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ゲーム業界のキーパーソンが語る,これからのゲームコンテンツとは。デジタルメディア協会の「デジタルエンタテインメントの新潮流」聴講レポート
「コンテンツサービスの創造と展開」
襟川氏は,「コンテンツサービスの創造と展開」と題したセッションにて,近年のコーエーテクモゲームスの事例を紹介。
同社では「IPの創造と展開」という経営方針のもと,オリジナルIPを新規に創造し,さらに多方面に展開していくことにより,成長性と収益性を実現してきた。展開する分野は,「プラットフォーム」「ジャンル」「コラボレーション」「タイアップ」「グローバル」の5つだ。
プラットフォーム展開では,1つのIPに基づくゲームを複数のコンシューマ機向けにリリースすることに加え,最近ではスマートフォンゲームやブラウザゲームとして提供することによって,海外展開も含めた大きなビジネスになっているという。
ジャンル展開では,「信長の野望」シリーズが歴史シミュレーションゲームとしてスタートし,オンライン対戦ゲーム「信長の野望 Internet」,MMORPG「信長の野望 Online」,ソーシャルゲーム「100万人の信長の野望」,シミュレーションRPG「ポケモン+ノブナガの野望」,カードゲーム「AKB48の野望」と,さまざまなジャンルに進出していった事例が紹介された。これはジャンルごとのファン獲得に加え,IPのブランドとしての価値向上に貢献しているとのことだ。
またコラボ展開では,アニメ/コミックやゲームの人気シリーズと,コーエーテクモゲームスの「無双」シリーズや「討鬼伝」シリーズのノウハウを組み合わせ,新たな面白さを提供しているという。
タイアップ展開では,IPのアニメ化やグッズ化の事例や,地方自治体や企業のキャンペーンに起用された事例などが紹介された。
グローバル展開に関しては,「ゼルダ無双」が北米で人気を博し,全世界100万本出荷を達成したこと,また「DEAD OR ALIVE 5 Last Round」が欧米を中心に人気となり,累計ダウンロード数が400万を超えていることなどを紹介。
一方アジアでは,スマートフォンゲームとブラウザゲームを中心に展開しており,今後も注力していくという。
襟川氏は,近年におけるコーエーテクモゲームスの成長が,以上の経営方針および経営戦略に基づくものであることをあらためてアピールし,今後もプラットフォームの進化やニーズの変化に適合したスタイルでIPの創造と展開を行っていくとした。
続いて襟川氏は,ゲームの未来について「ビジネスモデル」「開発予算」「新しいトレンド」という3つの観点から言及した。
ビジネスモデルに関しては,まずゲーム市場が過去35年間,一時期を除き成長してきたことを指摘。とくに近年では日本や中国におけるスマートフォンゲーム市場,欧米におけるコンシューマゲーム市場に大きな成長が見られるとし,今後数年,この傾向が続くだろうとの見解を述べた。
そうした中,ゲームのビジネスモデルはスマートフォンが普及するようになった2010年頃から大きな変化を見せている。襟川氏は,従来のコインオペレーションやパッケージ販売と異なり,ユーザーそれぞれが遊び方に応じて自由に対価を支払うようになったと表現した。
またパッケージ販売に関してもダウンロード販売の比率が高まっており,2014年にはコーエーテクモゲームスの売上全体の30%近くにおよんでいるとのこと。こうした傾向は今後も強まると予想され,ゲーム自体もダウンロードコンテンツの追加提供などを前提とした内容となっている。
ゲームの開発予算に関しては年々高騰しているが,欧米と日本とで大きな差が生じている。これは欧米ではフォトリアルな表現を志向しているのに対して,日本ではアニメ寄りの表現を中心としていることに要因があるという。
またスマートフォンゲームでは,コンテンツのリッチ化に伴うゲーム開発予算の高騰,およびサービスの運営費用の高騰への対応が鍵となる。コーエーテクモゲームスでは,独自ゲームエンジンの開発により効率化と低コスト化に努めてきたが,こうした基礎技術開発の重要性は今後さらに増してくるとのことである。
新しいトレンドに関しては,「ゲーム実況」「スマホとゲーム機の融合」「バーチャルリアリティ(VR)」「クラウドゲーミング」「User-Generated Contents(UGC)」が挙げられた。このうち,VRとクラウドゲーミングについては,後述するセッションにてあらためて紹介されている。
最後に,襟川氏のゲームクリエイター「シブサワ・コウ」としての今後の取り組みも披露された。長期的な展望としては,複数のクラウドサーバーを用いてスーパーコンピュータ並みの処理能力を実現するクラウドゲーミングにより,自然な会話によるゲーム進行とビッグデータを利用したAIの進化,自然現象の再現などをストリーミングで実現したいとのこと。そこにコンシューマ機やスマートフォンを組み合わせることで,今までにない雄大な体験を提供できるのではないかと,襟川氏は語った。
また今後2〜3年の取り組みとしては,歴史シミュレーションゲームの継続をはじめ,日本の文化に根ざした社会性を持つシニア向けのゲームの実現,そしてシステムの斬新さで勝負するゲームのリリースが挙げられた。とくに斬新なゲームの例としては,具体的にアクションRPG「仁王」が挙げられ,襟川氏自身が現在もっとも注力しているタイトルであることが語られた。
「バーチャルリアリティシステム『プレイステーション VR』の展望」
これまでゲームは,グラフィックスを筆頭にさまざまな面で進化を見せてきたが,人間がディスプレイの前でプレイするというスタイルだけは変化がなかった。しかしVRはその点において,プレイヤーがゲームの世界にすっぽりと入り込めるという極めて大きな変化をもたらしていると吉田氏は語った。
VR自体は1960年代から研究が進められており,軍事トレーニングなどに利用されてきた技術だ。しかし,技術面やコスト面などに課題があり,これまで一般にはなかなか普及・発展してこなかったのである。
そんなVRがここ1〜2年で大きく話題になった理由は3つあり,その1つはスマートフォンが爆発的に普及したことだ。吉田氏は,スマートフォンに搭載されるディスプレイやセンサーが,そのままVRデバイスに応用可能であると説明した。
2つめの理由は,コンピュータの3Dグラフィックス性能の飛躍的な向上。そして3つめの理由は,その3Dグラフィックスを使うための開発ツールおよび開発者の存在である。とくに最近では,UnityやUnreal Engine4の普及により,多くの開発者が3Dグラフィックスに携わるようになっている。
吉田氏は,これら3つの理由が並行したことにより,SCEを含めた各社がVRに取り組むようになったとした。
それでは最新のVRが過去のものとどう違うのかというと,吉田氏によれば「Sense of Presence」(プレゼンス)にあるとのこと。プレゼンスとは,ゲームの説明でよく使われる言葉で,「五感から得られる情報により,身体が別の世界に存在することを信じてしまう」状態を指す。そしてこれは,VRでのみ体験できるのだという。
しかし,プレゼンスはちょっとした違和感によって簡単に失われてしまう。たとえば右を向けばその方向の景色が目に入るわけだが,映像に遅延があれば違和感が生ずる。吉田氏は,そうした違和感を1つずつ丁寧に取り除くことでプレゼンスが実現するとし,決して簡単なものではないと語った。
各社からリリースされるVRシステムのうち,PS VRの最大のメリットは,コンシューマ機のPS4につなぐだけで,手軽かつ安心して利用できること。また大量生産が可能なため,性能に対して価格を抑えることができることであるという。
またヘッドセットに搭載される有機ELディスプレイは秒間120フレーム表示が可能となっており,人間に表示の遅延を感じさせないようになっている。
一方,開発者にとっては,多様な機種のあるPCやAndroid端末と異なり,PS4という1種類のハードに向けてコンテンツを作ればいいため,それだけクオリティを高めることができる。また開発環境もUnityやUnreal Engine4が使えるため,参入のハードルが低くなるという。
ゲームシステムとしては,ヘッドセットそのものが,プレイヤーの向いている方向を決める入力装置となっているため,操作方法が非常に幅広くなると吉田氏。もちろんPS4のコントローラであるDUALSHOCK 4やPS MOVEを使用可能だ。
会場では,PS VR独自のシステムとして「ソーシャルスクリーン機能」も紹介された。これはヘッドセットを装着したプレイヤーと,そうでないプレイヤーが同時に同じゲームをプレイできる仕組みである。吉田氏は「特定のイメージに縛られるのではなく,新しい発想でVRを開発してもらいたい」とその意図を語り,具体例として,ヘッドセットを付けたプレイヤーが操作するモンスターと,それ以外のプレイヤーがバトルを繰り広げる「MONSTER ESCAPE」を紹介した。
VRの可能性は,ゲーム以外にもさまざまな分野に広がっている。吉田氏は,VRを使った何らかのサービスを意識せずに利用するような日が,そう遠くない将来に訪れるのではないかとし,実際,PS VRについてもゲーム関連以外の多くの企業から注目されていることを明かした。
最後に吉田氏は,VRの普及に向けて,クリアしなければならない2つの課題を挙げた。1つは「良質なコンテンツの提供」で,これまでのゲーム開発とは異なるノウハウの共有,あるいはVR酔いへの対応などに,業界全体で取り組むべきだと語った。
もう1つは「ユーザーコミュニケーション」だ。吉田氏はVRコンテンツの性質上,実際に体験しないと伝わらない魅力があるため,業界を挙げて体験の機会を創出したり,健全なイメージを作り上げたりしていかなければならないとした。
「次世代クラウドゲームの可能性」
クラウドゲームは,これまでゲーム機やスマートフォンなどの端末で行ってきた処理をクラウドサーバーで行い,その結果を各端末にストリーミング配信で行うという仕組みである。したがって,端末の種類を選ばずいつでもどこでもプレイできることがセールスポイントなのだが,和田氏は「これまではストリーミング配信しか話題にならなかった」とし,「それ自体はビジネスとして間違っていないが,ゲーマーにとっては今プレイできるようなゲームを配信されてもピンと来ない」と指摘した。
和田氏は,これまでのゲームの歴史を振り返り,専用端末を必要とした黎明期のアーケードゲームにはじまり,1台で複数のゲームを遊べるファミコン,DVDプレイヤーとハイブリッドになったPS2と,時代の流れに応じてゲームをプレイするためのコストが相対的に低くなっていることに言及。その流れを「ザックリ言うと,専用機から汎用機にシフトし,コストが下がったこと,さらにはオンラインによるマルチプレイが一般化したことによってユーザー層が広がった」とした。
その一方で,現在のゲーム市場は,ゲームタイトル同士のみならず,ほかのエンターテイメントも含めて時間の奪い合いとなっている。さらにユーザーは,ゲームそのものに飽きているような傾向も見られ,和田氏は「そうした状況をどう突破していくのか,久しぶりに業界全体で模索している状態」と表現した。
さらに和田氏は,ゲーム市場が「テクノロジー」「コンテンツサービスデザイン」「ビジネスモデル」という3本の柱で形成されているとし,これまでの10年はFree-to-Playとアイテム課金というビジネスモデル,そしてコンテンツサービスデザインとネットワークが牽引してきたとする。
しかし,ここからの10年はテクノロジーであるゲームメカニクスと,ゲームに関するサービスデザインが中心になるとのこと。とくにシンラ・テクノロジーでは,テクノロジーによって端末からの解放を目指しているという。つまり,クラウドサーバーに従来のゲーム機以上の機能を持たせることにより,開発者には今まで以上に自由な設計を,ユーザーには価格・コスト面のメリットを提供するというわけだ。これが和田氏の提唱する「次世代クラウドゲーム」である。
次世代クラウドゲームでは,処理がクラウドサーバー側で行われるため,端末ごとの動作検証や,あるいはチート対策などが不要となる。また個人では購入できないような性能のスーパーコンピュータを利用したり,ネットワーク技術の制約を受けなくなったりするため,これまでにないゲームデザインが可能となるという。さらに和田氏は,ユーザーとしても端末の制限がなくなるため,今までとは異なるゲームの関わり方が登場するのではないかと語った。
それでは次世代クラウドゲームとは,具体的にどのようなものなのだろうか。まだこの世に実例がないことから,和田氏はこれまでの歴史の中でゲームが発展してきた象徴的な事例を紹介することで,その手がかりを提示した。
1つはセーブデータの登場である。セーブデータが生まれたことで,ゲームにストーリーを持たせられるようになったからだ。
もう1つはCD-ROMの登場によるデータの大容量化である。これにより精細なグラフィックスやサウンドによる演出が可能となったことから,ゲームは映画に急接近し,やがて北米においては市場規模で追い越してしまうようなメジャーエンターテイメントとなっていったのだ。
そこからオンラインコンテンツやスマートフォンゲームの台頭があり,現在につながっているわけである。
その先にある次世代クラウドゲームでは,データがサーバ上に置かれ,しかもそれが刻々と変化していくことにより,ゲーム内の世界が自然に近い状態となる。従来のゲームでは,開発者が仕込んだものをプレイヤーが追体験するものだったが,和田氏によると次世代クラウドゲームはまったく異なる自然さを体験できるという。まさに,「もう一つの世界に入り込む感覚」になるとのことだ。
最後に,和田氏は,ゲーム産業の今後の発展を「地殻変動」と表現し,その本質的な部分にはこのシンポジウムの各セッションで論じられたテーマがあるとする。そして,それらが融合し総合的に変化することによって,ゲーム産業の規模もより大きくなると展望を述べセッションを締めくくった。
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