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[CEDEC 2011]やがて据え置き型コンシューマ機はなくなり,すべてモバイル機になってしまうのか。「ゲーム開発マニアックス〜グラフィックス編」レポート
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印刷2011/09/08 17:56

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[CEDEC 2011]やがて据え置き型コンシューマ機はなくなり,すべてモバイル機になってしまうのか。「ゲーム開発マニアックス〜グラフィックス編」レポート

西川善司氏
画像集#010のサムネイル/[CEDEC 2011]やがて据え置き型コンシューマ機はなくなり,すべてモバイル機になってしまうのか。「ゲーム開発マニアックス〜グラフィックス編」レポート
 ライターの西川善司氏が司会を務めるCEDEC 2011のパネルディスカッション,「ゲーム開発マニアックス」が2011年9月6日に行われた。先日掲載した「物理シミュレーション編」に続いて行われた「グラフィックス編」を本稿で紹介していこう。昨年のCEDEC 2010では,最先端グラフィックス技術がテーマとなっており,どちらかといえばソフトウェア技術を中心にした内容だったが,それに対して今年は「モバイルグラフィックス」をテーマにしたディスカッションになった。本稿ではモバイル機を対象とした,あるいはモバイル機種向けの描画関連を,ディスカッションに合わせこの「モバイルグラフィックス」で表記していくのであらかじめお断りしておきたい。
 高い3D性能を持つスマートフォンの普及やPlayStation Vitaの登場など,ゲームプラットフォームとしてのモバイル機への注目が高まっているが,果たしてどのようなことが話し合われたのだろうか。概要を紹介しよう。

写真左から,デジタルメディアプロフェッショナル 取締役ハードウェア開発部長 大渕栄作氏。Imagination Technologies 小川晴彦氏。NVIDIAのディベロッパーテクノロジーマネージャ ロブ・テシェーラ氏。NVIDIAのマーケティング本部テクニカルマーケティングエンジニア スティーブン・ザン氏。シリコンスタジオ リサーチ&デベロップメント部ソフトウェアエンジニア 新井タヒル氏
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モバイルグラフィックスのハードウェア&ソフトウェア関係者がパネリストに


 登壇した5人のパネリストは,いずれもモバイルグラフィックスに携わる方々。冒頭ではそれぞれのパネリストの紹介も兼ね,各社の製品などが紹介された。

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デジタルメディアプロフェッショナルは,組み込み用途のグラフィックスプロセッサ,PICA200の開発を行っている。参加する大渕氏は,OpenGLなどの策定を行うkhronos Groupのメンバーとしても積極的に活動しているとのこと
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シェーダのアルゴリズムの共通項を抜き出してハードウェア化したのが,PICA200であるようだ。多くの場合,消費電力の点でハードウェア化はきわめて有利になる。モバイルグラフィックス分野では選ばれやすい方向性だ

PICA200では,DirectXのシェーダで数10ステップに相当する処理が,数クロックで終わる
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 まず大渕氏から,デジタルメディアプロフェッショナルの現行製品である「PICA200」の概要が紹介された。PICA200という名称に聞き覚えがある人もいると思うが,これは,ニンテンドー3DSに採用されたことで話題になった国産グラフィックスアクセラレータだ。ただ,任天堂から公式発表があったわけではないので,大渕氏は「3DSにPICA200が入っていると,私からは言えない」とボカシ気味であった。
 大渕氏によるとPICA200は,OpenGLなどで使われるシェーダのアルゴリズムを部分的にハードウェア化して高速化,低消費電力化を図ったものであるようだ。ただし「固定ハードウェアではなくコンフィギュアラブル」(大渕氏)とのことで,ある程度プログラマブルな部分を残しながらハードウェア化した製品だろう。長年,ASICなどを得意分野としてきた,日本らしいグラフィックスアクセラレータといえるかもしれない。

Imagination Technologiesが手がけるPowerVRは,Differd Pixel Shadingという手法が特徴。これは,先に隠面処理を行い,表示される部分しかレンダリングしないというものだ。また,タイルベースのレンダリングを行うためにメモリ帯域幅を必要とせず,システムの省電力性能が向上している
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 Imagination Technologiesから参加した小川氏は,同社が手がける「PowerVR」を紹介。古参ゲーマーなら,セガのコンシューマ機であるドリームキャストに使われていたPowerVR2を思い出すかもしれないが,現在は多数のARMベースのSoC製品に採用され,スマートフォン分野では主流の一つといっていい。PlayStation VitaにもPowerVR SGX542MP4+が採用されており,日本のゲーム開発に深く関わるグラフィックスアクセラレータといえる。

ザン氏から,Tegra 2のデモンストレーションが披露された。デモに使用されたのはASUS EeePad Transformerだ
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 NVIDIAからはテシェーラ氏とザン氏の2人のパネリストが参加した。NVIDIAについて改めて紹介するまでもないだろうが,デスクトップ&モバイルPC向けのGeForceシリーズに加え,ARMベースのSoC向けの製品「Tegra 2」により,モバイル分野での存在感も増している。

 最後に紹介された新井氏は,パネリストの中ではただ一人となるソフトウェアエンジニア。新井氏はPCおよびPlayStation 3,Xbox 360に対応するゲームエンジン「OROCHI」の開発を手がけており,現在は「OROCHIのPlayStation Vita対応を進めているところ」だそうだ。


デスクトップグラフィックスと同じレベルを目指す,モバイルグラフィックス


 以上のパネリストがモバイルグラフィックスについてのディスカッションを行ったわけだが,西川氏は最初の論点として,果たしてモバイル機に高いグラフィックスクオリティが必要なのかという疑問を投げかけた。PCやコンシューマ機向けのゲームがモバイル機でプレイできること自体は,現在そう珍しいことではない。では,そこまでする必要があるのかというわけだ。

 この疑問について多くのハードウェアベンダーは,「必要である」とする。例えば小川氏は「PowerVRを搭載するタブレットでは,すでにHD出力を可能にしているし,Unreal Engineのようなゲームエンジンを使えば,ハイレベルなグラフィックスの制作が可能」と語った。NVIDIAも同意見で「PC向けのゲームがそのままモバイル機でプレイできることが,NVIDIAのゴール」(テシェーラ氏)。「小さいディスプレイだとしても,720P,さらにフルHDゲームグラフィックスになっていくし,そうすべき」(ザン氏)とする。

モバイル機向けのGPUでも,高性能化に伴ってOpenCLなどをサポートする動きがある
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 グラフィックスの高性能化は急ピッチで,例えば次世代のPowerVR Series 6では「210GFLOPSを達成する。これはミドルレンジPCや据え置き型のコンシューマ機に追いついてしまうレベル」(小川氏)とのこと。モバイルグラフィックスの性能が,PCや据え置き型のコンシューマ機と肩を並べる日は,そう遠くはないようだ。

 続いて西川氏は,「取材をしていると,モバイル機向けのSoCでGPGPU的なことをやると,各所でほのめかされる」と話題を振った。4GamerでもARMがオリジナルGPUコア「Mali」でOpenCLのサポートに乗り出そうとしていることをレポートしたが,こうした動きはモバイルグラフィックスにどういう影響を与えるのだろうか。

PowerVRは,レイトレーシングのアクセラレーションを行うOpenRLのサポートを打ち出した
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 OpenCLの仕様策定などを行うKhronos Groupのメンバーでもある大渕氏は「ハイパフォーマンスのGPUがモバイル機に使われるようになったとき,グラフィックスだけで使うのはもったいない。カメラをやっている人なら画像処理にも使いたいという感じで,ほかの用途に使用する必要性によってGPGPUの需要が高まるのではないかと思っている」と予想する。
 その一方,レイトレーシングのアクセラレーションを行うOpenRLについては,PowerVRがそのサポートを打ち出したものの,「OpenRLのサポートはいつになるか分からない。まず開発環境を整えて,最終的にはSoCに入っていくという流れ」(小川氏)とのことで,口ぶりからは,PowerVRでレイトレーシングアクセラレーションを行えるようになるのはかなり先になりそうだったが,プロジェクトとしては進行しているらしい。

 NVIDIAも「(Tegraシリーズには)今後さらにGeForceの技術を落としこんでいくので,CUDAも将来Tegraで使えるようになる。OpenCLはもちろん,CUDA上で動いているレイトレーシングエンジンOptiXなどもTegraで使えるようになる」(ザン氏)ということで,PowerVRなどと同じ方向に向かっていると考えてよさそうだ。

 となると,モバイル機で据え置き型コンシューマ機やPCと同じゲームが同じクオリティで動くようになるわけで,ゲーム開発が簡単になる部分もある。だが,マルチプラットフォーム対応のゲームエンジン開発を手がける新井氏は,その状況に対して懐疑的だった。
 「これは,ゲームの多様化にも関わってくることで,果たして複数のプラットフォームで同じゲームが動くのが正しいことなのだろうか? モバイル機と据え置型コンシューマ機で差別化を図らないと,ゲーム業界が縮小するのではないかという懸念を持っている。OROCHIでは,それぞれの棲み分けを大事にするため,モバイル機と据え置き型機を二つのチームが別々に担当している」(新井氏)。
 確かに,プラットフォームの特性を生かしたゲームタイトルの存在は,ゲームの進歩にとって必要なことかもしれず,新井氏の意見にも納得できる。


これからのコンシューマ機はどうなる?


 とはいえ,グラフィックスに差がなくなってくると,いずれ据え置き型のコンシューマ機は必要なくなる可能性がある。「形態として,据え置き型がなくなって携帯型だけになるんじゃないだろうか?」と西川氏は問いかける。
 それに対して,大渕氏とザン氏は肯定的だ。「究極的にはそうなる方向だと思う。半導体技術が進めば消費電力も下がり,(据え置き型と携帯型の)境界が分からなくなってくる。モバイル機にHDMIがついてくれば,状況はさらに進むはず。流れとしては,据え置き型とモバイル型で同じグラフィックスコアを使っていくほうが,自然だと思っている」(大渕氏)と,合理性からいって両者は融合すると予測する。
 NVIDIAのザン氏はさらに,タブレットのメインストリームがTegra 2を搭載していることから,すでに現状はそうなっているとする。「HDMIで大きな画面に出力できる携帯型が多くなる。BluetoothやUSBもサポートしているので,もはや融合しているのではないだろうか」(ザン氏)。

 だが,据え置き型のコンシューマ機がなくなるという予測に,新井氏は懐疑的だ。「国内では据え置き型の売上が伸びないという話があるが,海外では依然として伸びている。日本と海外では,住宅事情やゲームのプレイスタイルが異なるので,据え置き型の需要は当分はあるだろう」(新井氏)とした。

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 続けて西川氏は,「クラウド側でレンダリングして,モバイル機側はディスプレイだけでいいという方向性はないのか?」と問いかけた。これに対してNVIDIAのザン氏は「モバイル機ではレイテンシが問題になるが,レイテンシが小さく高速な通信規格も登場してきたので可能性がないとは言えない」。
 また,大渕氏も「ライトマップの更新など,リアルタイム性が必要とされないものについては,クラウドに投げてしまう可能性がある」という見方を披露した。

 一方,小川氏はゲームではあり得ないと断言。「ゲームにはリアルタイム性が要求されるので,当分クラウドはないだろう。むしろ,ハイエンドグラフィックスがクラウドの影響を受けるのではないか」(小川氏)とした。重いグラフィックス処理をクラウドに任せれば,ハイエンドグラフィックスのあり方が変わっていくというわけだ。

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 もちろんGPUを開発するNVIDIAとしては,ハイエンドなグラフィックスをサーバーに任せるという方向性には賛同しづらいだろう。将来のグラフィックスについてザン氏は「立体視が課題になり続けると思う。現在の立体視のスイートスポットは1つしかないが,将来は多数のスイートスポットが作れるマルチアングルのディスプレイが可能になる。そうなるとGPUに対する要求も上がっていく。やがてはモバイルでフルHDで立体視といった,現在では想像さえできないような解像度が要求される時代がくるだろう」と立体視をからめつつ,個々のGPU性能に対する要求の衰えはないとした。

 このほか,先頃ソニーから発表された,立体視をサポートするヘッドマウントディスプレイが将来のモバイル機のデザインとしてあり得るかといった話なども飛び出し,興味を持って来場した人にとって,示唆に富んだセッションだったのではないだろうか。

 いずれにせよ,さまざまな理由から,モバイルグラフィックスは急激なピッチで進化を続けており,今回のセッションで語られたように,現在のPCや据え置き型コンシューマ機と変わらないレベルに到達するのも,そう遠い日ではないだろう。ゲームプラットフォームとしての注目度もきわめて高く,今後,さまざまなタイトルがモバイル機でプレイできるようになるはずだ。そのとき,PCや据え置き機ではどのようなゲームが登場しているのか(あるいは,登場していないのか),そのあたりも興味深い。
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