レビュー
見た目ではなく本質に磨きがかけられた最新作
影牢 〜ダークサイド プリンセス〜
本稿では,「もう出ないかも……」と心配しつつ9年間続編を待ち続けた筆者が,本作をプレイした感想をお届けしたい。
3つの属性が加わったトラップ。「残虐」「華麗」「屈辱」,どれがお好み?
9年ぶりのリリースということで,まずは影牢を知らない人のために,シリーズの簡単な説明をしておこう。影牢は,前述したように敵を罠にかけて倒していくゲームなのだが,単に罠をかけるだけではない。プレイヤーは,天井,壁,床に自分で仕掛ける罠と,ステージとなる建物に備え付けの罠をうまく「つなげて」いく必要があるのだ。
例えば,部屋の入口に置いた「バナナノカワ」で転ばせた敵を「バキュームウォール」で吸い寄せ,そこに天井から「カビン」をかぶせて視界を奪い,よろよろと歩いているところに,振り子のように動く巨大な刃「ペンデュラム」をぶつけて部屋の「暖炉」に叩き込む……といった具合だ。
このトラップコンボこそがシリーズの魅力。「仕掛けが意図したとおり,完璧に動く」というのは実に気持ちがよく,犠牲者の悲鳴にサド心がくすぐられ,子供だましのような罠に巨漢の兵士がひっかかるところで笑う……と,さまざまな感情が一気に押し寄せてくるのだ。このプレイ感覚はあまりほかのゲームでは味わえない。
もちろん,コンボをつなげれば敵に与えるダメージは増大するし,罠のヒットで獲得できるポイント「Ark」にボーナスが加算され,新しい罠などを開放しやすくなるという“実用性”もしっかりと用意されている。ゲーム攻略のうえでもコンボがプレイの中心になるのだ。
さて,そんなシリーズの最新作である「影牢 〜ダークサイド プリンセス〜」。基本システムは従来と同様だが,本作では使用する罠に「残虐」「華麗」「屈辱」という3つの属性が新たに設定された。さきほどの例で言えば,ペンデュラムのような大ダメージを与えられるものが残虐,コンボをつなぎやすくするバキュームウォールやカビンは華麗,引っかかると恥ずかしい,バナナノカワのような罠は屈辱,といった感じだ。
プレイ中,罠をヒットさせるとArkとは別に属性値が加算され,一定の値に達するとその属性の新たな罠が購入可能になる。さらにストーリーモードでは,プレイ中,属性ごとに提示されるサブミッションを達成することで,属性値にボーナスが加算される仕組みだ。
この属性要素の追加によって,ステージに持っていく罠の選択作業が面白くなった。これまでのシリーズでは,基本的に「敵を倒す」という目的しかなかったため,筆者の場合,一度“必勝パターン”のコンボを見つけると,どうしても使う罠を固定しがちだった。だが,本作でサブミッションを達成したり,特定の属性値を稼いだりするためには,罠の入れ替えが必須となる。
また,ステージにある罠にも属性が設定されているので,例えば「この建物は残虐属性の仕掛けが多いから,自分で持っていく罠は華麗と屈辱で固めよう」といった戦略性も生まれるのだ。
そのステージ備え付けの罠では,「ウィザードギア」という大型の仕掛けが新たに登場した。乗り物を模した外観で,常に動いているタイプが多いようだ。
ウィザードギアの特徴は,その使い方が複数用意されていること。例えば,工場のようなステージ「バルマギア」に登場する「紅蓮魔導汽車」は,その名の通り,機関車のように線路を疾走しているのだが,これには「敵をぶつける」「敵を線路上に拘束して轢かせる」以外に「敵を動力炉に放り込む」という使用法があるのだ。
さらに,ウィザードギアには,特定の使用法で敵にとどめをさすと,特別な演出が発生するという仕掛けもある。うまく決まったときの嬉しさと余韻は格別だ。
実は前作「影牢II -Dark illusion-」でも,ステージごとに「ダークイリュージョン」という大型の仕掛けが備えられていた。発動させると一旦プレイが中断し,ド派手なカットシーンが流れる独自演出までついた,いわば同作の目玉的存在だったが,最初こそ度肝を抜かれても,毎回同じカットシーンのためにプレイが中断されるのはさすがに辛く,少々扱いに困る存在でもあった。
今回のウィザードギアは,演出がプレイに影響を与えない程度に抑えられている印象で,派手さこそダークイリュージョンに劣るかもしれないが,使い勝手は数段上だ。
罠については,ステージに設置されている仕掛けに「捕獲」できるものが登場したのも本作のトピックと言えるだろう。体力が減り,ゲージの色が赤くなった敵を「吊り牢」や「小型潜水艦」といった罠に入れてしまえば,もう抵抗できなくなる。Arkにボーナスがつくうえ,捕獲者リストを埋めていくというコンプリート要素もあるなど,モチベーションを高めてくれる要素も用意されている。
これを待ってた。「トラップシーケンス」でコンボの可能性が広がる
筆者が影牢シリーズのプレイで不満を感じていたのが,罠の設置時における操作性だった。従来作品では[△]ボタンに天井,[□]ボタンに壁,[×]ボタンに床の罠をそれぞれ1つ割り当てておき,任意のタイミングで起動するというシステムだったのだが,これでは長いコンボを狙おうとすると,コンボの最中にメニュー画面を開いて罠を設置し直す必要が出てきて,非常に忙しい。また,罠には設置から起動可能になるまでの「チャージ時間」があるため,例えば床の罠2種類を連続してヒットさせるということが事実上不可能だった。
この不満を一挙に解決してくれたのが,本作で採用された「トラップシーケンス」だ。これは,起動順に並べられたスロットに任意の罠を設定すると,[×]ボタンを押していくだけで順に罠が起動できるというシステム。スロットの数には制限がある(ゲームの進行に合わせて増えていく)ので,好きなだけ罠を起動できるというわけではないのだが,メニュー画面を開く頻度は確実に減るはず。罠にかかっている敵を見て楽しむ余裕も出てくるだろう。
また,チャージはスロットに入っている罠すべてが行うので,上で紹介したような,これまでのシステムでは不可能だったコンボも組めるようになった。これは「床から床とか,壁から壁にコンボがつながればどんなに楽か……」と思い悩んできたシリーズのファンからすると,かなりのインパクトだ。例えるなら,サッカーをやろうとしたら「今日から手を使っていいぞ!」と言われたくらいの。いや,ホントに。
これまでの制限をなくした,という意味では,主人公が罠以外の能力を使えるようになったのも大きな変更点だ。さすがに直接相手にダメージを与えることはできないようだが,[△]と[□]ボタンに,自身の体力を回復したり,走力を上げたり,敵を足止めしたりといった「アビリティ」を割り当てられるようになっている。
ちなみに,アビリティには「トラップ発動」というものがあり,これを使えば,トラップシーケンスとは別扱いで罠の起動が可能になる。コンボをさらに伸ばすために使ってもいいし,[△][□][×]ボタンに1つずつ罠を割り当てて,これまでのシリーズと同じ操作感を味わってみるのもいいだろう。
明らかに手ごわくなった敵キャラクターたち。短期決戦で勝負をつけろ
さて,トラップコンボの制限がなくなって,主人公がアビリティを使えるようになったら楽勝じゃないの,と思われるファンもいるだろうが,そううまくはいかない。本作のメインとなるストーリーモードに登場する敵は,明らかにこれまでのシリーズより手ごわいのだ。とくに遠距離攻撃の正確性がかなり高く,普通に走って逃げているだけではまず当てられてしまう。アビリティの「ローリング」などをタイミングよく使えば避けられるが,初心者には同じくアビリティの「オートディフェンス」がオススメだ。これを使えば,相手の連続攻撃に対して突っ立っているようなことがない限り,自動で攻撃を回避できる。獲得Arkが半分なってしまうというデメリットはあるのだが,少なくともコンボをスムーズに組めるようになるまでお世話になったほうが本作を楽しめるだろう。正直に白状すると,筆者も使ったし……。
特定の罠に耐性を持つ敵が増えているのも厄介。敵の情報は事前に確認できるので,ここで相手の耐性に合わせた罠をチョイスしておきたいところだ。
鎧によって耐性を備えている敵は,弱点となる罠(ヒットさせるとWEAK POINTと表示される)を連続して当てる「アーマーブレイク」で鎧を破壊し,耐性を無効化できるのだが,敵の弱点までは事前に確認できないので,少々確実性に欠けるというのが正直なところ。女性の敵が着ている鎧を破壊すると,妙に露出度が高い衣装になって嬉しい,という要素もあるので,予期せぬ“ご褒美”ぐらいで考えておくのがちょうどいいかもしれない。
もちろん,いろいろと罠を試して,何が何でもアーマーブレイクさせてから屈辱系の罠をかけるといったプレイも,男のロマンの追求としてはアリだろう。「別に屈辱系でなくてもいいだろ」という声が聞こえてきそうだが。
男のロマンはともかくとして,敵の話を続けよう。中ボスクラスになると,的確な攻撃やさまざまな耐性に加えて,せっかくこちらが与えたダメージを回復させる技まで使ってくるようになる。大苦戦するうちに筆者が気づいたのは,本作では「やられる前にやれ」がクリアへの道ではないかということだった。
前作までは敵の攻撃もゆるく,部屋から部屋へと逃げながらちまちまとコンボを当てていくやり方が結構通用したのだが,本作ではそれだとジリ貧に陥る。考えに考えて必殺のコンボを組み,遭遇したその場で仕留めるつもりで臨まないと,クリアはおぼつかない。
コンボが組みやすくなって,アビリティも使えるようになったからには,それなりのプレイが要求されるということなのだろう。
そしてもうひとつ,本作のストーリーモードには意外な敵がいる。それは「セーブポイント間隔の長さ」だ。セーブはチャプター間でしかできないのだが,1つのチャプターでは敵4〜5人程度を相手にする戦いを数回繰り返すので,かなりの長丁場となる。さすがにゲームオーバー時のリトライポイントは戦いごとの設定になっているのだが,それならばセーブポイントも同様にしてほしかった。
さまざまなゲームモードを活用すればプレイの幅が広がる
ストーリーモードが決して甘くないということは分かってもらえたと思うが,本作ではそのほかのモードでストーリーモードへの準備を整えたり,考えたコンボの実験ができたりするので,初心者であっても憶することはない。
「制限時間内に敵を倒せ」「●ヒット以上のコンボを達成せよ」といった課題をクリアしていく「ミッション」モードは,本作の基礎から上級までのテクニックまでが身につくうえ,Arkや属性値も稼げる。しかも同じミッションを何回でもプレイ可能なので,ここで新たな装備を整えてから,ストーリーモードに臨むことも可能だ。
「フリーバトル」モードでは,ステージや敵キャラクターを選んで設定した状況でバトルを楽しめる。ストーリーモードの場面を再現して,コンボをはじめとするいろいろな戦法を試すといいだろう。
腕に自信がついてきたら,「クロスクエスト」モードに挑戦してみてほしい。これは制限時間や敵の数,与ダメージといった条件を設定して,ミッションモードに出てくるような課題を作ったり,ほかのプレイヤーが作った課題に挑戦したりできるものだ。
投稿されている問題は,すべて作成者本人がプレイして,クリア可能であることが証明されているもの。つまり「おれはクリアできたけど,お前らにできる?」という趣向のわけだ。作るにしても解くにしても,これはなかなか熱い。
「ミュージアム」モードのYouTube投稿機能(PS3版のみ搭載)でアップされたリプレイムービーも攻略の参考になるはず。上級者のプレイを見ると,「こんなつなぎ方があったのか!」と感心させられるはずだ。
ちなみに,ムービーを投稿するときには「観客の笑い声」や「悲鳴」といった音声を重ねることができるので,「タライ」や「フライングケーキ」といった罠を使った,笑えるムービーを作ってみるのもいいかもしれない。
見た目ではなく本質が磨き上げられた最新作。この機会を逃さないでほしい
「久しぶりのシリーズ最新作」が,まるで別物になっていてがっかり,というのはよくある話だが,「影牢 〜ダークサイド プリンセス〜」でそんなことはないと断言しよう。間違いなく,シリーズ特有の魅力がさらに研ぎ澄まされたタイトルになっている。
新たに加えられた「残虐」「華麗」「屈辱」の属性はその最たるものだ。この3つは本シリーズの魅力となっていた要素でありながら,これまでなぜかゲームシステムに組み入れられていなかったが,今回それが“可視化”され,よりハッキリ感じられるようになった。そこに「トラップシーケンス」が導入されてコンボの可能性が広がったのだから,シリーズ経験者であっても遊び応えは十分だ。
一方で,シリーズ未経験者には,公開されているムービーやスクリーンショットを見て,グラフィックスがもう少しよければ……という感想を持つ人もいるようだ。確かにグラフィックスは最近のタイトルとして見ると美麗とは言い難く,高度な物理演算も使われていない(ように感じられる)し,ステージがマス目で区切られている罠の設置画面には少々古くささを感じる。言ってみればゲーム業界のトレンドとは逆を行くタイトルかもしれない。
だが,一度プレイすれば,トレンドに合わせて影牢シリーズを作るのは無意味だと分かるだろう。フォトリアルなキャラクターが残虐な罠にかけられるのは痛々しすぎるだろうし,罠の設置場所に制限をなくして物理演算を採用したら,最大の魅力であるコンボが相当難しくなるはずだ。
影牢シリーズは,技術の進化が面白さにつながりづらいという,実に因果なゲームかもしれない(長期にわたってリリースがなかったのも,そのあたりに原因のひとつがあるのではと思っている)。だが,その分,本作はゲーム性の部分が徹底的に作り込まれてきた印象だ。長年待ったファンはもちろん,初めてシリーズを知ったという人も,この機会を逃さずにプレイしてほしい。
「影牢 〜ダークサイド プリンセス〜」公式サイト
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