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[EVO2012]創始者Joey “Mr. Wizard” Cuellar氏に聞く,格闘ゲームシーンのこれまでとこれから。日本人選手の活躍から振り返るEVO2012
本稿では,そのEVO2012の締めくくりとして,EVOの創始者であるJoey Cuellar氏へのインタビューをお届けする。世界最大規模のトーナメントにまで成長したEVOが,どのようにして始まり,そして如何にしてこれほどのブランド力を築いたのか。来年こそは参加しようかな……と考えている選手予備軍から,観戦で寝不足になった動画勢の読者まで,ぜひご一読いただきたい。
またインタビュー後には,今回の日本人選手の活躍をあらためて振り返り,EVO2012についての総括を行っているので,こちらもぜひ読み進めてもらえれば幸いだ。それではまず,“Mr. Wizard”こと,EVO創始者Joey Cuellar氏のインタビューから始めていこう。
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EVO創始者,Joey “Mr. Wizard” Cuellar氏インタビュー
■EVOの誕生と広がり
4Gamer:
本日はお時間をいただき,ありがとうございます。さっそくですが,まずEvolution(以下,EVO)を始めたきっかけから伺わせてください。現在は,まさに世界最大規模といって過言ではないEVOですが,スタートは1995年頃とお聞しています。
Joey Cuellar氏(以下,Joey氏):
そう。丁度インターネットが普及し始めた頃だね。あの頃は現在のようなオンライン対戦環境はもちろんなかったし,またプレイヤー達の間で”本当は誰が一番強いのか”というのがハッキリしない時代だった。だから「最強」を決める大会を開こうと思ったんだ。
4Gamer:
現在のEVOはコンシューマ版がベースの大会ですよね。日本での格闘ゲーム大会といえば,1990年代から今に至るまで,アーケードがメインストリームになっていて,その違いが面白いと感じます。
Joey氏:
アメリカでも,もともとはアーケードが盛況だったし,EVOのスタート当時はアーケードベースの大会だったんだ。でも(アーケードの数が)どんどん減ってきて。EVOは2003年からコンシューマ版に移行して,現在の形になったんだ。
ちなみに,そのときのゲームタイトルは?
Joey氏:
「MARVEL VS. CAPCOM 2」のドリームキャスト版かな。ほかにも「スーパーストリートファイターII X」 「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」 「CAPCOM VS. SNK 2」なんかが,主要なタイトルだったと思う。
4Gamer:
なるほど。EVOはそこから年々規模が拡大し,現在の形になりましたが,その成功の理由はなんだと思いますか。
Joey氏:
もっとも重要なのは,「プレイヤーが参加したくなるようなゲームタイトルを種目に選んでいる」ということかな。EVOがここまでのイベントになったのは,我々の考えた種目やレギュレーションが,プレイヤー達に受け入れられた結果だと思うね。
4Gamer:
そのレギュレーション――トーナメントルールについてですが,EVOを始めとした海外の大会では,ダブルエリミネーション方式※が採用されています。ここが日本の大会とは大きく違う点だと思うのですが,なぜこのルールを採用したのでしょうか。
※ダブルエリミネーション方式……プレイヤーが2つのライフを持ち,1度までの敗北なら,優勝のチャンスが残される,というトーナメントルール。負けてライフを1失ったプレイヤーは,LOOSER'Sブラケットと呼ばれる1敗同士の敗者復活トーナメントに移り,その中で勝ち残りを競うことになる。決勝戦(グランドファイナル)は無敗で勝ち抜いたWINNER'Sブラケット勝者と,1敗のLOOSER'Sブラケット勝者で争われるが,WINNER'S勝者はライフを2残しているため,LOOSER'S勝者が優勝するには,WINNER'S勝者に2度土を付けなければならない。1度の負けが許容されるため,いわゆる“事故“が減るものの,試合数が増えるため,トーナメント全体が長時間になるデメリットもある。
Joey氏:
ダブルエリミネーションの方が,プレイヤーの実力が正しく反映されるので,「最強」のプレイヤーを決める大会に相応しいだろう? とくにTOP3まで決めるのに,シングルエリミネーションは向かないからね。
でもダブルエリミネーションは,我々が発明したわけじゃない。アメリカでは元々ダブルエリミネーションが一般的だったんだ。だから,EVOのレギュレーションとしてそれを採用したのは,自然な流れだと思うよ。
4Gamer:
ああ,そうなんですね。しかし日本では,実は個人戦よりも3on3や5on5などの団体戦のほうが人気が高い傾向にあります。しかし海外では少ない。なぜでしょうか。
Joey氏:
アメリカでも団体戦はあるよ。でもそれは,国ごとや,あるいは地域ごとの対抗戦であることがほとんどだ。こちらのプレイヤーは,仲間と協力して戦うよりも「個人の力を試したい」とか「自分が行ってきた努力に対しての正当な評価を受けたい」というモチベーションが大きいみたいだね。団体戦だと,自分と関係ないところで勝敗が決定してしまうこともあるだろう?
4Gamer:
確かに。でも日本のプレイヤー達は,チームメンバーに迷惑を掛けたり,逆に助けられたりといった部分に,ドラマを感じるようです。
Joey氏:
その考え方は分かるよ。だけどアメリカの場合,例えば強い人と弱い人がチームを組んで優勝したとしたら,強い側のプレイヤーが「俺のおかげで勝てたんだ」となってしまう。団体戦であることが,マイナスに働いてしまうことの方が多い気がする。実際に,今回のEVO2012の「STREET FIGHTER X 鉄拳」はペアプレイ形式だけど,コミュニティからは賛否両論出ているしね。
4Gamer:
そこは国民性の違いもあるのかもしれませんね。ちなみに日本では,EVOに参加したウメハラ選手がこのルールを広めたので,EVOの独自ルールと思っている人も多いようです。
Joey氏:
それは光栄だね。今度から「日本にダブルエリミネーションを広めたのはEVOだ」と言うようにするよ(笑)。
■海外シーンにおけるEVOの役割
4Gamer:
ではここからは,アメリカでの格闘ゲームシーンについてお聞きしたいと思います。日本で誕生して世界に広まった格闘ゲームですが,現在のシーンを牽引しているのは,どちらかといえば海外という印象があります。それはEVOの存在が大きいのではないかと思うのですが,実際のところどうなのでしょうか。
Joey氏:
EVOの存在もそうだけど,インターネットの普及がまず大きいと思うね。まだインターネットが普及していない頃のアメリカは,格闘ゲームの対戦レベルでいうと,決して高くはなかったんだよ。
4Gamer:
1990年代のお話ですね。
Joey氏:
その頃のアメリカのプレイヤー達は,だから本場である日本に行きたがったよ。日本人の技術を目に焼き付けて,それを自国に持ち帰って仲間に伝えるということが良く行われていた。
4Gamer:
日本に根強いアーケード文化が,その技術の差を生んでいたと。
Joey氏:
そう。でもインターネットの普及した今は,そんな情報格差はほとんどなくなった。誰もが最新の技術を見て,そこから学んでいけるようになった。それによって,アメリカ全体の対戦格闘ゲーム熱が高まったのが,まずあると思う。
4Gamer:
なるほど。でも今回実際に目にしてみて,EVOというのは参加型のイベントなんだ,という側面を強く感じたんです。トッププレイヤーだけでなく,格闘ゲームを共通言語にして,さまざまなプレイヤー達が集まっている。まるで大規模なOFF会のようです。
Joey氏:
ラスベガス観光のついでに記念参加するプレイヤーも,最近は増えているみたいだね。夏休みに開催しているから,誰もが参加しやすいんだと思うよ。
4Gamer:
日本の大会にはないスタイルなので,驚きました。
Joey氏:
メーカーが開く大会と違って,EVOはプレイヤー達が自分達の手で作ってきた大会だからね。ボランティアから始まったイベントだけど,おかげでコミュニティは大きくなった。そしてEVOというイベントは,今や格闘ゲームトーナメントの枠を超え,ひとつのブランドになりつつあるんだ。
4Gamer:
それに――恐らくこれはアメリカでも一緒ではないかと思うのですが――日本では自分でゲームをプレイするのではなく,EVOなどの大会を「見て楽しむ」層も増えているようです。
Joey氏:
そういった人達は,アメリカ,日本に限らず世界中で増えていると思うよ。アメリカでは「Viewing Party」といって,20〜40人が集まって週末のゲームイベントを観戦するという催しが増えてきてるんだ。
ああ,今回のEVO2012を日本から観戦(関連記事)している人達も,今まさにそんな感じだと思います(笑)。
Joey氏:
例えばEVO2011のDAIGO(ウメハラ選手)vs.Poonkgo戦なんか,ヨーロッパでは朝の4:00頃だったけど,非常に多くの人が観戦していたというデータがある。そうしてゲームに関心を持つ人が増えることは喜ばしいし,それで週末を楽しみにして生活する人がいるなら,とても素晴らしいと思うね。
4Gamer:
なるほど。では少し話が戻るのですが,先ほど情報格差がなくなったというお話がありました。そうは言っても日本人選手の活躍は,今もかなり目立っていますよね。今年(2012年)はとくにだと思いますが,昨年のEVO2011と比べても,EVOに参加する日本人は飛躍的に増えています。この現状をどう思われますか。
Joey氏:
日本からはもちろん,今年は世界45か国からプレイヤーが参加しているんだ。世界中から参加者が集まるからこそ,EVOで優勝することに価値が生まれる。本気で優勝を狙わなくちゃってね。それは日本の選手にとっても同じだし,当然の結果だと思うね。
4Gamer:
おっしゃる通りだと思います。でも実のところ,アメリカのプレイヤー達は怒ってたりしませんか? 日本人参加者達が賞金をごっそり持って帰るので。
Joey氏:
なるほどね(笑)。いや正直なところ,アメリカのプレイヤー達は,現状を悔しく感じていると思うよ。ただ優等生な回答かもしれないけど,その悔しさは次の努力につながるものだよね。事実,アメリカのプレイヤー達の実力は,どんどん向上してきている。もう日本とアメリカのレベルには,ほとんど差がなくなってきていると言っていいんじゃないかな。
4Gamer:
では,来年もっと多くの日本人参加者が来ても問題ないと?
Joey氏:
もちろん。望むところだよ。
4Gamer:
分かりました(笑)。EVO2013にも期待したいと思います。本日はありがとうございました。
日本人選手の活躍から見る,これからのトーナメントシーン
……と,インタビューでは日本人選手の活躍を前提に,ちょっと強気の質問をしてみたのだが,実際のところ,EVO2012での日本人選手の戦績はどうだったのだろうか。決勝トーナメントの結果は,すでにお伝えしているが(関連記事),入賞までを含めたリザルトをここで振り返ってみよう。
■「ソウルキャリバーV」/参加者数:約400名
- 優勝 デコポン選手
- 5位 Crna Ruka選手
- 7位 かまあげ選手
- 13位 ときど選手,ふ〜ど選手,おおさか選手,Crsk選手
■「ストリートファイター X 鉄拳」(※ベスト8まで)/参加者数:約440ペア
- 3位 ときど選手&ふ〜ど選手
- 5位 MOV選手&Poongko選手(※Poonkgo選手は韓国)
- 7位 かずのこ選手&ボンちゃん選手
■「THE KING OF FIGHTERS XIII CLIMAX」/参加者数:約1060名
- 9位 キャベツ選手,ときど選手
- 17位 マゴ選手,カオル選手
■「ULTIMATE MARVEL VS. CAPCOM 3」/参加者数:約1240名
- 9位 超選手,まめスパイダー選手
■「スーパーストリートファイターIV アーケードエディション Ver.2012」/参加者数:約1510名
- 5位 ウメハラ選手
- 9位 金デヴ選手,ハイタニ選手,ふ〜ど選手,どぐら選手
- 13位 キャベツ選手
- 17位 sako選手,MOV選手,うりょ選手
結果として優勝を果たしたのは「ソウルキャリバーV」(以下,SCV)のデコポン選手だけだったとはいえ,ベスト32まで広げてみると,SCVと,「スーパーストリートファイターIV アーケードエディション Ver.2012」(以下,スパIV AE)では多数の日本人選手が上位へ食い込んでいることが分かる。とくにスパIV AEは参加者1500人超という大規模なトーナメントであり,優勝こそ逃したものの日本の持つ平均レベルは現在も高いと言ってよいのではないだろうか。
しかしながら,多くの日本人選手が決勝トーナメントにまで残った昨年と比べると,少々残念な結果であることは確かだろう。その理由をあえて考えてみるならば,その一つには,格闘ゲームのメインストリームが,アーケードからコンシューマ版へと移り変わってきたことの影響が挙げられるだろう。
知識という面においては,先のインタビューでJoey氏が言ったように,また開幕直前のインタビューで,ウメハラ選手とときど選手が語ったように,日米における情報格差はなくなりつつある。スパIV AEのように,リリースから月日が経ったタイトルであれば,それはなおさらだろう。
環境――コミュニティの面でも,日本にとっては逆風といえる状況だ。アーケード文化という,国内において濃密なコミュニティは,拠点となる店舗を失いつつあることで陰りを見せ,日本のコミュニティが弱体化する一方で,逆にもともとコンシューマ版をメインに格闘ゲームをプレイしてきた海外は,インターネットを介して強固なコミュニティを構築している。
こうして知識と環境の両面において,地域差が埋まりつつある現状を鑑みれば,SCVにおける日本人選手達の活躍は,あるいは日本におけるコンシューマ版をベースとした新しいコミュニティ形成の成功例といえるかもしれない。またアメリカのコミュニティが非常に強い「ULTIMATE MARVEL VS. CAPCOM 3」で9位入賞をはたした超選手,まめスパイダー選手の活躍は,とくに目覚ましいものといって良いだろう。
また個人という意味では,今回はTeam Mad Catzのときど選手,そしてRazerのふ〜ど選手の活躍が目立っている。
ときど選手はSCV:13位,ストクロ:3位,KOF XIII:9位,ふ〜ど選手はSCV:13位,ストクロ:3位,スパIV AE:9位,そしてサイドトーナメントの「Virtua Fighter 5 Final Showdown」では優勝と,両選手ともに複数のタイトルにわたって素晴らしい成績を残している。
これはプロゲーマーという職業のあり方に,ひとつの回答をもたらしているといって過言ではないだろう。注目すべきは彼らの「切り替えの速さ」だ。EVOでは幾つものトーナメントが並行して行われるため,ときには複数タイトルの試合が同時進行になることも珍しくない。その過酷な条件の中で出されたこの結果は,賞賛されてしかるべきだろう。
ところで,本年の決勝トーナメントの試合では,各タイトルの各選手にコンボミスが目立っており,ステージ上の配信台になんらかの遅延(ラグ)があったのではないかという意見も聞かれた。この点についてをEVOの常連であるウメハラ選手に聞いてみたところ,少なくともスパIV AEについては「とくに感じなかった」とのこと。確かに優勝したInfiltration選手の切り返し精度をみれば,遅延を言い訳にすることはできないだろう。
ただしタイトルによっては,決勝と予選で環境が違うことはありえるとのことなので,今後EVOなど海外のトーナメントに向けて調整する選手は,プレイ環境の差異についてもある程度慣れておいたほうが良いかもしれない。
※一般的に誤解されている感があるので補足するが,格闘ゲームにおける遅延はただ少なければ良いというものではない。もちろん少ない方が快適ではあるが,一番困るのは,環境によって遅延の具合がバラバラなことなのだ。事実,遅延に気を使って構築したコンシューマ環境とアーケードでは,コンシューマ環境の方が遅延が少ない。そのためアーケードに慣れたプレイヤーは実力を発揮できないこともある。遅延はコンボの入力タイミングに如実に影響するので,それが台によって異なれば,選手にとってはかなりやっかいだ。
EVO2012から,EVO2013へ向けて
また読者の大多数を占めるだろう「観戦して楽しむ」という観客にとっても,EVOは最高のエンターテイメントとなりえるだろう。もちろんネット越しに応援するのも十分に楽しいものだが,ここはあえて現地まで行って応援するスタイルを推奨したい。おおよそ国内のゲーム大会では味わえないだろう興奮と一体感を感じられるはずだ。格闘ゲームが好きでさえあれば,選手でなくとも十分に楽しめるだけのポテンシャルが,EVOには備わっている。
願わくば,どこかの旅行会社が,来年はEVO参戦/観戦ツアーを組んでくれないものかと希望しつつ,今年のEVO2012のまとめを締めくくりたい。
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- ライター:ハメコ。
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