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「A10-7890K」レビュー。定格4GHzを突破したWraith Cooler付きモデルを動かしてみる
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印刷2016/03/10 14:00

レビュー

Kaveri世代最後(?)の最上位APUをテスト

A10-7890K with Radeon R7 Graphics

Text by 宮崎真一


A10-7890K
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 2016年3月1日,AMDが,新しいAPUA10-7890K with Radeon R7 Graphics」(以下,A10-7890K)を発表した。2015年5月発売の「A10-7870K with Radeon R7 Graphics」(以下,A10-7870K)以来,約10か月ぶりにデスクトップPC向けAPUの最上位モデルが更新となったわけだ。
 次世代APU「Bristol Ridge」(開発コードネーム)の足音が近づいてきているこのタイミングでの登場となった新しいトップエンドAPUだが,その実力はどれほどか。短時間ながらA10-7890Kを試用する機会が得られたので,その結果をお伝えしたい。


A10-7870Kのクロックアップ版で,ついに定格4GHz突破。Wraith Coolerも標準添付に


OPN(Ordering Part Number)は「AD789KXDI44JC」。パッケージはもちろんFM2+だ
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 先週の記事で製品概要はお伝え済みだが,A10-7890Kのスペックを,あらためて確認しておこう。
 A10-7890Kは,2基の整数演算パイプラインで1基の浮動小数点演算ユニットを共有した「Steamroller Module」を2基と,「Graphics Core Next」(以下,GCN)アーキテクチャに基づくGCN 1.1世代の演算ユニット8基,そしてデュアルチャネルDDR3コントローラなどのアンコア(Uncore)部を統合したプロセッサだ。簡単に言い換えると,A10-7890Kは,GodavariもしくはKaveri Refreshと呼ばれる,デスクトップPC向けAPUの新製品であって,基本構成はA10-7870Kから変わっていない。

 では何が違うのかというと,CPUコアの動作クロックである。A10-7870Kは定格3.9GHz,自動クロックアップ機能である「AMD Turbo CORE Technology」(以下,Turbo CORE)による最大動作クロックが4.1GHzであったのに対して,A10-7890Kでは順に4.1GHz,4.3GHzへ200MHz上がり,定格で4GHzを突破した。表1はA10-7890KとA10-7870Kの主なスペックをまとめたものだが,GPUコア周りなど,CPUコアクロック以外の仕様は見事に揃っているのが一目瞭然だろう。

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Wraith CoolerとA10-7890K。今回,製品ボックスは入手していない(=2製品をバラで手に入れた)ので,どんな梱包になっているのかは分からない
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今回はASRock製マザーボード「A88M-G/3.1」を使ったが,Radeon Memoryは間一髪,干渉を避けられた。これ以上大きなヒートシンクを採用するモジュールだと干渉する可能性はある
 むしろ最大の違いは,製品ボックス付属のCPUクーラーが,従来のものから「Wraith Cooler」(レイスクーラー)に変わったことのほうかもしれない。
 Wraith Coolerの詳細は2月4日掲載のテストレポートでお伝えしたとおりだが,要するに,以前の付属クーラーと比べて大型化し,冷却性能と静音性がかなり向上したクーラーだ。4Gamerのテストでは,その大きさがゆえに,一部のMini-ITXマザーボードでメモリモジュールと干渉して取り付けられないという問題もあったのだが,それでも,「CPUコアの動作クロックが200MHz上がった」だけに留まらない付加価値をAMDは提供したかったということなのだろう。

 ただ,そうなのであれば,どのマザーボードが大丈夫で,どのマザーボードがそうでないのかを,AMDは責任を持って公表すべきだと思うのだが,残念ながら,現時点でそういう動きは確認できていない。ひょっとすると,互換性情報はマザーボードメーカーや販売代理店,あるいは販売店頼みになってしまうかもしれないので,この点は注意しておきたいところだ。


A10-7870Kと横並びで比較


 冒頭でもお断りしたとおり,今回,筆者の手元にA10-7890Kがあったのはわずかに数日である。そのため,今回テストに用いるのはA10-7890+Wraith CoolerとA10-7870K+リファレンスクーラーのみとなるので,この点はあらかじめお断りしておきたい。

Project CARSのグラフィックス設定メニューより。可能な限り設定を下げている
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 というわけで,テストにあたってはまず「Sandra 2016.SP1」でA10-7890KとA10-7870Kの基本特性を検証。そのうえで,APUの統合型GPUである「Radeon R7 Graphics」が持つ性能を見るべく,「3DMark」(Version 1.5.915)と「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ),そして「Project CARS」の3タイトルで3Dベンチマークを実行する。
 3DMarkとFFXIV蒼天のイシュガルド ベンチのテストは4Gamerのベンチマークレギュレーション17.0準拠(※ただし後者は「標準品質(デスクトップPC)」条件のみ)で行うが,Project CARSは来たるレギュレーション18.0を先取りする形となる。ざっくり説明するなら,テスト時のグラフィックス設定は可能な限り低くしたうえで,コース「Hockenheim GP」をマシン「RWD P30 LMP1」で走行するリプレイデータを用意し,再生開始直後から冒頭の1分間における平均フレームレートを「Fraps」(Version 3.5.99)で取得するというものだ。テストは解像度ごとに2回行い,それぞれ,平均値をスコアとして採用している。

 いま話に出た,ゲームテストにおける解像度は,A10-7890Kのスペックを考慮し,1280×720ドットと1600×900ドットの2パターンを選択した。そのほかテスト環境は表2のとおりで,グラフィックスドライバは,テスト開始時の最新版となる「Radeon Software Crimson Edition 16.2.1 Hotfix」だ。

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CPU性能は順当に向上。一方でゲーム性能の違いはない


 では,テスト結果を順に見ていこう。
 グラフ1は,Sandra 2016.SP1から,単純な演算性能を見る「Processor Arithmetic」の結果をまとめたものだ。「Dhrystone」は整数演算の古典的なテスト,「Whetstone」は浮動小数点演算のテストで,前者はSSE,後者はAVXを利用しているが,A10-7890KはA10-7870Kに対してDhrystoneで6〜7%程度,Whetstoneで約5%高いスコアを示した。CPUコアの動作クロック比だと約5%の違いなので,動作クロックの違いだけでなく,Wraith Coolerの高い冷却能力を背景に,より長い時間,高いクロック域に入っている効果が,A10-7890Kにはありそうだ。

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 続いてグラフ2,3,4は,マルチメディア系演算性能を見る「Processor Multi-Media」の結果となる。グラフを3つに分けているのは見やすさを確保するためで,他意はないと断ってから続けると,ここでもA10-7890KとA10-7870Kのスコア差は4〜5%程度であり,相応に開いた印象を受ける。

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 キャッシュ周りも確認しておこう。グラフ5は,キャッシュとメインメモリの帯域幅を容量帯ごとに見る「Cache Bandwidth」の結果だ。
 A10-7890KとA10-7870Kは似たような折れ線を描いているが,L2キャッシュに収まる4MBまでではA10-7890Kのほうが,動作クロック分だけ高いスコアを示している。メモリコントローラ性能比較となる容量8MB以上では,スペックどおり,ほぼ同じスコアになった。

※グラフ画像をクリックすると,容量帯ごとの具体的なスコアをまとめた表3を表示します
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 次に,キャッシュ周りのレイテンシを見る「Cache & Memory Latency」の結果がグラフ6だが,こちらだと,両者のスコア差はさらに小さくなる。あえていえば,容量4MBまでだとA10-7890Kのほうが遅延は小さい――具体的なスコアは,グラフ画像をクリックすると表示する表4にまとめてある――が,これはクロックが高いことによる恩恵だろう。

※グラフ画像をクリックすると,容量帯ごとの具体的なスコアをまとめた表4を表示します
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 基本性能検証の最後は,グラフ7,8にスコアをまとめた「GP(GPU/CPU/APU) Processing」だ。
 ここでも,グラフは見栄えのみを考慮して2つに分けたが,シェーダの演算能力を見る本テストでは,「A10-7890Kの統合型GPUがA10-7870Kから何も変わっていない」ことを裏付けるように,スコアも変わらない結果が出ている。

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 というわけで,3Dアプリケーションのテストである。
 3DMarkでは,総合スコアと,GPU性能テストのスコア「Graphics score」,そしてCPUベースとなる物理シミュレーション性能テストのスコア「Physics score」をグラフ9〜11にまとめたが,目に見えるスコア差が付いたのはCPUテストのみである。グラフ11において,A10-7890KはA10-7870Kに対して約5%のスコア差を示したが,この程度ではゲームの体感性能を左右しないことから,総合スコアには反映されていない。

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 グラフ12がFFXIV蒼天のイシュガルド ベンチの結果である。標準品質で,かつ解像度も下げたので,もう少しCPU性能が“効く”かと思ったのだが,結果はご覧のとおりだ。
 ちなみに,1280×720ドット時のスコア3700台というのは,スクウェア・エニックスの示す指標でいうと上から3番めにあたる「快適」の枠内だ。平均フレームレートでいうと,30fpsに届かないレベルである。今日(こんにち)の3Dゲームタイトルを前にすると,相対的に描画負荷が低い条件であっても,Kaveri&Godavari世代の統合型GPUコアではややキツくなっているのが分かるだろう。

※グラフ画像をクリックすると,平均フレームレートベースのグラフを表示します
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 グラフ13がProject CARSのテスト結果だが,こちらもスコア傾向はFFXIV蒼天のイシュガルド ベンチと変わらない。

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消費電力はわずかに増加。Wraith Coolerの冷却性能は申し分ない


 表1で示したとおり,A10-7890KのTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は95Wで,A10-7870Kと同じだ。とはいえ,動作クロックが引き上げられている以上,消費電力は増加しているはずである。
 そこで,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比較してみることにした。テストにあたっては,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,3DMarkを連続して30分間実行し続けたときに記録した,最大の消費電力を「高負荷時」とする。

 結果はグラフ14のとおりで,アイドル時の消費電力はほぼ同じ。一方で高負荷時には8Wの違いが出た。これが動作クロックの違いということなのだろう。

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 最後にAPUの温度もざっくり確認しておこう。ここでは,24℃で固定した室内で,PCケースへ組み込まない,いわゆるバラック状態でテストシステムを机上に置き,アイドル時と高負荷時のそれぞれにおいて,モニタリングツールである「HWMonitor PRO」(Version 1.25)からプロセッサ温度を取得する。
 その結果がグラフ15で,アイドル時は27℃で揃ったものの,高負荷時になるとA10-7890KのほうがA10-7870Kよりも6℃低いスコアを示した。Wraith Coolerの動作音自体は先のテストレポート時と体感的には変わらないので,「静かに冷却できている」と断言して問題ないだろう。

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Bristol Ridgeを待ちたいところだが,下位Kaveriからのアップグレードパスとしては有用


 以上のテスト結果から,A10-7890Kは,「A10-7870Kと比べてCPUコアクロックが200MHz上がったAPU」らしい製品だとまとめることができる。世代の末期だけに,何かしらの機能追加を期待できないのはやむを得ないにしても,懸案の3D性能に対策が入らなかったのは,やはり少し残念である。

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 また,本稿の冒頭でも簡単に紹介したとおり,AMDは2016年中に,CPUとAPUのデスクトップPC向けプラットフォームを「AM4」で統一し,対応APUとしてのBristol Ridgeもリリースする計画を公表済みだ。Bristol Ridge(というかAM4プラットフォーム)ではDDR4メモリコントローラを統合するため,仮にこれからA10-7890KベースのPCを新規導入した場合,Bristol Ridgeの登場後,APUもマザーボードもメモリモジュールも交換しなくてはならなくなる。
 A10-7890Kは3月18日発売予定で,メーカー想定売価は1万8480円(税別)。税込だと2万円弱になるという価格も決して安価とはいえないだけに,正直,AMDファンには「待ち」を勧めたいところだ。

 そういう意味でA10-7890Kは,Kaveriのリリース後,早いタイミングで下位モデルのAMD A-Series APUをセカンダリのゲームPC用などに導入したものの,2016年を迎えて性能面で苦しくなってきた人向けへの救済策,と見るのが正解ではなかろうか。手元にあるFM2+プラットフォームをできる限り長く使いたいと考えている人のためのアップグレードパスというのが,A10-7890Kの正しい受け止め方だと思う。

AMDのAMD A-Series APU公式情報ページ

  • 関連タイトル:

    AMD A-Series(Kaveri)

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