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NVIDIA,Vsync有効でも無効でもない第3のディスプレイ同期技術「G-SYNC」発表。その正体と狙いを明らかにする
今回は,NVIDIAの総帥であるJen-Hsun Huang(ジェンスン・フアン)氏による基調講演の内容,そして現地での追加取材結果から,G-SYNCでNVIDIAが何をしようとしているのかを説明してみたい。
G-SYNCが必要になった技術的背景
従来,ディスプレイデバイスは,60Hz周期の表示メカニズムを基本としてきた。
「垂直リフレッシュレート60Hz」というやつだが,これは,ディスプレイデバイス自体が,テレビ放送やビデオといった,固定フレームレートが前提のコンテンツを表示する前提で進化,発展してきたという背景による。
垂直リフレッシュレート60Hz(60fps)における1コマあたりの表示期間は約16.67msだ(※下に示すNVIDIAの資料だと簡略化されて16msになっているが,正確には16.666666……ms。以下,「約」を省略して16.67msと表記する)。言い換えると,ディスプレイデバイスは,1コマを16.67ミリ秒だけ表示するのである。
ここで重要なのは,ディスプレイデバイスにおける映像表示が,「面」として一度に行われているわけではなく,非常に高速ではあるものの,画面の上から下に向かって処理されているということ。なので,画面の最上端から表示が始まるというそのタイミングでGPUが必要な映像データを送出してやらないと,正しい表示が行えない。
そのため,60Hzという表示周期に合わせるようにして,GPU内のフレームバッファの内容を表示するという動作モードが,ゲームでは主流になっている。いわゆる「VSync有効」(垂直同期有効)モードだ。これは,PCゲームファンなら知っている人も多いだろう。
GPUが映像の1フレームを16.67ms未満でレンダリング(=描画)できていれば,ディスプレイデバイスはコンスタントに60Hzで表示できる。ここには何の問題も起きない。
しかし,ゲームのグラフィックスにおいては,「システム負荷が原因で,一定の(=コンスタントな)フレームレートで映像を出力できない」ということがままある。
問題は,その場合でもディスプレイデバイスはその仕様上,「一定のフレームレートで映像を出力できない」といったGPU側の都合は一切お構いなしに,60Hz周期で新しい映像フレームを表示しようとすることだ。GPU側の描画が16.67ms内に収まらないと,GPUは,新しい映像を送出するタイミングを逸してしまい,ディスプレイデバイス側では古い映像をそのまま表示し続けることになってしまう。そして表示タイミングを逸した映像フレームは,“その次”の垂直同期のタイミングで表示処理が始まることになるのだ。
これが,英語で「Stutter」(スタッター)もしくは「Stuttering」(スタッタリング),日本語では一般に「カク付き」(※映像業界では「ジャダー」)と呼ばれる現象である。
ビデオゲームは「映像を見て反応する」仕組みになっているので,新しい映像フレームが表示されない(あるいは,新しい映像フレームが遅れて表示される)現象が生じると,プレイヤー側の反応も遅れることになる。これがゲームプレイにはとても歓迎されない「ラグ」(Lag,遅延)と呼ばれる現象だ。
この問題に対処するため,垂直同期のメカニズムを放棄して,GPUがレンダリングした映像をできあがったそばから表示させてしまう表示手法も考案された。それがいわゆる「VSync無効」(垂直同期無効)モードだ。
このモードでGPUは,ディスプレイデバイス側の表示タイミングに配慮することなく映像フレームを送出する。結果,ディスプレイデバイスは,そのとき表示プロセスが進行している映像フレームの表示が終わらないうちに,途中から新しい映像フレームの表示を始めることになる。結果,画面上部に古いフレームが残り,途中から新しいフレームが表示されて,両者が微妙につながっていない現象,俗に言う「テアリング」(tearing。ただし日本では字義からすると誤読となる「ティアリング」読みが主流)が発生し,プレイヤーに知覚されてしまう。
垂直同期を無効化すると,GPUによる描画とディスプレイデバイスによる表示タイミングが完全にバラバラとなるため,Tearing(画面割れ)が発生してしまいがちになる |
テアリングのイメージ |
つまり,垂直同期を有効化するとテアリングは避けられる一方でカク付きとラグに向き合わねばならず,垂直同期を無効化した場合は,カク付きとラグは避けられるが,テアリングと向き合わなければならなくなるというわけだ。
G-SYNCはディスプレイデバイス側を可変フレームレート表示に対応させる
以上が前提の話。NVIDIAが提唱するのは,垂直同期の有効と無効の「いいとこ取り」となるソリューションだ。
そもそもこうした「カク付き+ラグ」と「テアリング」の問題は,繰り返しになるが,ディスプレイデバイスがGPU側(映像送出元)の都合を気にしてくれていないことに原因がある。
そこでNVIDIAが考案してきたのが,「ディスプレイデバイスの表示タイミングをGPU主導で制御するシステム」だ。これこそがG-SYNCの正体となる。
G-SYNCシステムにおいては,映像のレンダリングが完了すると,そのタイミングでGPUは映像の送出を開始。ディスプレイデバイス側はこれを受けて表示を開始する。フレームレートが一定でない場合でも,映像のレンダリングか完了するその都度,表示処理が始まるので,カク付き+ラグもテアリングも生じないというわけだ。
イベント会場では実際に,固定フレームレート40fpsと固定フレームレート50fps,可変フレームレート40〜60fpsのグラフィックス表示で,ASUS製のG-SYNC対応試作ディスプレイと従来的なディスプレイとで比較表示を体験できたのだが,いずれのテスト条件においても,G-SYNC対応ディスプレイは非常にスムーズな映像表示を行えていることが確認できた。
そもそもの話として,毎秒40コマや50コマというのは,相応にコマ数が多い表示といえる。にもかかわらず,従来の「垂直同期有効の60Hz基準」な表示システムだと30fps程度の映像と同程度のカク付き感で見えてしまうのだが,G-SYNC対応ディスプレイではほとんど60fps表示と言ってもいいくらいのスムーズさだ。
また,可変フレームレート表示の場合,従来型のディスプレイでは,垂直同期を有効化するとカク付きが一定リズムにならず不快になり,垂直同期を無効化するとテアリングが頻発し,映像がブレて見えてしまうこともあったのだが,G-SYNC対応ディスプレイでは,60fpsの固定フレームレート表示との間で,スムーズさにほとんど違いがない。
技術的な概念は理解していたつもりだが,実際にデモを目の当たりにして「実はかなり革命的なソリューションなのではないか」と感じた次第である。
これまでは,「毎秒60コマ」という目標値をクリアするために,グラフィックス設定を下げたり,あるいはハイエンドGPUをがんばって購入したり,SLI構成を組んだりする必要があった。しかし,G-SYNC対応ディスプレイがあれば,30〜60fps程度の可変フレームレートでレンダリングできるPCを用意するだけで,十分スムーズにゲームをプレイできてしまうのだ。
G-SYNC対応ディスプレイさえ所有していれば,GeForceユーザーは,1ランク下のGPUでもスムーズにゲームをプレイできるようになるわけで,プレイヤーの立場からするとコストメリットが大きい。
ベンチマークでは測れない「快適なゲーム環境を実現する技術」として,実際の対応製品が出てくれば大きな注目を集めそうだ。
西川善司が答える「G-SYNCにまつわるQ&A」
講演のレポートはここまで。以下は,G-SYNCについて読者が気になるであろう疑問や興味について,筆者なりにまとめた情報を,Q&A形式でお伝えしたい。
■G-SYNCのハードウェア要件は?
G-SYNCが有効になるのは,当面の間,DisplayPort 1.2a接続時のみ。G-SYNC対応ディスプレイにはもちろんDisplayPortインタフェースが用意されるが,GeForce搭載グラフィックスカード側でもDisplayPort 1.2a対応の出力インタフェースが必要となる点は注意しておきたい。
■G-SYNCはどうやって使うのか
NVIDIAコントロールパネルに用意される「G-SYNC」設定項目を選択。これを有効化すると,以降,垂直同期制御をドライバソフトウェアが乗っ取る形になる。“NVIDIAコントロールパネル語”でいうところの「アプリケーション設定の変更」が有効になった状態となるわけだ。
設定後に起動したゲームでは,ゲーム側の垂直同期モード設定にはよらず,
将来的には,ゲーム側の設定メニューから「垂直同期有効」「垂直同期無効」「G-SYNC有効」といった形で選択できるようなタイトルも出てくるという見通しもNVIDIAは示していた。
■Huang氏が掲げていたG-SYNCモジュールの正体は?
記事の冒頭でHuang氏が掲げていたG-SYNCは,ズバリ,フレームバッファメモリやスケーラー回路までを内蔵した,映像エンジンSoC(System-on-a-Chip)搭載モジュールである。G-SYNCに対応するディスプレイ製品を開発するためには,NVIDIA製のG-SYNCモジュールをNVIDIAから構成部品として購入し,実装する必要がある。
つまり,エンドユーザーの立場から言うと,G-SYNC対応ディスプレイの映像エンジンは,どのメーカーの製品でも共通ということになるのだ。
G-SYNCモジュールは,OSDメニューアプリケーションも内蔵しているため,すべての製品でOSDメニューの設定項目も共通になる。もちろんメニュー構成やフォントといった見栄えのカスタマイズはできるそうだが,コア部分はまったく変わらない。
■G-SYNC対応ディスプレイ製品は,事実上,全部兄弟機になる?
G-SYNC対応ディスプレイ製品を構築する場合の基本構成部品は,液晶パネルとその駆動回路,電源周り,筐体,G-SYNCモジュールだけだ。映像エンジンはG-SYNCモジュールが担当するので,別途要する必要はない。
G-SYNC対応ディスプレイ製品は,心臓部ともいえるG-SYNCモジュールが共通となるため,確かに,すべて兄弟機のようなものと言うこともできるだろう。
ただ,G-SYNCモジュールは,VAパネルにもIPSパネルにもTNパネルにも対応できる。また,液晶パネル解像度もさまざまなものに対応している。
クルマで言えば,エンジンは共通だが,ボディやシャシーのデザイン,足回り設計などは各社で独自に設計した製品といったイメージだ。
■G-SYNCモジュールを使わずにG-SYNC対応製品を作れるのか
G-SYNCは,モジュールビジネスだ。このビジネスモデルは,「映像エンジン」という存在にそれほどこだわりがないメーカーの,とくにPCディスプレイ製品では歓迎されるかもしれないが,映像エンジンに各社の独自性が重んじられるテレビ製品においては,適合しにくい印象がある。
(一部の例外を除くと)日本のテレビメーカーは,“売り切りの”映像エンジンを自社テレビと組み合わせるのを嫌うからだ。
では,そんな日本のテレビメーカーがG-SYNC対応テレビの製品化を考えたときにはどういう選択肢があるのか。
NVIDIAのG-SYNC開発担当者によれば「テレビメーカーにも基本的にはG-SYNCモジュールを使ってもらうことになる」とのことであった。なので,G-SYNCモード対応のためだけに,自社製映像エンジンのほかにもう1つG-SYNCモジュールを搭載する必要があるわけだ。これはさすがに製造コストを大きく押し上げる要因となるのであまり現実的でない。よって,当面の間,テレビでのG-SYNC対応は望み薄だろう。
しかし,Hunag氏は,「このG-SYNCモジュール提供戦略をずっと取り続けるかどうかは分からない」とも述べているので,将来的に,テレビメーカーの映像エンジンにG-SYNC対応機能が実装される可能性は,ゼロではない。
■G-SYNCはDisplayPort専用機能なのか
G-SYNCモジュール自体は,DisplayPort 1.2aだけでなく,HDMI 2.0やDVIにも対応できるよう設計されているそうだが,当面はDisplayPortのみでの提供になる。
HDMI 2.0やDVI経由のG-SYNC対応への対応は,後々進めていくとのことだった。
■G-SYNCの対応解像度やリフレッシュレートは?
今回デモ展示に使われたG-SYNCモジュールは,3840×2160ドットの4K解像度まで対応しているとのことだ。つまり,G-SYNCに対応した4Kディスプレイ製品の登場の可能性があるということである。
組み合わせられる液晶パネルの垂直リフレッシュレートは60〜144Hz。たとえば,ネイティブ120Hzや144Hzといった高いリフレッシュレートに対応する液晶パネルと組み合わせた場合は,それこそ60〜144fpsという広い幅の可変フレームレートによるG-SYNC表示も可能とのことだ。
液晶パネル以外とG-SYNCモジュールを組み合わせることもできるのかは気になるところだが,この点についてG-SYNC開発担当者は,「理論上は可能。ただ,我々も検証したことがないので動作の保証はできない」と述べていた。G-SYNC対応のプロジェクタ製品や有機ELディスプレイなどが出てくると面白いかもしれないが,さて。
■G-SYNCモジュールと組み合わせる液晶パネルの「推奨仕様」はあるのか
今回のイベントで展示されていたASUS製ディスプレイの試作品は,144Hz駆動が可能な液晶パネルを採用していた。そこで,「G-SYNC機能を実現するには120fps以上のハイフレームレート対応液晶パネルが必要なのか」という質問をしてみたところ「60Hz駆動の,一般的な液晶パネルと組み合わせることも可能だが,ハイフレームレートに対応した製品のほうが,G-SYNC表示時の映像がクリアになる」との回答が得られた。
60Hz(16.67ms)駆動の液晶パネルでは,確かにG-SYNC効果でカク付きやラグ,テアリングを回避できるが,映像表示に掛かる時間はあくまでも16.67msであり,60fps以上のフレームレートで映像がレンダリングされても表示は60fps止まりとなる。当たり前だ。
その点,120Hz(約8.3ms)駆動の液晶パネルならば,仮に120fpsには到達しなくても,60fps以上のフレームレートでレンダリングできたときに,それをスムーズに表示できるという優位性が生まれるというわけである。
■3D立体視には対応するのか
G-SYNCはアクティブシャッター方式の3D立体視には対応できないとのこと。これは,G-SYNCモジュールに3Dメガネのシャッターの開閉タイミングを制御する仕組みが実装されていないためだそうだ。
偏光方式の3D立体視の場合は,理論的には問題なく対応できると思われる。
■Radeonとの組み合わせはできるのか
他社製GPU,たとえばRadeonとG-SYNCを組み合わせたときにG-SYNCは利用できるのか。その点を聞いてみると,「G-SYNCは,GeForceファミリーが提供する機能であり,基本的に他社製GPUとの組み合わせでは利用できない」という答えが返ってきた。
G-SYNCの概念や原理的には,GPUの種別は問われないはずなのだが,G-SYNCモジュールがNVIDIA製なので,接続されているGPUのメーカーや種別をセンシングして,G-SYNC機能を有効化しないといった制御は,確かにやってきそうではある。
GeForce.comのG-SYNC関連ポスト(英語)
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