インタビュー
「ドラゴンズクラウン」は自分が一番作りたかったゲーム――ヴァニラウェアの神谷盛治氏に,完成までの道のりを聞く
以前,5月に行ったインタビューでは,制作を手がけるヴァニラウェアの神谷盛治氏の半生やゲーム観などを語ってもらったが,今回は,ドラゴンズクラウンとはどんなゲームで,何を考えて作られているのか。その中身や開発の経緯について詳しく話を聞いてみた。
ヴァニラウェアが「2Dのゲーム」に掛ける意気込みや決意,あるいは開発における創意工夫など,今回も興味深い話をたくさん聞くことができたので,本作に注目している人はぜひ読んでみてほしい。
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「ここまでやる馬鹿はいない」というレベルを目指して
4Gamer:
前回は神谷さんご自身のことや,ヴァニラウェアの歴史について語っていただきましたが,今回は――というか,今度こそドラゴンズクラウンの内容について,いろいろとお聞きできればと思います。
神谷氏:
はい。よろしくお願いします。
4Gamer:
ではまず,「ドラゴンズクラウン」の企画当初の狙いから教えてください。
狙いというかヴァニラウェアの目標になるんですが。背景グラフィックスを担当した西村さんと開発前に話したのが,「ヴァニラウェアの金字塔を打ち立てよう」ということでした。さすがに2Dゲームに「ここまでやる馬鹿はいない」 そんなヴァニラウェアの限界レベルを目指してみようと(笑)。
4Gamer:
ええっ?
神谷氏:
ここまで真正面からベルトスクロールアクションを作れる機会なんて,今の時代そうそうないでしょう? 長年暖めてきた夢の企画だし,どうせやるなら,会社が存続できている内に,無理っぽい所まで背伸びをしてみようと思ったんですよ。
4Gamer:
何度聞いても,ヴァニラウェアって……。
神谷氏:
ゲーム部分もかなり頑張る気でいましたが,グラフィックスにおいては特にそんな感じで。こういった2Dでは10年は追い越せないものを目指そうと,話していました。
4Gamer:
面白い考え方ですね。それを本当に実践してるのも凄いですけど。
神谷氏:
実際に10年モノの2Dになったかはともかく,そんな目標で作ったものですから,ドラゴンズクラウンは良くも悪くもヴァニラウェアの集大成というか,予想外の総力をかけた作品になりましたね。
4Gamer:
2Dグラフィックスという意味でいえば,アートワークの方針みたいなものってあったんですか?
神谷氏:
元々が王道ファンタジーでと考えていたので,西洋絵画をモチーフにしようと考えていました。ただ僕自身,落とし所が分からなかったので,2010年の年賀状イラストでThreeGraces(三美神)を実験的に描いて,そういうのが“あり”かどうか,みんなの反応を見たりしたんですよ。結果としては悪くない反響だったのでやってみたわけですが,意図どおり,うまく作品に古典的エッセンスが出せたかなと。
4Gamer:
ドラゴンズクラウンの世界観は,王道でもあり,今や懐かしくもあります。
神谷氏:
世界観に関しては,背景チームの功績が大きいですね。西洋絵画というモチーフで,驚くような背景グラフィックスを次々にあげてくれました。開発当初は,ウィザードリィを意識していたのもあって,舞台は街とダンジョンだけの予定だったんです。でも,気がつくと背景デザイナーの西村さんが,勝手に街の外の風景画を足していました。ダンジョンだけでは絵画的に美しい背景が足らないということで(笑)。
4Gamer:
あのグラフィックスを実現するにあたっては,やっぱり開発上の苦労も多いんですか?
神谷氏:
ドラゴンズクラウンのグラフィックスが,いわゆるかつての「ドット絵」と違うところは,フルカラーで塗られていて「パレットの概念」が無いことです。要するに,パレットチェンジで簡単に色を変えていた昔のアーケードゲームのようにはいかないんですよ。
本作では,プレイヤーキャラクターが陽だまりに入った時や,松明に照らされる時に「ハレーション」的な表現をしているのですが,パレットがないのでピクセルシェーダーで「レベル補正」のような計算をしています。これも結構な高負荷なんです(苦笑)。
4Gamer:
2Dグラフィックスだからといって,決して楽だってことではないんですね。
神谷氏:
装備の見た目の変化なんかは,3Dだと武器モデルを作るだけですむんですが,2Dだと武器が1つ増えたら,技全部の武器アニメパターン画を描かなきゃなりませんし。キャラクターのカラーバリエーションも,パレットがあれば2Dの方が楽ですが,弊社のようなフルカラーのやり方だと,カラーバリエーション分を全アニメパターンで用意しないといけませんからね。
4Gamer:
ああ,キャラクターバリエーションがあるって情報が公開された時に,業界人(主にデザイナー)が「これは……!」というコメントをしていたのは,そういう理由があったからなのか……。
神谷氏:
僕がキャラクターをデザインしたとき,カラーバリエーションのことはまったく考えていませんでしたから,プレイヤーキャラ担当のデザイナーは,そういった対応に加え,高解像度のアニメーションを作るので大変だったと思います。
4Gamer:
キャラクターアニメーションの滑らかさなどは,さすがヴァニラウェアと言えるクオリティですよね。
神谷氏:
ありがとうございます。
プレイヤーとしてというよりも,作り手として
4Gamer:
これは改めてお聞きしてみたかったんですが,そもそも,なぜ今の時代にベルトスクロールアクションを作ろうと思ったんですか?
神谷氏:
そうですねぇ。キッカケの一つは,カプコンでプロデューサーをしておられる先輩が「何か作らないか」と訪ねて来られたことです。憧れのカプコンさんで,作りたいものと聞かれたら,そりゃ長年暖めていた「ドラゴンズクラウン」が一番に出てきますよ。慌てて企画を提案しました。
4Gamer:
え,最初はカプコンに向けた企画だったんですか。
「ドラゴンズクラウン」の企画評価は,それなりに良かったと聞きましたが,残念なことに最終承認はいただけなかったんです。でも,もうこっちは作る気満々になっていたし,僕はどうしても諦められなかったので,イグニッション・エンターテイメントさんに助けてもらって,「ドラゴンズクラウン」のプロジェクトはスタートするわけです。この辺りのことを話すと,またアトラスさんに止められそうですが(苦笑)。
4Gamer:
なかなか興味深い話です。
神谷氏:
そしてもう一つは,メインプログラマーの大西さんが,「朧村正」を作ったあとに「ラインじゃなくて,ベルトフロアをやりたい」と言い出したことがありますね。彼は朧村正でも,マスターアップの一週間前に死狂(シグルイ)モードを付け足して,デバッグ会社さんを涙目にしたほどの男で,より高いゲーム性の作品を作ることを求めていました。
4Gamer:
マスターアップの一週間前に仕様追加……!?
神谷氏:
そういう人なので,とにかく大西さんは,次のチャレンジとして,いつも床の上に一列に並んでしまう「線」の遊びになりがち(ヴァニラウェアはサイドビューが得意)だけど,ベルトフロアならば,ウチでも「面」の遊びが作れるのでは,と考えたようです。僕はというと,過去にカプコンで実際にベルトスクロールアクションが作られるのを見ていたことがあるので,「作るのは大変だよ」と彼を脅していましたが。
4Gamer:
バランスの調整が難しいとかってことですか?
神谷氏:
カプコンの先輩たちが,苦労しながら調整にかなりの時間を費やしているのを見ていたので,そこを目指すなら開発期間的に作りきれるか心配でした。更に今回は,朧村正で出来なかった「プレイヤーキャラクター毎で違う遊び方」,そして「ステージの仕掛け演出やギミックを凝る」という野望もあったので,大変なボリュームになりそうだと。
4Gamer:
なるほど。
神谷氏:
まぁあと,”なぜ作ろうと思ったか?”に簡単に答えるなら,カプコンの「ダンジョンズ&ドラゴンズ」や「エイリアンVSプレデター」みたいなベルトアクションを作りたいって気持ちが強かったの一言なんでしょうけどね。
4Gamer:
ある年代にとっては,ベルトアクションってとても思い入れが強いジャンルだと思うんです。
神谷氏:
そのアーケード世代に「ベルトスクロールで思い出深いのは?」って聞くと,あがってくるタイトルは,カプコンの作品のような気がします。さっきの二作に加え,「ファイナルファイト」「ザ・キングオブドラゴンズ」「天地を喰らう」「キャプテンコマンドー」,それに「キャディラックス 恐竜新世紀」なんて。
4Gamer:
確かに「遊び込んだ!」といえる作品の多くは,カプコンのタイトルを連想しますね。
神谷氏:
ベルトスクロールの源流となる「熱血硬派くにおくん」や「ゴールデンアックス」なんて名作もあったりするんですが,ベルトフロアやベルトスクロールという呼ばれ方で,ジャンルとしてはっきり意識される形にしたのは,カプコン作品だったように思います。
4Gamer:
神谷さん自身も,やっぱりベルトアクションに対する思い入れは相当強いんですか?
神谷氏:
僕の場合は,プレイヤーとしてというよりも,カプコンの先輩達が作っているのを見て感動したことの方が大きいですね。開発途中の作品が,チューニングを経てどんどん面白くなっていく様子は,本当に目を見張るものがありましたから。あの時の思いが,今回のドラゴンズクラウン制作に踏み切らせたのかもしれませんね。
ベルトアクションを今の時代に向けて
4Gamer:
「昔ながらのベルトアクションを現代の技術で作る」というのは,ドラゴンズクラウンの大きな特徴だと思いますが,一方で,本作は新しい要素というか,現代のプレイヤーに合わせたさまざまなシステムも実装していますよね。RPG要素がかなり強いのもその一つだと思いますが。
神谷氏:
100円で遊び始められるアーケードゲームと違って,パッケージは結構な値段がするので,長く遊べないとつらいですよね。RPG要素は,そのためにも必要なんですが,本作では,今までよりもうまくアクションと融合させられたのではないかと思います。
それに,アーケードゲームって「100円玉を入れさせる」ゲーム設計になってるじゃないですか。例えば「1面のボスには勝てるが,2面でコンティニューさせる」みたいに。まぁ,プレイヤーが慣れるとワンコインで40分遊べるゲームもありましたけど(笑)。
4Gamer:
お金のない学生時代は,長く遊べるからって理由で,よく「ダンジョンズ&ドラゴンズ シャドーオーバーミスタラ」を遊んでいました。
神谷氏:
ドラゴンズクラウンでは,冒険中にステージで死ぬとアーケードのようにコンティニューが出来るんですが,その“お金”というのが,プレイヤーが稼いだゴールドなんです。そしてコンティニューするたびに,コンティニュー代が跳ね上がっていきます。コンティニューしまくってスッテンテンになったら,きっとゲーセンでコンティニューに突っ込みまくった,あの感覚が蘇ると思いますよ(笑)。
4Gamer:
難度を調整するって意味で言うと,育成要素も大きいですよね。アクションが下手な人は,レベルを上げてからチャレンジすれば,だいぶクリアしやすくなりますし。
神谷氏:
確かにアクションが苦手な人は,レベルを上げるといいですね。必ず4人パーティで挑んで,コンティニューを惜しまなければ,わりと難度を下げることができます。逆にアクションを極めたい人は,高レベルボスに挑んだり,ソロや二人パーティにすれば立ち回りが非常に重要になります。結果として難度は,いい落とし所に出来たのではないかと思っています。
4Gamer:
そもそもベルトアクションのゲームで,ここまでちゃんと育成要素やトレジャーハント要素が盛り込まれてるタイトルって,他にあるんですかね? ぱっとは思いつかないんですけど。
神谷氏:
どうでしょう?。PCゲームだと「アラド戦記」なんかがそうなんですかね。他にもインディーズ作品なら結構あったりしそうですが,そもそもベルトスクロール自体稀少でしょうから。
4Gamer:
そうかもしれません。
神谷氏:
ドラゴンズクラウンでトレジャーハント要素がしっかり実装されたのも,大西さんのおかげですね。ウィザードリィやソーサリアンっぽく,各探索エリアと拠点の街とを行き来する構造は,1998年に作った最初の企画書からあったんですが,装備品のパラメータをランダムにして,Diabloっぽくしようと提案したのが彼なんです。ドラゴンズクラウンをどんなゲームか説明するときは,「Diablo×ベルトスクロールアクション」と言うのが一番わかりやすいかもしれません。
4Gamer:
ランダムダンジョンもありますし,確かにDiabloライクですよね。
神谷氏:
実は開発初期は,「素材数を抑えながらも長く遊べる」という大西さんの意見を取り入れて,ストーリー進行用のダンジョン以外は基本的にランダムダンジョンという設計だったんですよ。でも本来のベルトアクションは,固定の面を覚えて攻略する面白さがあるし,ダンジョンにも地域性がある方が演出や仕掛けなんかも面白くできると考えて,今の固定型に戻しました。ところが開発途中に「固定面では,飽きられてしまうのでは?」という意見が上がってきて。
4Gamer:
まぁ,一理ありますね。
神谷氏:
それを見て大西さんが「ほらやっぱり!」ですよ(笑)。結局,企画の中西君も「自分が仕様きって調整しますから」と言い始めたので,更にランダムダンジョンを付け足すことに決めたんです。その後は,勝手に仕様が増えていって,しまいには僕の知らないランダムダンジョン専用のボスまで置かれていたり(笑)。
4Gamer:
あはは。
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