レビュー
「ペルソナ3」と「ペルソナ4」の人気キャラが夢の競演
ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス
本作は,「ペルソナ」シリーズの最新作で,「ペルソナ3」と「ペルソナ4」のキャラクターたちが時空を超えて一堂に会し,「世界樹の迷宮」シリーズをベースにしたシステムで展開されるRPGだ。
「ペルソナ」シリーズの“RPG”としては,久しぶりの新作となる「ペルソナQ」。アトラスの人気タイトルがまさかのトライアングルスプレッド(3身合体)を果たした結果,どのような作品が生まれたのか……「ペルソナ」シリーズの“ストーカー”を自負する筆者・マフィア梶田が,ガッツリとレビューしていこう。
●「ペルソナQ」ストーリー
異なる時間,異なる世界に生きるペルソナ使いの少年少女たち。2つの世界に突如鳴り響いた鐘の音によって,物語は動きだす。
異世界へと呼び寄せられたペルソナ使いたち。そこで出会う“記憶を奪われた”少年と少女。
異変を解決する唯一のカギは,シャドウが蠢く謎の“ラビリンス”。時空を超えて,ペルソナ使いたちの新たな戦いが幕を開ける――。
時空を超えた“絆”を結ぶペルソナ使いたちの文化祭
文化祭をコンセプトに,「ペルソナ3」「ペルソナ4」のキャラクターたちが夢の競演を果たすという“お祭り感”の強い本作。こういったクロスオーバー作品としては「ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ」(アーケード / PlayStation 3 / Xbox 360。以下,P4U)が記憶に新しいが,2D対戦格闘ゲームのP4Uに対して,本作はRPGであり,両作の主要キャラクターが同じ高校生として“全員集合”しているので,また趣の違った作品となっている。
2人の主人公が存在する本作では,ゲームスタート時にどちらの視点でプレイするかを選択可能だ。どちらでもストーリーの本筋に変わりはないが,プロローグやイベントの展開などは変わってくる。より思い入れのある方を選ぼう……と,言ってしまうのは簡単だが,筆者のように両作とも病的に好きな場合はどうすればいいのか!?
「ペルソナ3」主人公 シャドウ殲滅のため,迷宮・タルタロスの調査に挑む「特別課外活動部」のリーダー。台風で文化祭が中止になった日の夜,仲間たちとタルタロスに集まっていたところ,奇妙な鐘の音を耳にして異変に巻き込まれてしまう |
「ペルソナ4」主人公 八十稲羽で起きている連続怪奇殺人事件を追う「特別捜査隊」のリーダー。仲間たちと八十神高校文化祭の最終日を楽しんでいる最中に聞き慣れない鐘の音が響き,窓の外に本来あるはずのない“時計塔”の姿を目にする |
まだ本編を始めてもいないというのに,悩むこと30分。どちらかといえばレビューを執筆するなどして縁が深いと言える「ペルソナ4」サイドに決めたわけだが,よくよく考えてみればこの手のアトラス作品が周回プレイを想定していないわけがない。筆者のように悩んでしまいそうな人は2周目のプレイも視野に入れて気楽に選んでしまおう。……ただ,1周するのにどれだけの時間を必要とするのかは分からないが。
ちなみに筆者はじっくりプレイ派なのだが,難度NORMALで最初のダンジョンをクリアするのに7時間かかった。
なにせ,「世界樹の迷宮」シリーズのシステムが取り入れられているのである。一筋縄ではいかない歯応えと,時間を忘れてドップリのめり込んでしまうゲーム性がしっかりと引き継がれたうえで,「ペルソナ」シリーズの魅力溢れるキャラクターや「ペルソナ合体」といった要素まで加わっているわけだ。
正直なところ,筆者は当初「ペルソナQ」に対して久しぶりの新作RPGを嬉しく思うと同時に,一抹の不安も抱いていた。なぜならデフォルメされたグラフィックスや,“夢の競演”という部分を押し出している点から,ファン向けの「キャラゲー」という印象が強かったからだ。ハッキリ言ってキャラゲーでちゃんと面白いゲームというのはごくわずかで,本編は面白いのに,ファン向けに出したキャラゲーが……というシリーズは枚挙に暇がない。
なので,いくら「ペルソナ」といえど,その法則からは逃れられないのでは……と心配していたのだが,実際にプレイしてみて大いにぶったまげた。「キャラゲーにしては良く出来ている」を軽く通り越して“傑作”と呼んでも過言ではないレベルの仕上がりだったのである。
……これは筆者が「ペルソナストーカー倶楽部」(※ニコニコ動画のアトラスチャンネルにて配信中。観てね!!)に出演しているからとか,断じてそういうことでなく,ゲームライターとして,「ペルソナ」シリーズのいちファンとしての嘘偽りなき正直な感想だ。「世界樹の迷宮」と「ペルソナ」が違和感なく融合し,魅力の相乗効果を生んでおり,こんなにも見事な「イイとこ取り」がありえるのかと……。
シナリオ面でも「ペルソナ3」と「ペルソナ4」キャラクターの絡みはファンならば必見。まるで以前から無二の親友であったかのようにウマが合ったり,まったく予想外の組み合わせが意外な関係に発展したりと,本編でのイメージを崩さないよう,上手に“遊んで”いる。
例えとして適切かどうかは微妙だが,本作は「面白いものと面白いものをくっつければ,超面白くなるはず!」という,小学生のような妄想が実現してしまったかのようなタイトルだ。
変質した“ワイルド”の能力と
ハイブリッドなバトルシステム
いきなりファン心理丸出しで興奮気味に褒めちぎってしまったが,ここからはちょっと冷静になって,具体的なゲーム内容について触れていこう。
繰り返しになるが,本作には「世界樹の迷宮」のシステムや魅力が取り入れられている。冒険の拠点となるのは八十神高校によく似た学校(異世界)で,装備やアイテムを取引できる「てづくりこ〜ぼ〜」や,体力を回復したり依頼を受注したりできる「保健室」,そしてお馴染みの「ベルベットルーム」といった施設が存在している。ここで準備を整え,さまざまな迷宮へと挑んでいくわけだ。
迷宮に挑む際,とくに大切なのが「いともった?」(「世界樹の迷宮」シリーズではおなじみの帰還アイテム「アリアドネの糸」を所持しているかの確認。本作での帰還アイテムは「カエレール」なので「カエレールもった?」になるが……)なのは当然として,「パーティ編成」を忘れてはいけない。本作では「世界樹の迷宮」のようなキャラメイクができない代わりに,「ペルソナ3」と「ペルソナ4」から好きなキャラクターを選んで自分だけのドリームチームを組める(※主人公は固定)。
各キャラクターの使用武器や属性は本編の設定を踏襲しているので,基本的には迷宮に出現するシャドウの属性と相性の良いパーティを組むことが攻略の近道なのだが,「相性が悪くても,このキャラだけは絶対に外したくない!」という強いこだわりがある人もいるだろう。このあたりのさじ加減が本作のミソである。
そこで活きてくるのが,「サブペルソナ」のシステムだ。本作では,物語の冒頭に起こった異変の影響で,元々ペルソナを持たない善と玲を除く全員が,自身のペルソナに加えて,好きなペルソナをもう1体付けられるようになっている。
このシステムによって元々の弱点属性をサブペルソナのスキルでカバーしたり,バランスよく攻撃属性を揃えたりできるため,パーティ構成における自由度は非常に高くなっている。ぶっちゃけてしまうと,サブペルソナさえしっかりしていれば,どんなパーティでも迷宮の攻略は可能だ。
また,サブペルソナを身に宿すことで,キャラクターのHPとSPにボーナスが付加される点にも注目。このボーナスで増加した分のHPとSPは戦闘が終了するたびに全快するという嬉しい特徴もある。
本作では,ペルソナを自由に付け替えられる主人公特有の能力「ワイルド」が変質しており,主人公も自身のペルソナを外すことはできなくなっている。条件は仲間たちとまったく一緒だ |
ベルベットルームにおけるペルソナの合体は,本編とまったく同じ感覚で行える。もちろん,ペルソナ全書から喚び出すことも可能だ |
戦闘面は「敵の弱点を突く」のが最も重要なポイントで,油断すると雑魚相手にも全滅しかねないバランスという,安定のアトラスクオリティ(もちろん,前述のように「SAFETY」「EASY」という,標準よりも優しい難度があるので,どうにもならないという事態は起こらないだろうが)。本作では弱点を突いたりクリティカルを出すとキャラクターが「BOOST」状態になり,次のターンにおける行動順が早まるうえ,なんとスキルの使用にかかるコストがゼロになるのが大きなポイントだ。
……ここでカンの良い人ならばもうお気付きだと思うが,このBOOSTと,前述したサブペルソナのHP・SPボーナスをうまく組み合わせると,スキルをバンバン使っても戦闘後には全快……というプレイも可能になるのである。
まさしく,「ペルソナ」と「世界樹の迷宮」のハイブリッドとも言えるバトルシステムに仕上がっており,パズルのように戦闘の流れを組み立てていく感覚が病み付きになる。自分の戦略が「カチリ」とハマった時に脳を駆け巡る快感は,本作ならではのものだ。
おまけに,本作では迷宮の各階層に特別な宝箱が配置されており,マップの踏破率を100%にすると解錠できるという嬉しい特典がある。中身は役立つアイテムばかりなので,確実に手に入れていきたい。
ちなみにこの宝箱,ニンテンドー3DSの「ゲームコイン」を消費して解錠することもできる。消費するゲームコインは,その時の踏破率によって変わるようだ |
なお,迷宮内には宝箱や抜け道の存在以外にも,さまざまなギミックが用意されている。調べることで貴重な素材を得られるが,たまにシャドウが飛び出してくる「パワースポット」や,「世界樹の迷宮」でお馴染み,「君は○○してもいいし,しなくてもいい」系のイベントも満載だ。
危険を冒してレアアイテムが得られることもあれば,まったくの徒労に終わることもある。しかし,本作ではちょっとしたイベントでも仲間たちが賑やかな反応を見せてくれるのが嬉しい |
一作限りでは惜しいと思わせるほどの完成度
文句なしに「ブリリアント!」な出来栄え
ナンバリングではないスピンオフ作品に関しても一切手を抜かないイメージのある「ペルソナ」シリーズだが,今回も見事にやってのけてくれた。「ペルソナQ」は外伝的なキャラゲーと見せかけて,その中身は独立したシリーズとしても十分にやっていけるほどの骨太なポテンシャルを秘めた傑作に仕上がっている。
ジャンルやシステム的に「ペルソナ」と「世界樹の迷宮」は元から親和性の高いタイトルだったのかもしれないが,それをここまで理想的な形に落とし込んできた手腕は「ブリリアント!」と称賛されるに相応しいだろう。
ペルソナファンであるならば見逃し厳禁。プレイしなければ大損だと,自信を持って言い切れる作品だ。
「ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス」公式サイト
- 関連タイトル:
ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス
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(C)Index Corporation 1996,2013 Produced by ATLUS
- ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス 特典サントラCD『PERSONAQ SOUND OF THE LABYRINTH』 付
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