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Intel,新世代モバイルCPU「Core M」プロセッサ計3製品を発表。ファンレスタブレットで新生FFXIVが遊べる時代が来る?
AcerとASUSTeK Co
本稿では,Intelの日本法人であるインテルが開催した報道関係者向け事前説明会での情報をもとに,発表された3製品の仕様や特徴をレポートしたい。なお,Core Mプロセッサ(以下,Core M)の概要については,2014年8月の記事でも説明しているので,そちらも合わせて参照してほしい。
Intel,14nmプロセス世代で製造される次期モバイルCPU「Core M」の概要を発表。2015年のCore Mタブレットは厚さ9mm未満でファンレスに
最上位モデルのCPU動作クロックは定格1.1GHz
統合型グラフィックスはHD Graphics 5300に
まずは発表された3製品のラインナップを説明しておこう。
発表されたのは,「Core M-5Y70」「Core M-5Y10a」「Core M-5Y10」の3製品。いずれも2基のCPUコアと統合型グラフィックス機能(以下,統合GPU),記憶容量4MBの共有型L3キャッシュとメモリコントローラなどを搭載し,トランジスタ数は約13億個,ダイサイズは82mm2とされている。
ちなみに,“M-”に続く数字は第5世代Coreプロセッサであることを示すものとのこと。同世代の上位モデルとして“M-7”が登場したりすることは,少なくとも今のところはない,ということだ。
動作クロック以外の仕様はほぼ同じで,いずれも物理コア数2基,論理コア数は4基となっている。今回の3製品と,Intelがベンチマークテストで新製品の比較対象としている第4世代Coreプロセッサ(以下,Haswell)「Core i5-4302Y」のスペックを比較した表を掲載しておこう。
さて,この表を見ると,5Y10aと5Y10のスペックは「Configurable TDP down」(以下,cTDP)以外まったく同じであることが分かる。インテル 技術本部 統括部長の秋葉正之氏によれば,5Y70と5Y10aは,cTDPの下限が3.5Wまでとなっているのに対して,5Y10ではこれが4Wだという違いがあるとのこと。つまり,5Y10のほうが若干だがバッテリー消費が多い可能性があり,ここで製品を差別化しているわけだ。
ゲーマーにとって最も重要な統合型グラフィックス機能(以下,統合GPU)は,どの製品にも「Intel HD Graphics 5300」という名称が与えられている。動作クロックを除けば,製品間で仕様に違いはないとのこと。
GPUコア部分のアーキテクチャ自体は,Haswell世代の統合GPUから若干改良された程度らしいが,内蔵するシェーダプロセッサである「Execution Units」(以下,EU)の数は,Core i5-4302Yの「Intel HD Graphics 4200」が20基であるのに対して,24基に増量された。そのためIntelでは,前世代に比べて演算性能では20%向上したと主張している。
なお,統合GPUの名称に付けられた数字だけなら,Haswell世代の最上位統合GPUであった「Iris Pro Graphics 5200」より上である。だが,Iris Pro Graphics 5200は,EUの数が40基とはるかに多いので,グラフィックス性能では太刀打ちできないだろう。
2-in-1タイプのタブレットPCを狙うCore M
具体的には,ファンレスタイプの2-in-1デバイス,とくにディスプレイ部がキーボード部と分離して,単体のタブレット端末として使える「デタッチャブル」型の製品が,Core M一番のターゲットであるという。もちろん2-in-1デバイスだけでなく,従来よりもさらに薄いノートPCや単体のタブレット端末もターゲットに含まれているので,Core Mを採用した薄型ノートPCも当然登場するだろう。
アーキテクチャの説明を担当した秋庭氏は,消費電力低減を実現するCore Mの特徴を説明した。
Haswell世代のモバイル向けCPUは,低負荷の用途(たとえばタブレット端末)における消費電力を想定した「SDP」(Scenario Design Power)が4.5Wと謳われていたものの,より一般的な消費電力指標である「TDP」(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は,11.5Wもあった。低負荷時に4.5Wで動作するといわれても,高負荷時には11.5Wになってしまうのであれば,高負荷時に合わせた熱対策をせざるをえない。とくにゲーム時には最大負荷が継続することは明らかで,ファンレスのタブレット端末に搭載するのは困難である。
それに対して,Core MはTDPで4.5Wを実現しており,消費電力は実に60%近くも削減されたことになるわけだ。また,CPUパッケージ全体のアイドル時消費電力を大幅に削減したり,「Free Integrated Voltage Regulator」(FIVR)と呼ばれるCPU内部の電源安定化回路に,電力変換効率を向上した第2世代FIVRを採用したりといった改良も施されているという。
Core Mだけでなく,それを搭載するシステム全体の電力や熱の管理もHaswell世代以上に徹底されていると,秋庭氏は説明する。
Haswell世代で導入された,「Power Optimizer」と呼ばれる電力制御フレームワーク(枠組み)を活用して,未使用状態にあるPC内の各種デバイス――無線LANモジュールや液晶パネルなど――をアイドル状態に落としたりするといった細かい調整を行うことにより,バッテリー駆動時間はHaswell世代と比べて,54〜103分ほど向上したとのことだ。
Atom搭載のWindowsタブレットにはまだ及ばないように思えるが,Haswell世代に比べれば,Core M搭載タブレットはバッテリー駆動時間の向上も期待できそうだ。
CPUパッケージは2分の1サイズに小型化
裏面にインダクタ用サブ基板を配置
また,Haswell世代ではCPUパッケージ内に搭載していたインダクタをCore Mではサブ基板に分離したうえで,それをCPUパッケージの裏面に取り付けるという離れ業も採用されている。つまり,Core MのCPUパッケージは裏面にサブ基板が出っ張っており,装着するマザーボード側には,それを収めるための孔(または窪み)が必要になるわけだ。
かなり無理矢理な方法にも見えるが,薄型のタブレット端末に内蔵するためには,こうした工夫も有効なのであろう。
Haswell(写真左側)とCore M(同右側)のCPUパッケージを横から撮影したところ。Core Mには出っ張った小さな基板が付いているのが分かるだろう。サブ基板も含めると。Core MはHaswellより厚みがあるのだが,サブ基板はマザーボード側に埋め込まれるうえ,CPUパッケージそのものは薄型化されているので,Core Mのほうが筐体内で占める高さは低い |
Core M搭載2-in-1デバイス試作機でFFXIVベンチの動作をデモ
低消費電力だけでなく,Core Mでは性能向上もアピールされている。小澤氏は,Intelが開発したCore M搭載のファンレス2-in-1デバイス試作機「Llama Mountain」上で,「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」(以下,FFXIVベンチ)が動作している様子を披露した。
Intelが開発した,2-in-1デバイス試作機のLlama Mountain。12.5インチサイズのIGZO液晶パネルを採用し,CPUにはCore M-5Y70を搭載。厚さは7.2mmで,重量は700g未満を実現しているという。残念ながら動作が安定していないようで,FFXIVベンチでスコアを計測することはできなかった |
小澤氏は,「TDP 45WのクアッドコアCPUと比べるレベルではないにしても,それなりに動くところまでは来ている」と述べていたが,ファンレスのタブレットという厳しい条件を鑑みれば,FFXIVベンチがそれなりに動くというのは大したものだと思う。
性能面も向上したとはいえ,Core Mはそもそも定格動作クロックが低いので,ゲーマー向けPCに適したCPUではない。しかし,性能が向上してバッテリー駆動時間が延びる可能性のあるCore Mは,たとえばタブレット端末でブラウザゲームをプレイする場合に,既存のHaswellやAtom搭載タブレットよりも快適かつ長時間のプレイが期待できる。
評価を下すのは実際の製品が登場してからになるが,ブラウザゲームをプレイする機会が多いというゲーマーなら,Core Mは恩恵をもたらしてくれるCPUになるのではないだろうか。
Intel 日本語公式Webサイト
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