インタビュー
[GDC 2015]西川善司がSCE WWS吉田修平プレジデントに聞く「新型Project Morpheus」
なお,あらかじめお断りしておくと,インタビューにはSony Computer Entertainment Americaでシニアリサーチャーを務めるRichard Marks(リチャード・マークス)氏も同席しているのだが,都合により,氏の写真は掲載しておらず,また,氏の発言も吉田氏のそれとして扱っている。これはあらかじめお断りしておきたい。
Morpheusの新型試作機について
吉田氏に根掘り葉掘り聞いてみる
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず,「遅延時間18ms未満」が,何の遅延を示しているのか,教えていただけますか。
吉田修平氏:
たとえば「首を振る」など,ユーザーが何らかの動作を行ったとして,そこから,その動きに反応した映像が有機ELパネルに表示されるまでの時間です。これが18ms未満だと考えていただければと思います。
4Gamer:
120fpsだとして,それは最大2.1フレーム相当の遅延ということになりますが。
新しいMorpheus SDK(※新型Morpheusに対応したソフトウェア開発キット)には,ヘッドマウントディスプレイの動き予測,そして,描画した映像が本来表示されるべき位置や形状に補正する「Temporal Reprojection」(※Oculus VRのTime Warp的技術)が搭載されています。また,直前までの頭部の動きから次のフレームとなるべき頭部の方向を予測する仕組みも搭載しています。
発表した「18ms未満」というスペックは,「予測なし」で「Temporal Reprojectionあり」時の遅延時間ですね。「予測あり」と「Temporal Reprojectionあり」の両方を組み合わせた場合,理論上の遅延はゼロになります。
4Gamer:
新型Morpheusでは有機ELパネルを採用しました。パネル解像度は以前と同じ1920×1080ドットですが,実際に見た映像は,ずいぶんと精細度が上がったように見えます。これはなぜでしょう。
吉田修平氏:
ご指摘のとおり,パネル解像度は変わっていません。ですが,新型Morpheusでは,光学系を工夫して,視界中央付近により多くの画素が集まるよう最適化を行いました。これにより,ユーザー体験としては,解像度が上がったように見えることになります。
4Gamer:
最適化というのは,具体的には?
吉田修平氏:
簡単に言うと,人間の網膜の構造に合わせた最適化,ですね。人間の網膜でも,視界の中央付近に視覚細胞が集中していますから。
4Gamer:
VR対応ヘッドマウントディスプレイの市場で競合となるOculus VRは,より高い解像度――2560×1440ドット説が有力――をターゲットにしていると言われています。Morpheusで“フルHD超級”のパネルを採用する可能性はありますか。
吉田修平氏:
PlayStation 4(以下,PS4)が持つレンダリング性能を考えると,フルHDが妥当だと考えています。
付け加えると,(スペックとして「1920×RGB×1080」と掲げているとおり)Morpheusで採用している有機ELパネルは,1ピクセルが本当のRGBサブピクセルを持つ,真のフルHD解像度パネルです。高解像度の有機ELパネルには,ペンタイル方式(※Gはすべてのピクセル分存在するが,RBは隣接するピクセルで共有させる方式のこと)を採用するものがありますが,MorpheusではリアルなRGBパネルであることを強調しておきたいと思います。
新型Morpheusにおける重要な変更点としては,発光するLEDが3つ追加されたことが挙げられます。発光部のデザインも変わったようですが,それぞれ,どういう意味がありますか。
吉田修平氏:
側面に2つ追加したのは,横方向に首を傾けたときの追従を安定的に行うためです。もう1つ,正面中央に追加したLEDは,正面を向いていることを安定的に検出するためですね。正面中央のLEDからの光は拡散させず,外周にあるLEDの光よりも鋭くしてあります。
発光部のデザインはご指摘のとおり細長くしましたが,これは,ユーザーが首を大きく傾けたときにも,カメラから常に見えやすくするための工夫です。
4Gamer:
「Morpheusにカメラを搭載して,現実世界の視界を表現に組み入れてはどうか」という意見もあります。こういう意見についてはどう思いますか。
吉田修平氏:
ご覧のとおり,今回のMorpheusでは採用を見送りました。ただ,研究開発チームでは引き続き,「カメラを搭載することで何ができるのか」についての検討は行っています。
カメラを付けた場合,「自分の手の位置を,仮想現実世界に反映できる」といったメリットはすぐ考えられるのですが,それを実現するために,どれくらいの演算パワーを消費するのか。このことを考えると,今回はどうしても採用に踏み切れなかったという経緯はあります。ただ,「装着したときに,自分の周囲をごくごく簡単にでも知りたい」という要望に対しては,今回発表したように,ディスプレイ部をスライドできる構造を採用することで対応させていただきました。
4Gamer:
AR(拡張現実)の可能性はどうでしょうか。PlayStationプラットフォームでSCEは,以前から「EyeToy」をはじめとして,ARに対しても情熱を燃やしてきたわけですが,「ARとコンピュータエンターテインメント」の関係について,現在はどう考えていますか。
それはカメラと絡んだ質問だと認識しましたが,たとえばMorpheusにカメラが付いたとして,部屋の中でMorpheusを装着し,自分の身体や室内を見渡すことができるようになったとして,「それが楽しいか?」というと,正直,微妙な気がします。
ARは,Morpheusでやろうとしていることとは少し違った方向性にあると思いますね。ソニーは携帯電話の周辺機器的な存在としてARメガネ製品の投入を計画していますが,ああいった方向性のほうが正しいのではないでしょうか。
4Gamer:
話をMorpheusに戻しますが,Morpheusは,PS4と接続して120Hz(120fps)表示が可能になりますよね。一方でPS4はHDMI 1.4a準拠です。どうやって120Hz出力を可能にしているのでしょうか。
吉田修平氏:
120Hz出力はPS4のアップデートで対応しますが,この「120Hz出力機能」はMorpheus接続時の専用機能になります。つまり,PS4を120Hz表示対応のディスプレイやテレビと接続しても,120Hz表示は行えないということです。もっとはっきり言うと,PS4がHDMI 1.4b対応になるわけではありません。
4Gamer:
Morpheusのコントロールボックス(プロセッサボックス)はテレビと接続できます。Morpheusに表示されているコンテンツをテレビに出力することもできるようになっているわけですが,PS4からMorpheusに対して120Hz出力された映像は,テレビにどうやって表示されるのでしょうか。
吉田修平氏:
60fpsですね。120fpsの映像は60fpsにダウンコンバートされて表示されます。
昨年,Morpheusが発表されたときに「Morpheusは,PS4の周辺機器ではない」というメッセージがありました。実際,SIGGRAPH 2014では,VRコンテンツをPCで実行し,PS4をMorpheusコントローラとして利用するハイブリッドデモがAMDによって公開されたりもしています(関連記事)。こうした使い方はこれからも許容していくのでしょうか。
吉田修平氏:
業務用途を前提に,特定のプロフェッショナルに対してそうした活用を許容することはあると思います。ただ,一般ユーザーに向けてもそうした機会を提供するかというと,今のところは考えていないですね。
一般ユーザー視点は,「MorpheusはPS4と組み合わせて活用するシステム」と認識いただいて構わないと思います。
4Gamer:
GDC 2015では,2016年前半の発売を目指すという発表がありました。おそらくざっくり1年後という感覚だと思いますが,そろそろ,技術デモだけではなく,Morpheusの発売時に遊べるローンチタイトルが気になるタイミングなのですが,そのあたりはいかがでしょう。
吉田修平氏:
6月のE3 2015で,いろいろ発表できると思います。楽しみにしていてください。
4Gamer:
価格は今回も明らかになりませんでしたか。何かヒントはありませんか。「PS4本体より安くなる」とか。
もちろん,民生向け製品ですから,できる限り安価にしたいとは思っています。PS4本体と比較して安くなるか高くなるかは……いまはお話ししたくない(笑)。
4Gamer:
(笑)。本日はありがとうございました。
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