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ボードゲームの祭典「ゲームマーケット2012秋」レポート。熱気に溢れた会場から,さらに盛り上がりを見せるボードゲームシーンの今をお届け
国内はもちろん,アジアでも最大級のボードゲーム/カードゲーム即売会に成長した本イベントだが,多数の試遊卓も用意されており,気になるゲームをその場でプレイできるのが特徴だ。
出展者もホビージャパンやアークライトといった国内アナログゲームの主要メーカーから,輸入ショップや同人サークルにいたるまでさまざまで,今回は過去最大となる200以上のブースが軒を連ね,来場者数も4200名を越える規模での開催となった。10:00の開場前には500名以上が待機列を作って会場を取り囲むほどで,正午を回っても,場内は大勢の参加者で埋め尽くされていた。
本稿ではその会場の模様を,写真と共にお伝えしていく。ただ,この規模になってしまうと,筆者としてもすべてのブースをチェックすることは難しく,回りきれなかった部分もある。筆者が見聞きできた範囲に限られてはしまうものの,その熱気の一端を感じてもらえれば幸いだ。
ゲームマーケット公式サイト
新作を求め,4200名もの参加者が
まず今回出展されていたゲームの傾向でいえば,いわゆる「人狼」系のタイトルが多数見られたことが,特徴としてあげられるだろう。人狼――正確には「汝は人狼なりや?」というこのカードゲームは,ヨーロッパの古いパーティーゲームが出自とされる推理カードゲームで,ボードゲームのライト層を中心に,人気を集めているジャンルである。
その人気の理由の一つには,ネット上のBBSなどで遊ぶコミュニケーションゲームとして流行したことで,これまでボードゲームを遊んでいなかった層からも熱心なプレイヤーを生んだことが挙げられる。今回のゲームマーケットでは,オインクゲームズがゲームマーケット限定製品として,耐水加工が施された人狼カードを販売していたほか,一般ブースでもさまざまな人狼関連アイテムを見かけた。
人狼は多人数プレイが前提となるタイトルだが,役職の追加やルールの簡略化でバリエーションを作りやすく,吸血鬼やクトゥルフ神話をモチーフとした派生作品も次々と登場している。またボードやダイスなどが必要ないため制作コストも比較的安価で,かつイラストなどでの差別化も図れることが,制作者側の創作意欲をかき立てる部分なのかもしれない。
なお,このほかホビージャパンブースでは,来年発売予定の人狼系カードゲーム「レジスタンス:アヴァロン」のデモプレイが行われていた。こちらは既に発売済みの「レジスタンス」の,アーサー王伝説バージョンとのことである。
■「ひぐらし」の竜騎士07氏がオリジナルカードゲームで参戦
07th Expansionといえば,今でこそノベルゲームの人気サークルという印象だが,元々はアナログゲームの二次創作で活躍していたサークルでもある。今回のゲームマーケット参戦は,ある意味原点回帰ともいえる。会場にいた竜騎士07氏の話によれば,第1集が8月11日に発売された「ローズガンズデイズ」が男とオッサンしか出てこないため,可愛い女の子が描きたくて今回のテーマを選んだのだとか。そこでそのまま美少女とはならず,男の娘に向かうあたりは,さすがというべきかもしれない。
「互いを男の娘メイドに調教し合うゲーム」公式サイト
熱気に溢れた会場で見かけた,ちょっと気になるもの
ここからは,筆者が会場で見かけたタイトルを写真と共に紹介していこう。残念ながら今回会場に来られなかった人や,時間がなくて回りきれなかったという人は,ぜひ参考にしてほしい。
ホビージャパンブース
輸入・翻訳ゲームの大手,ホビージャパンは,新作などの発売で,ブースは終始人だかり。次々と試遊テーブルで新作が紹介されていた。「ドミニオン:暗黒時代」は早々に完売。そのほかのボードゲームも大人気である。
アークライトブース
同じく大手ゲームメーカーのアークライトは,「ディセント第2版」「ロビンソン漂流記」「悪魔城への馬車」など,話題の海外ゲームの日本語版を販売。国産でもクトゥルフ神話系ゲーム「ミ=ゴの脳みそハント!」が先行発売され,人気を集めていた。
「ミ=ゴの脳みそハント!」は,なんと「クトゥルフ神話リプレイ」と連動した狐印さんの追加カード付き |
お猿のぬいぐるみからチップを取り出すバースト系(いわゆるダブルアップのような仕組み)ゲーム「チーチーモンキー」。可愛いぬいぐるみは日本版のみ! |
翔エンタープライズブース
2012年夏に誕生したばかりの翔エンタープライズは,ゲーム界の長老,鈴木銀一郎氏を最高顧問に迎え,1時間で遊べるRPGを積極的に製品化している。今回のゲームマーケットでも,モンスターメーカーの世界を舞台にした対戦型カードゲーム「セブンミッションズ」を販売。鈴木氏自身がデモプレイをおこなっていた。
次回作は,トミーウォーカーのPBW(Play by Web=Webサービスを介して行う多人数参加型RPG。いわゆる読者参加型ゲームのようなもの)と連動した「サイキックハーツ・カードゲーム」を予定している。
アナログゲーム界の生ける伝説,鈴木銀一郎氏。70歳を越えてなおお元気で,矢継ぎ早に作品を発表している |
「セブンミッションズ」の対戦風景 |
富士見書房ブース
グループSNE制作のカードゲーム「シルク・ドゥ・モンスター」は,ブシロードから発売中。同じくブシロードからは,デッキ構築型カードゲーム「めだかボックス・カードゲーム 学園お花畑計画」も発売中で,こちらも展示と販売が行われていた。
シルク・ドゥ・モンスター |
めだかボックス・カードゲーム 学園お花畑計画 |
グループSNEブース
2010年に発売されたカードゲーム「キャッツ&チョコレート」の再販版が並んだSNEブース。自社ゲームを題材にしたゲームブック(新紀元社 ゲームブック文庫)も販売されていた。このほか現在制作中のボードゲーム版「ゴーストハンター」のテストプレイなども行われていたようだ。
期待の新作「フィルムフィクサー」は,香港の印刷所からの発送が間に合わず,ポップのみの出展に。うーん,残念 |
自らブースに陣取る代表・安田 均氏 |
オインクゲームズブース
オインクゲームズは篠原遊戯重工の「うそつきばかり」のリメイク版「dibdib」を発売。また先に取上げた「人狼に使えるカード」の限定販売も行っていた。
春に篠原遊戯重工が制作した「うそつきばかり」をリメイクした「dibdib」。クッキーを贈り合う愛のゲーム,とのこと |
オインクゲームズ代表のデザイナー,佐々木隼氏。「自分の理想とする『人狼』カードを作ってみました。耐水性があり,名刺サイズで携帯しやすいのが特徴です」 |
テンデイズゲームズブース
多数の新作輸入ボードゲームが入荷されていて,購入者の列が絶えなかったテンデイズゲームズ。今回のオススメは? と質問してみると,「テレストレーション日本語版」との答えが返ってきた。イラストで伝言ゲームを楽しむパーティーゲームとのことだ。
ゲームストア・バネストブース
海外輸入ゲームの専門店バネストのブースには,ドイツのエッセンから持ち込まれた新作を求めるお客さんが列をなしていた。尽きることのないお客にさんに忙しく対応していた中野将之店長によれば,今回のイチオシは西部劇の悪漢を扱った「Desperados」とのこと。1万2千ドルを奪った悪漢を追って保安官が西部を駆け巡る,1対多型の対戦カードゲームだ。
ドロッセルマイヤーズブース
中野ブロードウェイに店舗を構えるゲームショップ,ドロッセルマイヤーズのブースは,新作「Dragon Teeth Washer(巨竜の歯みがき)」を大プッシュ。ドラゴンが口を開けている間にどれだけ歯を磨けるかを競う,バースト&バッティング系カードゲームだ。
ドミニオン木曜会ブース
「ドミニオン」の初代世界チャンピオンre-ne(ルネ)氏と,二代目チャンピオンiori氏を擁するドミニオン界の最高学府(?)ドミニオン木曜会。ブースではドミニオンの初級者〜中級者向け解説本「ドミニオンマニアックスZERO」と,最新エキスパンション「暗黒時代」の最速解説本「ドミニオンマニアックス 暗黒時代」を販売。そのほか,世界チャンピオンと対戦できる体験会も開催されていた。
広島ものづくりジムブース
広島ものづくりジムは,広島で活動するクリエーター養成塾とのことで,「ギャングスターパラダイス」「吼戦烈符」「いさましいちびの炊飯器TRPG」など,塾生達が制作したオリジナルゲームを多数展示/販売していた。代表のくぼひでき氏によれば,ゲーム作りはコミュニケーションが重要とのことで,自分の制作物を直接人に手渡せるゲームマーケットは,クリエイター志望者にとって,貴重な機会なのだとか。
日本リクリエーション協会ブース
アフリカや中東で遊ばれている古典的ゲーム「マンカラ」を販売していたのは,初出展の公益財団法人「日本リクリエーション協会」。普段は健康や余暇活用をテーマに,幅広く活動しているという。ゲームをとおしたレクリエーションは,脳の活性化を促進するとのことだ。
Baka Fire Partyブース
ループものホラーゲーム「惨劇RoopeR」で知られるBaka Fire Partyのブース。同作は,同人ベースながら現在第四版まで出ている人気作で,ブースには今回も多くの購入者が列を作っていた。そのBaka Fire Partyの新作は,世界探索型情報戦ボードゲーム「Old World and Code of Nines」。崩壊した世界の廃墟を巡り,かつての文明の面影を集めていくという,ちょっと変わったモチーフの作品となっている。勝利点を獲得する条件がカードによって変わっていくという,奇妙な味わいのゲームだ。
そのほか,気になるゲームを写真で紹介
「ブルーフォレスト物語」の伏見健二氏が代表を務めるエテルシアワークショップ/グランペールでは,漫画家あわじひめじ氏デザインのTRPG「敗犬は荒野を駆ける」が販売されていた |
「敗犬は荒野を駆ける」のキャラクターシートがこちら。撤退戦をテーマにした,短時間でプレイできるミリタリーTRPGとのことだ |
「Love Letter」などで有名なカナイ製作所の新作は,必殺系の時代劇カードゲーム「成敗」のテスト版。テスト版にも関わらず,早々に完売となったようだ |
ドコウツカゲームズで見つけた,ゲームができるTシャツ「Burger Boy」 |
Origins研究会で見つけた,メキシコの覇権をめぐって争うカードゲーム「Pax Porifiriana」(和訳付き)。こうしたマニアックなゲームが見つかるのもゲームマーケットならではか |
サークル GOTTA2は宝探し系カードゲーム「BANDITS!」のエキスパンション3作を販売。それぞれ単独でも遊ぶことができるとのこと |
TRY GOODの,絵描き歌でお題を当てるカードゲーム「まるかいてちょん!」。カードが美しい絵合わせゲーム「托卵」も再販されていた |
カードゲーム大好きな漫画家コンビ,FLIPFLOPsによる本格カードゲーム「ハートオブクラウン」。Windowsで動作するPC版同人ゲームもilluCalabから発売中 |
B級ホラー映画をモチーフにした,ラブリー会創作ボードゲーム研究室の「バッドモーテル」 |
サークル conceptionの「タマゴリッチ」。ダチョウの卵を袋に詰めていく,3人専用のボードゲーム |
さらに拡大を続けるゲームマーケット
2011年に春秋の年2回開催になってから,拡大の一途をたどるゲームマーケット。ゲームマーケットの運営責任者であるアークライトの山上新介氏によれば,その拡大は予想を越えた速度で進んでいるようで,来場者数ベースでも,毎回30%を超える増加がみられるとのこと。このペースで来場者が増え続けるようなら,予定がすでに決まっている2013年はともかく,2014年にはより広い場所に会場を移す必要があるそうだ。
またゲームマーケットのシーンについても,購入しやすく手軽に遊べる,いわゆる500円ゲームの復活や,Webなどを介した取り置き・予約販売を奨励するサークルの増加などで,変化を見せつつあるという。それぞれ一長一短はあれど,買い手側と作り手側双方のリスクを回避し,間口を広げるという意味でポジティブに捉えていると,山上氏はコメントしていた。
さらに山上氏によれば,国産ゲームのレベルも,商業・同人を問わず,かなりのレベルに達しているそうで,実際に春のゲームマーケットでは,視察に訪れる海外メーカーが増えていたとのこと(秋は日程的に本場ドイツのショウとかぶるため難しいらしい)。アナログゲームのさらなる盛り上がりのためには,優れた国産タイトルを世界に向けて発信するチャンネル作りがより必要になってくる,ということなのかもしれない。その意味でも,ゲームマーケットは今後ますます重要な場になっていくことだろう。
最後に,会場で偶然お会いしたゲームマーケット創始者 草場 純氏に話を聞くことができたので,ミニインタビューをお届けしよう。次回のゲームマーケットは,2013年3月の「ゲームマーケット2013大阪」。会場も前回より大きくなっているそうなので,関西のアナログゲーマーはぜひ足を運んでみよう。
恒例企画「あなたの買い物を見せて?」 お昼を待たずに,早くも鞄一杯買い込んだ来場者も |
鞄の中からWizKidsのフィギュアゲーム「Mage Knight: Board Game」を発見! |
■ゲームマーケットの創始者・草場純氏 ミニ・インタビュー
草場さんがゲームマーケットを始められたのは,どういう経緯だったのでしょうか。
草場 純氏(以下,草場氏):
最初は「なかよし村」というサークルでさまざまなゲームを遊んでいたんですが,それをもっと広げようと2000年4月にゲームマーケットを始めました。アナログゲームをもっと気軽に買える環境を作りたかったわけです。最初は30ブース,参加者400人でしたから,今では規模が10倍になりましたね。2009年に参加者が2000人を越えた時点で,個人の手に余るようになり,アークライトに引き継いでいただきました。非常によい流れだったと思います。
4Gamer:
ゲームマーケットがここまで大きくなったのは,なぜでしょうか?
草場氏:
デジタルゲームがどんどん進歩するなかで,人間同士が顔を合わせて遊ぶことの楽しさに回帰したんじゃないかと思っています。もちろんその裏には,カワサキファクトリーやワンドロー,カナイ製作所さんといった,パイオニアとなるデザイナーの存在があります。そして彼らを支えているのは,ゲームマーケットに朝から並んで,ゲームを買ってくれるファン達ですから,みんなで育ててきたというイメージですね。
4Gamer:
ゲームマーケットの現状と今後について,どう考えてらっしゃいますか。
草場氏:
私自身,SF大会やコミケといった先行イベントから学んでゲームマーケットを始めたので,それらに並ぶイベントに育ってくれたらいいですね。今やっているのは,次の展開として,日本の伝統ゲームを海外に紹介するなど,日本のゲームデザイナーがもっと海外に進出しやすくなるための環境作りです。今後はそういう環境が必要になると思うので。
4Gamer:
なるほど。小さなサークルからゲームマーケットへ,そしてその次は世界へ,というわけですか。
草場氏:
そうですね。あとゲームミュージアムみたいものも,あったらいいなと思っています。アナログゲームは,どうしてもプレイする環境を作るのが大変ですし,こういったイベントだけでなく,いつでも遊べる常設の会場が欲しいですよね。
4Gamer:
ああ,アナログゲームは個人で多くを保管するのは大変ですし,確かにそういう場所があるといいかもしれない。
草場氏:
でしょう? アナログゲームの新作は毎年たくさん出るわけだけど,その時に買わないとそのまま消えていってしまうものも少なくないですし,買ったとしても,それをいつでも遊べる状態に保つのは大変ですよね。だから,1階が色んなゲームを保存する展示室で,2階がプレイルームとか,ゲームミュージアムを作るならそんな風にしたい……といった感じで,先のことを考えていきたいと思っているんですよ(笑)。
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