インタビュー
「Shinobi 3D」は「忍 -SHINOBI-」や「ザ・スーパー忍」の直系タイトル。音楽を担当した日比野則彦氏とプロデューサーの長谷川亮一氏にインタビュー
シリーズとしては,PlayStation 2で発売された「Kunoichi -忍-」(2003年)以来,約8年振りのリリースとなる本作。ポリゴンによる3Dタイプのアクションから横スクロールアクションに回帰する一方で,3D立体視を生かした演出やジャイロセンサーを使った操作などが用意されている。
「Shinobi 3D」の開発は,アメリカの開発スタジオであるGriptonite Gamesが担当しており,音楽面では,作曲家・音楽プロデューサー・サックスプレイヤーとして知られる日比野則彦氏を起用している。
日比野氏は,KONAMIの「メタルギア ソリッド」シリーズやフロム・ソフトウェアの「NINJA BLADE」をはじめ,多数のゲーム音楽を手がけているほか,小柳ゆきさんや米倉千尋さんなどアーティストのプロデュースや楽曲提供も行っているので,氏の音楽を聴いたことのある人も多いはずだ。
今回は,「Shinobi 3D」のサウンドプロデュースを手がけた日比野氏と,本作のプロデューサーであるセガの長谷川亮一氏に,インタビューをする機会を得た。本作における音楽や開発秘話,また日比野氏の音楽に対する考えなど,さまざまな話を聞いてきたので,ぜひ最後まで読み進めてほしい。
長谷川亮一氏 セガ第三CS研究開発部グローバルサポートチーム,チームマネージャー。 日本側のプロデューサーとして,ローカライズ作業全般を担当している。これまでに100タイトル以上のローカライズに関わる |
日比野則彦氏 GEM Impact代表取締役。 作曲家,音楽プロデューサー,サックスプレイヤーとしての活動のほか,2009年に日比野音療研究所を設立し,心の癒しをテーマにした音楽の研究も進めている |
「Shinobi 3D」公式サイト
過去に手掛けた忍者ゲームが日比野氏起用のきっかけに
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まず,日比野さんが「Shinobi 3D」のサウンドを手がけることになった経緯を教えてください。
アメリカの親しい友人が,「Shinobi 3D」を開発しているGriptonite Gamesを紹介してくれたのがきっかけでした。
彼らは,かつて僕が「NINJA BLADE」という作品を手がけていたことを知っていて,それがフックになったようですね。最初に見せてもらった参考用のイメージ映像には,「NINJA BLADE」の曲が乗せられていたぐらいですから(笑)。
4Gamer:
Griptonite Gamesの人達は,日比野さんの楽曲が好きだったんでしょうね。
日比野氏:
どうなんでしょう(笑)。
「忍」シリーズというと,古代祐三さんのサウンドで有名ですが,今回は新しいカラーを入れたいということで,最初は古代さんと僕の共作という計画だったんです。
ですが,最終的に古代さんのスケジュールの都合がどうしてもつかなくなってしまい,GEM Impactで僕と組んでいる,アーティストの鈴木克崇とイズタニタカヒロの3人で制作することになったんです。
4Gamer:
長谷川さんは,日比野さんの起用についてどう思われました?
長谷川亮一氏(以下,長谷川氏):
実はですね,私は最初,日比野さんが関わっていることを知らなかったんです。
4Gamer:
えっ? それはどういうことですか?
もともと,「Shinobi 3D」はSEGA OF AMERICA主導で制作していて,私が本格的に携わることになったのは,ゲームの骨組みがある程度できてからだったんです。
初期の試作版をプレイしたとき,漢字に見栄えのよくないフォントが使われていたり,主人公のジロー・ムサシが正座をしている場面で姿勢がすごく悪かったりとか,ちぐはぐに感じる点がいくつかあったので,手直しの指示をかなり出したんです。
でも,楽曲だけはバッチリ決まっていて,なんでこんなに音楽だけ完成度が高いのか,不思議に思っていたんですよ。後になって実装されたスタッフロールを見たら,そこに日比野さんの名前があったという。
日本人,しかも日比野さんという大物アーティストが作っていたのなら,楽曲の完成度が高いのも納得ですよね(笑)。
4Gamer:
スタッフロールで知ったんですか……。
ところで,長谷川さんは,日比野さんと以前から面識はあったんですか?
以前,CEDECで日比野さんの講演を拝聴したことがあって,そのときに名刺交換をさせていただいて以来のお付き合いです。そのときの日比野さんの講演は,会場の電気を消して来場者に音楽を聴かせるという,すごく不思議で印象深いものだったんですよ。
でも,自分がこれから手がけるというゲームのスタッフロールで,日比野さんのお名前を拝見するというのもすごい話ですよね(笑)。
日比野氏:
最初に依頼を受けたときは,まさか「Shinobi 3D」が日本で発売されるとは思っていませんでしたから,あとで長谷川さんからメールをいただいて,僕も驚きました。
日比野氏の1曲がチームが一つにまとまるカギとなり,「Shinobi 3D」の方向性を決めた
4Gamer:
今回の「Shinobi 3D」では,どのようなイメージで楽曲を制作したんですか?
日比野氏:
先方に最初に見せられたゲームのイメージが,筆描きのキャラクターやビジュアルだったので,最初に作ったメインテーマ的なコンセプト曲には,いかにも“和”というテイストを盛り込んでみたんです。
ただ,もっとアクションできる曲にしてくれと注文されたので,その後作ったいくつかの曲は,テンポを上げることで,ステージで使えるような内容に仕上げています。
4Gamer:
インタビュー前に,楽曲を聴かせてもらったんですが,どの曲も和を感じさせる曲になっていますよね。
和の部分はとくに大事にしました。
もともと,古代さんの作った「ザ・スーパー忍」の楽曲が,以降の忍シリーズのイメージそのものになりましたよね。当時から和楽器のサンプリングを入れてすごくリアルだったので,それを崩さないように,和楽器をアイコン的に入れつつ,今の時代に合わせた楽曲に仕上げています。
4Gamer:
ちなみに,どんな和楽器をサンプリングしているんですか?
日比野氏:
鼓,琴,尺八,ひちりき,三味線などです。これらの和楽器は,弊社で録り溜めていたサンプルがけっこうあったので,それを作家全員で共有して,統一性を持たせています。
4Gamer:
その中でも,とくに日比野さんが気に入っている曲はありますか?
日比野氏:
どの曲も気に入っていますが,やはり最初に作った曲ですね。「NINJA BLADE」の作曲時もそうでしたが,最初に1曲作ってチームで共有すると,これからどんな作品を作っていくのかを,曲を通じて共有できるんです。すべてが動き出す前に,イメージを形にしたのがあの曲だったんですよ。
最初に作った曲を鈴木とイズタニに聞かせたところ,2人ともすごく気に入ってくれて,全員の曲を作るモチベーションも上がったんです。
長谷川氏:
その曲は,公式サイトのトップページで聴けます。また,ゲーム内のメニュー画面でも流れるので,プレイするときはじっくりと聴いていただければと。
ちなみに,今の日比野さんのお話は,開発チーム全体にも通じるところがあるんです。
4Gamer:
具体的には,どのような部分ですか?
複数の仲間でもの作りをするうえで,全員で青写真を共有することはすごく大事です。とくに海外で開発する場合は,いろいろな国の人が集まって制作しているので,同じキーワードでもイメージする映像が異なるなど,共通して理解できるエレメントはけっこう少ないんです。全員がコミュニケーションを取ることがすごく大事で,それができていないと各セクションがバラバラになってしまいます。
私の経験上,いろんな国の人がいても,きちんとゴールが見えていて,迷走せずにそこに向かって突き進んでいるプロジェクトが成功しているんです。日比野さんの先ほどの曲は,まさにチームが一つにまとまるカギになりました。
日比野氏:
そう言っていただけると,本当に嬉しいです。全員がイメージできる映像を作ったり,試作品を作ったりするのは労力的に大変ですが,音楽なら僕1人がスタジオに籠もって1週間もあれば作れますからね。
オリジナルを体験した世代には歯ぎしりするような手応えを,新しい世代には楽しいアクションを提供
4Gamer:
「Shinobi 3D」は,3Dタイプのアクションゲームだった「Shinobi」や「Kunoichi -忍-」からは,ずいぶん印象が変わりましたね。
長谷川氏:
タイトルではShinobiと表記していますが,PS2版の2作品と直接のつながりはありません。本作はどちらかというと,アーケードの「忍 -SHINOBI-」や,メガドライブの「ザ・スーパー忍」からの直系なんです。ですから,主人公のジロー・ムサシは,ジョー・ムサシの苗字を受け継いでいますし,出で立ちも白装束に赤いマフラー姿なんですよ。
ただ,1987年から長く続いているシリーズなので,「Shinobi 3D」の主人公は,シリーズ作品からできる限りいいとこ取りをしています。例えば,ジローの額にある四つ穴の鉢金などは,PS2版主人公の秀真をイメージした意匠にするなど,格好良く仕上げています。
4Gamer:
そういえば,本作のビジュアルはすごく印象深いタッチで描かれていますね。
長谷川氏:
最初に用意したコンセプトイメージは,アニメーター,アニメーション監督として著名な前田真宏さんにお願いし,製品版は,それをベースにアメリカのアーティストがアレンジしたものになっています。
ジローの立ちイラストを見ていただければと分かると思いますが,プロポーションなどはすごくアメリカ風のセンスでまとまっています。コンセプトのテイストを,彼らなりにうまく咀嚼して仕上げてくれたと思います。
先ほどお話したジローの姿勢や,刀を振るときの細かな動きなど,こちらからいくつかモーションに関する注文は入れましたが,絵や色使いに関する注文はほとんどしませんでしたからね。
先に「Shinobi 3D」をプレイさせてもらいましたが,基本は横スクロールで,八双手裏剣があるなど,「ザ・スーパー忍」に近い印象を受けました。あの頃の硬派なアクションを継承していると考えていいのでしょうか?
長谷川氏:
まさにそれですね。でも,最初の会議で「忍 -SHINOBI-」の直系というコンセプトのもと,3DSで新作を作ると聞いたときは,実のところ,一体どんなゲームになるのかと思っていたんですよ。画面は3Dですけど,横スクロールアクションゲームですから(笑)。
4Gamer:
確かに,そのコンセプトだけ聞いても,どんなゲームになるのかは想像が付きませんね。
ところが実際に試作品ができてくると,画面の奥から潜水艦が砲弾を撃ってきたり,回転する床が手前にめくれたりと,3Dらしい演出がかなり入っていました。開発が進んでいくと,ジャイロ機能を使って水路を奥に進んでいくというような,3DSらしい面白さがどんどん味わえるようになっていったんです。
2Dアクションの忍シリーズを単純に3Dアレンジしたのではなく,実は半分近くが横スクロールアクションとは違う,3DSならではの新規に作られたアクションゲームになっていると考えていただいて大丈夫です。
4Gamer:
その中で,長谷川さん一押しの要素は何ですか?
“シネマティックアタック”ですね。ボスなどの戦闘中に画面に表示されるボタンをタイミングよく押すと,派手なアクションシーンが挿入されるんです。
「Shinobi 3D」は,ほかのシリーズに勝るとも劣らないストイックなアクションが必要になるんですが,シビアな展開の中に一瞬派手なシーンが入ることで,それがすごく際だつんです。普段のストイックなゲーム画面と,ド派手な演出のコントラストを存分に楽しんでいただきたいですね。
4Gamer:
そう聞いて少し心配になるのは,やはり難易度です。クリアするにはかなりの腕が必要になりそうですが……。
長谷川氏:
イージーはかなり易しく設定しているので,ライトユーザーの方でも楽しく遊べるようになっていますよ。ただ,“忍”というブランド買いをしてくれた方には,やはりノーマルやハード,そしてスーパーハードといった難易度でプレイしていただきたいですね。
4Gamer:
ちなみに,ライフ制ではない超難度のモードもあるんですよね?
長谷川氏:
もちろん用意しました(笑)。
ゲーム中,特定のアイテムを集めると,本編とは別の高難度ステージをプレイできる“チャレンジマップ”というモードが出てくるんです。
その中でも,プレイヤー同士がすれちがい通信をすることで手に入る“すれちがいチャレンジマップ”では,主人公がジローからジョー・ムサシに変わって,アーケード版の「忍-SHINOBI-」同様,敵の攻撃を受けると一撃で倒されてしまいます。ステージ内容も超がつくほどのストイックさなので,我々のようなアクションゲーム世代のおっさんが,昔を思い出しつつ歯ぎしりしながら遊ぶモードになっています(笑)。
日比野氏が考える,音楽とエンターテイメントの関係とは
4Gamer:
日比野さんは,ゲームをはじめとするエンターテイメントのコンテンツで,好きな作品はあるんでしょうか?
日比野氏:
そういった質問をいただいたときに,僕が必ず答えるのが「スペースチャンネル5」なんです。曲もいいですし,何よりもみんなで踊って楽しもうという,誰もが共感できる総合エンターテイメントとしての完成度がすごく高いですよね。無駄に凝ってマニアックになることもなく,普段ゲームを遊んでない人がやっても面白いですから。
4Gamer:
確かに,誰もがハッピーになれる作品だと思います。例えるなら,インド映画のような感じといいますか。
そう,あれと同じですね(笑)。
誰もが楽しめるエンターテイメントの形は,僕たちが目指すところでもありますよね。今の技術なら,プレイヤーが本当に踊ってみたり,動きなんかももっとリアルに表現できるでしょうから,ああいうコンセプトの作品は,どんどん出てきてほしいと思っています。
長谷川氏:
あの楽しさを体験していない方は,現在PlayStation StoreとXbox LIVEアーケードで配信中の「スペースチャンネル5 パート2」をぜひプレイしてみてください。実は,私のチームが配信版の移植を手がけているんですよ(笑)。
4Gamer:
日比野さんが考える,ゲーム音楽に対する思いを聞かせてもらえますか?
日比野氏:
そうですね……。僕がゲーム音楽を作るときに心がけているのは,まず仕事を発注してくださる担当の方に対してベストを尽くすことです。
ゲームというのは,いろいろな方が手にとって遊びます。そのすべての方に満足していただけるように作るのは難しいですから,そこをあまり気にしすぎると,できるものもできなくなってしまいます。ですから,まずは目の前のディレクターの方に,最も喜んでいただけるものを作ることを常に目指しています。
4Gamer:
音楽が関係することで,日比野さんがこれから手掛けてみたいことはありますか?
ここ数年,僕が取り組んでいる研究に,音楽とリラックスを結びつけるというものがあります。聴いている人を高揚させる刺激的なゲーム音楽とはまったく逆で,刺激を減らして,聴いている人の気持ちを優しくさせる音楽ですね。
その一環として,iOS端末向けに「眠りの為の処方箋」という,眠りに誘うためのアプリを作りました。おかげさまで28万ダウンロードを達成して,先日その第2弾をリリースさせていただきました。
そんな研究をしばらく続けてきた中で,最近一つ大きなことに気付いたんですよ。
4Gamer:
それはどんなことですか?
日比野氏:
以前まで僕は,介護施設などに導入するスピーカーなどのハードウェア面に注力するなど,眠れない人達にリラックスしてもらえるよう,できる限りいい環境を作っていたんです。
ところがそれは,僕らにとって理想の環境が作れたとしても,相手にとっては決して理想ではないと。実際にそれをやっても,施設にいる皆さんには,あまり改善が見られなかったんですよ。それによって,音楽というものは聴く側が“閉じて”しまったらそこで終わり,という当たり前のことに気付かされたんです。
こちらが提供する音を聴いてもらうには,まず相手の方の思いを無条件で受け入れること。音楽が人の心に届くには,まずは信頼関係を築くのが一番大事だったんですよね。
4Gamer:
音楽は,聴いてくれと押しつけるものではないと。
日比野氏:
そうなんですよ。こうなるともう一種のカウンセリングで,ハードとはまったく関係のない要素のほうが大事に思えるようになりましたね。
例えば,このスタジオに相手をお呼びして,その方のためだけに音楽を演奏して,ご飯を食べてもらって話をすると,その方が心に抱えている,人に話せないような問題でも,深いところまで話してくれるんです。それだけでも解決する問題はずいぶんあるんですよ。
いつか,そういった音楽とリラックスの関係性に,ゲームのように楽しめる要素を加えたエンターテイメントを実現してみたいと思っています。
4Gamer:
最後に,11月17日の「Shinobi 3D」の発売に向けて,それぞれメッセージをお願いできればと思います。
日比野氏:
私達の楽曲が,作品を作る原動力になれたのは本当に光栄でした。プレイされる方は,何はなくともまずは楽しんでください!
昔の忍シリーズを知らない人でも,ライトゲーマーからハードコアゲーマーまで,アクションゲームが好きなら必ず楽しめる内容になっていますので,ぜひプレイしていただければと思います。
また,楽しくアクションをやりたい方には,イージーモードなどで気持ち良くプレイができるようになっています。それを3DSという携帯ゲーム機で,どこでも気軽に遊べるというのが「Shinobi 3D」のウリの一つです。
それと,パッケージの色使いや文字のレイアウトを見て,「おっ」と思えるような世代のゲームファンの方には,プレイしてニヤッとしてもらえるような仕掛けをたくさん詰めこんでいますので,そちらも楽しみにしていてください。よろしくお願いします。
4Gamer:
発売を楽しみにしています。ありがとうございました。
「忍」シリーズの最新作「Shinobi 3D」は,海外で開発され逆輸入されるというタイトルだった。しかし,長谷川氏が話していたように,「忍 -SHINOBI-」のDNAはしっかりと受け継がれているとのことで,アーケードやメガドライブで忍シリーズを体験してきた往年のゲーマーには,グッとくるものがあるはずだ。
また,日比野氏,鈴木克崇氏,イズタニタカヒロ氏の3人が,どのように新生“忍サウンド”を手がけているのか,期待する人も多いだろう。
ともあれ,発売日の11月17日までもう間もなくである。「Shinobi 3D」をプレイできる日を楽しみに待ちたい。
「Shinobi 3D」公式サイト
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