レビュー
LGA2011初の4コア8スレッドモデルを試す
Core i7-3820/3.6GHz
上位2モデル「Core i7-3960X Extreme Edition/3.3GHz」(以下,i7-3960X)と「Core i7-3930K/3.2GHz」(以下,i7-3930K)について,主に費用対効果の面から,4Gamerでは「十分に高い性能を持つものの,ニッチ市場向けである」と位置づけたが(関連記事),「2012年第1四半期発売予定」とされるi7-3820は,選択する価値のあるCPUとなっているだろうか。性能評価用エンジニアリングサンプルを入手したので,検証にかけてみよう。
倍率が「一部アンロック」されたi7-3820
オーバークロックテストでは4.2GHz動作を確認
さて,まずはi7-3820の基本スペックから。
i7-3820は「Intel Hyper-Threading Technology」に対応した,4コア8スレッド対応のSandy Bridge-Eである。定格動作クロックは3.6GHzで,「Intel Turbo Boost Technology 2.0」(以下,Turbo Boost)により最大動作クロックは3.9GHzに達する。共有L3キャッシュはコアあたり2.5MBの合計10MBだ。
なので,上位モデルであるi7-3930Kと比較するした場合,「コア数が3分の2に減った一方で,定格動作クロックは400MHz,最大動作クロックは100MHz高く,コアあたりのL3キャッシュ容量は512KB多いCPU」ということになる。
そんなi7-3820のスペックを,i7-3930K,そしてLGA1155版の「Core i7-2600K/3.4GHz」(以下,i7-2600K)ともどもまとめたものが表1だ。
Rampage IV Extreme メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:テックウインド(販売代理店) 03-5812-6131(平日10:00〜16:00) 実勢価格:4万2000円〜4万7000円程度(2012年1月5日現在) |
Rampage IV ExtremeのUEFIから確認したところ,Turbo Boost倍率の上限は44倍だった |
今回入手した個体では,コア電圧1.295V設定時に4.2GHz動作を確認できた |
原稿執筆時点である2012年1月4日時点でその上限値は公開されていないものの,ASUSTeK Computerの「Intel X79 Express」マザーボード「Rampage IV Extreme」のUEFI(≒BIOS)で確認した限り,その上限は44倍のようだ。
ではさっそく,その倍率変更を試してみよう。今回は,後述するテスト環境に,Intel純正の空冷CPUクーラー「RTS2011AC」を組み合わせたうえで,UEFIから4コアすべてのTurbo Boost倍率を変更する手法でオーバークロックを試行。Rampage IV Extremeでは,Turbo Boost倍率の変更を「一部のコアに適用させるか,すべてのコアに適用させるか」を選択できるので,今回は全コアを選択したうえで,ストレスツール「OCCT」(Version 4.0.0)のCPUテストが問題なく6時間動作することをもって「安定動作」したと判断することにしている。
その結果,CPUコア電圧を定格の1.2Vから1.295Vまで高めたところで,42倍,つまり4.2GHz設定で安定動作を確認できた。i7-3960Xの場合,CPUコア電圧を1.4Vにまで高め,かつ,Intel純正の簡易液冷クーラー「RTS2011LC」を組み合わせたときに4.5GHz動作していたので,同じSandy Bridge-Eコアを採用したCPUとして,妥当な結果が出たと述べてよさそうだ。
※注意
CPUのオーバークロック動作は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の個体で得られた動作クロックがすべての個体で有効だと保証するものでもありません。
プロセッサナンバーどおりの順当な結果
4.2GHz動作でi7-3930Kと同等のスコアに
先ほど後述するとしたテスト環境は表2のとおりだ。
BF3のテストにあたっては,グラフィックス設定をひとまず「最高」プリセットにしたうえで,GPUがスコアに与える影響をなるべく小さくすべく,2つのアンチエイリアシング項目をいずれも無効化し,さらに異方性フィルタリング項目を「1x」とした「カスタム」プリセットを利用する。
というわけで,さっそく「3DMark 11」(Vesion 1.0.3)から見ていこう。グラフ1は「Entry」「Performance」「Extreme」各プリセットのスコアをまとめたものだが,CPUへの重み付けが大きいEntryプリセットに注目すると,i7-3820のスコアはi7-3930Kとi7-2600Kのちょうど中間に収まった。プロセッサナンバーどおりといえる,順当な結果だ。
また,i7-3820@4.2GHzはi7-3820から2.2%ほどスコアが伸びており,i7-3930Kに迫る結果を示した。
続いてグラフ2,3は,DirectX 11世代のFPS「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)から,最も描画負荷の低い「Day」と,逆に最も高い「SunShafts」の両シークエンスにおけるスコアを抜き出したものになる。
DayのなかでもCPUの性能差が出やすい1280×720ドットに着目すると,i7-3820とi7-2600Kでスコア差は13%に達し,Core i7-3000番台にあるメモリ周りの優位性が出ているように感じられる。また,i7-3820@4.2GHzがi7-3930Kを上回っている点も立派といえよう。
一方,SunShaftsシークエンスだと描画負荷が高まるため,スコアはキレイな横並びとなる。
グラフ4はBF3の結果だが,こちらもSTALKER CoPのSunShaftsシークエンスと同じく,スコアに明確な違いは見られない。
「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)の結果をまとめたグラフ5だと,最も描画負荷の低い1280×720ドットにおいて,i7-3820はi7-3930Kとi7-2600Kのほぼ中間の位置に収まり,3DMark 11のEntryプリセットに近い結果になった。また,i7-3820@4.2GHzはi7-3930Kとほぼ同等の性能を示している。
なお,i7-3960X&i7-3930Kのレビュー時だと,i7-3930Kとi7-2600Kとの間にスコアの差はなかったが,今回は明確な違いが出ている。GPUを「GeForce GTX 580」に変更したことで,GPU側のボトルネックが解消したということなのだろう。
DirectX 9世代で,描画負荷の極めて低い「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)の結果がグラフ6になるが,ここではSTALKER CoPのDayシークエンスと似た傾向になった。i7-3820のスコアはi7-2600Kよりむしろi7-3930Kに近い。
グラフ7は「Just Cause 2」のテスト結果で,先のレビュー記事だとスコアの振るわなかったi7-3930Kが,今回は順当な数字を残している。先のレビューからハードウェア的にはマザーボードとGPUが変わっているので,前回は「DX79SI」のBIOSに何らかの問題があったのではなかろうか。
いずれにせよ,ここではほぼプロセッサナンバーどおりの結果になっている。1920×1080ドットでi7-3820がi7-3930Kを若干上回っている点は,スコアの頭打ちが生じた結果とも,前者の高い定格クロックが効いた結果とも取れるところで,このスコアだけではなんとも言えない。
「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)のテスト結果がグラフ8だ。Civ 5でのi7-3820はi7-3930Xに約8.5%の差を付けられ,さらにi7-3820@4.2GHzすらi7-3930Xに届いていない。コア数の違いがスコアに影響を与えているというわけだ。
なお,ここでもi7-3960X&i7-3930Kのレビュー時とはスコアの傾向が異なるが,GPUの変更によってボトルネックが解消したということなのだろう。
性能検証では最後となるのがグラフ9の「DiRT 3」。こちらもJust Cause 2と似た傾向だ。
i7-3930Xから大きくは下がらない消費電力
コア数の減少が動作クロックの向上で相殺か
同じ4コア8スレッドのCPUながら,i7-2600Kは統合型グラフィックス機能を含んだTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)が95Wなのに対し,i7-3820はCPUだけで130W。単体グラフィックスカード利用時の消費電力には大きな違いが生じそうだが,実際のところはどうだろうか。
OCCTを30分間連続実行した時点を「高負荷時」,その後,30分間放置した時点を「アイドル時」として,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」からシステム全体の消費電力を計測した結果がグラフ10だ。
マザーボードが異なるため,i7-3820とi7-2600Kで完全な横並びの比較ができない点は注意してほしいが,それでも40Wの差はやはり大きい。また,i7-3820とi7-3930Kのスコア差があまり大きくない点も目を引くところである。
Sandy Bridge-Eのフルスペックに対して半分しか有効なコアのないi7-3820だが,定格動作クロックが高く,また,コアあたりのL3キャッシュ容量がフルスペックになっていることが影響しているのではなかろうか。
グラフ11はアイドル時と高負荷時におけるCPU温度を「HWMonitor Pro」(Version 1.1.2)で取得し,コアごとの平均を取ったものだ。テスト時の室温は26℃で,テスト環境をPCケースに組み込まず,いわゆるバラック状態に置いてあるときの結果となるが,i7-3820のスコアは,いずれのテスト条件でもi7-3930Kから下がっている。筆者の主観で語らせてもらうと,ファンの動作音は両者でほとんど変わらないので,純粋にi7-3820のほうが発熱は低いと考えて差し支えなさそうである。
なお,i7-3820@4.2GHzの高負荷時でCPU温度が上昇していないのは,CPUクーラーの回転数がi7-3820のそれと比べて増しているためだ。
極めて順当なスコアにまとまったi7-3820
PCIeレーン数とメモリ周りに魅力を感じる人向け
最後に参考として,PC総合ベンチマーク「PCMark Vantage」(Build 1.0.2)のスコアをグラフ12に示し,スコアの詳細を表3にまとめてみた。映像や画像系の処理を中心に,i7-3820のほうがi7-2600Kよりも高いスコアを示すようだ。
以上の結果からして,i7-3820のスコアはプロセッサナンバーどおりと評するのが妥当と思われる。i7-2600Kからの上積みはそれほど大きくないため,(今回はテストできていないが)「Core i7-2700K/3.5GHz」と比較したら,リードはさらに縮まるだろう。
今のところ発売日は明らかになっておらず,価格も不明。ただ,秋葉原ショップ筋の話によれば,2月ごろ,3万円程度で登場する見込みとのことなので,i7-3820は,「Core i7-3000番台の大きな特徴である豊富なPCI Expressレーン数とメモリ周りの性能に魅力を感じるものの,CPUにそれほどコストをかけたくはない」という人向けになりそうだ。
マザーボードやメモリモジュールなども込みにした価格対性能比では,Core i7-2000番台のほうが間違いなく有利である。価格面での魅力が上位製品よりも増しそうなi7-3820ではあるが,それでも,Sandy Bridge-Eプラットフォームの「“分かっている”人向けのニッチな選択肢」という評価は変わりそうにない。
Intel公式Webサイト
- 関連タイトル:
Core i7(Sandy Bridge-E)
- この記事のURL: