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[GDC 2023]PowerVRを提供してきたImagination Technologiesが,GDCにブース出展。同社の現状を聞いてきた
PowerVRと聞いて「Appleシリコンになる前は,iPhoneのGPUだったやつだよね」と答える人は,アップル製品に詳しいに違いない。PowerVRと聞いて,「インテルのAtom CPUのZ3000くらいまでのGPUだったはず」と答えた人は,単にトリビア自慢がしたいだけかもしれない。
Imagination Technologies公式サイト
いずれにせよ,あのPowerVRを提供してきた英国企業Imagination Technologiesは,2017年に,AppleがPowerVRの採用を継続しないと発表してから,急激に業績が悪化してしまった。2012年に買収したCPU開発メーカーのMIPSを2018年に売却することになったりして,事業再編なしには存続が危ぶまれている。
当時,彼らが開発していた,世界初のリアルタイムレイトレーシング対応スマートフォン向けGPU「PowerVR Wizard」は,次世代iPhone向けかも,と噂されることもあったが,結果的には,どこにも採用されず現在に至っている。
かくいう筆者は,長きにわたってImagination Technologiesを取材をしてきた身なので,GDC 2023に彼らのブースがあったことに感激してしまった。
PowerVRは死なず……とはならず
GPUブランドは「IMG」に
「よく来たな」と笑顔で迎えてくれたのは,10年来のつきあいとなるImagination Technologiesの担当者で,さっそく展示ブースの見どころを案内してくれた。
Imagination Technologiesは,開発コードネーム「Rogue」として開発された「PowerVR Series 9」(以下,PowerVR9)を最後に,GPUのブランド名を,社名に近い「IMG」に改めている。理由は不明だが,筆者は「アップルと一悶着あったことを忘れたい」か,「最近ブームのVRとの関連イメージを,意図せずに与えてしまうことを懸念して」のどちらかではないかと考えている。
それはさておき,新GPUブランドのIMGには,2つの製品バリエーションがあり,1つは性能重視版の「IMG Aシリーズ」,2つめは省電力重視の「IMG Bシリーズ」だ。ベースアーキテクチャは,PowerVR9(Rogue)系に近いが,最新の製造プロセスに合わせた設計を行ったことで,PowerVR9の2倍以上の性能を有するようだ。
「新GPUシリーズでレイトレーシング対応は行わないのか」と,担当者に聞くと「PowerVR Wizardの後継にあたるIMG DXTシリーズがある。ただ,スマートフォン向けにレイトレーシング技術が欲しいと顧客に言われたことは,これまでないね」と肩を落としていた。もっとも,「ARMのimmortalisはよく知らないが,QualcommのAdreno 740のレイトレ性能は良いようだ。今後,スマートフォン向けのゲームでレイトレ活用の気運が高まれば,我々にもチャンスが来るかもしれない」と前向きな発言もしていた。
スマートフォン向けGPUについては,IMG Bシリーズの中堅モデル「IMG BXM」を使用したUnityベースのゲームデモが,ブースの一角で披露されていた。動いていたデモはすべて,Unityの3Dグラフィックスレンダリングパイプラインの基本セットに相当する,「URP:Universal Render Pipeline」を採用したものだった。
Imagination Technologiesが提供するパフォーマンス解析ツール
ブースでは,Imagination TechnologiesのGPUでゲームを動かした際,各プロセスが,タイミングごとに,どれくらいの負荷で動作しているのかといったことが分かるパフォーマンス解析ツール,「PVRtune」などが実演されており,ゲーム動作中の端末(を想定した仮想GPU)に対するPVRtuneの様子を観察できた。GPU技術を提供するだけでなく,トータルな開発環境整備もできています,というアピールが行われているわけだ。
このほか,Imagination TechnologiesのGPU向けのテクスチャ制御ツール「PVRTexTool」,描画状況を追跡できるトレーサー「PVRCarbon」などが体験できた。
クラウドゲーム向けサーバー用GPUをInnosiliconに提供
マイニングマシンのInnosiliconが,コストパフォーマンス重視のクラウドゲームサービス用GPUサーバーを開発中で,Imagination Technologiesが持つグラフィックス技術をInnosiliconに提供することが決定したのだそうだ。担当者の説明によれば,ベースになるGPUは,IMG Bシリーズのハイエンドモデル「IMG BXT」だという。
ブースでは,1GPUで,4クライアント分のゲームグラフィックスを描画するデモが行われていた。各デモはOpenGL1.3/Vulkan 1.3で描画されているとのこと。
右下にはInnosiliconとImagination Technologiesのロゴが見える。
自動車産業向けの半導体事業にも進出
Imagination Technologiesは,自動車産業向けのコンピュータビジョン関連技術にも力を入れるようになった。ブースでは,自動運転技術や安全運転支援技術の開発に対応するための事業にも対応していることをアピールしていた。
車載SoC向けGPUとしては,XSシリーズを展開中で,ブースでは,Imagination TechnologiesのGPUを組み込んだRenesasの車載向けSoC「R-Car H3」を動作させ,ラジコンカーに複数実装されたカメラ映像を元に,360°ビューを合成するデモを行っていた。
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