インタビュー
スマートフォン向けにリニューアルされた「かまいたちの夜 Smart Sound Novel」で,オーケストラ演奏をgaQdanが担当。その背景を聞く
本作は,1994年にスーパーファミコン向けにリリースされたサウンドノベルの名作,「かまいたちの夜」をスマートフォン向けに移植したもの。といっても,単なる移植ではなく,グラフィックスがHD画質に一新,サウンドもオーケストラなど生演奏を取り入れたり,新たなアレンジにリニューアルされたりと,現代のスマートフォン用タイトルならではの,リッチなコンテンツに進化を遂げている。
サウンド面に関しては,スーパファミコン版で作曲(加藤恒太氏と共同)を手掛けた中嶋康二郎氏がディレクションを務め,オーケストラ以外の編曲を作曲家の福田康文氏,そしてオーケストラの編曲と演奏をgaQdan(ガクダン)が担当している。
gaQdanは,録音を専門としたオーケストラで,これまでも「KINGDOM HEARTS -HD 1.5 ReMIX-」「GUILD01」「TOKYO JUNGLE」のサウンドや,「クリムゾンシュラウド」(GUILD01収録作品),「ZONE OF THE ENDERS HD EDITION」(PlayStation 3 / Xbox 360)のサウンドCDなどにも参加し,ゲーム業界でも注目されている演奏集団だ。
今回,本作のサウンドに深く携わった中嶋・福田両氏と,gaQdanの中心人物としてオーケストラをまとめる作曲家/プロデューサーのTaQ氏,そしてコンサートマスターを務めるヴァイオリン奏者の土屋雄作氏の4人にインタビューを行った。
かまいたちの夜 Smart Sound Novelというタイトルで,オーケストラを起用した経緯や,gaQdanの音作りの姿勢などについて聞いてきたので,興味のある人はぜひ目を通してほしい。
「かまいたちの夜 Smart Sound Novel」公式サイト
iOS版「かまいたちの夜 Smart Sound Novel」DLページ
Android版「かまいたちの夜 Smart Sound Novel」DLページ
録音専門オーケストラgaQdan公式サイト
HD化した画に合わせて,オーケストラサウンドを採用
4Gamer:
本日はよろしくお願いいたします。
まずは,「かまいたちの夜」のスマートフォン向け移植にあたり,gaQdanを起用してサウンドを強化した理由と経緯を教えてください。
私はこの移植のプロジェクトに途中から参加したんですが,その時点では音楽について,あまり重要視されていなかったんです。スーパーファミコンの頃と同じように,クヌルプという実在のペンションで写真を撮ってきたんですが,昨今は写真の解像度が高く,iPadで表示してみると,それがすごく綺麗だったんですね。
写真の見た目が良く,フォントも綺麗なので,音が昔のままだとミスマッチになるかもしれないということになって,思い切って音も新しくすることにしたんです。
4Gamer:
音よりもまず絵が先だったんですね。
中嶋氏:
はい。オーケストラを使うことは予算的に難しい部分もあったんですが,ここで手を抜いてしまうと,あとで自分の中に後悔が残るかもしれなかったので,妥協せずに進めました。
4Gamer:
では,そこでgaQdanさんに演奏を依頼したいきさつは,どういったものだったんでしょう?
中嶋氏:
この依頼をする以前から,gaQdanのTaQさんとは交流があって,練習などに呼んでいただいたりもしていたんです。
皆さんスタジオではなく,ホールで練習をしていて,TaQさんもブースの外からのトークバックではなく,その場でしゃべりながら指揮をとっていて,そのライブ感がとても面白かったんですよ。
それで,いつか一緒に仕事をしたいねという話をしていたことが,今回の起用につながりました。
4Gamer:
TaQさんはそのお話が来たときにどう思われました?
「やった,仕事だ!」って思いました。
4Gamer:
確かにそうですよね(笑)。
TaQ氏:
実際に発注していただく前から,中嶋さんには「打ち込み音源のオーケストラはすでに一般的ではあるけど,やっぱりそれは打ち込みであって,躍動感や気持ち良さは,生の演奏には敵わないんですよね」みたいに,ずっと話していたんです。
こちらに来ていただくときも,たまたまホールで練習するときを選んでいたりしてね(笑)。
中嶋氏:
えっ,そうだったの!?(笑)
TaQ氏:
そうなんですよ。よく響くところで聴いてもらおうと思って(笑)。
そんなこんなで,お互いに仕事をやってみたい気持ちになってから,足かけ1年半ぐらい最適なプロジェクトを探していたんです。それが,ついにこの作品で形になったんですね。
中嶋さんとお話をしていたのは,gaQdanも立ち上げから1年も経っていないヨチヨチ歩きの頃だったんですが,その先の我々の成長も含めて,きちんと理解してくれる人に向けて営業をかけていたんです。なので,実際に声をかけていただけたのは非常に光栄でしたね。
今回の仕事はgaQdanが目指している方向性にマッチした
4Gamer:
そもそもTaQさんがgaQdanを立ち上げたのには,どういう理由があったんでしょう?
TaQ氏:
僕が制作のうえで打ち込み音源だけをやるのが嫌になったことと,大事な曲だからと生演奏を依頼してみても,結果が伴わないことがよくあったからなんです。
4Gamer:
思ったとおりの音に仕上がってこない,と。
TaQ氏:
そうです。そこで僕自身,もともとスタジオワークをやっていて,多少楽器も弾けたということもあるので,新しく研究することで扱いやすいオーケストラを作れるのではないか? というところから始まりました。
それと(土屋氏のほうを向いて)彼との出会いも大きかったですね。単なる思いつきでできたのではなく,いい出会いとタイミングが重なったんだと思います。
僕自身は,あまりクラシックを通っていないという,珍しいタイプの弦楽器奏者で,TaQさんにはそれを面白いと思っていただけたみたいなんです。
オーケストラを寄せ集めの集団とは考えず,今は誰が欠けても演奏ができない,一つのバンドのような感覚で演奏させていただいています。あまり伝統的な流れにとらわれず,今回はゲーム音楽だからこう演奏しようとか,内々でディスカッションしながら演奏ができるので,やり甲斐があるんですよ。
TaQ氏:
ゲーム音楽は何よりも,音自体が刺激的でなければならないので,そこを理解していて意思の疎通もできているメンバーで作った音と,その日だけ集められて数時間で何とか同じ方向に向かわせて作った音とでは,僕としては大きな違いがあると思うんですよね。
4Gamer:
ええ,分かります。
土屋氏:
そういえば録音のとき,中嶋さんが「こうできないですか?」と率直に言ってくださったのがすごく印象的だったんです。そう言ってもらえる仕事がしたくてgaQdanを始めたんですね。
かまいたちの夜のお仕事でそういう理想の時間を持つことができて,とても嬉しかったんです。同時に,この録音は絶対に成功させようと思いましたね。
中嶋氏:
録音しているときは,やっぱり緊張しましたか?
土屋氏:
しましたよ!(笑) 前向きではありますけど,緊張感はありました。gaQdanだからこその良さを出したいという思いが強かったです。
4Gamer:
実際にそれは出せました?
土屋氏:
はい。そのときにできる限りのことはやったつもりです。
原曲の完成度が高いから,アレンジもよくなる
4Gamer:
ちなみにTaQさんと土屋さんは,かまいたちの夜自体は,プレイされたことがあるんですか?
TaQ氏:
当時,僕は海外にいたので,残念ながら遊んだことはありません。
土屋氏:
僕はスーパーファミコン版を,向かいの家の子と一緒に怖がりながら遊んでいたのを覚えています(笑)。
4Gamer:
当時のBGMはゲーム機の内蔵音源で鳴らしたものでしたが,それでもサスペンスドラマのような音楽だったり,ピコピコしたものだったり,演歌調だったりと,バラエティに富んだ内容でしたよね。
中嶋氏:
かまいたちの夜の作曲は,私ともう一人でやっていたんですが,お互い趣味や経歴がまったく違っていたんですよ。私は「弟切草」のようなイメージで作っていたら,彼がいろいろな曲を作ってくれたおかげで,バリエーションができたんです。
4Gamer:
そういって生まれた曲の中から,どれをgaQdanに演奏してもらうかを決める基準は,どこにあったんでしょうか?
中嶋氏:
すべてをオケでやるには,予算もスケジュールも難しかったので,あらためて原曲を聴いてみて,オケでやったら面白いなと思った曲を選んで演奏してもらいました。
それ以外に,一部ギターなどで福田さんにお願いしたものもあります。
4Gamer:
福田さんは,この依頼を受けたときにどんなことを思いましたか?
僕自身,「かまいたちの夜2」ではサウンドディレクターとして,「かまいたちの夜×3」と「真かまいたちの夜」では実際に曲を作らせていただいたことで,このシリーズの音楽に関しては,ある意味,作曲者本人以上に分かっている部分もあるんですね。それぐらい愛着もありますから,今回の移植で再び携われると聞いたときは,本当に嬉しかったです。
でも実際に演奏や編曲をしてみると,原曲の完成度が高い分,すごく難しかったですねぇ(笑)。
4Gamer:
gaQdanの演奏はいかがでしたか?
福田氏:
オケになった必然性を感じられました。素晴らしい編曲,演奏で,とても嬉しかったです。
TaQ氏:
いえいえ,それはやっぱり原曲がいいから,オケにしたときにやり甲斐があるというだけなんですよ。
我々もオケアレンジはいろいろとやっていますが,そこに音符があって,それをどの楽器で弾かせるかという話なので,そもそもの曲がそもそもの形で鳴るのは当たり前なんです。
でも一般に,オーケストラは鳴らしにくいと言われていて,オーケストレーターがさぞかしうまいように言われることが多いんですが,やっぱり作曲家の方が作ったものが秀逸ならば,いくらでも良くなるものなんです。
こういうことは,いろいろな譜面に携わらせていただけばいただくほど分かってきた部分ですし,やりやすい曲とやりにくい曲も出てきますね。
4Gamer:
つまり,かまいたちの夜は,20年前のものが,すでに高いクオリティだったというわけですね。
土屋氏:
そうですね。僕の印象ではどの曲も弾くのが楽しくてしょうがない! というものばかりでした。
4Gamer:
それは素晴らしいですね。
中嶋氏:
スーパーファミコンの音源は,8音ぐらいしか鳴らせなくて,その中でBGMとSEの両方を鳴らさないといけないんですね。だからBGM自体は,4音ぐらいで作っていたんです。
でも今回,当時は音が足りないなと思っていた部分をガツンと鳴らすことができて,すごい手応えを感じました。
TaQ氏:
音数が少ないおかげで,譜面に必要な音符しかないので,すごく凝縮されてるんですよ。
中嶋氏:
確かに必要のない音符は,スーパーファミコンでは出せませんからね(笑)。必要のない音を鳴らすぐらいなら,ディレイに使おうとか,そういう時代でしたから。
逆に効果音に取られてしまって,曲を変えなきゃいけないことすらありましたし。
4Gamer:
そういった苦労を発散できた今回の収録の中で,新曲を作ろうという思いはありませんでしたか?
中嶋氏:
それはありませんでしたね。あくまでスーパーファミコン版の移植という企画でしたので,新しいシナリオも入っていませんし,BGMにオケやギターを使うにしても,当時のファンだった方が聴いて「こんな曲あったかな?」とならないようなアレンジを心がけました。
gaQdanさんも福田さんもそれは理解してくれていて,かつて遊んでいただいた方にも,違和感なく受け入れられるものに仕上がったのではないかと思っています。
福田氏:
先ほどお話に出ましたけど,曲の主だった部分はしっかり完成しているので,何をしたところで変わらないというのはあると思います。
打ち込みではなく,人が弾いた結果,音が良くなるとか,生っぽくなっても,そういった根幹の部分は変わりようがないんですよ。それぐらい,元から完成度が高かったんですよね。
アウトローなことをやるオーケストラ,それがgaQdan
4Gamer:
今回のかまいたちの夜で,ぜひこれを聴いてほしいという,オススメの曲はありますか?
僕は,特殊な条件でしか出てこないエンディングの曲が,なかなか決まってるんじゃないかと思っています。ちょうどスケジュールがうまく合って,僕と昔からの友達である広島交響楽団首席チェロ奏者のマーティン・スタンツェライトに入ってもらえたんですね。
彼のずば抜けたソロが聴ける曲が2曲あるんですが,どちらもかなりいいデキになったと思います。
4Gamer:
それは聴き逃さないようにしたいですね。
TaQ氏:
それと個人的にこだわったのは,僕らはマイクで録音するときに,とりあえず演奏してあとでミックスするのではなく,その場で録ったものを大事にしているので,その部分ですね。
今回はオーケストラで録音するときも,あえてこぢんまりと録って,壁の反響なども演出として含めたことで,ヘッドホンをつないでプレイをすると,そのホールに座って聴いているような感覚になるんです。
とくにiPadなどのタブレットの視野範囲に,音の範囲が気分的に当てはまるような録り方をしたので,音源を聴いたときに目の前にある風景とのサイズに違和感が出ないように意図したんですが,これがうまくいった手応えはありました。
中嶋氏:
画面のサイズもそうですが,ペンションという閉ざされた空間のシチュエーションに合っていましたね。
TaQ氏:
いい画面だからいい音を作りました,ということではなく,すべてがストーリーに入っていけるための演出として工夫できるところは,こちらに任せていただきました。
オーケストラを録るところで,たくさん人数を集めたのに,あえて狭く録るということに踏み込めたのは,「録音専門」の強みだと思っています。
4Gamer:
ある意味,すごくぜいたくな録り方ですよね。
TaQ氏:
逆説的な贅沢ですよね。豪華さを出せるところを,あえて狭く録っているんですから。
昔のサスペンスドラマの音楽も,弦のいるオーケストラ的な構成で演奏されていることが多かったので,そういった往年の日本のドラマ界を支えた演奏にも似ているかもしれません。
そう考えると今回の場合,僕らがやったことはオーケストラというより,1960〜1970年代の劇伴の再現に近いものがあります。譜面も曲のテンションも,クラシックではありませんしね。
4Gamer:
どうしてもオーケストラ=クラシックというイメージがありますよね。
今回も,実際にサウンドを聴いていない人は,オーケストラと聞くと荘厳かつ壮大なサウンドをイメージするかもしれませんが,それとは違うと。
TaQ氏:
そうなんですよ。もともと「オーケストラ」という単語は「多くの奏者が集まって演奏する」というだけの意味ですからね。クラシックに限らず,例えばオルケスタ・デ・ラ・ルスのようなラテンの方達も「オーケストラ」を名乗っていますし,あくまで大きめのバンドぐらいのイメージなんです。
我々も弾いている楽器はたまたまクラシック楽器で,それをまとめるうえでオーケストラという単語が的確ではあるものの,イメージからしたら,やっていることはかなりアウトローだったりします。
だからクラシックの方が弾きに来たりすると,嫌がって帰っちゃうようなこともあります。クラシックの方が大事にしているところは全部無視で,彼らがどうでもいいと思っているところを,僕らは重視してますから。
4Gamer:
となると,奏者はどうやって集めているんですか?
TaQ氏:
奏者は一般募集しています。口コミも多いですが,基本はオーディションで,それも一般でいう上手い下手よりも,僕らの演奏に嫌悪感を示さないかどうかが大きいです。
中嶋氏:
実際に演奏するところを見たりもするんですか?
土屋氏:
見ますけど,長くは見ないですね。最近は実際にお会いして弾いていただくと,gaQdanに合うか合わないかはすぐ分かるようになりました。
TaQ氏:
gaQdanに限らずレコーディングすべてに言えることですが,僕らの仕事はクライアントが書いてきた曲を演奏して,クライアントに気に入っていただいてナンボなわけです。でも,すべてを一発で気に入っていただけるかどうかは分からないので,そのときの注文をすべて前向きに受け止められるような器の大きさがないといけないんです。
そこでちょっとでも嫌だって思うと,それが演奏に出てしまいますからね。何があっても素直にやり続けられる人はかなり限られるので,そこは単純に出会いだと考えています。
中嶋氏:
譜面って,すべてを書けるわけではないんですが,現場で「ここでブレスを入れてほしい」とか「強弱を付けてほしい」といった指示をすると,気にされる方もいるでしょうしね。
TaQ氏:
ええ。自分は最善を演奏しているのに,それに口を出されるのはちょっと,という。
とくにクラシックの方は,ブレスポイントまで演奏力の一つとして勉強してきているので,それに口出しをされたくないというのは理解できます。
でも,意味がなくてもブレスを入れることで面白くなるんだったらそれでいいという考え方は,なかなか伝わらないんですよ。
4Gamer:
でもそういう部分は,常日頃メンバー内でフィーリングを共有できていないと,難しいものですよね。
TaQ氏:
そう思います。
あとはゲームが好きというのもありますね。うちにも熱血ゲーム担当が一人いるんですよ(笑)。
土屋氏:
演奏前に必ず解説が入るんです。「この作品はこういう話だから,よろしく!」って力説されて(笑)。
TaQ氏:
適当な弾き方するなよっていう,彼からのプレッシャーはあるよね(笑)。
かまいたちの収録のときなんかは,別の仕事をキャンセルしてまで演奏に参加してくれましたから。
中嶋氏:
えっ,そうなんですか!? ありがたいことですね(笑)。
TaQ氏:
レトロゲームマニアで,家に歴代のゲーム機がズラッと並んでいてね。
4Gamer:
そういう人がいると心強いですね。
TaQ氏:
確かにそうですね。逆に僕は長くゲーム音楽に携わっている割に,「ゲーム音楽はこうあるべき」というフィルタがほとんどないので,それを面白いと思っていただける方とはいい形で仕事ができています。
もちろん仕事によっては,バックグラウンドを知らなければならないことはあるので,そのときはうちのスーパーゲームアドバイザーに聞きます(笑)。
4Gamer:
ゲームは体験性が強い分,解釈は人それぞれですし。あまり「こうあるべき」みたいな考えに凝り固まらないほうが良いのかもしれないですね。
TaQ氏:
そうですね。僕達が作るものは,ゲームを好きな人だけに向けたものにしたくないという気持ちもあるんです。たとえゲームを知らなくても,単純に中身がいいと思ってもらえるのが一つの理想で。
ハガキ印刷のように音楽を作れるオーケストラでありたい
4Gamer:
こうしてお話を聞く限り,今回のかまいたちの夜 Smart Sound Novelは,gaQdanさんの音楽への取り組みとの相性が抜群だったということで,間違いないでしょうか?
土屋氏:
gaQdanで演奏していて感じるのは,作曲された方が距離を近く思ってくれていることなんです。
そしてその最初の一人が,ほかならぬ中嶋さんだったんですよ。gaQdanとの距離をとても近くに感じてくださっている分,僕らにも伝わってくるもの,影響を受けるものは,とても多いんです。
TaQ氏:
隔たりのあるスタジオではなく,同じ部屋の中にいますからね。
土屋氏:
普段の仕事だと,目の前に作曲家の方がいる機会はなかなかないですよね。
TaQ氏:
メンバーもみんな音楽好きですからね。表向きはOKが出ても,顔が笑っていなかったりすると,自分達もそれに対して「これでいいや」とは思わないので,まずは目の前にいらっしゃる作った方を満足させたいという気持ちが出ますから。
そこで奏者が「これはいいんじゃないか!?」と思ったときに,目の前の方がニヤッとしてくれたりすると,もう間違いないんです(笑)。部屋の中の全員がいいと感じたものを,お客さんが聴いていいと思わないわけがないという自信を,一つ一つの曲を完成させていくことで固めていけるんですよ。
中嶋さんと仕事をしたことで,そういうgaQdanの仕事の方向性が見えたような気もしています。
土屋氏:
ああ,それは確かにありました。gaQdanというのは,なるほどこういう仕事をする場なんだという形が定まりましたね。
4Gamer:
そうなると,今後gaQdanとしての活動が長くなるほど,このかまいたちの夜での仕事の存在感は増していくかもしれませんね。
TaQ氏:
殿堂入りですね。うちがどこまで続けられるかわかりませんけれど(笑)。
うちがやっていることは確かに突拍子もないことなんですが,はまると絶対に面白いと思っていただけるので,ぜひ使っていただければと思いますよね。
中嶋氏:
こちらとしても,また機会があればお願いしたいですよね。今回の一本で終わりにならないように(笑)。
4Gamer:
今回集まっていただいたみなさんに,もう一度インタビューできる機会を持てるのであれば,我々も嬉しいです。
中嶋氏:
まだ次は決まっていないので,なんとも言えませんけど(笑)。次の仕事の予定はあるの?
TaQ氏:
録音してから作品として世に出るまでにかかる時間にばらつきがあるので,どれから言っていいのか微妙なんですよねぇ(笑)。
僕らは音楽制作を支えるバックボーンですから,仕事をするときは,そこに必ずクライアントがいて,そのために演奏をするだけなんですよ。なので,「gaQdanとして次にこれをやります」というものは,実はあまりないんですよね。
土屋氏:
どこかで見かけたら,ニヤッとして耳を傾けていただければと思います(笑)。
中嶋氏:
このタイトルでは自分が作曲をしたこともあり,gaQdanさんとサウンドに関してかなり突っ込んだやりとりをしました。一方,開発ディレクターとしてサウンドから一歩引いた全体を見る立場としてもいろいろと相談させてもらたんですが,どちらの場合でもさまざまなありがたい提案をいただけました。こちらから押す時は引いて聞いてくれて,こっちが引いているとわっと押してくる,という感じで。
ですから今このインタビューを読んでいるゲーム業界の方は,音楽に詳しくないとgaQdanを使うのは難しいかもしれないと思われるかもしれませんが,そんなことはないので,業界の方にもぜひオススメします(笑)。
TaQ氏:
いや本当,そんなふうに言っていただいて,ありがとうございます(笑)。
gaQdanでは「ハガキ印刷みたいなことをやりたい」とも思っていたんです。ネットにデータ入稿すると,3日後に印刷されたハガキが100枚届くみたいなイメージでオケをやろうと。つまり,MIDIデータを投げるとオケで録音されて返ってくる,ぐらいの手軽さを考えていたんですね。
そのためには僕だけでなく,ゲーム開発をしたことがある,曲を書いたことがある,エンジニアリングしたことがあるというチームが集まることで,分からないことをどこまで払拭できるかを常に考えています。もしプロジェクトに組み込んでいただけるとしたら,任せていただけると嬉しいですよね。
とにかく作る方には作ることに専念していただいて,演奏にまつわる面倒なことは,全部こちらで考えて最適なものを提供します……みたいな方向性になるのが,最高の形だと思っています。
土屋氏:
なんせ,擬音で全部通じるオーケストラですからね。「ここはダーン! バーン! でお願いします」「分かりました」というやりとりができるのが,我々の最大の強みでもあり面白味です(笑)。
4Gamer:
ありがとうございました。
gaQdanの皆さんの今後のゲーム業界でのご活躍にも期待しています。
ゲーム業界でも注目される気鋭のオーケストラ,TaQ氏率いるgaQdanの音作りへのこだわりや方向性の一端を,ご理解いただけたのではないだろうか。
これを踏まえて,かまいたちの夜 Smart Sound Novelで流れるオーケストラサウンドをあらためて聴いてみると,またひと味違った気持ちでゲームを楽しめるかもしれない。
TaQ氏はインタビューの最後でgaQdanを裏方としてアピールしたが,インタビュー終了後のホールでの練習にて,生で聴かせていただいたかまいたちの夜の楽曲は実に素晴らしいものだった。今後,これらを生で聴くことができる機会などが,どんどん増えていけば,ゲーム音楽ファンとしては嬉しいのだが。
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録音専門オーケストラgaQdan公式サイト
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