インタビュー
携帯ゲーム機で遊べる本格派TPS「Unit 13」はいかにして作られたのか。プロデューサーとローカライズ担当に話を聞いた
今回,本作のプロデューサーとして開発に関わった,Sony Computer Entertainment Americaの稲垣ケン氏が来日し,インタビューする機会を得られた。稲垣氏,そしてSCEでローカライズを担当した松島 弘氏に,いかにしてこの「携帯ゲーム機用TPS」が作られたのかを聞いてみた。
「Unit 13」公式サイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。始めに,皆さんがUnit 13にどういった形で関わったのか,簡単な自己紹介をいただければと思います。
私はSony Computer Entertainment Americaの所属で,Unit 13のプロデュースを担当しました。開発はZipper Interactiveさんが行っていますが,私はSCEA側のプロデューサーという立場です。
過去には,「SOCOM」シリーズや「MAG」(MASSIVE ACTION GAME)といったZipper Interactive作品でも,プロダクションチームの1人として関わっていました。
松島 弘氏(以下,松島氏):
私はSCEのエクスターナルデベロップメント部に所属しており,実際に手を動かして「Unit 13」のローカライズを行っていました。
ほかにも,「WipEout 2048」や「ゴッド・オブ・ウォー 落日の悲愴曲&降誕の刻印 HDコレクション」でローカライズを担当したことがあります。
4Gamer:
……ところで,稲垣さんは日本の方ですよね? Unit 13やSOCOM,MAGのような洋ゲーのプロデューサーが日本人というのは,かなり意外なのですが。
稲垣氏:
ははは,こう見えても実は,カナダ人なんです。4年前からアメリカに住んでいますが,生まれも育ちもカナダですよ。
4Gamer:
それは失礼しました……。流暢に日本語を話されるので,てっきり日本の方だと思ってしまいました。
稲垣氏:
いえ,たまにおかしな日本語が出てしまうかもしれませんが,よろしくお願いします。
4Gamer:
こちらこそ,よろしくお願いします。
変な言い方かもしれませんが,Unit 13は「家庭用ゲーム機のような操作で遊べる初めての携帯ゲーム機用TPS」だと思っています。今回は,それを開発するにあたって,注力したポイントなどをお聞きしつつ,いかにして携帯ゲーム機用のTPSが生み出されたのか,という点を見つけられればと。
稲垣氏:
注力したのは,やはり操作面のデザインですね。シューティングゲーム(日本で言うシューティングではなく,FPSやTPS)をプレイするのであれば,携帯ゲーム機で右スティックが使えるのは,すごく嬉しいことですから。
4Gamer:
右スティックの存在は,視点変更に必須なんですよね。
ただ,実は個人的に操作面で感触が良かったのは,タッチスクリーンの使わせ方だったりします。Vitaのタイトルというと,ドラッグやフリックの操作を取り入れてくるものが多いと思いますが,そういった部分をバッサリ切って,「ボタンの一部として機能させる」形に落とし込んできたのは,非常にうまいなと思わされました。
稲垣氏:
そうですね。PlayStation 3用コントローラと比べると,[L2]や[R2],[L3][R3]ボタンがないので,その少なさをどうすべきか,試行錯誤を繰り返しました。そしていくつか操作方法のパターンを作成して,一般のプレイヤーにそれぞれテストをしてもらった結果,リロードはタッチスクリーンで,といった具合に決まりました。そこは目新しさではなく,コアゲーマーが求める操作感を優先する形で。
4Gamer:
スティックのすぐそばをタッチすればいいので,ボタンでリロードするよりも押しやすく感じます。もし,PlayStation 3用コントローラのように,[□]ボタンがリロードになっていたら,感触はまったく違っていたはずですし。
興味本位で聞いてみたいのですが,いくつかあったという操作方法で,ボツになったパターンはどういった操作になっていたのでしょう?
稲垣氏:
リロードが[□]になっているパターンや,十字キーになっているパターン,あとはモーションセンサーを使って狙撃時の狙いを付けられるようにするパターンなどがあったかと思います。
4Gamer:
そういえば,モーションセンサーや背面タッチにも,変わった使わせ方は用意されていません。そこは,意図的に使わせないようにされたのでしょうか。モーションセンサーで狙撃は,ちょっと楽しそうに聞こえますけど。
稲垣氏:
取り入れてみようとはしましたが,開発チーム内でテストを行い,「ゲーマーにとってこの機能は必要あるのか」「ゲーマーに必要な操作性は何か」を考えた結果,最終的にほとんど使わない方向に決定したのです。
変わった操作も最初は面白いかもしれませんが,結局のところ,実装したとしても「これを使っても良いスコアは出せないから,使わない」となってしまいます。
4Gamer:
なるほど。確かに,Unit 13はスコアランキングがあるので,「変わり種操作」はなかなか使うシーンがないかも……。
個人的にはもう1つ,ゲームバランスの落とし込みも好印象でした。いくら操作性が良いといっても,アナログスティックで精密なエイム操作ってできないじゃないですか。そこを,割と強くオートエイムを効かせて,サクサク敵を倒せるようにしつつ,それでいて簡単になりすぎないよう,こちらの立ち回りが悪いとあっさり倒されるくらいにする。その攻防のメリハリみたいな部分で,うまくバランスが取れているから,気持ちのいいプレイフィールになっているなと。
稲垣氏:
オートエイムのかかり具合は,開発中に何度も変わりました。TPSですし,ハンドガンであっても,アサルトライフルであっても,もしくはスナイパーライフルであっても,撃ったときに気持ちよさや爽快感が得られなければなりません。現在の仕様は,SCEAと開発チームでかなり議論を重ねて,かつ一般プレイヤーにもテストの協力をしていただいた結果です。
それから,Unit 13は携帯ゲーム機専用のゲームなので,ちょっとミッションをプレイすれば満足できて,パっとやめられるようなデザインを,強く意識して作りました。
4Gamer:
ミッションでは,ステージのクリア目標がランダムになるモード(ダイナミックモード)が実装されてるのも,割と珍しい仕様ですよね。ありそうでいて,意外と見ない。これを用意した意図は,どういったものになるんですか?
稲垣氏:
開発期間の中で用意できるマップの数が決められていたので,その中でもっと楽しんでもらうにはどうしようと考えて実装しました。「Run & Gun」……ただひたすら走って全部倒す,というだけではなく,もっとほかの方法もあるのではないかとアイデアを出し合ったなかで,これがランダムになれば,同じマップでも何度も楽しめるようになるのではないかと思いまして。
4Gamer:
リプレイ性は高いですよね。敵の配置が変わるだけで,同じマップでも有効な侵攻ルートがかなり変わってきますし。
ところで,Unit 13の開発期間ってどのぐらいだったのでしょう。
稲垣氏:
1年もなかったですね。
4Gamer:
なんと。操作感の良さなどを体感していると,じっくり練り込んで作ったのかと思っていました。
稲垣氏:
「SOCOM 4」の開発が終わった後に,次に何をしようかという話になったとき,PS Vitaのローンチタイトルにシューティングがないことに気付きました。そこで作ってみようかという話が出たのですが,1年もない状態から,しかも新ハードで作るというのは本当に大変なことですし。当然,「こんなの無理!」という声もありました。
スケジュールの厳しさもあってか,最初に作られたプロトタイプはあまり出来がよくなかったんですよ。もう,予定していた発売日に間に合わないだろうと思うほどでした。
稲垣氏:
ここまでしっかりしたものを完成させられたのは,もはや奇跡でしたね(笑)。
4Gamer:
そこまでですか(笑)。
松島氏:
プロトタイプ状態からの追い込みが,奇跡的なスピードだったんです。
稲垣氏:
優秀なスタッフをかき集めて,組織の編成もかなり変えて,なんとか完成させました。途中から,著名タイトルを手掛けた優秀なアートディレクターが加わって,グラフィックスのクオリティがいきなり高くなったのも大きいです。
グラフィックスエンジンは,SOCOM 4のものをベースに「アンチャーテッド -地図なき冒険の始まり-」のチームと協力して作り上げたものを使っているのですが,開発当初はSOCOM 4のままにしか見えない出来だったんですよ。
4Gamer:
プレイヤーからも,発売前に「SOCOM 4?」という声は挙がっていましたね。
松島氏:
実は当初は,見た目だけでなくゲームのコンセプトも今と違っていて,「実在する有名な人物を暗殺する」というような内容になっていました。
4Gamer:
また過激な……。
松島氏:
さすがに,製品版ではマイルドになりましたけどね。
稲垣氏:
ただ,「なんとなく現実的にありそうな世界観」のテイストは残しています。普段ニュースに出てくるような地域がベースにあると,没入感が出てきますから。誰でものめり込める,分かりやすい舞台を用意しようと,当時のニュースを見ながら苦心した覚えがあります。
4Gamer:
現代戦モノのシューティングは,“それっぽさ”をどれだけ演出できるかがキモな部分はありますよね。納得できない展開になると,一気にしらけてしまいますし。
分かりやすさという点では,ローカライズ側で苦労したことはありますか?
松島氏:
コアなシューターの皆さんがプレイしても違和感のないような日本語にするというのは,ゲームを作る側の最低限のマナーだと意識して,ローカライズを行いました。
ローカライズ面でとくに大変だったのは,吹き替えのスケジュール管理ですね。事前に海外版の台本をいただいて,それを全部翻訳し,声優さんに吹き替えてもらうのですが,収録後に仕様が変わったり,セリフが変わったりすることがあります。
でも,開発スケジュールがあるので「翌日までになんとか収録してください!」みたいなことを言われて,電話越しに土下座する勢いで関係者にお願いしたり……。
稲垣氏:
いや,本当に申し訳ないです。
松島氏:
ははは(笑)。まあ,ローカライズはプレイヤーの皆さんからはあまり意識されない部分かと思いますが,けっこう大変なんです。皆さんに満足してもらえるものを作るために,ポリシーを持ってやっていました。
「携帯ゲーム機向けシューティング」は今後どうなるのか
4Gamer:
Unit 13の発売地域と発売タイミングはどういったものだったのでしょう。
日本では3月8日に発売されていますが。
稲垣氏:
今のところ発売されているのは,ヨーロッパ全域,北米,メキシコ,オーストラリア,あと韓国と日本ですね。
発売は,3月6日の北米が少し早いですが,だいたい同じぐらいのタイミングになります。
4Gamer:
では,どの国でも発売から3週間ぐらいが経ったことになりますね。プレイされた皆さんからは,いろいろな声が届いていると思いますが,反響を教えてください。
松島氏:
国内,国外問わず,好意的な意見が多いですね。やはり「しっかり遊べるPS Vita向けシューターが出てきた」というところが評価されています。あとは,決められたルールの中で争うオンラインランキングは,とくに日本のプレイヤーに合っていたようです。
稲垣氏:
皆さん,情熱的にハイスコアを目指していますからね。
4Gamer:
というよりランキング上位は,どういうプレイをしているのか理解できない点数になっている気が。
稲垣氏:
作ってる我々でさえ,「へ!?」って思う点数ですよ。自分達も何百回とプレイしていますが,あんなスコアはとても取れません。
4Gamer:
開発チームでも厳しいレベルですか……。
ところで,稲垣さんはPS Vita用のTPSを世に1本生み出したわけですが,無事発売された今,PS Vitaというハードの印象として,思うところがあればお聞かせください。
稲垣氏:
そうですねえ……。私はタブレットやスマートフォンを持っていますが,そういった端末を使ってまったくゲームを遊ばないんですよ。グラフィックスはかなり進化していてキレイなんですけど,ゲーマーとしては,やっぱり操作性に納得がいかない。
4Gamer:
分かります。とくにシューティングは,タッチ操作で遊ぶのはなかなか難しいですよね。
ええ。でもPS Vitaであれば,あの携帯性でしっかりした操作,クオリティのゲームを遊べる。それが実現できるプラットフォームは,現状PS Vitaしかないと思います。
アメリカの自宅にコタツがあるんですけど,それだけのゲームをコタツに入りながら遊べるのは最高です。なんて幸せなんだろう! って(笑)。
4Gamer:
本当にカナダの方なんですか(笑)。
あのサイズでコアなゲームが遊べるというのは,携帯ゲーム機市場の大きな日本では魅力的な要素だと思いますが,海外市場でも需要は高いのでしょうか。海外は通勤通学の合間に電車の中でゲーム,というシチュエーションが少ないでしょうし,実際,携帯ゲーム機市場もそれほど大きくありません。
稲垣氏:
海外では携帯ゲーム機よりも,スマートフォン市場がかなり大きくなっているので,一般の方はどうしてもスマートフォンに流れてしまいます。ただそれでも,ゲーマーであればPS Vitaで遊んでみたいと思うはずです。
私もそうですが,スマートフォン向けのゲームでは,その操作に満足できないんです。なので需要はあるかと思いますが,あとは今後,皆さんに実際に触れていただいて,PS Vitaの良さを体感してもらうのが大事ではないかと。
4Gamer:
Unit 13はとくにそうですけど,手触りの良さみたいな部分は,プレイしてみないと絶対に分からない部分ですからね。いちシューターとしては,Unit 13に携帯ゲーム機向けシューティングの可能性みたいなものを感じたのですが。
携帯ゲーム機向けのTPS,FPSに対して,お二人がどういった印象を抱いているのか聞いてみたいです。
松島氏:
個人的には,Unit 13の登場は,「携帯ゲーム機でも本格的なFPSやTPSが遊べるんだ,そういう環境が出てきたんだ」ということを,シューターの皆さんや作り手に伝えるきっかけになったのではないかと思っています。だから今後は,既存のTPSが携帯ゲーム機向けに落とし込まれたものなのか,もしくは独自の進化を遂げたものになるのかは分からないですけど,タイトルは増えていくのではないかと。
4Gamer:
今後このジャンルが進化していくとすれば,どういった方向になると思いますか? こうなってほしい,という要望でも構いません。
松島氏:
TPSやFPSはプレイするまでのハードルが高いゲームなので,携帯ゲーム機で気軽に遊べるという認識が生まれてほしいです。私も今回Unit 13をプレイして,最初はド下手でしたが,遊んでいるうちに上達して,スコアが上がっているのも実感できて,嬉しかった。最初の一歩さえ踏み出せれば本当に面白いジャンルです。
携帯ゲーム機では,その一歩の後押しが,据え置き型のゲーム機よりも強まる形で進化していくのではないでしょうか。ハードルを下げるという意味では,そこを狙って作ったのがMAGだったりするんですけどね。
4Gamer:
なるほど。そういえばMAGは,日本では既存のシューターでない層を巻き込んで盛り上がっていましたね。なんだかおかしな盛り上がり方をしていましたけど。
松島氏:
作り手としては,シューティングの上手下手に関わらず,ああいった感じでみんなが楽しめるようなゲームを,また作っていけたらと思います。
稲垣氏:
私は,先ほどの話ではないですが,コタツの中で遊んだとしても,「本当に熱中した」という気になれる携帯ゲームが今後も生まれていってほしいですし,自分でも作りたいです。
いつでもプレイできて,いつでもやめられるというのは,携帯ゲーム機の魅力だと思うのです。家庭用ゲーム機は,遊ぼうとするとある程度まとまった時間が必要になるじゃないですか。家のテレビも占領しますし。
松島氏:
それとたぶん,今後はもっとネットワーク周りを押したタイトルも出てくるのではないでしょうか。マルチプレイでの対戦をPS Vitaでできるようなゲームが登場すれば,新しい可能性も生まれてくるかと思います。
4Gamer:
対戦はぜひ遊んでみたいですね。“狩りゲー”を遊ぶようなノリで,友達とギャーギャー言いながら撃ち合えたら,間違いなく楽しいと思います。
さて,そろそろお時間が迫ってきましたので,最後にUnit 13を現在遊んでいる方や,これからPS Vitaを購入する人に,メッセージをいただけますか。
稲垣氏:
Unit 13は皆さんに長く遊んでもらいたいタイトルです。世界中のプレイヤーが,毎日スコアランキングを競っていますので,日本の皆さんにも参加していただけると嬉しいです。
松島氏:
まだプレイされていない人は,ぜひ遊んでみてください。手に取るだけの価値はあると思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
今回のインタビューでは,そんな本作がどのように作られたか,一端をお伝えできたのではないかと思う。1年以内の開発期間で作られたというのには驚いたが,それでもこの感触の良さを実現できたのは,おそらく稲垣氏,そしてZipper Interactiveの開発チームが「コアゲーマーでも満足できる操作性」を追い求めた結果なのだろう。
プレイレポートでも述べたとおり,Unit 13は「携帯ゲーム機向けTPS」というジャンルに,未来を感じさせる作品だ。既存のタイトルが携帯ゲーム機でも遊べるようになるのか,それとも独自の進化を遂げていくのかはともかく,いちシューターとしては,今後どのような作品が登場するのかに,大きく期待せざるを得ない。
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