インタビュー
会員数150万人を誇るソーシャルゲーム「喧嘩番長 全国制覇」を成功に導いた,チュンソフトの二人のキーマンにインタビュー。“ボンタン狩り”や新プロジェクトの話題も……?
同作は,モバゲー/Yahoo!モバゲー合計で150万人以上の累計会員数を誇り,モバゲーにおいては,サードパーティ作品の中でもトップクラスの売り上げを誇っている,(ソーシャルゲームの総数を考えると)数少ない成功例と言える。
喧嘩番長シリーズは,熱狂的なファンを抱えてはいるものの,ソフト単体で100万本の売り上げを超えたことはない。「150万人以上の会員」「トップクラスの売り上げ」というところに,ビックリしたという読者も少なくはないだろう。
今回4Gamerでは,喧嘩番長 全国制覇を成功に導いた二人のキーマン,チュンソフト プロデューサー 兼 運営企画マネージャーの本橋大佐氏と,同ディレクターの植松真也氏に,話をうかがう機会を得た。喧嘩番長 全国制覇の成功の秘訣だけでなく,チュンソフトとしてのソーシャルゲーム市場に対する考え方や,今後の展開などについても話が聞けたので,興味のある人はぜひご一読を。
「喧嘩番長 全国制覇」公式サイト
“飛び道具”は一切不要。奇抜なことはせず,
当たり前ことを当たり前にやった結果の150万人
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず,チュンソフトがスパイクの「喧嘩番長 全国制覇(以下,喧嘩番長)」を,ソーシャルゲームとして運営することになった経緯を教えてください。読者の中には「なぜチュンソフトが『喧嘩番長』を?」と,疑問に思っている人もいると思いますので。
チュンソフトというと,やはりコンシューマゲームのイメージが強いですよね。しかしグループ内には,オンライン事業が得意なゲームズアリーナやドワンゴがありますし,コンシューマゲームに強いスパイクも,チュンソフトのグループ会社なんです。
当社やスパイクにとって,ビジネスモデルや市場性が大きく異なるオンライン事業はなかなか難しかったのですが,グループ会社の強みを活かす形で各社のノウハウを集積し,オンライン事業に注力してみるのも面白いんじゃないかと考えたのが,そもそものきっかけです。
4Gamer:
2010年10月1日付けで,ゲームズアリーナからのモバイル事業の譲り受けや,同じくグループ会社であるティーアンドイーソフトからの,一部開発部従業員の受け入れなどを発表していましたね。
本橋氏:
はい。グループ会社との交流の中で,オンライン事業に強く,開発力の高いスタッフがチュンソフトのほうにシフトしてきたこともあり,そのまま当社でオンライン事業を回していくことになったんです。なので,ソーシャルのシステムやアバターを除いた「喧嘩番長」というIPに関してはスパイクのものなんですが,スパイクは本家であるPSP版などのコンシューマ事業を推進し,オンライン事業に関してはチュンソフトが頑張ることになったわけです。
4Gamer:
なるほど。グループとしての強みを活かす過程で,各社の立ち位置を明確にするためにも,今回はこういう形に落ち着いたというわけですね。ところでチュンソフトは,モバゲーには以前から参入されていましたが,Yahoo!モバゲーへの参入も,ある意味当然の流れといったところですか?
本橋氏:
我々のモバゲーへの参画タイミングは2010年4月ですので,どちらかというと後発ということになります。後発ということで,mixi,モバゲー,GREEといった,国内の各ソーシャルサービスの市場動向を真剣に調査していたのですが,“バトルもの”が強いところとなると,調査するまでもなくやはりディー・エヌ・エーということで,まずはモバゲーでチャレンジすることになりました。
4Gamer:
そして,累計会員数の面でも,売り上げ的にも大成功と言っていい結果を残したわけで,当然Yahoo!モバゲーへも誘われますよね。
はい,ありがたいことにオファーをいただきました(笑)。あと,これまではモバイル版とPC版で,100%のデータ連動を実現しているコンテンツが非常に少なかったので,喧嘩番長でそれを実現してみたいという思いもありました。
4Gamer:
そういえば,Yahoo!モバゲーが発表されてから正式公開されるまで,あっという間でしたよね。Yahoo!モバゲー版に関しては,ちょっと前から開発を進めていたんですか?
本橋氏:
いえ,まったく。6月下旬にディー・エヌ・エーからのオフィシャルな発表がありまして,その直後に「9月21日のβまでに作ってくれないか」という,すんごいお願いをされました(笑)。実質的な期間で言うと3か月。開発期間で言うと,1か月ちょいですね。
4Gamer:
それはまたえらい突貫ですね……。それで100%データ連動を実現させるのは,さぞ大変だったでしょう。
本橋氏:
ええ,何より時間がなかったので,本当に大変でした。モバイル版とPC版では通信仕様が違うので,100%データ連動をするといっても,まずはPC版の通信仕様に対応させ,セキュリティを考え,ブラウザ別でも技術的対応を考えねばならないと。元となるモバイル版のデータ構造を一から設計しなおす必要がありましたし。加えて,PC版ではUI(ユーザーインタフェース)や演出面もパワーアップさせなければならない状態でした。
4Gamer:
喧嘩番長は,モバゲー/Yahoo!モバゲー合わせて150万人以上の累計会員数を誇っているそうですが,具体的にはどのようなゲームなのでしょうか。
ゲームの基本的な枠組みは,「Mafia Wars」や「モブストライク」といった,昔からあるソーシャルゲームを参考にしています。プレイヤーは一人の不良となり,一定時間で回復する行動力(本作ではケンカ/シゴトの舎弟人数)を消費しつつ,ケンカ(ほかのプレイヤーとのバトル)やシゴト(ミッション)をこなして漢を磨いていきます。そしてほかのプレイヤーと地元ランキングや全国ランキングを争いながら,不良の頂点を目指すことが目的です。
4Gamer:
なるほど,まぁ,不良テーマのコンテンツということで,そういったシステムとの相性は良さそうですよね。実は私もYahoo!モバゲー版をプレイしているのですが,喧嘩番長ならではの工夫も,さまざまな部分で確認できました。
植松氏:
ありがとうございます。喧嘩番長の面白いところは,ランキングが全国/都道府県別/市区郡別といった具合に,細かく分かれているところです。なぜこのような形にしたかというと,“トップ争い”だけだと,そこに参加できないプレイヤーが極めて多く生まれてしまうからです。私達からすれば,ライト層からコア層まで,すべてのプレイヤーに競争に参加してもらいたいので,このようなランキングシステムを作ったんです。
4Gamer:
しかも,そのランキングシステムが,ゲームのコンセプトにもベストマッチしていますよね。喧嘩番長“全国制覇”ということで,まずは地元でのテッペンを目指すところから始めると。
本橋氏:
また,皆さん人生の中で,一回くらいは,不良に憧れたり,関わったりしたことがあると思うんです。ポジティブな印象にせよ,ネガティブな印象にせよ,ある程度の共通認識/体験を持っている人は多いはずなので,そういう意味でも,コミュニケーションや競争のきっかけになったんじゃないかなと考えています。
4Gamer:
日本の漫画には,そのものずばり“ヤンキー漫画”的なジャンルもあるくらいですし,テーマそのものの認知度や,独自の世界観に関しては,想像以上に受け入れられているのかもしれませんね。ヤンキー文化の善し悪しについては,ここでは置いておくとして。
ちなみにモバゲーというと,中高生のプレイヤーも多いと思うんですが,喧嘩番長のプレイヤーは,どのあたりの年齢層が目立っているんでしょうか?
本橋氏:
もちろん,若年層もかなりの割合を占めてはいるんですが,メインプレイヤー層は30代なんです。女性も結構いますよ(笑)。
植松氏:
コミュニティなどを見ていると,「お前,会いにこいや!」みたいなちょっと過激な書き込みもありますからね。もしかしたらリアル不良の世代も,本作に興味を持ってくれているのかもしれません。それも喧嘩番長というタイトルであれば,あまり深刻なやりとりに見えないから不思議です。実際に会ってしまうと怖いですけど(笑)。
4Gamer:
中には,ロールプレイとして書き込んでいる人もいるでしょうしね……。ほかには,何か特徴的な要素はありますか?
特徴というと,プレイヤー同士の対戦時における,三すくみの仕様(※)ですね。実際に対戦するまで,相手がどの順番で,どんな攻撃を設定しているか分からないので,そこに戦略性が出てくるんです。力が僅差の相手に対して,数ポイント差で負けてしまったときなどは,本気で悔しくなりますよ。
※パンチは大技に強く,キックはパンチに強く,大技はキックに強いという仕組み。1回の戦闘での攻撃機会は3回あり,1発目〜3発目にどの攻撃を配置するかがケンカの勝敗の鍵を握っている
4Gamer:
喧嘩番長は,たとえ多少のレベル差があっても,プレイヤーの工夫や運次第で勝てることもある,というバランスが面白いですね。ランキングの仕様にしても,ライト層への配慮みたいなものを感じます。
ところで,本作は基本プレイ料金無料のアイテム課金制で運営されており,モバゲーでは売り上げ的にもトップクラスであると聞いています。プレイヤーは喧嘩番長の何にハマり,どのようなアイテムを購入しているのでしょうか。
本橋氏:
バトルものということもあり,やはり競争意識が重要なポイントになります。アイテムの種類としては,ステータスアップ系のものを買われる方が多いですね。本作のランキングシステムは,市区郡から始まり,やがては都道府県での順位争いへと発展していきます。競争意識や達成感を,段階的にくすぐる仕組みがあるのが,ゲームの魅力でもあり,ビジネスとしての強みでもあると考えています。
4Gamer:
時間がなくても遊べるのがソーシャルゲームの良いところですが,大目標を達成しようとなると,逆に一般的なゲームよりも時間をとられてしまいがちですよね。その点本作は,「全国ナンバー1を目指すのは無理そうだけど,地元ならなんとかなるかも」みたいな気楽さがあって,確かにモチベーションを維持しやすいかもしれません。
あと,行動力(舎弟)回復アイテムも売れています。これはソーシャルゲームの特徴の一つだと思うんですけど,行動力が尽きてしまった場合,しばらく時間を置かないと重要なアクションが実行できないんですよね。
ここに関しては,際限なく販売してしまうと課金万歳のゲームになってしまいますから,一日の利用上限を設定させていただいています。
本橋氏:
あとは,喧嘩番長ならではのアバターですね。ディー・エヌ・エーさんが用意しているモバゲー版のアバターも良いのですが,それはどちらかというと可愛い系で,不良を表現しづらいところがありました。植松には,不良に対する強いこだわりがありますし(笑)。
植松氏:
モバゲーでもGREEでも,PCブラウザゲームでもそうだと思うのですが,アバターのカスタマイズが魅力的なゲームは,必ずソーシャルアプリランキングの上位に食い込みますよね。やはりソーシャルゲームである以上,自己顕示欲は自然に発生するので,カスタマイズ要素は外せません。コンシューマ版の喧嘩番長もそうなんですけど,リアルな不良の世界を描くのが喧嘩番長のテーマなので,デフォルメアバターは考えられませんでした。
4Gamer:
なるほど。
また,ソーシャルゲームは気軽にプレイできますが,だからといってコンテンツ開発も気軽に……というのは,私としては絶対NGだと思うんです。タイトルの世界観にマッチしたアバター,各ランキングの頂点を目指すという目標,コミュニティとの優良な連携など,さまざまな動機をもって興味を持ち続けてもらうことはすごく大切ですね。
4Gamer:
そういえば喧嘩番長では,例えば同じプレイヤーを連続的に狙ったりした場合,シャバ度(格好悪い行為,漢らしくない行為をした際に貯まるポイント)が高まってしまいますね。あれはソーシャルゲームならではの粘着プレイを抑止するためのものとして考えると,非常にスマートなやり方だなと思いました。そのあたりも,居心地の良さを狙っての仕様なのでしょうか。
本橋氏:
最初は,シャバ度の使い道がボヤっとしてたのですが,運営を開始してしばらくしたら,「これをやってしまったら不良として格好悪いだろう」という行為が,ゲーム上でも目立つようになってきたんです。それをやんわりと抑止するために,“シャバイ”という考え方を使ったらどうだという提案が,植松からあったんです。
4Gamer:
なるほど。喧嘩番長の世界観を理解している人であれば,誰も好きこのんでシャバくはなりたくないですし,実にうまいやり方ですね(笑)。
しかし,当初は奇抜なアイデアや,インパクトのあるプロモーションなどで会員の獲得を狙っているのかと思っていたのですが,お話を聞く限り,実にまっとうなやり方で,地道に評価を高めていったんですね。
本橋氏:
ええ,意外と思われるかもしれませんが,すごく大まじめに取り組んでいます。ネタとして見られがちなテーマだからこそ,今後もゲーム設計や運営などに関しては,奇をてらわず,真剣に取り組んでいきます。
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喧嘩番長 全国制覇
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