぎて,人体にまで影響が出てしまうというギャグフィルムだが,なぜかテンションやノリは「The X-Files」(Xファイル)風。
実写人物映像とCGキャラクターとの相互モーフィング技術をアピールした作品だ。
Nokia Focus Group from bif on Vimeo.
Poppy
〜James Cunningham/Delf Productions
最前線での激戦を辛うじて生き延びた二人は,絶命した親に抱きかかえられた状態の赤ん坊を発見する。敵だらけの戦域から脱出しなければならない二人の兵士にとって,この赤子は足手まといになることは火を見るより明らかであった。しかし,一人の兵士はこの赤子を抱きかかえて前線を生き抜くことを決意する……。
ややデフォルメされたゲームライクなキャラクター達に,生々しい人間の表情をさせることで独特なビジュアル表現を実現した。
このビジュアル的な独創性と,物語そのもののきれいなまとまりから,今年のETにて審査員特別賞を与えられている。
設定資料は公式Webサイトでチェック可能だ。
The Secret In Their Eyes - Huracan VFX Extended Shot〜100Bares Producciones
2010年度アカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞したアルゼンチンのサスペンス映画「The Secret In Their Eyes」(邦題 瞳の奥の秘密)における,サッカー場風景のメイキング映像。
熱狂に包まれるサッカー場の圧倒的な数の群衆や選手など,ほとんどすべてがCGキャラクターで再現されている。
→「瞳の奥の秘密」公式サイト
SUIREN
〜Tomoya Kimpara/WOW.Inc.
生命と情報は,共にネットワークを形成することで“花を咲かせる”ということを表現したアート志向の映像作品だ。
制作は,国内のデザインスタジオであるWOW所属の日本人作家Tomoya Kimpara氏。
SUIREN from tomoya kimpara on Vimeo.
Topi
〜Arjun Rihan/University of Southern California
背景の作り込みもシンプルで,ポリゴン数も少なく,アニメーションもライティングも素朴だが,そつなく物語をまとめ上げた構成力には光るものがある。
→arjunrihan.com/topi/
UPS Gradiator
〜Adam Coffia/Psyop
「ビジネスに必要な資料の郵送も,スピードが命のUPSのサポートがあれば大丈夫」というメッセージを,なぜかローマ時代の闘技場ライクなシーンで再現している。
The Wonder Hospital
〜Beomsik Shimbe Shim/California Institute of the Arts
望みの姿にしてくれるという不気味な病院にやってきた,コンプレックスを抱える少女。そこは「狂気と正気の狭間」とでも言うべき,異常な世界に飲み込まれた場所だった。“その手術”を目前にして,「本当の美しさとは何なのか」と今さらながらに自問自答してしまう少女。彼女はまだ知らない,恐ろしくも“美しい”この病院の真実を……という内容だ。
全体的にクレイアニメ(=ストップモーション)のようなタッチで描かれているのが特徴。実際,この作品は,パペットをストップモーション撮影した上で,CGを合成して仕上げている。公式Webサイトは http://www.shimbe.com/ で,導入部がYouTubeに上がっている。
おわりに
今回は版権等の諸事情で紹介していないが,「Avatar」(アバター),「SHERLOCK HOLMES」(シャーロックホームズ),「The Last Airbender」(エアベンダー),「Prince of Persia: The Sands of Time」(プリンス・オブ・ペルシャ)といった,商業映画作品のメイキング映像もETで公開されていたことを本稿の終わりに報告しておく。
こうした実写系映画作品でのCG利用は,いままでは「実写カメラで撮影した俳優のライブアクションに対してCGを合成する」という,いわゆるCGによるポストプロダクションがメインであった。これに対して近年,急速に多くなってきているのは,俳優をデジタル素材として取り込んでしまい,CGのバーチャルセットでアクション演技をさせてしまうような制作パイプラインだ。
こうした手法は「Digital Double」(デジタル・スタントマン)とも言われ,現実では撮影不可能なようなド派手なアクションを,俳優やスタントマンを危険な目に遭わせることなく行えるため,採用が進んでいる。リテイクに俳優が必要ないこと,俳優やスタントマンのギャラ支出を抑えられるという裏事情も,制作現場に導入が進む原因といわれている。
いずれにせよ,これがより進むと,俳優は肖像権だけの商売になってくる可能性がある。
若かりし頃の名優をCGで再現するといったことも可能になるわけで,実際,年をとった名優を若返らせて新作を撮る研究も進められている。将来的には,配役を一切変えずに昔の俳優のまま,デジタルキャスティングで作り直すといったリメイクまでが,起こり得ると言われているほどだ。
北米において,CG進化の主導権(=最先端)は映画にあり,これがゲームなどのリアルタイム系CGに降りてくるといった業界の構図だけは,今も昔も変わらない。逆に言えば,映画CGが進化する限り,ゲーム向けのCGの進化が止まることもないわけだ。
さて,前回と今回で紹介した作品や,それ以外のカテゴリで入選したCAF作品群はDVD-Videoにまとめられ,オンライン販売がなされている。興味がある人はSIGGRAPH STOREを覗いてみよう。
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