インタビュー
新たな価値のある“みんワイ”の未来へ――「モンスターストライク」の中長期戦略をキーパーソンに聞いた
そんなモンストは今後,どこに向かおうとしているのか。ミクシィ モンスト事業本部のキーパーソンである根本悠子氏,異儀田 論氏に話を伺う機会を得たので,同社が掲げている“中長期戦略”を紹介したい。
新たな価値のある“みんなでワイワイ”を軸に
コミュニケーションのパラダイムシフトを
SNS「mixi」で一大ムーブメントを巻き起こしたミクシィ。同社が2013年にリリースしたモンストは,プレイヤーの口コミを中心に瞬く間に評判が広がり,日本を代表するモバイルゲームに上り詰めた。2018年頃には,それまで急成長を遂げていた国内外のモバイルゲーム市場でレッドオーシャン化が進んだが,モンストはファンのエンゲージメントを高める施策や強固なコミュニティによりトップの地位を維持する。その一方,海外リージョンへの進出やモンストキャラを使ったゲームの展開では苦戦を強いられ,本家モンストの存在感が突出している状況が続いている。
現在,モンストは日本をはじめ,香港,台湾,マカオで展開しているが,北米や中国,韓国では撤退を余儀なくされた。その要因として,根本氏は「ドメスティックに開発されたゲームでもあり,海外のリージョンのニーズと合わなかった。さらに,提供価値を変えずに展開したことによるカルチャーギャップもあったのでは」と分析する。
一方,モンストキャラを使ったゲームに関しては,「本家モンストのキャラクターを立たせるだけではゲームとして成立しなかったのではないか」と述べ,本家モンストファンのエンゲージメントを高めるプロモーションの域を超えられなかったと指摘した。
また,異儀田氏は「マーケットのトレンドが変遷するスピードに対応できなかったのでは」と言及し,本家モンストのアクティブユーザーをターゲットとしていたものの,そうしたユーザーの可処分時間を削ってでも移行したくなるだけのフックが提示できなかった点を挙げている。
モンスト初代プロデュサーである木村弘毅氏(現 ミクシィ代表取締役社長)は,「膝を突き合わせて遊ぶ体験」の楽しさを提唱し,提供価値の軸にはコミュニケーションが存在した。しかし,経年によってモンストにおけるコミュニケーションや,みんなで楽しむという体験が変化している。
根本氏は「マルチプレイはもはや,モンストだけが持っている優位性ではありません。つまり,マルチプレイという機能的な差分はさほどないとしたときに,モンストブランドが持つ,さらに先の提供している価値『みんなで膝を突き合わせて遊ぶと楽しい。仲間との絆が深まる』,そうした体験をどうやって,まだ触れていない人に届けていくのか。そのイメージを改めて言語化しました」と述べた。モンストを語る際の主語が“モンスターストライク”しかなかったところを,“モンストブランド”として捉える方向に意識づけしていく狙いもあったそうだ。
長期運営タイトルにおいて,ニーズの多様化や,新規プレイヤーと古参プレイヤー間のギャップは避けられない課題だ。多くのプレイヤーを対象とするコラボやイベントも年々,運営の難度が上がり,すべてのプレイヤーを1つの施策やイベント等ではカバーしきれないケースも生まれている。だからこそ,“みんなでワイワイ楽しむ”という強みを生かし,多様なアプローチができる新規事業が必要だった。
異儀田氏は「モンストを今後,どうしていくのか。9周年ともなれば,初期に掲げていた思想のようなものも変わってきます。とはいえ,人と人とのつながりで盛り上がる。その熱量をコンテンツで担保するという形で飛躍してきたので,そこを失うのは避けたい」と語る。
モンストのリリース当時,みんな遊ぶスマホ向けゲームと言えば,真っ先にモンストが浮かんだ。しかし,現在は“みんなでワイワイ遊ぶ”というコンセプトに近いゲームやコンテンツが溢れている。異儀田氏は「今からもう1回,みんなで遊ぶコンテンツを出すならば,モンストとは異なる魅力を提供しなくてはいけない。もちろん,他社のものと比較しても違う体験である必要がある。今,世の中にない,“みんなでワイワイ楽しむ”というコンテンツでなければ」と,新規タイトルのコンセプトを示した。
中長期戦略の一環,新規事業として進めてきたプロジェクト,それが7月19日にリリースされる「モンスターストライク ゴーストスクランブル」(以下,ストブル)だ。「オバケ蹴散らし“3+1”アクション」を謳う本作は,ヒカリ攻撃と味方オバケ「モンQ」を駆使するバスター3人に,仲間を監督・サポートするドローン1人を加えた最大4人協力プレイが可能。アクションゲームが苦手な人やゲーム初心者も,仲間を補助する形でゲームに参加できる点が特徴である。クローズドβテストの反応を受けて,しっかりと改修してきたことで,より多くのプレイヤーに満足してもらえる内容になったという。
また,異儀田氏によるとストブルは,モンストのキャラクターやストーリーの拡充といったスピンオフのような位置づけではなく,また,モンストのプレイヤーをメインターゲットとは考えていないそうだ。
「今,モンストを遊んでくださる方は,カジュアルなアクションRPGが好きな人だと思うんですよね。ストブルに関しては,端的に言えばこの方たちではない層にアプローチしていきたい。1日24時間のうち,エンタメコンテンツに費やせる時間は限られていますから。僕らが持っているモンストのアイデンティティを,ゲームジャンルが異なるコミュニティや,例えばもっと若い子たちにも提供してみたい」と,その狙いを明かす。
趣味嗜好やライフスタイルが多種多様になっている昨今,モンスト全体の事業戦略においてストブル一本で勝ちにいこうとは考えていない。モンストシリーズのゲームを継続的にリリースするとのことで,「いろいろなジャンルやシチュエーションで遊べるコンテンツを届け,どれかが刺さってくれればいい,と考えています」と異儀田氏は語る。仲間が集まる場でモンストシリーズを遊んでもらい,コミュニケーションの活性化を実現したいという。
また,根本氏は「ミクシィから生まれたモンストはモバイルゲームでいまのポジションを得られています。ですので,一足飛びで遠隔地を狙うのではなく,まずは近接領域から狙い足固めをするべき」と述べた。ただ,ブランドの活動としてはモバイルゲームの限りではなく,未来を見据えた新たな展開の構想はすでにあるそうだ。
異儀田氏も「コンテンツに必要なフックをどう作るか。それを模索したうえで,引っかかってくれそうなターゲットがいるならば,そこに対してアプローチしていきます。それはゲームだけに閉じた話ではありません」と補足する。
コロナ禍においては,大型イベント「XFLAG PARK」がオンライン開催となった。その中でも,仲間同士でライブ配信を視聴しながらボイスチャットを楽しめる「XFLAG PARK CONNECT」を提供し,ミクシィは同じ体験を共有する価値を届けてきた。また,今年は全国5都市でオフラインイベント「MINI PARK」を実施し,XFLAG PARKも3年ぶりのオフライン開催を予定している。リアルイベントはかつての姿を取り戻しつつある。
異儀田氏は「リアルなコミュニティも,もちろん重視しています。新しい試みであるMINI PARKは,例えば地元にお祭りがあったら,友達と『みんなで行ってみよう』となると思いますけど,そういった仲間が集まるきっかけづくりとしてのアプローチです。こちらもまた,皆さんのライフスタイルに即した形で提供するのが理想ですから,オフラインイベントの在り方は今後も模索していきます」と述べた。
長期的な展望に関しては,根本氏が「コロナ禍においては強制的にそうなりましたが,そもそもデジタルデバイスやツールの発達などで,人と直接会わなくてもコミュニケーションが図れることは便益性があがった一方,コミュニケーションが希薄に感じられることもあると思います。私たちはモンストを介して,人と人がつながる。モンストがあることで,より絆が深まる。そんな世界を目指していけたら」と未来へのビジョンを語った。
モンストブランドのエンタメや体験を通じ,コミュニケーションのパラダイムシフトを起こそうというのだ。
モンスト事業全体のロードマップとしては,今後1〜2年をかけてモンストシリーズを継続的に提供し,本家モンストの10周年にはブランド全体のさまざまな仕掛けを検討している。根本氏は「ただモンストのキャラなどを使ったゲームが出てくるのではなく,未来に向けてブランドを拡充していくための第一歩,それがストブルです。新しい価値の創造を狙って,“モンストシリーズ”を提供していきます」と意気込みを語った。
“みんなでワイワイ”というニーズを満たす体験を提供しながら,「みんワイ」ブランドとして10年,20年と続いていくポジションを目指すとのことである。
「モンスターストライク」公式サイト
「モンスターストライク」ダウンロードページ
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