インタビュー
より多くの人に楽しみと絶望を与えたい――「コープスパーティー」シリーズの外道……祁答院 慎氏に,ホラー論や次なる新作について聞いてみた
“最善の悲劇”を回避した結果がこれだよ!
天神小学校にループ物のセオリーは通用せず
4Gamer:
それにしても本作でスポットが当てられたキャラクター達……結局はひどい目に遭いますよね。
一応,生きていたらという想定でシナリオを書いたのですが……結局はもっとひどい死に方をすることも多かったですね(笑)。
4Gamer:
これは一体どういうことなんですか!
祁答院氏:
前回と違う選択をしたらどうなるか……というのが本作のコンセプトではあるんですが,その裏に「以前の選択が“最善の悲劇”だったのかもしれない」という思惑も含まれているのです。
4Gamer:
……前回の悲劇は,まだマシなほうだったと。「プレイヤーにより深い絶望を与えたかったんです!」と正直に言っていいんですよ。
祁答院氏:
正直,絶望を与えたかったですね!
4Gamer:
ひでぇ(笑)。
祁答院氏:
先程も言いましたが,「コープスらしさ」というのは,そういうところにあるんだと思います。一度死んだキャラクターが生き返ってハッピーエンドに向かう……ということをしてしまうと,命が軽くなってしまいます。死はどうしようもない現象だからこそ,重くて悲しいものになるので。……そういう考えに従って書いていたら,いつの間にか悲劇だらけになっていました(笑)。
4Gamer:
何度も同じ時間を繰り返した経験を頼りに,運命を良い方向に修正してゆく……というのが,いわゆる“ループ物”のセオリーだと思うんですけど……。
祁答院氏:
修正できてないですね(笑)。
作品のコンセプトは少し違いますが,「STEINS;GATE」のオカリンに謝るべきだと思います。
祁答院氏:
死の運命は何があっても変えられない……オカリンも絶望ですね!
4Gamer:
じゃあ次回作のキャッチコピーは「オカリンも真っ青!」で。
祁答院氏:
オカリンごめんなさい! そういうコラボの話もあったらいいですね(笑)。とはいえ,救われる展開がまったくないというわけではありませんよ?
4Gamer:
疑わしい……。
祁答院氏:
前後左右が完全に暗闇だと,前に進めなくなってしまうので。希望の光も残してはいます。
4Gamer:
と,言いますと?
祁答院氏:
頑張って本作の隠しシナリオをプレイしていただければ(笑)。
4Gamer:
最後の最後に希望が!? パンドラの箱!
祁答院氏:
う〜ん……でもきっと,クリア直後に「どういうことだコラァ!」という苦情の電話を僕にかけてくるんじゃないですかね。
4Gamer:
救いはないんですか!?
祁答院氏:
今後の展開についての構想もありますので,ぜひそちらに期待していただければと(笑)。
小学校時代からホラー映画のパンフレットに興奮
クリエイター・祁答院に影響を与えた作品の数々
4Gamer:
ここからは少し話題を変えて,クリエイターとしての祁答院さんに影響を与えた作品などについて,あれこれ教えていただきたいと思います。
やはり「バタリアン」や「悪魔のいけにえ」といったホラー映画が多いです。マンガでは,楳図かずお先生の作品をよく読んでいました。
4Gamer:
楳図かずお先生の作品で言えば,「コープスパーティー」と一番近いのは「漂流教室」ですが……。
祁答院氏:
実はまだ「漂流教室」はきちんと読んだことがないんですよね。
4Gamer:
なんで!?
祁答院氏:
文庫版を持ってはいるのですが,まだちゃんと読んでないんですよ。どこまで似通っているのかと考えると,ちょっと別の意味で怖くて(笑)。
4Gamer:
SAN値に続き,元ネタじゃなかったことに驚きですよ……。まぁ「漂流教室」に関しては一刻も早くチェックしていただくということで,そのほかには何かありますか?
祁答院氏:
アニメで言えば,小学生の頃に見た「幻魔大戦」と,「ドラえもん のび太の魔界大冒険」ですね。
4Gamer:
「幻魔大戦」はまだ分かりますけど……ドラえもんですか?
祁答院氏:
意外かもしれませんが,実はデザインの可愛らしさに対してストーリーが恐ろしいという,「コープスパーティー」に通じる要素があった作品なんですよ。かなりの影響を受けていると思います。
4Gamer:
なるほど。では,ゲームだといかがでしょうか? 先程「ファミコン探偵倶楽部」がお好きだとは聞きましたが。
祁答院氏:
それ以外になると,やはり「スウィートホーム」ですかね。「クロックタワー」や「トワイライトシンドローム」「バイオハザード」などからも影響は受けています。
4Gamer:
挙げられた作品の傾向を見ると,やはりスプラッター寄りのホラー作品が多いように思えますね。
祁答院氏:
基本的に何でも好きなんですけどね。例えば「ドールズ」のようなファンタジックなホラーも大好きです。
4Gamer:
祁答院さんがホラーの世界にのめり込むきっかけは,何だったのでしょうか。
祁答院氏:
小学生の頃からホラー映画好きだったのですが,子供だけだと,なかなか観に行けないじゃないですか。だから「死霊のはらわた」なんかのパンフレットだけ買って,友人と「これすげえぞ!」って言いながら回し読みしてたんですよ。
4Gamer:
それは何とも……涙ぐましいというか……歪んだ小学生ですね!
祁答院氏:
当然親にバレてはいけないので,ベッドの下に隠すわけです。
4Gamer:
エロ本と同じ扱いですね(笑)。
祁答院氏:
親に発見されて捨てられ,また買いに行き,また捨てられるという繰り返しでしたね。ダメと言われれば言われるほど,ホラーに対する興味は大きくなっていきました。
4Gamer:
その気持ちはよく分かりますねぇ。
祁答院氏:
ほかにも「サランドラ」とか,例のごとくパンフレットしか見てないんですけど,当時の僕にとってはすごく刺激的でした。“ジョギリ”という恐ろしげな凶器が出てくるというのが売り文句だったんですが,実は本編に一切登場しないというのをあとで知りました(笑)。
4Gamer:
その頃の映画業界は色々とカオスでしたよねぇ……。しかしお小遣いで買うものが映画のパンフレットというのは,なんというか,クリエイターの素質をビンビン感じますね。
祁答院氏:
エロ本買えばいいのに,そんなの買ってるわけですからね。ほかにも,録画した「北斗の拳」で,敵が秘孔を突かれて爆発する瞬間をコマ送りで再生して「スゲェ!」って友達と騒いでみたり。
4Gamer:
随分と友人に恵まれていたんですね(笑)。
祁答院氏:
ボンクラが集まってましたから。そんなダメ人間がそのまま育って,こうなっちゃったというわけです。
恐怖は欲求,ホラーによる現実逃避は“癒し”
アドベンチャーにはアトラクション性が必要
4Gamer:
ゲームクリエイターの道が見え始めた当初から,作りたいジャンルはホラーと決めていたのでしょうか?
当時はホラーゲームを作りたいというよりも,ただ単にゲームを作りたいという気持ちが強かったです。最初はファンタジー路線で作っていた物などが,いつの間にか血まみれになってしまうだけで……。
4Gamer:
祁答院さんの中にいる悪魔がそうさせてしまうのですね。
祁答院氏:
ですね。仕方ないですよね。
4Gamer:
自分もホラーが好きなので分かるんですが,恐怖って触れる機会が多いと次第に麻痺していっちゃいますよね。自らそれを生み出す祁答院さんはなおさらだと思うのですが。
祁答院氏:
その通りですね。作っているうちに「これは本当に怖いんだろうか?」と不安になることがあります。
4Gamer:
とくに子供の頃とは感覚が違いますよね。ビビりまくっていたホラー映画も,大人になると笑いながら見られますし。
祁答院氏:
ホラーに対して感じる感情が“面白い”にシフトしてしまうんですよね。でも,それはそれでカタルシスがあると思うんです。例えば「憎たらしいキャラが,あからさまな罠にかかって死んだ! 爽快!」という感じとか。
4Gamer:
あるある。
祁答院氏:
そういう風に楽しめる人向けにゲームを作るのも,また大切かなと考えています。そして免疫のない人には普通に怖がっていただくと。
4Gamer:
そんな祁答院さんが,最近本気で驚いたり怖がったりした体験はありますか?
祁答院氏:
視覚的なものは,どれだけ映画で慣れたとしても,現実で見たら驚きますよね。例えば以前仕事で遅くなったとき,帰り道の街灯の下に,髪が長くて白のワンピースを着た女の子が立っていたんですよ。
4Gamer:
そんなあからさまな……マジですか?
祁答院氏:
滅茶苦茶怖かったです。回り道しましたもん。あとは,深夜の2時になると決まって隣の住人が泣き出すとか。
4Gamer:
うわぁ……。
祁答院氏:
なので,ゲームみたいな出来事が自分に起こったら,確実に腰を抜かします。フィクションだと耐性は付きますが,そもそも怖がりでなければホラー好きにはなりませんし。
4Gamer:
祁答院さんの考える“恐怖”とは,どういうものなのでしょうか。恐怖という感情は,人間の欲求のひとつだという説もありますが。
祁答院氏:
その通りだと僕も思います。これはどこで言っても否定されるのですが,ホラーには“癒し”があると思うんですよ。現実逃避であって,その先にあるのは癒しじゃないですか。
4Gamer:
同感です!
祁答院氏:
もし,“ホラー遊園地”なんてものがあったら,僕は一日中楽しんじゃうでしょうね。そこら中から悲鳴が聞こえるという,とても素敵な場所じゃないでしょうか。
4Gamer:
それじゃ満たされる欲求が恐怖しかないじゃないですか(笑)。
祁答院氏:
相当精神がすり減りますよね,だがそれがいい!
4Gamer:
「ゾンビ」のショッピングモールなんかは,それと感覚的に近いのでは?
祁答院氏:
そうですね。道徳や法律から逸脱してゾンビ狩りをするという……きっと癒されますよ。
4Gamer:
話は変わりますが,祁答院さんはクリエイターとして,昨今のアドベンチャーゲーム市場についてどう思われていますか?
ゲームの売り上げ本数を見ていれば分かるように,腰を据えてアドベンチャーゲームを遊ぶ人は,年々少なくなってきています。とはいえ,アドベンチャーゲーム特有の“世界観に没入する”という快感は,ほかのエンターテイメントにはないものだと思っています。遊ぶためのハードルも低いですし,アドベンチャーゲームを敬遠せず,触れてみてもらいたいですね。
4Gamer:
もっと多くの人にプレイしてもらうためには,どういった工夫が必要なんでしょうか。
祁答院氏:
まずは間口を広げて,誰でも入りやすい環境を作るところから始めるのが大事だと思います。例えば,キャラクターが劇画調の怖い顔では,今の若い子からしたら取っ付きにくいじゃないですか。そこをコミカルにして見たりして,まずは興味を持ってもらうべきでしょう。
4Gamer:
とりあえずプレイしてもらえれば,きっとハマると。
祁答院氏:
もっとアトラクション的な存在になればとは思います。携帯ゲーム機でも,据え置きゲーム機でも,みんなが同じように楽しめるギミックを用意するといいのではないかなと。
4Gamer:
ほう,具体的にはどういった?
祁答院氏:
例えば「パラノーマル・アクティビティ」なんかは,実にアトラクション的な映画でしたよね。ホラー映画にあまり詳しくないような女子高生の間でも流行ったらしく,そういったアプローチが重要かなと。
4Gamer:
ネタバレになるので詳しいことは言えませんが,人種や世代,ホラー知識に関係なく「怖い」と思える仕掛けがいくつも用意されていましたし,低予算映画ならではの荒さが,妙に没入感を高めるんですよね。そういったアトラクション的な要素を,祁答院さんの作品ではどのように表現しているのでしょう?
祁答院氏:
なるべく“参加している”感覚を楽しんでもらえるように気を付けています。例えば,“天神小学校監禁ツアー”というキャンペーンで,ゲームに登場する死体の名前を募集しまして,ゲームの中で自分がどこで死んでいるかを探してもらう……なんていうこともしていました。
4Gamer:
殺すことがファンサービス……非常に「コープスパーティー」らしいキャンペーンです(笑)。
次回作は魔法のパンツと病院ホラー?
今後の作品展開にも注目していきたい
4Gamer:
さて,今後の「コープスパーティー」シリーズは,どういった展開を見せてくれるのでしょうか。
例えば次が「コープスパーティー2」というタイトルになるようなら,完全に別舞台でキャラクターもまったく違う作品になると思います。でも,「コープスパーティーBS」のようにサブタイトルが変化する場合は,時系列の同じ正統続編として……という感じですかね。
4Gamer:
つまり,どちらの展開も考えていると。
祁答院氏:
そうなります。現段階では詳しく話せないんですが,今後にご期待ください。
4Gamer:
プラットフォームとしてPSPを選んだコンシューマ版「コープスパーティー」シリーズですが,話題が次世代機へと移りつつある今,今後をどのようにお考えですか?
祁答院氏:
開発のノウハウが生かしにくい,というのはなかなか厳しいものがありますが,僕としてはプラットフォームが広がるのは大歓迎です。遊べるハードが増えればより多くの人の手に渡る可能性も出てきますし,ぜひ挑戦してみたいですね。
4Gamer:
ちなみに,「コープスパーティー」シリーズ以外に新作などの動きはあるんでしょうか。
祁答院氏:
ファンタジー色の強いアクションゲームの企画が進行中です。明るい雰囲気の作品で,魔法のパンツから火が出たり,パンツをめぐって戦ったり……。最初は同人でリリースすると思います。
4Gamer:
ちょっと何を言っているのかよく分からないんですけど……楽しみにしています。
祁答院氏:
ホラー系の新作としては,病院を舞台にしたタイトルを作りたいと考えています。「コープスパーティー」的なオカルトテイストのストーリーを予定していますので,お楽しみに。
4Gamer:
何だったら,「サバトの女王」もリメイクとか……。
祁答院氏:
あのファンタジックな世界観とキャラクターは非常に気に入っているので,いつかはスポットを当てたいですねぇ。
4Gamer:
ところで,すでに多くのメディアミックス展開に成功している「コープスパーティー」ですが,今後新たに挑戦してみたいことなどはありますか?
祁答院氏:
ぜひ,動画で見てみたいですね。
4Gamer:
ですよねぇ。現時点でアニメ化や映画化の可能性は……?
祁答院氏:
僕からは何とも言えませんが,やりたいとは思っています。もし実現するのならば,オリジナル要素を入れつつ,ゲームと同じ時系列の話を作りたいですね。まったく同じ物,というのは作りたくないので。
4Gamer:
アニメ化は5pb.が得意とするところですし,なんとかして実現していただきたいですね。さらにはハリウッド映画化とか!
祁答院氏:
飛躍しますね! 確かに,観てみたい気もしますけど。外国人のティーンエイジャー達が「テンジンショウガッコー!」って言っている姿を。
4Gamer:
紫煙をくゆらせながらガールフレンドと親父の車でドライブしていたら,天神小学校に着いちゃったみたいな(笑)。
祁答院氏:
偏見に満ちている(笑)。確かに,向こうのホラー映画に出てくるティーンエイジャーってそんなのばっかですけど。
4Gamer:
では,作りたいグッズなどはありますか?
祁答院氏:
リアル頭身のフィギュアはぜひ作りたいですね。figmaとかなら,「血糊付きもあるヨ!」みたいな頭のおかしいことをしたいです。
4Gamer:
すでに「コープスパーティーBS」の特典としてミニフィギュアが存在していますし,割と現実的な話ではありますよね。血糊はどうか分かりませんが(笑)。
祁答院氏:
頭にベチャッと落とすための赤いスライム的なものを付属させて,気持ち悪がってもらったり。色々な可能性が考えられます。
4Gamer:
どれもこれも非常に楽しみです。それでは最後に,ファンへ向けて一言お願いします。
祁答院氏:
皆様の応援があったおかげで,「コープスパーティー」シリーズはここまで大きくなれました。メールやTwitterで頂くメッセージから,日々強いパワーをもらっています。これからも枠にとらわれず,さまざまなコンテンツをご提供していきますので,どうぞ今後とも「コープスパーティー」シリーズとチームグリグリをよろしくお願いします。
4Gamer:
ありがとうございました。
今回のインタビューでは,祁答院氏からさまざまな話しを聞き,その端々から独特のセンスやクリエイター性を感じ取ることができた。やはりこの御仁,一見好青年風でありながら,内部に巨大な闇を抱えているようだ。
多くの人に作品を楽しんで欲しいと願う一方で,プレイヤーに容赦なく絶望を与えようとする二面性。「コープスパーティー」は純粋さと猟奇性を併せ持つ祁答院氏だからこそ生み出せた作品なのかもしれない。
今後とも,祁答院氏が手掛ける作品には大いに注目していきたいものだ。……彼の語る“希望“は,もう二度と信用しないですけどね!(※最近,「コープスパーティーBS」の隠しシナリオをクリアしました)
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