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「ACE COMBAT ASSAULT HOLIZON」,河野一聡氏をはじめとした6人のコアスタッフにインタビュー
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印刷2011/08/04 00:00

インタビュー

「ACE COMBAT ASSAULT HOLIZON」,河野一聡氏をはじめとした6人のコアスタッフにインタビュー

音楽や効果音を「状況」ではなく「感情」につけることを最優先に


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まずは,「ACAH」におけるサウンドディレクターとして,小林さんがどのようなことをしているのかを教えてください。

画像集#023のサムネイル/「ACE COMBAT ASSAULT HOLIZON」,河野一聡氏をはじめとした6人のコアスタッフにインタビュー
小林啓樹氏(以下,小林氏):
 僕は,「ACAH」の音作り全般の監修を担当しています。楽曲を作る人間に曲の制作についての話をしたり,効果音の監修をしたりといったディレクションのほか,音声収録の現場に足を運んで監修するといった実作業もしています。

4Gamer:
 「ACAH」でエースコンバットは生まれ変わるということですが,サウンドについては制作当初,どういう話をしていたのでしょうか?

小林氏:
 答えに辿り着くのに時間がかかったのですが,変えるものは大きく変え,変えないものは維持させる,というところに落ち着きました。ガラっと変わるときに一番気をつけるべきことは,「変わることを目的にしてはいけない」ということですよね。変わることは大変なので,ついつい声高に「変わってくれ」あるいは「変わったんだ」と言わなければいけませんが,本当は変わることを目的にすると,ロクなものができません。

4Gamer:
 なるほど。

小林氏:
 お客様が求めているのは面白いゲームです。それを作るにはどうしたらいいのか,どうしたらこのシーンに合う音を提供できるのか,「もう一度原点に立ち返り考えた」という意味では,結果的に相当変わったのではないかと思います。

4Gamer:
 「ACAH」では,人格のある明確な主人公キャラクターが用意されているなど,これまでのシリーズとは異なったアプローチの作品になっていますが,このあたりを踏まえて,サウンド制作で気を遣ったことや今までと変わったことはありますか?

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小林氏:
 今までは「自分=パイロット」で,プレイヤーは画面に出てきませんでしたから,基本的には何をやっていても,「自分のことについて音が鳴っている」という認識は揺るぎのないものでした。
 でも今回は,画面の中にキャラクターとして主人公のビショップなどが出てくるので,プレイヤーには「俺はこの人だ」と明確に,そして確実に思ってもらわないと失敗してしまいます。
 「自分はビショップなのか?」という違和感を一瞬でも感じさせてしまったら,客観的なものとして捉えられてしまい,没入感がそがれてしまうからです。
 そうなったら,我々の作戦は総崩れになってしまいますから,「ACAH」では音楽や効果音を「状況につける」のではなく,徹底的に「感情につける」ということを,最重要,最優先としてきました。

4Gamer:
 感情……ですか。もう少し具体的に教えてもらえますか?

小林氏:
 たとえばゲームで,「主人公のビショップはこういう人で,こんな世界観なんだよね」といった話は,“引いた観点”での話だと思うんです。
 つまり,客観的な視点になりますから,プレイヤーとしては「自分=ビショップ」という感覚がより薄れ,没入感が削がれてしまう。これではマズいですよねえ。
 個人的な見解ですが,ゲーム,映画,ドラマ,アニメなど日本で作っている作品には,客観的な音付けが多いように感じています。内面に踏み込んだとしても,結局は主人公自身の内面に入っただけだったりして。……うーん,つまり浅いんです。力強く相手の内面にまで踏み込んで,他人の心情を描ききっている作品は,本当に数少ないと思っています。
 海外では,あくまで心情・感情につけていくことが主流です。音楽単体だけで見るのではなく,たとえ音楽としては面白くなくても,「その人がこう思うのには理由があるから,その背景に対してこういう音をつける」といった手法ですね。
 「ACAH」で主人公のビショップを描くときは,ビショップにどういうことが起きていて,どんな問題に立ち向かおうとしているのか,そのときどんな気持ちなのかといった,さまざまな事象すべてをひっくるめたものに,効果音だけでなく,セリフや楽曲もバランスよく配置したうえで,すべてが「心情・感情につけた音」となっています。

4Gamer:
 奥が深いですね……。

小林氏:
 いえいえ,多分「(自身ではない)誰かの心情・感情」を想像し,音を使って構成させることが,みんな好きなんでしょう(笑)。単純に楽しいんだとも思います。
 効果音についても同様です。
 担当者とは音を作るうえで,「たとえ自分自身がこの画面の中にいたとしても,この音が鳴ってなければいけない。なぜなら,それが主人公の心理だからだ」というような議論を,それこそ数えきれないほど重ねてきました。
 もちろん,河野や糸見とも議論を重ねて,どのような構成にするかは相当悩みました。結果として,構成全体がすべて音に紐づいたものになったと思います。

4Gamer:
 何気なく耳に入ってくるゲームサウンドですが,制作はとても難しいんですね。

小林氏:
 本当に大事なポイントは,音が何に結びついているかです。音の捉え方は,聞く人によって違うものですが,想起される感情がそれぞれバラバラではいけない。我々はそこを踏み外してはいけないんです。
 最終的に,ゲームの楽しさや「言いたいことはこれなんですよ」という部分と音を結び付けて,プレイヤーを導いていくのが,我々の大事な役割ですね。
 効果音やセリフや音楽を上手く使いながら,あるいはあえて使わないという選択をしながら,お客様を導いていくのが,サウンドの役割であり,面白さの真骨頂だと思っています。

4Gamer:
 戦場というのは,本来はいわば効果音しかない状況ですよね。そこに音楽をつけるというのは難しいかと思いますが,どういう表現を心がけているのでしょうか?

小林氏:
 どれだけ真摯にそれと向き合うかだと思います。
 あとは戦いというものをどう捉えているのか,その考え方を問われると思いますね。命もかかっていますし,音楽にもそれだけの“重さ”がなければなりません。戦いに対して「画面の中の敵を倒すだけでしょ?」というように考えている人には,曲は作れないでしょう。我々は,そんな思いを持ってやっているんです。
 これを教えてくれたのは,航空自衛隊や米軍への取材を通してのことでした。

4Gamer:
 取材でどのようなことがあったんですか?

小林氏:
 取材は,ジェットエンジンの効果音を収録することが目的だったんですが,一番の収穫は“リアル”なパイロット体験が得られたことです。
 取材現場では隊員の方々が,通常業務として基地を運営する業務の合間を縫って,仕事ぶりを見せてくれたり,話を聞かせてくれたりしました。言い方として正しいのか分かりませんが,日常の業務の中に,プロフェッショナルとしての責任感,その職務ゆえの重さ,慎重さなどが,そこはかとなく感じられるのです。

4Gamer:
 それはどのようなものなんですか?

小林氏:
 肩肘を張らない日常的な仕事として,日々の職務を遂行している彼らの姿こそが,エースコンバットを描くときに重要なキーワードになります。
 単純にやれば,「これはシューティングゲームなんですね。だからバンバン撃ってガンガン盛り上げる音楽を作っているんですよ!」となって,こういう表現にはならないでしょう。結果的に「ACAH」では,プレイヤーの没入感を削ぐことになるんじゃないかと思います。
 プロフェッショナルである彼らが,あらゆる意味での戦いの現場に立つとき,何を考え,何を思い,どんな気持ちで赴くのか,それこそが「ACAH」の音楽を作る際の最大のヒントであり,我々はそこを原点として音楽を作っています。
 今までも,航空自衛隊のご協力のもと何回も取材を重ねてきましたが,真の意味での取材内容は,プロフェッショナルなパイロットの心情を語る音楽を作るため,本物の現場に立つ人達から少しだけヒント……というか「エッセンス」をいただきに上がる。それが何度も取材に行く本当の理由かもしれませんね

4Gamer:
 では最後に,「ACAH」におけるサウンドの聴きどころを教えてください。

小林氏:
 先にもお話ししましたが,「ACAH」では,“本物の音”を効果音として使っています。非常にリアルで爽快な体験ができると思います。たとえば,アパッチのエンジン音は,米軍協力のもと,アリゾナまで我々が赴いて録音しました。ヘリを触れるぐらいの超至近距離……というか,マイクが触れるくらいの状態で,アパッチには離陸してもらいました(笑)。
 ガトリングガンも,実際の発砲音を「ACAH」のためだけに録音したものをゲームに使っています。本物のガトリングガンを録音までしたのは,映画でもなかなかないことなんです。おそらく日本のゲーム界でも初めてのことなのではないでしょうか。
 全体としては,主張しすぎず,かつ心に残る音というところを狙っていたので,遊んでくださった方に効果音や音楽がすーっと入っていったとしたら,本当に嬉しいですね。発売されたらぜひプレイしてみてください。

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4Gamer:
 ありがとうございました。


「ACAH」は,トレイラーの映像ほぼそのままの演出をゲーム中で体験できる作品


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。糸見さんが担当するビジュアルアートディレクターというのは,具体的にはどのような役割なのかを教えてください。

画像集#033のサムネイル/「ACE COMBAT ASSAULT HOLIZON」,河野一聡氏をはじめとした6人のコアスタッフにインタビュー
糸見功輔氏(以下,糸見氏):
 ゲーム全体の構成や,演出,ストーリー構成,ゲームプレイ中も含めたカメラワーク,カットシーンの演出の監修などを担当しています。ほかにも,トレイラーの制作も行っていて,ひとことで言うと,映像面すべてのディレクションですね。

4Gamer:
 単刀直入に聞きますが,「ACAH」の演出面で一番のポイントというのはどこでしょうか?


糸見氏:
 今回の「ACAH」では,トレイラーのような映像が,ゲーム中で誰でも体験できるというのがポイントです。
 僕は「ACE COMBAT 3 electrosphere」の頃から,トレイラーを作ってきたんですが,トレイラーで見せる映像とゲーム内でできることに差があるというか,相当上手い人でないとトレイラーのような格好いいシーンを再現できない,というイメージもあったので,今回は,トレイラーのようなシーンの再現が“誰でもできる”というところにこだわって作っています。
 映像全体としてテンションが高いものにするのはもちろんですが,“自分のプレイ中の画面が,そのまま格好いい映像に演出されている”という部分に重点を置いています。

4Gamer:
 ということは,「ACAH」のトレイラーは,主に実際にゲームをプレイしたデータで作っているんですか?

糸見氏:
 そうですね。今回のトレイラーは,インゲームの映像が主な素材で,開発スタッフ普通にプレイしたものを使っています。あの映像を見て「面白そうだな」と感じていただけたら,実際そのとおりに体験できますよ。

4Gamer:
 「ACAH」では,冒頭のムービーからゲームプレイにシームレスに入っていったのが印象的だったんですが,今回はシームレスな作りにこだわったのでしょうか?

糸見氏:
 今までのエースコンバットシリーズでは,カットシーンにアニメや実写を使用したりと,ゲームとは表現手法を意図的に分けている所があったのですが,今回は「展開が途切れないシームレスな構成にしたい」と,ディレクターから企画当初に言われていたんです。
 たとえば,プレイヤーキャラクターが出てきたあとカメラ視点がスムーズに移動し,一人称になって,そのままゲームプレイに入っていくように,全体的に流れを途切れさせないような構成にしています。

4Gamer:
 シームレスな展開を実現するうえで,大変だったのはどのような部分でしょうか?

糸見氏:
 シナリオは,ジム・デフェリスさんとチームが共同で考えたのですが,ゲームのミッションについて,「こういうシチュエーションで遊びたい」「こういう体験ができるようにしたい」といった案をすり合わせる作業も同時に行っていたんです。
 シームレスな展開にするには,最初から構成に含めておかないと厳しいので,カットシーンの内容も決まっていない初期段階で,シーンをつないでいくアイデアもまた同時にすり合わせていかねばなりませんでした。

4Gamer:
 「ACAH」は,エースコンバットシリーズでは珍しく,アメリカやドバイといった現実世界をベースにした設定になっていますが,演出面で気を遣った部分はありましたか?

糸見氏:
 全体の構成はジムさんが見ていて,戦術や軍事用語などのリアリティ確保の部分に関して,監修をお願いしています。
 カットシーンのパフォーマンスキャプチャーの演出は,アメリカ人の監督と共同で行っていて,キャラクターのモーションや顔のアニメーションおよび音声は,アメリカのロサンゼルスで収録しています。
 演技の方向性は,各登場人物の設定から,その地域出身者として自然なリアクションをとってもらえるようにお願いしています。また,軍人としての言葉遣いや所作の監修は,別途軍事アドバイザーの方に立ち会いをお願いしています。たとえば,戦闘機からの脱出シーンなどでは,どういう順番でベイルアウトをしていくのかとか,細かい手順を教えていただきました。
 ただ,チームとしては「もっと面白く」「もっとエキサイティングに」するために,“現実離れ”していくところもあるので,リアルさを残しつつエキサイティングな部分を保てるよう,すり合わせには気を遣っています。

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4Gamer:
 リアルにしすぎると面白くなくなってしまうところもありますから,そのバランスは難しいところですね。

糸見氏:
 そうですね。僕らはエースコンバットシリーズを作るうえで,フィクションでありながらもリアルに感じられるようにして,なおかつアクションシューティングとして面白く成り立たせなければいけないと考えています。
 ジムさんはジムさんで,シューティングゲームの中で,リアルの部分をどう確保してスクリプトを書かなければいけないかを考えるというように,お互いが協力しています。

4Gamer:
 シナリオは,デフェリスさんが書いたものをゲームに落し込んでいったんですか? それともゲームの大枠が決まってからシナリオを作っていったんでしょうか?

糸見氏:
 まずチーム内で,「こういう体験を作りたい」「こういうシーンで遊びたい」「こういうシチュエーションを作りたい」といった,ゲームプレイのアイデアをブレストして,ジムさんと構成を打ち合わせていきます。それと共に,ジムさんのほうでストーリープロットを何案かだしてもらい,両方がある程度まとまってから,シナリオを作っていくという順番です。
 魅力的なシナリオも大事ですが,ゲームとして面白いかというのが最も重要なので,初期段階でジムさんが書くプロットと,「このゲームのアイデアをどうすれば組み込めるか?」とすり合わせる作業が,一番苦労したところですね。

4Gamer:
 設定でいうと,キャラクターからヒゲがなくなるという設定変更がありましたよね。

糸見氏:
 実は,パイロットには身長や体重の範囲が決まっているほか,ヒゲや刺青があるとダメといった,細かい規定があるんです。米軍から資料を取り寄せて設定を作っていたのですが,ヒゲのことを忘れていて,あとでチェックに引っかかってしまったんです(笑)。

4Gamer:
 そうだったんですか。ちなみに,ヒゲがダメというのはなぜなんですか? 

糸見氏:
 パイロットがマスクをするときにヒゲがあると,マスクに隙間ができてしまうからNGなのだそうです。そういった意味から「ヒゲを生やすのはあり得ない」と指摘されました。
 ただ,例外として潜入作戦に従事するような兵士には許されていたり,空軍ではなく陸軍であれば,「これくらいまでのヒゲはOK」というように,違いはあるのだそうです。陸軍のダグ・“ディーレイ”・ロビンソンも最初は立派なヒゲを生やしていたんですが,引っかからない程度に剃りました。
 あと,女性兵士も,髪型では襟足の長さが決まっているなど,細かく決められていますね。規律はすごく厳しいみたいです。

4Gamer:
 初めて知りました。まさに裏話といったエピソードですね。

糸見氏:
 ただ,よほど詳しくないと,アメリカ人でも知らないようなネタですね。今回のキャラクターデザインは,サンフランシスコのMassive Blackというデザイン会社に依頼したのですが,最初に完成したキャラクターにはヒゲが生えていましたから(笑)。

4Gamer:
 普通のキャラクター制作とは違う苦労があるんですね。

糸見氏:
 そうですね。途中までヒゲがあるまま作っていたので,アニメーションチェックでヒゲがないのを見たときには,「これ誰?」とか思っちゃいましたね(笑)。

4Gamer:
 「ACAH」のシナリオで,糸見さん個人としては,どこが見どころだと思っていますか?

糸見氏:
 「ACAH」には,主人公のビショップのほかに,プレイヤーキャラクターがあと2人いるのですが,ゲームを進めていくと,ストーリーに応じてプレイヤーキャラクターがスイッチしていくんです。
 カットシーンで状況を見せつつ,たとえば爆撃機から戦闘機,戦闘機から戦闘ヘリのパートへと移行していく展開も用意しています。キャラクター達には作戦上それぞれ関わりがあって,ストーリーの進行とともに,そのつながりも見えてきます。そこはぜひ見ていただきたいですね。

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4Gamer:
 戦闘機や戦闘ヘリのミッションは,たとえば一つの戦争映画の部分部分を切り出しているといった印象でしょうか?

糸見氏:
 そうですね。戦争映画のような激しいシーンが積み重なって構成されています。ただ,ゲームを進めていくと,しっかりとしたストーリーが展開されるというのが分かるかと思います。トレイラーでも出しましたが,大枠としてはトリニティという新型爆弾の謎を追う話になっていて,さまざまな国でストーリーが展開していく,という形になっています。

4Gamer:
 では最後に,「ACAH」で映像や演出などの面で,期待してほしい部分について,メッセージをお願いします。

糸見氏:
 「ACAH」は,シリーズを遊んできていただいた皆様には,すんなりと入り込めるシステムになっています。また,今回から導入されたアグレッシブなカメラアングルとアクション性の高いシステムで,まったく新しいゲームになっていますので,今回が初めてという方でも楽しんでもらえる内容になっています。
 戦闘機での大迫力の空戦と,スピーディに展開するリアルな軍事ストーリーを併せ持ったシューティングゲームは,他に類を見ないのになっていますので,ぜひ体験していただきたいです。

4Gamer:
 ありがとうございました。


リアルとは違う,人間のゴア表現のような“汁っ気のある壊れ方”を目指した破壊表現


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。菅野さんはアートディレクターとして,「ACAH」ではどのような役割を担当しているのでしょうか? 

画像集#041のサムネイル/「ACE COMBAT ASSAULT HOLIZON」,河野一聡氏をはじめとした6人のコアスタッフにインタビュー
菅野昌人氏(以下,菅野氏):
 僕の担当は,画面に出てくるキャラクターや戦闘機,背景やエフェクトなど,画面を構成する表示物の監修役となります。
 演出は糸見が担当しておりまして,彼の役割は,物語を作っていくうえで必要な,映画的な手法を監修していくというものです。僕のほうは,画面そのものの質感や破壊表現などのディレクションを行っています。

4Gamer:
 「ACAH」では,破壊表現をキーワードとして前面に押し出していますが,これはリアルさを極限まで追求したという感じなのでしょうか?

菅野氏:
 そうですね。確かに破壊は力は入れましたが,本当にリアルな壊れ方とはちょっと違いますね。僕らは“汁っ気のある壊れ方”と呼んでいるのですが,人間のゴア表現的なものを戦闘機でやってみたという感じです。

4Gamer:
 リアルな壊れ方とは,どのようなところが違っているんですか?

菅野氏:
 スクリーンショットや動画を見ていただければお分かりかと思いますが,「ACAH」では,戦闘機に弾が当たったら翼がもげるというような表現を採り入れています。同時に,炎やオイルをまき散らしながら墜落していくのですが,現実にはあまりああいう現象にはならず,液状のオイルも煙みたいに霧散してしまうものなんです。
 一般的なゲームの破壊表現で得たいものって,弾を当てたらバラバラになるということですよね。「ACAH」では,さらに一歩そこから踏み出して,フレームがねじ切れたり,挙動が変わったりといった表現にチャレンジしてみました。
 開発初期に,「ハードウェアが単にばらばらに壊れるというよりは,より擬人的なやられ方のほうがいいのではないか?」と試してみたら,予想以上に“痛い”感じが表現できたんですね。それからはさまざまな要素を付け加えて,今の表現にたどり着きました。

4Gamer:
 なるほど。目指したのは“痛そうな壊れ方”なんですね。ちなみに,戦闘機ごとに壊れ方は違うんですか?

菅野氏:
 そうですね,一つ一つ個別に破壊モデルを用意しています。それらは破壊される際の姿勢や攻撃手段によっていろいろな壊れ方をしますが,基本的には類型化しています。
 バンダイナムコゲームス内に,今給黎 隆(いまぎれ たかし)というプログラマーがいるんですが,「こういう壊れ方にしたい場合,どういう実装方法が一番いいのか」と相談して,一度数式化してみたんです。その結果,航空機が壊れる有様というのは,揚力の発生位置と機体の中心のバランス,重量などで決まってきて,似通ってくるというのが分かったんです。
 そこで,なるべく多くの戦闘機に応用しやすい手法で,かつ生々しい印象になるよう,新しい技術を開拓しながら,バリエーションを増やしてきました。個別に壊れアニメーションを設定していたら制作期間内にとても終わらなかったと思います。

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4Gamer:
 今,壊し方を個別に用意したら制作期間内に終わらないと話していましたが,「ACAH」にはどのくらいの航空機が登場するんですか?

菅野氏:
 今回はDLCを含め,40機ぐらいの戦闘機を扱っています。マスターアップに近づいていますが,まだまだ修正して完成度を高めていきたいと考えています。

4Gamer:
 今回は,実在の都市も多数登場すると思いますが,それらの都市は,どういう基準で選んだんですか?

菅野氏:
 既存シリーズでのロケーションは,見た目先行で選んでいたんですが,「ACAH」に登場する都市や地域は,ストーリーの流れに沿ったもので,リアリズムを重視しています。
 今回はストーリー担当のジム・デフェリスさんに「実際に現実世界で戦闘行為が始まったら,どのように世界に影響が波及していくか」という視点で,シミュレーションをしてもいつつ,シナリオを練ってもらったんです。
 最初はアフリカから始まり,それが中東に及び,ロシア,アメリカ本土というように展開されていくんですよ。
 マップは都市部が多くなったのですが,数多くの実在のランドマークの再現など,従来に比べて密度が高いこともあり,制作には非常に手間がかかりました。

4Gamer:
 今回試遊をさせてもらって,敵機を撃墜したときに機体からパイロットが脱出している姿を見たり,戦闘ヘリでは対人戦闘があったりして気になったのですが,やはりレーティングは既存シリーズより高いものになりそうですか?

菅野氏:
 そうですね,今まではCERO:A(全年齢対象)でしたが,今作はCERO:C(15歳以上対象)となりました。撃墜した戦闘機のパイロットが脱出する姿をカメラが追う,という演出を途中まで入れていたんですが,ちょっと生々しすぎたのでその演出は自粛しました。ただ,パイロットが投げ出される描写自体は残したので,カメラを動かしていただければ見ることはできます。

4Gamer:
 シーン自体をなくすのではなく,残したというのはなぜですか?

菅野氏:
 すごく大上段に構えた言い方になるかもしれませんが,エースコンバットに限らず,日本のゲームが縮小傾向にあると言われているのは,チャレンジすることを恐れていたからだと思うんです。
 ゲームの表現力が上がっていくにつれて,踏み込む領域が広がっていきますし,残酷な表現などについて,「それはいかがなものか」という懸念も増えていくと思うんです。コンテンツの提供者である我々は,それはもちろん真摯に受け止めながらも,「ここまでは踏み込んでいいですよね?」と言えなきゃいけないと考えています。戦闘機は無人ではありませんし,その世界を信じられるものとするため,描写として残しました。

4Gamer:
 そのほか,苦労した部分などはありましたか?

菅野氏:
 今回は航空機メーカーとの調整や,レーティングの審査に今まで以上に時間をかけました。
 戦闘機をバラバラに破壊すること自体初めてですし,そのことを各国軍や航空機メーカーに理解してもらい,承認を得なければなりませんので,粘り強く取り組む必要がありました。
 また,戦闘ヘリのパートでは歩兵が出てきたりしますよね。人間を撃つというのは抵抗のある表現なので,そのままだとESRBだとM(17歳以上対象),CEROでいうとZ指定になりそうだったんです。その為出血表現をある程度抑えるなどの対処は施しました。
 とはいえ,「新しいものにする為にチャレンジをして行こう」と覚悟を決めていたので,いろいろな意見を踏まえたうえで,それでもあえて危ない橋を渡ることにしました。それをしなかったら,今までのエースコンバットと変わらないものになってしまいますから。

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4Gamer:
 なるほど。それもエースコンバットの新しい挑戦の一つなんですね。

菅野氏:
 そうですね,安全圏に甘んじることなく変革し,今までのエースコンバットシリーズの持つ無難なイメージからは大きく脱却したいというのが,我々の決意です。

4Gamer:
 それでは,最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

菅野氏:
 エースコンバットはドッグファイトモードという新しいシステムで生まれ変わり,シューティングをより楽しめるハードな世界になりました。
 「ACAH」では,さまざまなところで革新を施していますが,ビジュアル面については破壊とカメラワークに集約されると思います。映画的でダイナミックなカメラワークで,ビル群や鉄塔の間を突き進みつつ,ドッグファイトをしていき,敵機を追い詰めていくスリルを,ゲームの中でようやく達成できました。ぜひお手にとって,ゲームを楽しんでいただければと思います。

4Gamer:
 ありがとうございました。



 今回のインタビューでは,エースコンバットのブランド力を再び取り戻そうと,新たなチャレンジに取り組んでいるという思いを皆が持っているのだということを,強く感じさせられた。
 本作では戦闘機のみならず,戦闘ヘリ,大型爆撃機,ガンシップといった多種多様な航空機を操作可能だ。
 以前掲載した本作の先行体験レポートでもお伝えしたように,戦闘機と戦闘ヘリだけをとっても,まったく別ものといっていいほど操作感が異なり,それぞれ単独のゲームとして成立すると思えるほど完成度は高かった。“すべての空戦”が入っている製品版では,どれだけのボリュームになるのか,今からとても楽しみである。かつて空をとぶことに憧れたことのある人なら,さまざまな航空機を駆って大空を舞える本作は,きっとお勧めできるものになるだろう。

 冒頭でも書いたように,「ACE COMBAT ASSAULT HOLIZON」の発売日は2011年10月13日だ。本稿を読んで興味を持った人は,発売日を楽しみに待ってほしい。

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