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[E3 2014]「DRIVECLUB」発売日延期の理由は,レースゲーム史上最も高品質なグラフィックスを実現するためだった
E3 2014会期中,DRIVECLUBに関する説明会が行われ,開発元のEvolution Studiosでデザインディレクターを務めるPaul Rustchynsky氏と,同じくテクニカルアートディレクターのAlex Perkins氏が登壇した。本稿では,両氏のプレゼンテーションと,ブースにいた別のEvolution Studiosのスタッフへの取材,そして試遊台のプレイフィールをもとに「DRIVECLUBの現在」をお伝えする。
Evoulution StudiosのテクニカルアートディレクターのAlex Perkins氏(写真左)と,同デザインディレクターのPaul Rustchynsky氏(写真右) |
アーケードライクなレースゲームのためか,DRIVECLUBの試遊台にはステアリングコントローラではなくゲームパッドが用意されており,実際ゲームパッドでも非常に運転しやすかった |
「DRIVECLUB」公式サイト
4Gamer「E3 2014」記事一覧
物理ベースレンダリングの採用と「RLR」の活用
DRIVECLUBの開発元であるEvolution Studiosは,レースゲーム専門のスタジオで,PlayStation 3世代ではMotorStormシリーズを手がけたことで知られる。グラフィックス技術と物理シミュレーション技術に長けており,前述のMotorStormシリーズでは車両がコースを周回するうちに轍が生まれ,その轍が走行に影響を与えるといった部分まで再現されるなど,ゲーム開発コミュニティの間では一目置かれる存在となっている。
そんな同社が開発するDRIVECLUBが,一体どんなゲームになるのかは気になるところだろう。
ゲームそのものの特徴については後述するが,なにはともあれ,本作の開発にあたって彼らは「新世代ゲーム機としての性能をアピールできる内容にすること」を心がけ,結果として「グラフィックス」と「サウンド」で最高品質を実現することに全力を注いだという。決して,車両物理シミュレーションに手を抜いたわけではないが,ファーストプライオリティはグラフィックスとサウンドであるということだろう。
気になるレンダリング解像度は1080pで,フレームレートは30fpsとなっている。
彼らとしては,ドライブフィールをややカジュアルなアーケードスタイルに寄せたこともあって,DRIVECLUBでは60fpsを死守することにはこだわらなかったようだ。30fps化と引き替えに,1フレームの描画に掛ける情熱を限界にまで高めたというわけである。
まず,ゲーム画面に描かれるほぼすべての材質は,現実世界のそのものの反射プロファイルを創出,あるいは計測して実装している。ライティングやシェーディングでは,入射光と出射光の総量が等しくなる「物理ベースレンダリング」(Physically Based Rendering)を採用しているのだ。
これにより,車内の内装は革やプラスチック,木材など,各材質特有の陰影を正確に再現できたとのこと。また,革を縫い付ける糸(ステッチ)の素材までも,車種ごとに個別の反射プロファイルを再現しているというから驚かされる。
なんでも,内装の各材質の反射プロファイルを測定するときには,余計な光が入らないように黒い遮光布を被ったスタッフが車内に潜り込み,測定光を1つ1つ当てて取得していったそうで,サンプル車両を提供した自動車メーカーのスタッフには,「お前達は一体何をやっているんだ?」と聞かれたこともあったとか。
また,ヘッドライトの光軸,各種灯火類の色,ボディの塗装の再現もできる限りの努力をしたとのことだ。
レース中のビジュアルは,かなりの写実性が実現されており,とくに驚かされたのは局所的な相互反射が再現されている点である。
これまでのレースゲームでも,環境マッピングなどのテクニックで背景や情景が車のボディに映り込んでいる表現は当たり前となっているが,本作では背景だけでなく,周辺の車までもがボディに映り込むのだ。
これは,Crytekが「Crysis 2」などで実装を始めた「Realtime Local Reflections」(RLR)と呼ばれるテクニックで,画面座標系で局所的なレイトレーシングを行う方法である。実際,映り込みは,相当に細かいところまで再現されているので,プレイする機会があれば,ぜひ確認してみてほしい。
天候の再現
DRIVECLUBでは,昼夜の変化だけでなく,天候の再現もこだわっている。曇り,雨,雪といった表現がかなりリアルになっているのだ。
雨が降ると,コース上の凹凸の凹部分にはその容積に応じた水たまりができるようになっており,また,路面の高低に応じて水が溜まる場所と溜まらない場所が動的にできるという。たとえば,下り坂の麓や傾斜している道の低い部分には多くの水が溜まるのである。
雪も同様の積もり方をするということだが,タイヤが多く通過する場所には雪が積もりにくいという制御が入っているそうだ。降雪時に見られるシャーベット状の轍も再現されるというわけである。
また,ヘッドライトの照射範囲にある夜間の雪や雨の粒には,ライティング処理がなされる。まるでワープ移動中の宇宙船のように,画面の奥から手前に向かって雪や雨の粒が迫ってくる様は圧巻だ。
そして,ボディやフロントガラスに付着する雨粒は,それらが隣接すると大きな粒となって,走行風によって飛ばされたりもする。ワイパーについては,「車種ごとにブレードの曲がり具合や回転角度,フロントガラスの傾斜を計測して,正確に取得しているので,ワイパーを稼動させると実車と同じ『水はけ』が再現される」と豪語していた。
「我々は他人から『やりすぎだ』と言われるたびに誇りを感じる」という発言があったが,確かにここまで精密な実車ビジュアルの再現にこだわったレースゲームは記憶にない。
空の天球は,太陽と月の位置によって現実世界と同じ見え方(≒空の色)になるよう,光散乱モデルを実装している。
雲の表現においても動的に形状を変え,さらに天球からちゃんとライティングが行われる疑似的なボリュメトリック表現を実装。今回のプレゼンテーションでは,はるか雲の上まで視点を移動してレーシングコースを見下ろすという,空撮のようなシーンも再現できるところを見せてくれた。
同社が「レースゲーム史上,最高品質のグラフィックス」を謳うだけのことはあると,筆者も感心してしまった。
サウンドまでも忠実再現
エンジン音や排気音などの車両サウンドについては,実車の内外に約16個のマイクを装着して英国内のサーキットやメーカーのテストコースを走らせ,実際の音を収録したという説明があった。そのとき,エンジンルーム周辺だけでなく,なんと車体の底面にもマイクを付けたというのだからすごい。
マイクを車内外に装着した理由は,ドライビング視点を車内からの視点にしたときや,車外の三人称視点にしたときで,実車と同じ音響特性を再現したかったからだそうだ。実際,プレイ中に視点を切り換えるたびに,同じ車でも音質がちゃんと異なっていることが分かった。具体的には,車外の視点だと音抜けのよい爆音が響き,車内ではややこもったようなサウンドになる。
また,サウンドは7.1chサラウンドで再生されるので,排気音は後ろから聞こえ,ミッドシップ車両ではエンジン音も後ろから再生される。
筆者もプレイ時に意識してそのサウンドを聞いてみたが,確かにグラフィックスの品質に見合うクオリティになっていると感じた。
おわりに
最後になったが,DRIVECLUBの主なゲーム要素にも触れておこう。なお,E3 2013のレポート記事でも基本情報には触れているので,こちらも合わせて参照してほしい。
DRIVECLUBの登場車種は,レースカー,市販車の両方を合わせて55種類。昨今のレースゲームとしては少なめだが,これは前述したように,車両の内外を究極的に計測して再現しているためである。
具体的な車種を挙げると,フェラーリ 458 イタリアとフェラーリ F12 ベルリネッタ,RUF Rt12R,BAC Mono,メルセデス・ベンツ SLS AMG クーペブラックエディション,アウディ R8 V10クーペプラス,アストンマーティン V12ヴァンテージS,マクラーレン MP4-12C,マクラーレン P1など。残念ながら,日本の登場車種はないそうで,これはハイエンドなスーパーカーから選定したからだという。ただ,リリース後に順次追加車種を提供する予定があるらしく,日産GT-RやレクサスLFAといった世界的にも人気が高い日本車が登場する可能性は高いだろうということだった。
自動車のカスタマイズ要素は,ペイントやステッカーなどの外観のみ。パーツ交換によるエンジンや足回り等のチューニングは,あえてできないようになっている。これは,本作がアーケードスタイルとしてゲームバランスを重視したためとのことだ。
収録されているロケーションは,スコットランドとノルウェー,カナダ,チリ,インドの5か国で,レーシングコースは現実をモチーフにした架空のストリートが主体となっている。各国の景観や風土をできる限り再現しているが,現実のサーキットは収録されない。この点については,速く走ることや,タイムアタックに挑戦することが必ずしも主目的のゲームではないためと説明されている。
タイトル名のDRIVECLUBからも分かるように,自分を含めて最大6人でクラブを主催できるのも本作の特徴だ。クラブ同士のチーム戦や,他クラブのメンバーにゴーストカーを送り込んで乱入するなど,同期レースと非同期レースのどちらも楽しめるようになっている。敵対するチームへ挑戦状を送りつけたり,チームメンバーが解除した実績をチーム全体で共有したり,クラブ同士で協力し合ったり,競い合ったりするというゲームデザインも独特だろう。
また,iOSやAndroid向けに提供されるコンパニオンアプリ「My DRIVECLUB App」を利用すれば,PS4の前にいなくとも,普段の生活の中でメンバー間のコミュニケーションが行えるようになっている。たとえ自分がレースに参加できない場合でも,チームメンバーが参加しているレースの実況をスマートフォンで確認することが可能。いつでもどこでも,DRIVECLUBのことを考えて生活できるというわけだ。
最後に,実際プレイした感想を述べさせてもらうと,開発スタッフが「操作感はアーケードスタイル」とは言うものの,車両の挙動自体はリアル志向である。乱暴なアクセルワークをすると,すぐにコースアウトしてしまうし,オーバースピードでターンインしたときの挙動でも,リアがブレイクするまでのドライブフィールはかなりリアルだった。グラフィックスとサウンドがとにかく凄いので,そのおかげでリアルに見える……という側面はあるかもしれないが。
ただ,シングルプレイ時にコースアウトしてしまったときなど,シミュレータ系のレースゲームではまず挽回は不可能なところが,DRIVECLUBではライバルカーがプレイヤーを待ってくれたりすることがある。このあたりはアーケード的な要素といえよう。
冒頭でも述べているように,本作は北米市場において10月7日発売予定で,パッケージ版の価格は59.99ドルとなっている。PS Plusの加入者を対象に,DRIVECLUBの基本部分を抜き出した特別バージョンが無料で提供されるとのことなので,まずはこの無料版を試してみるといいかもしれない。
「DRIVECLUB」公式サイト
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(C)Sony Computer Entertainment Europe. Developed by Evolution Studios
- DRIVECLUB (初回封入特典:オリジナルカラーのクルマ3台(RUF R12 R/ McLaren 12C/ Mercedes SLS AMG Coupe Black Series)
- ビデオゲーム
- 発売日:2014/10/09
- 価格:¥5,310円(Amazon) / 5957円(Yahoo)