インタビュー
グリーと協業する海外大手ゲーム会社3社と日本から海外を目指す1社に,「GREEのグローバル展開」についてインタビュー
ソーシャル版「FIFA ワールドクラスサッカー」を展開する
エレクトロニック・アーツ
本作はFIFA(国際サッカー連盟)からの公式ライセンスを受けているタイトルであり,それはGREE版でも同様だ。ゲーム内には世界中の実在するプロサッカー選手が多数実名で登場。本田圭祐選手や長谷部 誠選手など,欧州リーグで活躍する日本人選手も登録されている。プレイヤーはそれらの選手を集めて自分だけのドリームチームを作り,世界一を目指していくのだ。
EAはこれまで,海外展開については意外にも保守的なスタンスをとっている企業である。そのあたりも含めて話を聞いている。
「エレクトロニック・アーツ」公式サイト
●「FIFA」ブランドのソーシャルゲーム
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
あらためて,簡単に自己紹介をお願いします。
EA社内にある“Playfish Japanスタジオ”にて,シニアプロデューサーを務めている里吉と申します。コンシューマメーカーやPCオンラインゲームメーカーを経て,現在EAに籍を置いています。
中田氏:
自分も似たような経歴です。某スポーツ系オンラインゲームの立ち上げに関わった経験があり,それを旧知の里吉に買われる形で,本作のプロジェクトに参加しました。
4Gamer:
今回取材するGREE版「FIFA ワールドクラスサッカー」について,まずはゲーム概要の解説からお願いします。
中田氏:
分かりやすくいうと,ソーシャル系のサッカーゲームになります。世界各国のサッカー選手が約5000名登場し,これらの選手を集めて自分だけのチームを編成し,スターティングメンバーすなわちデッキを組んで,ほかのプレイヤーと戦っていきます。
里吉氏:
本作ならではの強みとして,EA本社が20年近くにわたって培ってきた“FIFAブランド”が挙げられます。中田も申し上げたとおり,カバーしている選手やクラブは,とにかく圧倒的なボリュームです。しかも数だけでなく,EAグループ全体で100名以上のリサーチャーが世界中の試合をチェックしており,ゲーム内の各種パラメータに反映されています。
またサッカー専門のアドバイザーに監修してもらっており,ゴールシーンではカットインが行われるなど,演出にもこだわっています。それらの細かい要素の積み重ねによって生まれる,サッカーゲームとしての説得力やリアルさには,自信があります。
4Gamer:
2011年11月のサービス開始以来,反響はいかがですか。
里吉氏:
現在の会員登録数は260万人を超え,常にランキング上位を競い合っています。また,8月に開催された「GREE Platform Award - The first half of 2012 -」では,“殿堂入り”を受賞させていただきました。
●日本の文化に根ざしたソーシャルゲームを作り続ける
4Gamer:
米Electronic Artsといえば,グローバルにゲームを展開しているメーカーです。その点,本作の海外展開についてはどのようにお考えですか。
今のところ本作をグローバル展開する予定はありません。我々日本スタジオのスタッフが,日本のお客様に向けたサービスを,これからも展開していく予定です。
4Gamer:
“FIFA”のIPそのものはグローバル展開されていますが,GREE版のように特定の地域向けにコンテンツを提供することというのは,よくあることなんでしょうか。
里吉氏:
“FIFA”はゲーム業界全体を含めて,世界最高峰のIPと言って差し支えない存在です。確かに,本来は特定の地域向けに軽々しく提供できるものではありません。
ですが,ソーシャルゲームの日本マーケットでの盛り上がりには,EAも前々から注目していました。FIFAブランドをソーシャルゲームとして展開していければ,必ずやヒットすると感じたので,EA本社を説得した次第です。
中田氏:
あとは,韓国で独自に展開しているFIFAのIPを用いたPCオンラインゲームが大人気ですが,これもプロジェクトの経緯としては本作と近いかもしれませんね。
4Gamer:
本作なら海外でもウケそうな気がしますけど,どうなんでしょう?
里吉氏:
ソーシャルゲームでは,サービス開始後も“運用・運営・アップデート”のサイクルを回すことが大切です。しかし,国によって文化も違えば趣向も違う。そういった部分をサポートする,つまり世界各国に対するカルチャライズの作業を,日本スタジオだけで全部行うのは無理があります。
ですので,日本のお客様に向けて全力でコンテンツを提供するというのが,日本スタジオの取る基本スタンスになります。
4Gamer:
なるほど,分かります。しかしプラットフォーマーのグリーとしては,グローバル展開を大きく掲げているわけで,そのあたりのジレンマはあったりしませんか。
里吉氏:
グリーさんから,そのあたりについての相談は受けています。長期的には,FIFAブランドを用いたグローバル展開のタイトルを作ることがあるかもしれませんが,今の段階でお話できるようなことはありません。
4Gamer:
「Assassin's Creed Utopia」のように,従来よりもゲーム性を重視したタイトルがちらほら登場してきました。プラットフォーム側が,そういった動きを後押ししていることについては,どのようにお考えですか。
里吉氏:
気にならないといえば嘘になりますが,それらはメーカーにとって“新しい分野へのチャレンジ”を行っている段階だと認識しています。弊社の文化なのかもしれませんが,そういった新しい分野に,早い段階から着手することはあまり多くないですね。グリーさんへの参入も,大手パブリッシャの中ではかなり後発でしたし。
本作がまさにそうですが,確実にヒットすると見込んでから,ハイクオリティなタイトルで一気に勝負を仕掛けるという社風なんですよ。
4Gamer:
では,別のタイトルでグローバル展開をする予定などは……。
里吉氏:
これは個人的な意見と前置きさせていただきますが,日本のソーシャルゲームのマーケット規模はとてもとても大きいです。しかも驚くべきことに,まだ伸び続けています。自分の足元にある日本国内のマーケットも制覇できていない段階で,遠くの,つまりグローバルなマーケットに目を向けるのはロジカルじゃないな,という気がしますね。
4Gamer:
本作は十分結果を出しているように見えますが,まだまだ足りない,と感じているのですね。
里吉氏:
EAグループにはFIFA以外にも,有力なIPがまだまだあります。それらを用いて,日本国内向けに特化したソーシャルゲームを作るほうが,ヒットする確率は高いでしょうね。
4Gamer:
本作の正式サービス開始からそろそろ1年が経ち,そろそろ次回作も気になるところですが,仮にそれが登場するときも,日本市場向けのゲーム内容になりそうですかね。
里吉氏:
そうですね。日本のお客様が存分に楽しめるタイトルになると思いますので,ご期待ください。
4Gamer:
本作に関して,今後のアップデート予定などのお話はいただけますか。
正式サービス開始から1周年を迎えるわけですが,現実のサッカーと同様シーズンを新しくする必要もあり,現在鋭意準備中です。2012〜2013年の新シーズンに対応したデータとして,新しい選手の導入を予定しています。新たなスーパースターが出てきたり,チームを移籍する選手を追い続けたりするのも,サッカーの大きな醍醐味の一つですからね。
4Gamer:
これまで持っている選手の扱いはどうなるんですか?
中田氏:
もちろん継続して使えます。長年続けられるお客様には,レアなカードでデッキを組むといった面白さもあるでしょう。
4Gamer:
それでは最後に,今後の展開について意気込みをお願いします。
里吉氏:
先ほども申し上げたとおり,本作は“殿堂入り”のソーシャルゲームです。たとえば普段はコンシューマゲームで遊ぶような人にとっても,FIFAのブランドをフル活用してきっちり仕上げた本作は,きっと楽しめるタイトルだと思います。まだご存じでない方は,この機会にぜひ一度「FIFA ワールドクラスサッカー」をプレイしてみてください!
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「バハムートブレイブ」などでカードバトルを手がける
純国産開発会社オルトプラスへのインタビュー
そんななか,あくまでカードバトルに軸足を置きつつ,海外展開の可能性を模索している開発会社がオルトプラスだ。
「オルトプラス」公式サイト
●「バハムートブレイブ」でGREEにおける存在感を示す
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
オルトプラスの名前を初めて知るという人向けに,どんな会社なのかを教えてください。
オルトプラスは2010年5月に設立した,ソーシャルゲームの開発会社です。これまでGREEを通じてゲームアプリを提供しており,オルトプラス名義では「ダービーズキングの伝説」「バハムートブレイブ」「精霊ファンタジア」の3タイトルを展開しています。
そのほか,他社さんに提供する形では,「サモンナイト コレクション」(バンダイナムコゲームス)や,「エンペラーズ サガ」(スクウェア・エニックス)の開発作業を弊社が行っています。
4Gamer:
おお,エンペラーズ サガも御社が開発されていたんですね。
これまで手がけられた中で,代表作といえるタイトルの実績について聞かせていただけますか。
石井氏:
一つ挙げるとするならば,「バハムートブレイブ」ですね。これは洋風ファンタジーの世界観を採用した,オーソドックスな形のカードゲームです。2011年10月からGREEでサービスを行っており,現在の会員登録数は90万以上,GREEのランキングで現在4位前後と健闘しています。
「バハムートブレイブ」 | ||
「精霊ファンタジア」 |
4Gamer:
ソーシャルカードゲームは他社を含めてライバルが多いゲームジャンルかと思いますが,そのような結果を出せた秘訣はどのあたりにあると認識されていますか。
石井氏:
バハムートブレイブがサービスを開始した2011年10月というと,コナミさんの「ドラゴンコレクション」を筆頭に,カードゲームが花盛りといった状況でした。バハムートブレイブは比較的後発のタイトルになりますが,これまでのヒットタイトルを研究して,遊びやすさを徹底的に追求したこと。これに尽きると思います。
たとえば重複カードを取得した際,自動的に合成用素材として用いる“自動合成機能”は,お陰様でよい評価を頂いております。あとは戦略型ターンバトルの際に,各種スキル等の計算がきっちりと行われており,戦術の奥深さを満喫できることも評価されたと思います。
4Gamer:
なるほど。新規タイトルの予定などはありますか。
石井氏:
4作目のタイトルとなる「神姫覚醒 ブレイドブレイブ」の準備を行っている真っ最中です(※10月26日にサービスが開始されている)。
●国内向けのカードバトルを主軸に,海外展開を模索
4Gamer:
オルトプラスの得意とするカードバトルは,とくに日本人プレイヤーからの人気が高いコンテンツですよね。現在,GREEはグローバル展開に積極的に取り組んでいますが,そういった動きについて,どのようにお考えでしょうか。
今,まさにそのことを研究中です。
カードの絵柄やプレイスタイルなど,弊社の手がけるコンテンツが海外で受け入れてもらえるのか否かを調査し,そこで良い結果が出れば,まずは既存タイトルのローカライズから取り掛かっていこうと思います。
4Gamer:
基本スタンスとして,自分達が得意とするカードバトルを主軸に,海外で合うか合わないかを検討するということですね。
石井氏:
ええ,そうなります。
4Gamer:
たとえばUbisoftの「Assassin's Creed Utopia」のように,最初から海外のニーズに対応するゲームジャンルを開発するといったことはないのでしょうか。
石井氏:
Ubisoftさんはコンシューマを中心に絶大なブランドが確立していますし,会社の規模も大きく違います。私達が真似をして,海外に向けたタイトルをいきなり開発するというのは,弊社の環境を鑑みるにどうなのかなと。
4Gamer:
バハムートブレイブのような人気タイトルを抱える御社であれば,日本市場だけに絞るということも可能でしょう。GREEはグローバル展開を押していますが,その一方で,いきなり海外に取り組むのはリスキーだったりしないのでしょうか。
石井氏:
それも一理ありますね。すべてのビジネスを海外向けに移すようなことは,少なくとも弊社の環境では難しいし,現実的ではありません。日本で支持されているわけですから,まずは国内での満足度を高め,新作タイトルも国内で提供していくのを最優先とする考え方は変わらないです。あくまでそれと並行して,海外市場の研究も行うといったスタンスですね。
4Gamer:
軸足は国内向けのカードゲームに置きつつ,海外の可能性を模索するということですね。
石井氏:
ええ。私はオルトプラスを設立する前は,コンシューマ系の開発会社に約9年間在籍していました。この経験をもとに,日本人のゲーマーにとって親しみやすいカードゲームを展開していけるのが,弊社の強みだと認識しています。この点を忘れず,今後も良いゲームを提供していきます。
4Gamer:
分かりました。本日はありがとうございました。
現在のソーシャルゲームの勢いについては,もはや誰もが認めるところだろう。だが一方で,「あまりにも人気ジャンルが偏りすぎている」「同じようなゲームが乱立している」という現状も,誰もが把握しているはずだ。この状況のまま,今の勢いが今後5年10年と続くことはさすがに考えづらく,新たな市場,新たなゲームジャンル,そして新たなソーシャルゲームの形を模索していくことは急務といえる。グリーの海外展開が今後どのような結果を生み出していくのか,注目していきたい。
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