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「Project R1」が目指すもの。それは3Dで作った膨大なアニメーションを1ドットに魂を込めて描き直すことだけで実現される,究極の「可愛さ」
ここにきて,「ラグナロクオンラインの父」キム・ハッキュ氏の率いるIMC Gamesより「Project R1」の制作が発表されたというのは先日の既報のとおりだ。
本稿では,キム・ハッキュ氏のプレゼンテーションの概要を紹介しつつ,Project R1がどんなゲームなのかを探ってみたい。まあ,まだほとんど何も分からないのだが。
さてProject R1は,IMC Gamesが8年ぶりに世に出す新作である。IMC Gamesはキム・ハッキュ氏が独立して立ち上げた会社で,かつては新機軸MMORPGたる「グラナド・エスパダ」を制作したのだが,この作品は新奇さが過ぎたせいか,完成度を高めるのにかなり時間を要した。
ハッキュ氏は8年にわたって「グラナド・エスパダ」を作ってきた傍らで,いろいろなことを考えていたようだ。そんななかで,一つの結論として出てきたのがProject R1である。この,8年ぶりに発表される新作は「可愛さ」を追求したものであるという。
キーとなる「可愛い」という言葉には,「CUTE」だけでは表しきれないものがあるとハッキュ氏は主張している。それは「ディテールが生きている可愛さ」だという。可愛さはディテールに宿るという主張だろう。
そしてキャラクターに「表情」などを出すためには,2Dの表現が最適と考えているようだ。言ってはなんだが,グラナド・エスパダの3Dキャラクターはかなり魅力的に作られているのだが,表情という点に関しては,ほとんど追求されていなかったように思う。むしろ,あきらめていたようにさえ見えるのは,そういった考えがあってのことかもしれない。背景は3D,キャラは2Dというのが可愛さ表現の最適解ということだろうか。
加えて,ハッキュ氏は「トップビュー」(真上ではなく見下ろし型の視点全般のことと思われる)にこだわったという。つまり,3D MMORPGで多用されているような「バックビュー」ではキャラクターの表情が見えないというのだ。
4Gamerに載っている3D MMORPGのスクリーンショットやムービーでは,キャラが前向きのまま戦闘をしてたりする絵が多いのだが,普通にゲームをするときに,いつもそんなことをしてはいない。常識的に考えると,装備画面などを除けば3D MMORPGで自キャラの顔を見る機会というのは,そう多くないはずだ。
そういったことを考えていくと,結局は氏の代表作である「ラグナロクオンライン」にどんどん近づいていくわけだが,2011年時点でどのようなグラフィックスが求められているかを,氏は十分に承知している。
そこで,現在のグラフィックスレベルでも通用するような,ディテールや滑らかなアニメーションと,氏の求める究極の可愛さを両立する手法が,Project R1では採用されている。
その手法の説明に,ハッキュ氏は「九蒸九曝」(きゅうじょうきゅうばく)という漢方薬の製造で用いられている用語を持ち出した。これは「九回蒸して,九回乾かす」という手間のかかる作業を経て,漢方薬の有効成分を濃縮していく手法である。
具体的には何をしたのか?
まず,キャラクターデザインを作り,デフォルメして,3Dモデルを起こし,CGアニメーションを作って,その結果を1ドット1ドットにこだわって2Dのドット絵に落とし込む……という複雑なプロセスを経て,キャラクターが作られるのだ。ここで「滑らかなアニメーション」をわざわざ挙げていたので,常識的な2Dドット絵ゲームとは比較にならないくらいの動画枚数が用意されるものと思われる。
これなら「普通に3D MMORPGを作るほうがはるかに簡単だ」ということは,容易に想像がつくだろう。単なる3Dモデルなら,ステップ数でいっても半分以下,最終段の恐ろしく手間がかかる手修正の部分がないだけでも,作業量は桁違いになるはずだ。
しかも「1ドット1ドットに魂を込める」ことの重要性を,ハッキュ氏は強調する。
どんなに細かく可愛く作りこんだとしても,3D表示というのは自由度が高すぎて,角度や距離などの変化がドット単位で起こるため,ドット単位で追求していくと,必ずしも最適な可愛さでない部分も出てきてしまう。しかし2Dのドット絵表現なら,すべての瞬間の絵を完璧にすることが可能だ。
ハッキュ氏のやろうとしていることが,分かってきただろう。少なくとも,Project R1がターゲットとしている層には,氏の思いは届いているのではないだろうか。
ゲーム作りで,もう一つ氏が挙げた要素に「プリティブランク」というものがある。MMORPGはシナリオやクエストをたくさん用意して世界を作っていくものだが,ゲームという空間の中にどれだけたくさんのものを詰め込むのかを競うのではなく,プレイヤーの選択の余地をブランクとして残すことが重要だと,ハッキュ氏は語る。
「観光地にあるヨン様の顔を切り抜いたフォトゾーンのようなもの」とハッキュ氏は説明するが,これが分かりやすい例なのかどうかは不明だ。ともあれ,作り込まれた世界の中で,プレイヤー自身が完成させていくような要素,そのような余地を残しておくことを心がけているという。
現在はまだまだ制作初期段階なので,会場で公開できるような動画はないという。ゲームシステムなども,まだ何も公開されてはいない。それでも,期待するなというほうが無理な話だろう。尋常でないくらい作成に手間がかかりそうなゲームなので,リリース時期が心配されるのだが,ここまでこだわったものなら,未完成のままリリースすることなく,十分満足のいく内容になるまでじっくり作り上げてほしいものだと思う。
- 関連タイトル:
Tree of Savior Japan
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