ニュース
足音が聞こえてきたNVIDIAの次世代GPU「Kepler」と次世代Tegra「Wayne」。現時点の情報を整理してみる
ただし,NVIDIAはそれらパートナーに対してもKeplerの詳細を伝えていないとされ,現状では「開発コードネームとスケジュール,ターゲット性能(=目標とされる性能)などについて,話を始めた」レベルに過ぎない。
ただ,そこから,NVIDIAの製品戦略に大きな変更があったと見る関係者も多い。今回はそのあたりを中心にまとめてみよう。
ラインナップが明らかになりつつあるKepler
GTX 580後継は2012年末〜2013年か
大手OEMベンダーの話を総合すると,NVIDIAがKepler世代の製品ロードマップに名前を挙げているのは,下記の4製品だ。
- GK110:GK104×2構成,PCI Express Gen.3対応
- GK104:パフォーマンスGPU,PCI Express Gen.3対応
- GK106:メインストリームGPU,PCI Express Gen.3対応
- GK107:エントリーGPU(OEM専用?),PCI Express Gen.2対応
なお,ノートPC向けGPUは,PCI Express Gen.3に対応すると消費電力が跳ね上がることなどから,対応が見送られる見通し。PCI Express Gen.3の話はデスクトップPC向けGPUの話となる。
さて,Keplerのロードマップで特筆すべき点は,型番からも推測できるように,GF100(=GeForce GTX 480)のようなビッグチップが(少なくとも当面の間は)登場しないということだ。穿(うが)った見方をすれば,AMDの「スイートスポット戦略」と同じく,NVIDIAも出荷量が見込める製品にリソースを集中したと考えられなくもないが,実際のところは「Keplerアーキテクチャの特性が,ビッグチップの投入を難しくしているためだ」(NVIDIAに近い関係者)。
前述のとおり,NVIDIAはKeplerアーキテクチャの詳細をパートナーにも明かしていない。しかし,同社は「Keplerでは単精度浮動小数点演算性能を大幅に向上すべく,アーキテクチャの最適化を図った」と説明して回っているとされ,CUDA Coreそのものの強化だけでなく,Streaming Multi-processor(SM)やGraphics Processing Cluster(GPC)の構成も見直した気配だ。それにより,「演算効率はFermiアーキテクチャと比べて1.5〜2倍に達すると聞いている」とはOEM関係者の弁である。
NVIDIAに近い別の関係者は「KeplerのCUDA Coreは,64bit整数演算にも対応する計画と聞いている。Keplerの第1世代でそれが実現されるかは分からないが,CUDA Coreはかなり強化されると見たほうが自然だろう」とも述べている。Kepler世代では,CUDA Core数の引き上げではなく,CUDA Coreそのものの強化により,電力あたりの演算効率を引き上げる狙いがあるというのが,関係者の一致した見方だ。
実際,NVIDIAはPCI Express Gen.3の策定段階において,400Wの電源規格を盛り込むようPCI SIGに求めたとされている。当初,Kepler世代のフラグシップとして計画されていたビッグチップは,消費電力などの問題で開発が延期された可能性がある。
2010年9月に米カリフォルニア州サンノゼ市で開催されたGTC 2010で,NVIDIAのJen-Hsun Huang CEOは「プロセス技術の進化が2年〜2年半サイクルにスローダウンしている現状では,GPUの製品ラインナップもこのサイクルに合わせて計画する必要があるだろう」と語っていた。要するに,Keplerアーキテクチャの製品群も2年間は市場投入し続けなければならないわけだ。
その点NVIDIAには,GeForce GTX 580で,同じプロセス技術を採用しながらGeForce GTX 480から低消費電力化を実現した実績がある。2012年末から2013年にかけて,プロセス技術への最適化を図って低消費電力化したビッグチップ「GK102」または「GK112」(※情報元により呼称が異なる)を投入する計画があると伝えられているが,それも大いにあり得る話だといえるだろう。
なお,現時点でOEM関係者に公開されている仕様によると,GK104のグラフィックスメモリ容量は1.5GBまたは3GBで,メモリインタフェースは(GF100やGF110と同じ)384bit。単精度浮動小数点演算性能は2TFLOPSを大きく上回る見込みだ。
GK104を2基搭載したGK110は,消費電力の問題から動作クロックが低めに抑えられるものの,それでも演算性能は4TFLOPSを超えてくるとされる。そして,先ほどその名を挙げたフラグシップチップたるGK102もしくはGK112だと,512bitメモリインタフェースが採用される見通しである。
次世代TegraはKeplerベースのGPUコアを統合へ
Tegraは今後,3製品に分かれていく
「NVIDIAがKeplerでCUDA Coreに大きくメスを入れるのは,Tegraへの実装も視野に入れているからだ」と指摘する関係者は多い。
Windows 8のグラフィックスAPIは,DirectX 11.1対応となるが,ARMはすでに,DirectX 11.1に対応したGPUコアIPたるMali-T600シリーズを発表済み。2012年中にも,同GPUコアを統合した製品が市場投入される予定となっているため,NVIDIAとしても早急に対抗策を打ち出さねばならない。
Tegra 2やTegra 3で統合されるUltra Low Power GeForce(ULP GeForce)コアは,DirectX 9世代のGeForce 6シリーズがベースだ。一方,NVIDIAのロードマップだと,DirectX 11.1対応GPUコアを統合するのは2012年末に投入予定の次世代Tegra「Wayne」(ウェイン,開発コードネーム)になるが,そのWayneで「統合されるGPUコア」がKeplerベースだという話が出てきている。
大手携帯デバイスメーカー関係者は「NVIDIAがTegra 3でもDirectX 11対応を見送ったのは,FermiアーキテクチャのCUDA CoreがGPUコンピューティング向けに最適化されており,省電力化が難しいからだ」と述べている。その点,Kepler世代のCUDA Coreでは電力効率が高められるため,そのまま統合できるか,仮にそのままでは統合できなかったとしても,Tegraへ統合するのに相応しい,省電力かつパワフルなGPUコアのベースとしてKeplerアーキテクチャを盛り込めるというわけだ。
そのTegraロードマップだが,Windows 8の投入に合わせ,NVIDIAはTegra 3の強化版となる「Kal-El+」(カルエルプラス,開発コードネーム)を投入する計画である。Kal-El+は,ARMベースのWindows 8端末向けに,CPUの動作クロックなどを高めたモデルとされる。
またNVIDIAは2013年,Wayneに加えて,旧Iceraの3Gおよび4G(LTE)ベースバンドを統合したスマートフォン向けTegra「Grey」(グレイ,開発コードネーム)も,ロードマップへ追加している。
GreyはWayneと同じくCortex-A15コアを採用するが,GPUコアは,省電力性を重視する立場から,Wayneとは異なり,現行のULP GeForceを引き続き採用する見込みだ。
つまりNVIDIAは今後,Tegraを大きく分けて以下の3分野へ分けて開発を続けていくということである。
- Windows on ARM(=ARMベースのWindows 8ノート&タブレット)向け高性能SoC
- タブレット&スーパーフォン向けSoC
- スマートフォン向け3G/4Gベースバンド統合型SoC
なお,Windows on ARM向けには,Wayneをベースとして,GPUコアを強化したモデルの投入も検討中とのことだ。
- 関連タイトル:
GeForce GTX 600
- 関連タイトル:
Tegra
- この記事のURL: