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[GDC 2011]スマートフォン向けストラテジーゲームとは何か? 「Highborne」から探るヒットの要因
レクチャーは,Stojsavljevic氏の自己紹介で始まった。Stojsavljevic氏はJetsetgamesに所属する開発者で,古くはCommand & Conquerシリーズ,最近ではiPhone用ストラテジーゲーム「Highborne」の制作に関わっている。
ちなみにHighborneは,2010年6月にiPhone,7月にiPad,12月にGoogle Chrome向けに発売されたストラテジーゲームで,海外での評価が高い作品だ。2011年3月にはAndroid版も発売される予定となっている。
そんなHighborneを開発するうえで,Stojsavljevic氏が気をつけたことは,プラットフォームの違いだ。PC/コンソール向けのゲームであれば,マウスとキーボード,ゲームパッドなどを使って遊ぶのが基本だが,現在発売されているスマートフォンはタッチ操作が主流であり,入力方法が根本的に異なる。加えて,ゲームを遊ぶシチュエーションにもかなり差があり,スマートフォンでゲームを遊ぶ人のうち47%は家で,39%が外出先で,そして残る14%が仕事中にゲームをしているのだという。
また,ゲームを遊ぶ時間にも差があり,スマートフォンを使った場合は総じて短い。Highbornを遊んでいる人の,1回の平均プレイ時間はおよそ8分だそうだ。しかも,その8分間に違うことを同時に進行している確率も高いという。
それらを踏まえたうえでStojsavljevic氏は,ゲームをスマートフォンに最適化するために重要なことを説明した。
1.1回のゲームプレイ時間を短くする
2.ゲームプレイが中断されることを想定する
3.プレイヤーに真剣にゲームの遊び方を学習しようとさせない
4.マップ(画面)の狭さを意識した作りにする
各項目を補足すると,1つ目はプラットフォームの違いでも述べられたが,スマートフォン向けのゲームは,1回のプレイ時間が短い傾向にあるため,理解はしやすいだろう。2つ目は,総じてスマートフォンでゲームを遊んでいる人は,ゲームプレイを中断しなければならない状況になることが多いので,それを見越したゲームデザインが必要ということだ。3つ目は,なにか別のことをやりながらプレイする人も多く,ゲームへの集中度が低いため,ルールが複雑なゲームは不向きという意味になる。
そして最後は,プレイヤーが気にするであろう,自軍と敵軍の位置や資源の量といった情報を,分かりやすく表示させるべきだということで,ここがストラテジーゲームをスマートフォン向けに作るうえで,もっとも苦労する部分なのだそうだ。
続いてStojsavljevic氏は,ストラテジーゲームを,以下の4つに分類し,スマートフォン向けにはターンベースが向いていると説明した。
・リアルタイム(WarCraftなど)
・ターンベース(シヴィライゼーションシリーズなど)
・タクティクス(プラント vs. ゾンビなど)
・コンペティティブスポーツ(Heroes of Newerthなど)
その理由として,マップが狭くてもそれほど問題がないこと,マルチプレイが作りやすいこと,ゲームプレイの中断に対応しやすいこと,アクション要素がなく操作がしやすいこと,さらにストーリーを挿入しやすいという点が挙げられた。
Stojsavljevic氏は,そういったポイントに気を付けつつHighborneを開発したわけだが,見事ヒットさせたのだから,説得力はある。またStojsavljevic氏は,Highborneがヒットした理由として,ゲームグラフィックスのトーンを明るくし,ストラテジーゲームをプレイした経験がない人達の獲得に成功した点も挙げていた。ストラテジーゲームというと,1画面に表示するキャラクターや情報量が多くなりがちなうえ,重厚さを演出するためか,グラフィックスのトーンは暗いものが多い。だが,そういったものとは正反対のゲームを作り上げて,見事ヒットに結びつけたのだ。
もちろん,すべてがうまくいったわけではない。Stojsavljevic氏がとくに残念がっていたのが,価格の問題だ。というのも,当初は1ドル99セントで販売していたがほとんど売れず,99セントに値下げしてようやく売れ始めたという。
安ければいいというわけではないが,有名なIPを使った作品や,名の知れたパブリッシャであれば,もっと高い価格でも勝負できるのだろうが,そのどちらの条件も満たしていない場合は,99セントぐらいにしないと,そもそも遊んでもらえないのだという。ヒットゲームの作り方を主旨にするレクチャーで,最終的な結論として「価格を安くする」という項目が含まれてしまうことに,時代の流れを感じてしまう。約半額にしたHighborneが,ビジネス的に成功しているのかどうかについては明言されていなかったが,開発会社にとっては苦しい時代に突入していることをうかがい知れるレクチャーでもあった。
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