インタビュー
北米や日本のソーシャルゲーム市場は,今,どんなことになっているのか? ロックユーアジアのCOO,石塚 亮氏に聞いた
ところが,ここ最近は「北米市場のソーシャルゲームは頭打ち傾向にある」とか,「これ以上の伸びは期待できない」「現在のトッププレイヤーが市場を食い尽くし,新規参入する余地はない」といった報道もされ始めるなど,なかなか先行きが見えない状況になってきている。
一方,日本では,ソーシャルゲームという分野に注目が集まったのは,2009年にmixiが「mixiアプリ」をスタートさせてからのこと。以降,「モバゲータウン」や「GREE」など,国内の有力なSNSがプラットフォームを開放し,さまざまなデベロッパが数多くのタイトルをリリースしてきている。
「サンシャイン牧場」を筆頭に,大きな成功を勝ち得ている例はあるものの,“ソーシャルゲーム”という分野自体,北米でのケースとは異なり,誰もが気軽に楽しめるプラットフォームとして認知されるまでには至っていないのが実情だろう。
そんな中,ソフトバンクは北米最大のソーシャルゲームデベロッパであるZynga Game Network(以下,Zynga)との合弁会社,「ジンガジャパン」の設立を発表(関連記事)。こと日本においては,ソーシャルゲームを取り巻く環境は,まだまだ激しく変わっていきそうな気配を見せている。
そして,ソフトバンクが関わったソーシャルゲーム関連企業として,忘れるわけにいかないのが,ロックユーアジアだ。
2009年2月,ソフトバンク,米RockYou,ガンホー・オンライン・エンターテイメント,DCM運営ファンドのジョイントベンチャーとして再組成され,mixiアプリのオープンβ期から複数のタイトルを投入してきた同社は,2010年6月にRockYouとの資本関係を強化し,経営陣もRockYou寄りに変更された。
RockYouとの関係強化が,ロックユーアジアに何をもたらすのか。そして昨今の北米や日本のソーシャルゲーム市場の状況を,ロックユーアジアはどのようにとらえているのか。そのあたりを,同社COOの石塚 亮氏に聞いた。
5分間隔でユーザーの動向を把握できる
独自のトラッキングシステムを採用
4Gamer:
今日はよろしくお願いいたします。
まずは基本的なことから,ロックユーアジアという会社の成り立ちを教えてください。
当社は,北米でFacebookやMySpaceといった英語圏のSNSにアプリケーションを提供するRockYouという会社と,ソフトバンクなどとのジョイントベンチャーとして設立されました。この形になったのは,2009年2月です。
4Gamer:
昨年のことですね。
石塚氏:
ええ。その時点では,まだ日本のSNSでは,どのプラットフォームもオープンになっていなかったんですが,「mixi」の「mixiアプリ」が近々オープンするらしいということで,まずはそこに向けてやっていこうということになりました。
もちろん社名に「アジア」をつけているのは,日本だけでなくアジア全体を視野に入れてのことで,昨年10月からは韓国最大のSNS「Cyworld」へのアプリ提供も行っています。
4Gamer:
先日,ソフトバンクが北米のRockYouに1000万ドルを追加出資したという発表がありましたよね。
石塚氏:
2009年11月にもソフトバンクから北米RockYouは5000万ドルの投資を受けていまして,その時点で投資を2回に分けるという話になっていたんです。先日の発表は,その2回めにあたるものです。
4Gamer:
そのことで,ロックユーアジアにはどんな影響があるんですか?
石塚氏:
従来ロックユーアジアは,ソフトバンクが主導で,経営陣もソフトバンクから来ていたんですね。ですが,ソフトバンクがRockYouへの投資を強化する一方,ロックユーアジアはRockYouとの資本関係を強化するという形になりました。
現在はRockYou資本が,ロックユーアジアの97%を占めています。つまり,北米RockYouとの関係性が,かなり強くなったということですね。
4Gamer:
正直なところ,日本においてソーシャルアプリ,ソーシャルゲームという分野は,当初期待されていたほどの伸び方はしていないように思います。
そこに向けてアプリを提供するというのも,なかなか厳しいものがあるんだろうな……とは思うのですが,資本周りでこういった動きがあったのも,そのあたりが影響してのものですか?
石塚氏:
確かに海外……とくにFacebookなんかと比べてしまうと,日本でソーシャルゲームを遊んでいる人の数や,割合は少ないですね。プラットフォーム自体の人数が少ないということでもあるんですが。
ただ,日本の場合,ARPUは決して悪くないんです。そういった,お金を払ってでも遊びたいと思ってくださるユーザーをうまく掴むことができれば,事業としてもまだまだ伸びる余地はあると思っています。
4Gamer:
それを実現するために,経営体制を刷新した,と。
石塚氏:
そういうことですね。経営陣も私とCEOのシェン・ジアが,RockYouから来ています。そうすることで,北米で行っていた開発手法などを,積極的に取り入れていく予定です。
4Gamer:
その開発手法とは,具体的にどういうものなんですか?
石塚氏:
北米では独自のユーザートラッキングシステムを持っていて,ユーザーの動向を5分間隔で細かく把握できるんですね。
例えば新しいボタンを作ったとき,その色を何色にすれば押してもらいやすいのか,赤なのか,青なのか,緑なのか……といったことを,5分間隔で実験しつつ,どの色が最も良いコンバージョンなのかというのを決めていくんですよ。
4Gamer:
5分間隔ですか!
石塚氏:
ええ。そういう細かい修正――我々は“チューニング”と呼んでいるんですが,これを多いときには1日に何十回と行っているんです。そういったことを,ロックユーアジアでもやっていこうと考えています。
4Gamer:
となると,開発自体も北米で行うことになるんですか?
石塚氏:
いえ,開発はこれまでもこちらでやってきましたし,引き続きこちらで担当します。あくまで,手法とノウハウだけを取り入れるということです。
日本のSNSではFacebookほどの
バイラル効果が得られていないのが現状
4Gamer:
ロックユーアジアが今後,どういう姿勢で開発に取り組んでいくのかは分かりました。
ただ,先ほどもお話ししましたが,日本の場合,ソーシャルアプリ/ソーシャルゲームというジャンルが,当初期待されていたほど伸びていないような気がしています。
確かに各社からリリースされるタイトルは多いですし,「サンシャイン牧場」や「ブラウザ三国志」の人気は凄いですが,これらが市場を牽引しているかというと,そうでもないですよね。
石塚氏:
おっしゃるとおりです。
おそらくmixiも「モバゲーTown」も,トップ10に入っているタイトルと,それ以下のタイトルには大きな開きがあるんですよね。
mixiなどでもそのあたりは認識しているようで,改善しようと考えているようです。
4Gamer:
結局,その部分はコンテンツの魅力云々ではなく,プラットフォーム自体の問題ということでしょうか。
石塚氏:
少なくとも私は,そう考えています。
やはりプラットフォームがアプリを,どうやってユーザーに見せていきたいか,どうやってプッシュしていきたいのかによって,変わってくる部分でしょう。
4Gamer:
つまり,コンテンツを提供する側がコントロールできる部分には限界がある,と。
石塚氏:
そうですね。現段階でいうと,各プラットフォームでユーザーが新しいアプリを見つける方法って,mixiだと「おすすめアプリ」とランキング,モバゲーではランキングのみという状況で,バイラル効果が薄いんですね。
4Gamer:
新しいものを見つけにくいから,上位のものばかりにユーザーが集中するという。
石塚氏:
一方,Facebookではバイラル効果が非常に強力で,新しいアプリでも多数のユーザーを獲得しやすくなっています。このあたりは,mixiやモバゲーにも力を入れていただきたいところです。
4Gamer:
ただ,mixiの場合,更新情報という形で,マイミクに対して自動でアプリ内の出来事を通知する仕組みはありますよね。それが人によってはノイズにしか見えなくて,結果的にバイラル効果をうまく生み出せていないような印象があります。
石塚氏:
プラットフォーマーもバイラル効果を上げたいとは思っているんでしょうが,まだ試行錯誤をしている段階なんだろうと思います。
アプリ開発者によっては,SPAM的に活用しようとするところも出てくるでしょうから,そういったものを防ぎつつ,うまくバイラル効果を……となると,なかなか難しいであろうことは理解しています。
4Gamer:
では,どういった形が理想なんでしょうか。
石塚氏:
うーん,難しいですね。SPAM的なアプリに対しては,結局,ユーザーの自浄作用に任せるのが一番ではないかと思うんですよ。
Facebookは以前,SPAM的なことが凄く流行っていたんですが,ユーザーがアプリごとにプライバシーポリシーを設定できるようにしたところ,だいぶ沈静化したんです。
その結果,SPAMではないバイラルが,再び目立つようになっていきました。
4Gamer:
そうなるためには,ユーザー側のリテラシーも重要になりそうですね。
Zyngaの強さの秘訣は
模倣の巧みさにある
4Gamer:
米国におけるソーシャルアプリ分野のビジネス的な状況――例えば,FacebookとMySpaceの比較などを教えていたただけますか?
石塚氏:
これはもう,完璧にFacebook優勢ですね。MySpaceはかなり勢いが衰えてきています。トラフィック的にはMySpaceもそれなりではあるんですが,ここ1年はずっと下降線をたどっています。
4Gamer:
その原因はどこにあるんでしょうか。
石塚氏:
一番大きいのは,Facebookがプラットフォームをうまく公開できたという点でしょうね。MySpaceもFacebookから約1年遅れでプラットフォームを公開しましたが,なかなかうまくいきませんでした。
プラットフォーム自体が不安定であったり,OpenSocial規格にのっとっているのに,MySpaceには実装されていない機能があったり,あるいは実装に時間がかかったりと,立ち上げで失敗してしまったんです。
それにどうやら,MySpaceはプラットフォームを公開しても,それに対してあまり力を入れてこなかったんですよ。
4Gamer:
なるほど,そういったこともあって,“ソーシャルアプリ=Facebook”という印象が強くなっているのかもしれませんね。
ではFacebookでは,どんなアプリが人気を集める傾向にあるんですか?
石塚氏:
圧倒的に勢いがあるのはゲームですね。例えば“Facebook最強アプリ”とも呼ばれているZyngaの「FarmVille」ですとか……。
デベロッパでいうと,Zynga,Electronic Artsに買収されたPlayfish,CrowdStar,Playdom,そしてRockYouという5社がしのぎを削っている状況です。Zyngaは頭一つ二つ抜けている感じではありますが。それと,この5社がリリースしているものは,すべてゲームなんですよ。
4Gamer:
その中で,なぜZyngaはここまで大きく成長したんでしょうか?
石塚氏:
僕は,彼らの強みは二つあると考えています。
一つは,ゲームメーカー出身者を多く揃えていて,ゲーム作り,とくにゲームバランスの最適化に関するノウハウを数多く持っている点。そしてもう一つは,模倣がうまいということです。
4Gamer:
模倣,ですか?
石塚氏:
ええ。これは悪口ではなく,純粋に凄いことですし,脅威に感じていることなんですが,彼らはどこかのデベロッパが新しいテーマのゲームをリリースすると,その2か月後には同じようなゲームを出してくるんです。
4Gamer:
それは早いですね……。
石塚氏:
しかも,北米だけでなく,中国ではやっているものもきっちりカバーしているんです。それをもの凄いスピードで最適化,チューニングをしてくるんです。その結果,ネタ元よりも遊びやすいものが生まれるという(笑)。
4Gamer:
かなり厄介ですね(笑)。
ゲームの場合,特定のブランドにファンが付くこともありますが,ソーシャルゲームにも,そういった傾向はあるんでしょうか。
石塚氏:
Facebookでは,とくにそういう傾向があります。
4Gamer:
Zyngaの新作だから遊ぼうとか,RockYouの新作だから試してみよう,みたいな感じですね。
北米では,ソーシャルゲームのジャンルとしては,どういったものに人気が集まる傾向ですか?
石塚氏:
ほとんどが,育成に分類できるジャンルですね。農園であるとか,動物であるとか,題材は異なるんですが,育成という点では共通しています。
4Gamer:
その状況は日本の場合も似通っていますね。
石塚氏:
ええ。やはりソーシャルゲームという分野と,育成系は相性がいいんだと思います。
ソーシャルゲームの特徴は,どれだけ長く遊んでもらえるかというのがポイントです。そうなると,エンディングのあるようなゲームだと,ちょっと厳しいんですよ。
4Gamer:
薄く長く続けやすいものが,育成系であると。
石塚氏:
ええ。それに最近はソーシャルゲームだけでなく,ゲーム全体の傾向だと思うんですが,1日に何時間も遊ばなければいけないものより,1日に10〜20分だけ遊べばいいというものが注目されていますね。
4Gamer:
ニンテンドーDSやPSP用のゲームにも,そういったものは増えていますね。
石塚氏:
娯楽の選択肢がここまで増えていると,ちょっとずついろいろなものを遊びたいというニーズも当然生まれてくるんですよね。そこに,1日に遊ぶ時間は短いけれども,1か月,2か月,3か月と継続して遊びやすいソーシャルゲームが,マッチしていると思うんですよ。
4Gamer:
いわゆるゲーマー層じゃない人達も,けっこう夢中になってソーシャルゲームで遊んでいるというのも,そういうことなんでしょうね。日々の空き時間に軽く遊ぶだけ,というのが可能なわけですから。