2015年3月1日,大阪鶴見緑地の花博記念公園にあるハナミズキホールにて,アークライトが主催するアナログゲームイベント
「ゲームマーケット2015大阪」が開催された。
4Gamerでも何度かレポートを掲載しているゲームマーケットは,国内最大のアナログゲームの祭典で,その規模はアジアでも最大級のものといえる。2000年から毎年春と秋に東京で開催されているほか,近年は大阪でも開催されるようになり,今回は底冷えのする雨模様という天候にもかかわらず,10:00の開場前には700人以上が入場列を形成していた。出展社も国内ボードゲームの主要メーカーのほか,輸入ショップ,同人サークルと
142の団体が参加し,
3000人を超える来場者で賑わいを見せた。
本稿ではそんな会場の模様を,写真と共にお伝えしていこう。
「次のステップ」を目指すゲームデザイナー達
大手メーカーから同人サークルまで,さまざまな規模の新作ボードゲームが発表・販売されるゲームマーケットだが,今回の出展を見て筆者が感じたのは,全体的なパッケージング――同梱されるコンポーネントなどを含めたデザイン面の向上だ。とくに中堅以上のサークルでその傾向が強く,ただ単に作品を持ち寄るだけではなく,ゲームデザイナーとして次のステップに進もうとする意思が感じられるものとなっていた。
例えば,江戸時代の商家をテーマにした対戦型ボードゲーム
「AKINDO」で知られる
Product Artsの海外向けブランドcocolo gamesからは,新作
「ART OF WAR the card game」がお目見えしている。戦争と建国をテーマにした対戦カードゲームであり,とくにアーティスティックなカードデザインが目を惹くタイトルだが,このカードイラストはブラジル在住のデザイナー,
Weberson Santiago氏が手がけるものだ。日本はもちろんのこと,海外――とくにヨーロッパ市場を意識したデザインを心がけたとのことで,海外に打って出る意思を強く感じるタイトルに仕上がっている。
同人文化がベースになっているゲームマーケットは,これまでどちらかといえば「自分が欲しいものを作る」のが主流の考え方だったが,Product Artsを筆頭に,広く評価されることを目標とするサークルが増えつつある。
いわゆるLCG(Living Card Game)タイプの対戦カードゲームである「ART OF WAR the card game」。それぞれのプレイヤーが,1枚のKINGを中心に5種類のカードを組み合わせてデッキを作り,将棋を思わせる3×2マスの戦場で対戦を繰り広げる。戦争に勝つことを目指すだけでなく,国家経営の面で勝利することもできるため,戦術の幅が広いのが特徴だ
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クリエイター同士のコラボレーションによって,自身の作風を広げようとする試みも見られた。「惨劇RoopeR」で知られるBaka Fire Partyは,全ファミ協会とタッグを組み,紐を使ってカードに描かれた図形を作る新感覚パズルゲーム
「ライデマイスター」を発売した。同作は,全ファミ会のコンセプトを元にBaka Fire Partyがゲームデザインを担当し,コンポーネントの制作を全ファミ協会支部長が担当したタイトルとのことである。
位相幾何学型同値変形パズルゲームを謳う「ライデマイスター」。これまでのBaka Fire Partyの作風とは一味違うアブストラクト系のタイトルだ
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鍋野企画と
数寄ゲームズは,大手メーカーに混じって合同で大型ブースを出展していた。
「王様のマカロン」「犯人は踊る」といった,どちらかといえばファミリー寄りなタイトルで知られる鍋野企画と,1人の姫騎士をオークが追いかけ回す非対照型ドラフトカードゲーム
「姫騎士,逃ゲテ〜」の数寄ゲームズ。一風変わった組み合わせだが,今回はお互いの作品を題材として新作をデザインし,発表している。
鍋野企画のコラボタイトル
「姫騎士の魂 〜Soul of Princess」は,ポーカーチップと8枚のカードを使った心理戦カードゲーム。数寄ゲームズの
「犯人は踊るポーカー」は,わずか5枚のカードで犯人当てをする推理型のカードゲームとのことである。
岩波文庫風(?)のパッケージにコダワリを感じる,数寄ゲームズの「犯人は踊るポーカー」(左写真)。鍋野企画の「姫騎士の魂」(右写真)も,本物のポーカーチップを使ったコンポーネントが美しい
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こうした流れの根底には,
「グリモリア」の
木皿儀隼一氏や,
「ラブレター」の
カナイセイジ氏らの海外での活躍により,“海外で成功するための道筋”がより具体的に見えるようになってきたことがあるのだろう。海外ディーラーが会場を視察して回る光景も一般的になってきており,ゲームマーケットでチャンスを掴んで海外デビューというのも夢物語ではない。
同人サークルがプロ化していく傾向は,大勢を見ると決して良いことばかりではない面もあるのだが……先人達に続こうとするクリエイター達が出てきたこと自体は,とても喜ばしい。個人的にも,ぜひ応援していきたいと思っている。
なお,次回の関西でのゲームマーケットは,より広い会場となる神戸国際展示場に場所を移し,
「ゲームマーケット神戸」として2016年2月21日に開催となる。また関東では,2015年5月5日に
「ゲームマーケット2015春」が,11月22日に
「ゲームマーケット2015秋」が予定されている。関西に負けず,関東でもバラエティ豊かな新作が見られることを期待しよう。
以前に発売して話題となった作品を,リビルドして持ち込んだサークルも少なくない。北陸の台風の目,ちゃがちゃがゲームズは代表作「スタンプグラフィティ」「くだものあつめ」の第2版を発売。ともに初版からのバージョンアップキットも用意されていた
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ゲームNOWAはバッティング系ゲームの「VIVA ココノッツ」を発売。日本神話のヤマタノオロチ退治を題材にした「大蛇(オロチ)のえじき」の第2版は,和風テイストのイラストが素晴らしい |
ひとじゃらしの「3秒ルール」新装版。金属球が転がる約3秒の間に,ランダムに出題されるお題をこなすゲームだが,終着点に磁石が付いたことで金属球がきれいに止まるように。これにより,プレイアビリティが向上している |
Eggplantは,樹木に向かってモモンガを飛ばす「Momonga Jump」の第2版を発表。以前はただ飛ばして遊ぶだけの,どちらかといえば玩具寄りのタイトルだったが,ルール面が整備されたことでよりゲームらしくなった。ほかにも,封筒から鮮やかな蝶が飛び出す「ダイアかチョウか」や,北海道ならではの味付けが施された人狼ゲーム「カムイたちの夜」など,ビジュアルにこだわったタイトルを出展していた
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海外の話題作からオリジナルタイトルまで。注目タイトルピックアップ
さてここからは,前回に比べ,約1.5倍の広さになったという会場から,注目のブースや話題の新作をピックアップして紹介していこう。
■アークライト
海外ボードゲームのローカライズを手がけるアークライトのブースでは,2015年に展開予定の新作が数多く展示されていた。
「アクアスフィア」「オルレアン」「ヒストリア」「アルケミスト」など,2014年10月のSpiel‘14で発表された話題作が目白押しで,日本語版の発売にも期待がかかる。
また「マジック:ザ・ギャザリング」の
Richard Garfield氏の手によるサイバーパンクLCG
「Android: NETRUNNER」,4Gamer読者にはなじみ深いはずのシングルRPG
「The Witcher」シリーズをボードゲーム化した
「ウィッチャー ザ・ボードゲーム」では,β版の試遊台も用意され,多くのファンが足を止め,プレイに興じていた。
「Android: NETRUNNER」(左写真)と「The Witcher Adventure Game」(右写真)
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■オインクゲームズ
オインクゲームズの新作
「トロル」は,かつてドロッセルマイヤー商會が販売していた「巨竜の歯みがき」を,オインク流にアレンジしたもの。トロルの洞窟に忍び込み,気づかれる前に宝石を持って逃げ出すという内容で,トロルの気配を読みつつ,どのぐらいの量の宝石を掴むのかがポイントとなる。
トロル
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■グループSNE / cossaic
グループSNE / cossaicブースのイチオシは,Cheapass Gamesの看板タイトル「Kill Doctor Lucky」をカードゲーム化した
「キルDr.ラッキー・カードゲーム」。プレイヤー全員から恨みを買う“ラッキー博士”を殺すべく悪銭苦闘するゲームだが,博士は幸運すぎてなかなかうまくいかないという,ユーモアたっぷりのタイトルとなっている。
キルDr.ラッキー・カードゲーム
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ほかグループSNEに所属する友野 詳氏のファンタジーノベル
「コクーン・ワールド」を原作とした
「コクーン・ワールド ザ・ボードゲーム」のテスト版も出展されており,こちらも楽しみ。原作者の友野氏によれば,「原作の再現性は皆無の運ゲーですが,楽しければそれでいいんです! あと,専用のダイスタワーが付きます」とのこと。
コクーン・ワールド ザ・ボードゲーム
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■ゲームフィールド
九州のボードゲームショップ
「ゲームフィールド」のブースでは,国産のカードゲーム
「落水邸物語」のほか,輸入ボードゲームが展示販売されていた。写真は輸入ゲームの新作「Epic Resort」。ファンタジー世界の英雄達が憩うリゾート地を経営し,世界を救う戦いを支援する……という内容だそうだ。
Epic Resort
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■アジアからの参加者達
韓国の若手デザイナー達が新設したメーカーの
GARYKIMGAMESは,クラウドファンディングで資金調達した
「The DOME」を発売。サイバーパンク風の世界を舞台にした2〜4人用の対戦型カードゲームとのこと。クールなイラストが目を惹くタイトルだ。
The DOME
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台湾からの参加者となるBIGFUN(大玩卓遊)の「かくにゃんぼうDX」。このサークルは「ワンニャービスケット」など,愛らしい動物ゲームが得意な様子 |
同じく台湾から,Moaideas Game Designの「忍者ボウリング」。ピンのカードに手裏剣カードを投げつけ,触れたカードで倒したピンの数を競うアクションゲーム |
会場で見かけた面白そうな作品はまだまだある,以下,気になったタイトルを写真で紹介していこう。三国志をテーマにした対戦カードゲーム「サンゴク -SANGOKU!-」のリトルフューチャーは,同作の拡張セット「争覇の彼方」を発売。洋介犬氏の漫画「軍師×彼女」とコラボしたプロモーションカードも登場していた
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広島でボードゲームを始めとしたさまざまな創作活動の支援を行っている広島ものづくりジムは,学生が作った「干支回し」「Wall Break」を販売
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Spieldisorderの「エトランゼ」は,“謎の天才”を追うミステリ風ゲーム。コンポーネントが,すべてDVDのパッケージに収まるのがポイントだとか
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ゲームマーケットでは少数派のテーブルトークRPGだが,短時間で遊べるボードゲーム風のシステムを出展するサークルを発見。ないつお@おまじなラジオの「超高速ファンタジーRPG 30分勇者」(左写真)はチャートによる物語生成がミソだという。AHCの「ラスボス戦闘RPGのこり3ターン」(右写真)はタイトルどおりクライマックスの戦闘を焦点にしたタイトルだ
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サークル・ペンとサイコロの「三千世界の烏を殺し,主と朝寝がしてみたい」は,クラウドファンディング発の和風テイスト溢れるカードゲーム |
同じくペンとサイコロで販売されていた,陰陽道をテーマにしたダイスゲーム「陰陽賽」。 前回紹介したポストカードゲーム企画作品をグレードアップしたものだという |
今回の行列サークルその1「ぐうのね」の「チューリップ・バブル」は,オランダ黄金時代のチューリップブームをテーマにした投機ゲーム。コンポーネントの美しさが大きな話題となった |
賽苑の「勝手にしやがれ」は,表裏に異なるマークが描かれた10枚の木片を使い,ピラミッドを築いていく2人協力型のパズルゲーム。互いの間に配置した木片を,相手側か自分側のどちらに倒すかを選択しながら,同じ模様を4枚揃えるのが目的となる。倒す前には,片面の模様しか見られないところがポイントだ |
なぜかミステリーをテーマにした作品が多かった今回のゲームマーケット。EJIN研究所の「犯人は探偵の中にイる」は,カードを集めながら「犯行時刻」「凶器」「動機」を特定し,犯人を暴き出す推理ゲームだ |
アトリエφの「Crazy Wizard」は,魔法バトルが楽しめるカードゲーム。カードに描かれたアルファベットと数字で勝敗を決定する。負けた方はダメージを受けたり,カエルにされたり,クラクラしたりする |
A.I.Lab.遊の「航海の時代」はタイトル通り,大航海時代の海洋交易を題材にしたボードゲーム。島を発見して開発し,特産物の生産を拡大させていくのだが,同時に陣取り要素もあるので気が抜けない |
7の「Exultate Deo 〜ぬいぐるみ工房の秘密〜」は,カードを使わないトリックテイキングゲームという野心作 |
タレるヤの「ゾンビエスケープ」は,ババ抜き風のお手軽ゾンビ系カードゲーム。手札の中のゾンビカードを,武器のカードと合わせて破棄することで生き延びていく |
メイドさんが手渡ししてくれた,あおきのこGAMESのダイスゲーム「サイコロのアレ」。ダイスカップが入った手提げが点数ボードになっているのが特徴 |
「アルパカパカパカ」で知られる高天原の新作は「カピバラバラバラ」と「Trick Taking Book 2015」。後者はトリックテイキングの研究書とのこと |
MoBGAMESの新作「大きなつづらと小さなつづら」は,昔話の「舌切り雀」をテーマにしたお手軽な読み合い系ゲーム |
はむはむずは,ブラフゲーム「ヘイヘイホー」や思考型の2人対戦ゲーム「HACKER」などを出展 |
大門さいころ倶楽部は陣取りゲーム「Empire Genesis」と,戦略ダイスゲーム「戦国少女絵巻 彩」を出展。同時発売の上級者向けゲームガイド「501個目からのボードゲーム選び」にも注目 |
GODICE GAMESの「よこにならぶ日」は,“コセイ”豊かな女の子達を仲良し同士で並べていくカードゲーム。特筆すべきは女の子のユニークさで,イカ使いとタコ使いのコセイが別属性になっているあたりに,作者のこだわりを感じる |
Saashi&Saashiの「Aコードで行こう」は,ジャズをテーマにしたトリックテイキングゲーム。カードの強さが変化する「転調」や,トリックが一度で終わらない「即興」といったギミックが盛り込まれている。カードデザインもスタイリッシュだ |
シンガリハットのダイスゲーム「夢の森と僕のくまさん」。愛らしいイラストが目を惹く |
Imagine GAMESの「POSTMAN RACE」は,さまざまな乗り物を使って郵便物を配達するボードゲーム。写真の白い台座は飛行状態を示すが,着陸できないと配達はできない |
3D6の「KASAKASA!」は,240匹のゴキブリに襲われた2LDKをテーマにしたエリアマジョリティ(地域支配)ゲーム。スゴイ数のゴキブリトークンが部屋中に隠れている |
聖書コレクションの新作「Lost Bible」は,聖書を題材としたゲームシリーズの第3弾。「ロストレガシー」シリーズのルールが用いられている |
スパ帝国の新作「押すモゥ」は,2人対戦型のボードゲーム。隊列を組んだ牛で相手を押しのけ,体重で陣地の獲得を目指す |
ゲーム創造Project GEORGEの「メデューサの眼」。メデューサ達が,相手を石化させる腕を競い合う戦術ゲーム |
恐竜のイラストがラブリーな,梟老堂の「たまもーる」。2vs.2の対戦カードゲームだ |
豚小屋の「お前アイツのこと好きなんじゃね?」。自分の想い人に設定されたプレイヤーに,勝利点を渡して好感度を上げていく。ただし想い人がバレると邪魔されるので,さりげなさが重要 |
くまうさゲームズの推理ゲーム「ベイカーストリート」。β版とのことだが,カードと封筒のデザインセンスが素晴らしく,完成が楽しみだ |
BONSAI-GAMESの同人誌「このシュミゲがすごい! 2015年版」。付録として日米のソロモン諸島での戦いを再現したゲーム「ガダルカナル!」が付属する |
ブッコの「つなぎ星」は,色付き眼鏡をかけながら,タイルをつなげていくという新発想のファミリーゲーム |
ニュートンアベニューの「KIKKAKE」は,放送作家の渡辺浩司氏(「とくダネ!」など)と福原フトシ氏(「ダウンタウンのごっつええ感じ」など)がカードゲームに挑戦した話題作。ボードゲーム業界の調査も兼ねての出展とのことだが,準備したゲームはあっという間に売り切れ |
ゲームデザイナーの中村 誠氏は,若手デザイナーにカードゲーム制作のノウハウを教えるゲームデザイン講座を開催 |
会場では,ゲームそのものほかにも,アナログゲームで使えるさまざまなグッズも販売されている。3Dプリンタによるフィギュアで知られる「石膏粉末工房」は,カッティングマシンを駆使したペーパーフィギュア「カゲチュア」を出展。線画をそのまま影絵風の切り絵にできるのが面白い |
トロヴィ工房の「お蜜柑様」。お蜜柑を信仰するカルト教団での派閥争いを扱ったアクションゲームとのこと。なお,みかんはゲームに含まれません |
ゲームショップ・冒険者ギルド【2d6】は,ダイスなどに加え,リアルサイズの盾や剣,フィギュアも出展 |
最後に,今回の筆者の収穫品を披露しよう。できるだけ買わないようにしたはずなのにこの始末である。ちなみに一番上のカードの束は,鍋野企画で買った,カードゲーム制作用のブランクカードだ
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