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[TGS 2012]変化し続けるソーシャルゲームの未来像を探る。「ソーシャルゲーム第2幕 〜新時代の展望〜 リレートーク&パネルディスカッション」をレポート
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印刷2012/09/25 00:00

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[TGS 2012]変化し続けるソーシャルゲームの未来像を探る。「ソーシャルゲーム第2幕 〜新時代の展望〜 リレートーク&パネルディスカッション」をレポート

画像集#001のサムネイル/[TGS 2012]変化し続けるソーシャルゲームの未来像を探る。「ソーシャルゲーム第2幕 〜新時代の展望〜 リレートーク&パネルディスカッション」をレポート
左からエイチーム林 高生氏,gumi國光宏尚氏,gloops川方慎介氏
 TGSフォーラム2012 ソーシャルゲームセッションでは,「ソーシャルゲーム第2幕 〜新時代の展望〜」と題し,近年躍進が目覚しいデベロッパー3社(エイチーム・林高生氏,gumi國光宏尚氏,gloops川方慎介氏)が会するトークとパネルディスカッションが行われた。
 ソーシャルゲームの市場規模は4000〜5000億円であり,わざわざここで書くまでもなく,収益の半分以上をソーシャルゲームに依存する開発会社も出てきている。TGSでも,各メーカーでソーシャルゲーム/ソーシャルアプリのコーナーが持たれた昨今,ソーシャルゲームはゲームシーンにおける確たるジャンルとして強い影響力を有していることは間違いない。その一方,スマートフォンの普及や海外市場への進出など,ソーシャルゲームをめぐる環境にも変化が著しい。
 このセッションでは,各社がどのように事業を進めてきたのか,またこれからのソーシャルゲームに対しどのようなビジョンを持っているのかが発表された。2時間にわたる長丁場だったが,かいつまんでレポートしたい。


海外ユーザーにとって違和感のない演出に,言葉選びはとても重要(エイチーム林氏)


 最初の発表は,エイチームの林氏
 エイチームの作品としては「麻雀雷神(ライジング)」「AKB48ステージファイター」Android/iPhone「ダークサマナー」Android/iPhone)などが有名だが,実はエイチームはゲームだけを作っているのではなく,引越しサポートサイトや結婚式場検索サービスといったライフサポート事業も行なっている。一見するとまったくの別事業のように思えるが,各ライフサポート事業におけるイメージキャラクターをエンターテイメント事業のコンテンツに登場させることでサービスの知名度向上に寄与するといったシナジー効果があるとのこと。

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 エイチームが最近ヒットさせたのが,カードバトル型のゲームである「ダークサマナー」だ。これは「今までに見たことのないカードバトル」を目指して作られた作品で,ハイクオリティな映像やBGMなどを用いるだけでなく,「ガチャ」ではなく「召喚」,「合成」ではなく「生贄」といった形で,細部にまでこだわったダークファンタジーを表現している。
 ダークサマナーは,App Storeで公開して5か月で100万ダウンロードを達成,Android版公開から1週間でさらに100万DLを達成と,着実な成果をあげている。だがこの「一定の成果」の背景には,エイチームが「100本以上のソーシャルゲーム開発に失敗してきたこと」と「MMORPG運営のノウハウを積んだこと」,そして「最初から海外展開を意識したこと」があると林市は語る。

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 エイチームの失敗体験としては,まず「無限マラソン」が挙げられる。この作品は400万ユーザーを得ながらマネタイズに失敗,売り上げがまったく伸びなかったという。もうひとつは「東京ヒーローズウォー」で,こちらは月額1千万円を超える売り上げを出したもののイベントを月1回程度しか実施できず,徐々に売り上げが縮小していった。
 MMORPG運営のノウハウとして,エイチームは「エターナルゾーンオンライン」をフィーチャーフォン時代から運営してきている。初めは月額課金だったが,サービスインから5年目にアイテム課金に切り替え,月額1億円の売り上げとなった。このときエイチームは,ユーザーがなぜアイテムを買うのか,どんなアイテムが売れるのかを徹底的に分析したという。

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 海外展開としては,スマートフォンは世界統一デバイスであり,アプリストアにリリースしたその段階で既に「世界市場への提供」は行われている。「ダークサマナー」では海外(特に北米)ユーザーをターゲットとし,海外ユーザーにとって違和感のない演出が目指されている。例えば「ガチャ」にしても,直訳すれば「Mystery Box」となるが,こういった「何が出てくるのかよくわからない」ものに北米のユーザーはお金を払わないという。だがこれが「召喚(Summon)」となると話は変わるというのは興味深い事例である。こういったワーディングは「些細だが非常に重要」と林氏は指摘した。


誰かが海外で「日本はやれる」ことを示さなくてはならない(gumi)


 続いてgumiの國光氏の発表。
 現在のgumiはGREEでオリジナル人気コンテンツを提供する開発会社だが,もともとはその名も「gumi」というSNSを運営していた。これは携帯版のFacebookを作ろうという意図で開始されたサービスで,日本のSNSとしてはオープン化も早かったが,時代に先んじすぎたのか「オープン化」という概念が理解されなかったという。その後mixiのオープン化に合わせてgumiで運営していたコンテンツをmixiに投入,続いてオープン化を果たしたモバゲーやGREEにもコンテンツを供給していき,現在に至る。

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 gumiが提供するソーシャルゲームとしては,「任侠道」「海賊道」「騎士道」といった「道」シリーズ,また「幻獣姫」「青春姫」の「姫」シリーズが有名だ。海外展開として,「Knight Legend」というタイトルで「騎士道」を提供している。

 映像制作出身である國光氏は,まずエンターテイメントを「役に立つが,説明し切れていない価値がある」とし,「人間は,生きていくことに直接関係のないことに価値を与えてきた。動物と人間を分けるのがエンターテイメントだ」と語る。そのうえでソーシャルゲームは,従来は非日常の時間の中で行われてきたエンターテイメントを日常の中に取り入れた,「人生に潤いを与えるエンターテイメント」と分析する。

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 また,エンターテイメントは,技術の発展に従って変化してきた。かつてテレビが出現したとき,それまで映像の主力であった映画は「無料で見れる動画」であるテレビに恐れを抱き,日本ではテレビを映像産業から締めだすような動きもあった。しかしテレビはニュース・スポーツ・バラエティなど,映画館の中心とは成り得なかったコンテンツを提供することで急激に発展していく。

 この観点から國光氏は,ソーシャルゲームを「インターネット発のコンテンツ」と捉える。というのも,ソーシャルゲームが成立する背景には,ユーザーの意見がリアルタイムに流入し,それをもとにリアルタイムにコンテンツを修正・構築していくという「インターネットならではの双方向性・リアルタイム性」があるからだ。
 このことを氏は「リアルタイムプロデュース」と表現する。そしてまた,テレビのコンテンツがニュースやスポーツに留まらなかったように,このリアルタイムプロデュースという概念に基づいたコンテンツも,ソーシャルゲームだけに留まらないだろうと予測する。

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 海外展開については,國光氏は日本のソーシャルゲームが持つ強さの秘訣を「日本国内における競争の厳しさ」にあると分析する。アメリカのソーシャルゲーム業界はZyngaが早い時点で寡占してしまったため,日本ほど激烈な競争が生まれなかったというわけだ。

 また日本でも世界でも,ソーシャルゲームの収益構造における重要ポイントは,そのコンテンツにユーザーが支払うお金(LTV:Life Time Value)と,そのコンテンツがユーザーを獲得するために必要となるコスト(CPA:Cost Per Action)のバランスであると氏は指摘する。かつてはCPAが100円程度だったので,LTVが200円の農園ゲームで十分にビジネスが回ったが,ノウハウの普遍化による競争の激化などによってCPAが600円近くに上昇してくると,相応のLTVを持ったコンテンツを作らなくては収支が成り立たなくなる。
 國光氏は「LTVの高いコンテンツを複数本提供し,このコンテンツ間でクロスプロモーションする」ことの重要性を指摘,これを積極的に推進しているのがgloopsであると述べた。

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 國光氏は最後に,日本のソーシャルゲーム業界はいま世界を取るチャンスを迎えていると明言。「今の日本は暗く,何をやってもダメなイメージがある。誰かが海外に出て,『日本はやれる』ことを示す必要がある」「ここで行けなかったら日本は終わる,くらいの危機感を持ってビジネスを進めている」と語った。


大失敗を踏まえての成功


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 発表の最後はgloopsの川方氏
 gloopsは今でこそソーシャルゲーム開発の大手であり,TGSに大型ブースを出したり,会場入口の広告スポットで宣伝を打ったりと,まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだが,ここに至るまでにはいくつもの大きな失敗を重ねてきたという。
 最初の失敗は2007年,nendoというSNSをリリースしたときのこと。川方氏曰くnendoは「技術に驕ってしまった」サービスで,2億円をかけて作ったにも関わらず会員数は1000人程度,利益はなしという惨憺たる結果に終わった。
 続いて2009年,Realというモバイル向けSNSをリリースする。こちらはnendoほどではなかったものの,会員数7万人,収益は月400万円が最高値という,寂しいビジネスとなってしまった。
 だが2010年にモバゲーがオープン化したのにあわせ「渋谷クエスト」をモバゲーでリリースしたことで,gloopsの方針は大きく変化する。「渋谷クエスト」はリリースから1週間で7万ユーザー,1千万円の利益を叩きだしたのだ(ちなみにこのときgloopsは,ARPPUや継続率といったソーシャルゲームを支える概念を初めて知ったという)。

 かくしてgloopsはプラットフォーマー事業からソーシャルゲーム事業に完全転換,いわゆるSAP(ソーシャルアプリプロバイダー)として発展していくことになる。
 現在では「マジゲート」に140万ユーザー,「オーディンバトル」に100万ユーザー,「プロ野球カード」に360万ユーザーを有するほか,「ドラゴン騎士団」は9時間で10万ユーザーを集め,「三国志バトル」は1日1万ユーザーの流入を得ているという。運営タイトル数は19タイトル,ユーザー数のべ1800万,2012年6月期の年間売り上げは237億円で,いまも月20億円程度の売り上げがある。

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 そんなgloopsが掲げるのは,「challenge Social game」「challenge Global」「challenge Entertainment」からなる3つのチャレンジだ。

 challenge Social gameとしては,まずバトルに特化したコンテンツ展開を前提とするという。実はgloopsも女性向けタイトルを作ったことがあるのだが,うまくいかなかったとのこと。今後とも,男性向けのバトル系ゲームに集中していく方針のようだ。

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 技術的には,月間150億PVを基にユーザーデータを分析し,「論理と感性の融合」を目指したゲーム制作を行うほか,6万同時アクセスを運用できる大規模Webサイトの運用設計ノウハウと技術の蓄積,またエンジニアとデザイナーの精鋭を集めたUIとUX(ユーザーエクスペリエンス)の専門部署を設立したという。

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 デザイン面では,バーチャルなつながりだけでは限界があるとし,世界観やストーリー性を感じられるゲームデザインを志向。バーチャルグラフとリアルグラフの融合も目指していくようだ。

 challenge Globalとしては,DeNAと海外包括契約を締結し,ソーシャルゲーム界の日本代表として海外展開を進めていくという意欲を示した。米国ソーシャルゲーム市場は2015年に1億2千万人にまで増大すると見られており,市場規模は成長しているという。
 海外展開にあたっては「リリースしてからも勝負」という日本市場で培われたノウハウを活用,また強力なIPとの提携も進め,2013年末までに10作品をリリースする予定となっている。

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 challenge Entertainmentとしては,gloopsはエンターテイメント集団を目指していくと川方氏は語る。「ソーシャル・エンターテイメント・プロバイダー,SEPを目指す」というのが氏の言葉だ。この理念のもと,ソーシャルメディアとスポーツやテレビ,コミックスや教育などを結びつけていくという。

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 SNSをサービスしてきたころから,gloopsは「インターネット上のコミュニケーションツール」を提供してきたと氏は語る。現在のソーシャルゲームも,あくまでコミュニケーションツールであるというのが氏の理解だ。今後とも,誰もが楽しめ,コミュニケーションのきっかけになるコンテンツを目指すと氏は語った。


海外展開と未来像――変わりゆくソーシャルゲーム業界に,素早く対応することが肝要


 続いてのパネルディスカッションでは,ソーシャルゲームの海外展開と,ソーシャルゲームの未来像についてが議論された。

 海外展開については,最初の狙いは北米市場というところは3社とも一致している。またマーケティングノウハウの蓄積にかかる各種コストを鑑み,DeNAやGREEと提携しての進出が語られた。また國光氏は,日本のソーシャルゲームが原則としてWeb寄りのサービスであるのに対し,Appleがネイティブアプリシフトを進めていることを指摘。こういったプラットフォームレベルでの変動は,Google,Microsoft,Amazonなど広範囲で発生する事案であり,変化に適応できるよう速度を上げ続けることが重要だと述べた。

 また海外展開において,海外オフィスと採用に関する問題も提示された。
 國光氏は,アジアを中心としてオフィスを展開する理由として,まず端的に「北米にオフィスを置いて,ディズニーやfacebookと人材の取り合いになっても勝ち目がないが,アジアなら優秀な人材の獲得競争に勝てる」という現実的な理由を示した。

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 加えて,コンテンツ市場には3つのステージがあると指摘。
 第1ステージは「競争が緩く,だいたい出せばなんでもヒットする」ステージで,この段階ではローカライズが徹底していなくてもヒットが出せるとした(日本における実例が「サンシャイン牧場」)。
 第2ステージは市場が成熟し,勝ち残るにはちゃんとしたローカライズが必要となる段階で,この段階に至ると地元の企業の強みが出始める。
 第3ステージはいまコンソールゲームマーケットが突入しているステージで,大予算で構築されるコンテンツと,比較的低予算ながらローカルに強く特化したコンテンツに2極化する(「ハリーポッター」と「おくりびと」が例として出された)。
 國光氏は,ソーシャルゲームの海外市場はいま第1ステージにあると分析する。つまり北米市場に展開するにしても,現状ではまだアメリカに拠点を持つ必要はないという考え方だ。もちろん近い将来,ローカルで強いライバルが出現するのは確実なので,その頃には優秀な現地スタッフが必要となる。

 一方,多くの企業が拠点を持つベトナムについては,「とても勤勉で,エンジニアを送り込むとすぐに吸収する」(川方氏),「ややのんびりした空気はあるが,良い人材が多く,信頼できる人もたくさんいる」(林氏)と意見が一致した。なお最近の「反日」機運だが,3氏とも「実際のところ,中国や韓国の若い人から『反日』という機運を感じたことがない」と語る。
 一方「新日」ムードというのは影響が大きいようで,例えば台湾だと「日本企業だから入社したい」「日本のゲーム会社で働けるだけで嬉しい」という傾向があるため,優秀な人材の獲得にとってプラスに働くとのこと。

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 次世代のソーシャルゲームの展望については,まずgloopsの川方氏は「コミュニケーションツールというところからはブレない」と語る。またソーシャルゲームのリッチコンテンツ化やゲーム性の拡大に関しても,「どんなにクオリティが高くても,使われなければ死んだサービス」と断じる。あくまで基本は「誰でも分かりやすく,シンプルに」であると氏は語った。
 林氏もまた「人と人のつながりが基本」とした上で,「ユーザーに驚きを与えると,それがバイラル(口コミ)で広がっていく。そのために演出をリッチにする」という見解を示した。
 國光氏は,そもそも「ソーシャルゲームという言葉がおかしい」と語り,実際には「モバイルオンラインゲーム」であると指摘する。音楽や動画がネットと結びついて新しい価値を生んだように,パッケージ型のビジネスがネットにつながることで新しい価値を生んだ,これが「ソーシャルゲーム」と呼ばれるものの正体であると氏は語る。
 また今流行のカードバトルは,氏が先に述べたLTVとCPAのバランスにおいて強いモデルというだけのことで,そのバランスが取れていれば,カードバトルでなくてはならない理由はない(事実,「農園ホッコリーナ」や「釣りスタ」のようなカードバトル以前のスタイルのゲームも大きな収益をあげている)。
 一方國光氏は,これからはゲームの仕組みより,世界観やキャラクターなどコンテンツとしての価値が重要になるという見解を示した。現状のソーシャルゲームはビジネスが優先され,ゲームがビジネスに追随するという状況になっているが,これからは,よりゲームの側面が重視されるという予測だ。

 まだ歴史の浅いソーシャルゲームは,これまでも変わり続けてきたし,これからも変化し続けることは容易に予測できる。今後,このジャンルがどう変わっていくのか,どんな新しいものを生み出していくのか,注目したいところだ。
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