レビュー
GeForce GTX 700シリーズの第2弾,“高メモリクロック版GTX 680”はありやなしや
GeForce GTX 770
(GeForce GTX 770リファレンスカード
GIGABYTE GV-N770OC-2GD)
GTX 780は,低価格版「GeForce GTX TITAN」(以下,GTX TITAN)ともいえる構成で,「GeForce GTX 680」(以下,GTX 680)と比べると,性能も価格も高い製品となっていたが,GeForce GTX 700シリーズの第2弾となる本製品はどうだろうか。とくにGTX 680との力関係は気になる人も多いのではなかろうか。
今回4Gamerでは,NVIDIAのリファレンスカードと,GIGA-
GTX 770リファレンスカード |
GPUコアはGTX 680と同じGK104を採用
スペックもほぼGTX 680そのものだが,メモリは速い
GTX 770 GPU。ダイ上の刻印は「GK104-425-A2」だ。GTX 680だと「GK104-400-A2」だったので,「GK104」に続く3桁数字が25だけ大きくなったことになる……が,少なくともGPUコアだけ見たら,リネーム品と言われても反論できないだろう。それくらい,GTX 770とGTX 680のGPUコア仕様はよく似ている |
GK104コアのブロック図 |
記憶力のいい読者は,「GTX 680はGK104のフルスペック製品だったのでは? 何が変わったの?」と思ったかもしれないが,実のところ,GTX 770のGPUコア自体はGTX 680から何も変わっていない。
GK104は,TSMCの28nmプロセス技術を採用して製造され,35億トランジスタを約294mm2のダイサイズに集積したGPUコアだ。Keplerアーキテクチャを採用するので,シェーダコア「CUDA Core」が192基集まって,L1キャッシュやテクスチャユニット,それにジオメトリエンジン「Poly
GK104のフルスペックでは,GPCを4基搭載するので,CUDA Coreの総数は(192×2×4)で1536基。GTX 680はまさにこのフルスペックだったが,先ほども述べたとおり,GTX 770とGTX 680ではGPUコアの仕様が変わっていないため,GTX 770でもCUDA Core数は1536基になっているというわけだ。
念のため付け加えておくと,64bit幅のメモリコントローラ4基で256bitメモリインタフェースを実現し,メモリコントローラと対(つい)になる格好で8基1パーティションのROPユニットを4パーティション搭載する仕様にもまったく変化はない。
NVIDIAのパートナー各社から登場しているクロックアップ版GTX 680カードに,メモリクロック7GHz超級を実現した製品は(少なくとも筆者の知る限り)ないので,この点がGTX 770における最大の特徴ということになるだろう。
ちなみにGTX 680は,ハイエンドGPUとしてはメモリバス帯域幅が狭く,結果として超高解像度環境でスコアを落とす傾向があった。その点,メモリクロックが7GHz超級へと引き上げられたGTX 770では,メモリクロック分の約16.7%,具体的には192.26GB/sから224.32GB/sへとメモリバス帯域幅が広がり,弱点に手が入ったことになる。
384bitメモリインタフェースを持つGTX TITANやGTX 780,あるいは競合の「Radeon HD 7970 GHz Edition」(以下,HD 7970 GE)だとメモリバス帯域幅は約288GB/sあるので,まだギャップは20%以上も開いているわけだが,縮まったのは確かだ。
後述するテスト環境で試したところ,リファレンスカードの最大ブーストクロックは1149MHzだった。GTX 680リファレンスカードだと同1110MHzだったので,(個体差を無視すれば)3.5%程度は最大ブーストクロックが上がった計算になる |
GTX 770の主なスペック。グラフィックスメモリ2GBモデルだけでなく4GBモデルも用意される |
なお,GTX 770では,GTX TITANやGTX 780と同じく,「GPU Boost 2.0」が実装されており,これもGTX 680との差別化要素となる。もちろん,GPU Boost 2.0の目玉機能である「Temperature Target」(温度ターゲット)はGTX 770でも利用可能だ。詳細はGTX TITANの解説記事を参照してほしいが,GTX 770では,Temperature Targetのサポートで,GPUコアの温度に余裕がある場合に,より高い動作電圧を許容して,より高いGPUコアクロックを狙えるようになっている。
そんなGTX 770のスペックを,従来製品や競合製品ともどもまとめたものが表1だ。
リファレンスカードはGTX 780そっくり
GIGABYTEはオリジナル基板を採用
ここからは入手した2枚のカードを順に見ていこう。
■GTX 770リファレンスカード
まずはGTX 770リファレンスカードだが,その外観はGTX 780のリファレンスカードとほとんど同じ。ぱっと見の違いはGPUクーラー上の刻印くらいである。
GTX 680のリファレンスカードだとカード長は実測253mm(※突起部含まず)なので,GTX 680比だとちょっと長くなったことになるが,そうなった理由は一にも二にも,GTX 780やGTX TITANと同じGPUクーラーを搭載したためだろう。
4+2フェーズ構成だったGTX 680と比べて電源回路の規模が大きくなっているかは何ともいえないところである。
■GV-N770OC-2GD
なお,後述するテスト環境で試した限り,ブーストクロックは1241MHzまで上がったのを確認できている。
カードサイズは実測278mm(※突起部除く)と,リファレンスカードより11mmほど長い。ただ,基板自体は実測253mmと,GTX 680リファレンスカード並みになっていた。GIGABYTE自慢のGPUクーラー「WINDFORCE 3X」が基板後方へはみ出しているため,カード長が長くなっているわけである。
GPUは銅板,メモリチップは熱伝導シート経由でそれぞれヒートシンクと接触する |
基板に寄ったところ |
電源回路は見る限り8+2フェーズで,リファレンスカードより規模が大きい印象を受ける。一方,GPUやメモリチップ周りのデザインはリファレンスカードと同じで,搭載するメモリチップもリファレンスカードと同じだった。
電源部は見る限り8+2フェーズ。回路のデザインはGIGABYTEオリジナルと思われる |
搭載するメモリチップはリファレンスカードと同じK4G20325FD-FC28である |
リファレンスカードとGV-N770OC-2GDの両方をテスト
比較対象のスコアはGTX 780レビュー時のものを流用
テストだが,今回のシステムは表2のとおり。比較対象となるGPUは,表1でその名を挙げたGTX 780とGTX TITAN,GTX 680,HD 7970 GEとなる。もちろん,GTX 770のテストにはリファレンスカードとGV-N770OC-2GDの両方を用いるので,グラフ中は前者をGTX 770,後者をGBT 770 OCと書いて区別する。
ちなみにこのテスト環境は,GTX 770カードの2枚を追加したことを除けば,GTX 780テスト時のものと完全に同じだ。また,
- テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション14.0準拠とした
- テスト解像度は1920×1080ドットと2560×1600ドットの2パターンとした
- テストに用いるCPU「Core i7-3970X Extreme Edition/3.5GHz」では,テスト時の状況によって自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の挙動が変わる可能性を排除すべく,同機能をマザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化した
という点でもまったく変わらないため,今回,GTX 770の2製品以外のスコアはすべてGTX 780のレビュー記事から流用することにした。この点はあらかじめお断りしておきたい。
なお,GTX TITANとGTX 680のスコアを320.18 WHQLベースで計測し直さず,「GeForce 320.14 Driver Beta」で取得したスコアを流用する理由は,5月24日の記事で指摘しているように,320.18 WHQLとの間に最適化周りの違いがないためである(※もちろんスケジュールの都合というのもあるが)。
一方,北米時間5月29日に公開された「Catalyst 13.6 Beta」をHD 7970 GEのテストに用いていないのは,純粋にスケジュールの都合による。
GTX 780比で80%強,GTX 680比で115%程度の性能
クロックアップの効果は相応にある
以下,3D性能のグラフは,基本的に主役の2製品を一番上とし,あとはGeForce→Radeonの順で並べてあるが,グラフ画像をクリックすると,「3DMark」(Version 1.1.0)はスコア順,ゲームアプリケーションベンチマークは解像度2560×1600ドットのスコア順で並べ替えたグラフを表示するようにしてある。このことを最初にお知らせしつつ,順に見ていこう。
グラフ1は3DMarkのスコアで,GTX 770は,GTX 780比で81〜82%,GTX TITAN比で74〜76%,GTX 680比で108〜109%,HD 7970 GE比で98〜99%というスコアになった。GTX 780のレビュー記事でも指摘したとおり,GTX TITANとGTX 780の間にそれほどのスコア差はないのだが,それと比べると,GTX 780とGTX 770のスコア差はかなり大きい。
一方でGTX 680とのスコア差は1割に満たず。GTX 770はあくまでもGTX 680の高クロック版といった印象であり,GTX 780の下位モデルとして見ると,スコアはやや離されすぎな印象が否めないところだ。
なお,GV-N770OC-2GDは,GTX 770リファレンスカードに対して約6%高いスコアを示し,“2番手グループ”の中で気を吐いている。
実際のゲームアプリケーションを前にするとどうか。「Far Cry 3」の結果をまとめたグラフ2,3だと,GTX 770のスコアは対GTX 780比で84〜91%程度となった。グラフィックス描画負荷が低い局面では差を詰めるが,高くなると3DMarkと似た傾向になっていく。
GTX 680に対して1〜4%しかスコア差を付けられていないのも気になるところだが,Far Cry 3は,メモリ周りの仕様が似通っている場合,比較的素直にGPU性能差を出すので,GPUがほとんど変わっておらず,動作クロックにもそれほど大きな違いのない影響が出ているといえるだろう。その証拠に,GPUクロックが大きめに引き上げられたGV-N770OC-2GDでは,GTX 770リファレンスカードに対して7〜14%高いスコアを示せている。
グラフ4,5にテスト結果を示した「Crysis 3」でも,GTX 770とGTX 780の力関係は変わらず。「標準設定」では対GTX 780で89〜90%に留まるGTX 770ながら,「高負荷設定」では82〜84%と,スコア差が広がる。
GV-N770OC-2GDとGTX 770リファレンスカードの関係性は,3DMarkやFar Cry 3とほぼ同じ。GV-N770OC-2GDはリファレンスカードに対して4〜11%高いスコアを示した。
Far Cry 3やCrysis 3と比べると描画負荷がかなり低くなり,いきおいグラフィックスメモリ負荷も低くなる「BioShock Infinite」のスコアがグラフ6,7だ。解像度や負荷設定にかかわらずGTX 770はGTX 780比で86〜87%程度のスコアにまとまっているため,これがGTX 770とGTX 780との間にあるGPUの実力差ということになりそうである。
GTX 680に対してGTX 770が1〜3%程度,GTX 770に対してGV-N770OC-2GDが6〜9%高いスコアというのは,おおむねGPUクロックどおりと述べていいだろう。
公式の高解像度テクスチャパックを導入することでグラフィックスメモリ負荷は大きく高めてある一方,2013年のハイエンドGPUにとって演算負荷自体は高いものでなくなっている「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)のスコアをまとめたものがグラフ8,9だ。
ご覧のとおり,標準設定では負荷が低すぎてスコアの頭打ちが発生しているため,ここでは「Ultra設定」の結果を見ていくが,GTX 770が示す対GTX 780のスコアは,1920×1080ドットで約85%のところ,2560×1600ドットでは約75%にまで落ち込んでいく。HD 7970 GEの逆転を許すどころか,2560×1600ドットでは対HD 7970 GE比でも約89%のスコアしか示せていないのも示唆的で,極端にグラフィックスメモリ負荷の高いゲームを前にすると,GTX 680と同じく,GTX 770も足回りの弱点を露呈する可能性があることは押さえておきたい。
……もっとも,実フレームレートは60fps超なので,2560×1600ドットでもまずまずの体感速度でプレイできることは期待できるのだが。
続いて「SimCity」のテスト結果をまとめたものがグラフ10,11となる。SimCityは,今回取り上げたようなGPUからすると描画負荷が低めのタイトルだが,そうなると,BioShock Infiniteと同じように,解像度やグラフィックス設定にそれほど左右されず,GPU間で一定のスコア差がつくようになる。GTX 770はGTX 780の88〜9%程度,GTX 680の101〜104%程度だ。また,こういうテスト条件だとGPUクロックの引き上げが有効であるということも,GV-N770OC-2GDのスコアからは見て取れよう。
BioShock InfiniteやSimCityと同じく,ハイエンドGPUにとっては負荷の低いゲームアプリケーションとなる「F1 2012」の結果がグラフ12,13で,標準設定だとスコアは全体に頭打ち気味だ。そこで高負荷設定を見ていくと,ここではなかなか面白い傾向が見られる。高負荷設定でグラフィックスメモリ負荷が高まることを受け,GTX 770のスコアはGTX 780比で82〜95%となる一方で,GTX 680に対しては17〜18%程度と,ここまでで最も大きなスコア差を付けるのだ。メモリ性能+α分なので,GTX 770が持つ動作クロック分の優位性がほぼそのままスコアに反映されたような印象である。
スコアの頭打ちがまず生じていないと思われる2560×1600ドットで,GTX 770に対し,GV-N770OC-2GDがやはりほぼGPUコアクロック分となる約9%のスコア差をつけているのも興味深い。
GTX 680から消費電力が最大35W増加
GPUクーラーの冷却性能はGTX 780とほぼ同じ
テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイの電源がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とすることにした。
その結果がグラフ14で,アイドル時に大きな違いはない。そこでアプリケーション実行時に目を移すと,GTX 770はGTX 780と比べて17〜47W低い一方,GTX 680に対してはCrysis 3で「むしろ1W低い」という結果になったのを除けば,8〜33W高い結果となった。
GK104が35億に対しGK110は71億と,見事に倍のトランジスタ数があることを踏まえると,GTX 780に引き離されたのは妥当といったところだが,GTX 680とのスコア差を見るにつけ,動作クロックの引き上げ,とくにメモリクロックの引き上げが消費電力に与えるインパクトは小さくなさそうだ。
なお,GV-N770OC-2GDの消費電力はGTX 770リファレンスカード比でさらに13〜32W高いものとなっている。
3DMarkの30分間連続実行時点を「3DMark時」とし,アイドル時ともども,
テスト時の室温は24℃で,システムはPCケースに組み込まない,いわゆるバラック状態に置いたときのものとなる点に注意してほしい。
今回テストしたグラフィックスカードのうち,GTX 770とGTX 780,そしてGTX TITANでは(おそらく)まったく同じGPUクーラーを搭載しているわけだが,結果,3製品のGPU温度はアイドル時,高負荷時ともほぼ同じになった。同じクーラーを搭載し,同じようにTemperature Targetが設定されているので,この結果は妥当と述べていいだろう。
なお,WINDFORCE 3Xクーラーを搭載するGV-N770OC-2GDのGPU温度はさすがに低く,3連ファン仕様の大型GPUクーラーを搭載するメリットが出ている。
気になるGPUクーラーの動作音だが,毎度,筆者の主観であることを断ったうえで述べると,GTX 770とGTX 780の間に大きな違いは感じられない。GTX 780のときと同様,NVIDIAはGTX 770のクーラーがGTX 680のそれより静かで,かつ,動作音の変動も少ないとアピールしているのだが,実際にはだいたい同じ感じだ。「ハイエンド市場向けグラフィックスカードとして,うるさいというほどではない」という感じである。
一方,GV-N770OC-2GDのWINDFORCE 3Xクーラーは,それらと比べると明らかに静かだ。「Radeon HD 7990」の3連ファン搭載クーラーほどの驚きはないが,少なくともGTX 770リファレンスクーラーと比べて動作音が小さいことは断言してしまって問題ないだろう。
その実態は“GTX 685”もしくは“GTX 680 Ti”
メモリ性能は確かに上がったが……
以上のテストから,GTX 770は,GTX 680と比べると,メモリクロック分は確実に性能向上が見込める一方で,その分,消費電力も増大した製品とまとめることができそうだ。イメージとしては“GTX 685”あるいは“GTX 680 Ti”といったところ。メモリクロックを除けば,目新しい部分はGPU Boost 2.0くらいなので,GTX TITANの低価格版という位置づけであるGTX 780以上に地味な印象が拭えない。
あるいは,GV-N770OC-2GDのようなクロックアップモデルだと,GPUクロックを引き上げた効果が相応に出るので,予算に余裕があるならそちらを狙うのも悪くないだろう。
型番整理の都合上,GeForce GTX 700シリーズでGeForce GTX 600シリーズを置き換えなければならないNVIDIAにとっては必要な1ピース。GTX 770というのは,そういうGPUである。
GeForce製品情報ページ
GeForce公式ページ「GeForce.com」(英語)
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