インタビュー
PS4には“いい循環”が生まれている。PlayStation Experience 2015で行われたSCEワールドワイド・スタジオ プレジデント吉田修平氏へのインタビューを掲載
気になるPlayStation VR(以下,PSVR)の動向や,PSXの基調講演で多くの日本製タイトルが紹介されていた背景などを語ってもらったので,じっくり読み進めてほしい。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。PSXには多くのPSVRタイトルがプレイアブル出展されていますね。
吉田修平氏(以下,吉田氏):
東京ゲームショウやE3より多い49の試遊台を用意しています。PSXでは大きなスペースを取れますし,VRコンテンツは実際に体験していただくのが一番ですので。
これまでは限られたスペースのために取捨選択をしなければならず,デベロッパさんにも来場者さんにも申し訳ないと思っていたので,今回は頑張って増やしました。それでも来場者さんが長時間待たずに体験できる数ではないですね。すべてのPSVRタイトルを体験するには,何時間もかかるんじゃないでしょうか。
4Gamer:
PSVR対応タイトル自体の数も増えていますしね。
吉田氏:
出展タイトルは提出されたものの中から我々がさまざまな要素を考慮して決めているんです。提出されたコンテンツ自体はもっと多いんですよ。
4Gamer:
座ってプレイするタイプのタイトルがほとんどですが,安全性を考慮した規則が用意されているのでしょうか。
吉田氏:
規則のようなものはありません。座った状態だと自然にプレイヤーの行動範囲が限られて,ゲームデザインがしやすくなるからでしょう。
4Gamer:
なるほど。
吉田氏:
「The London Heist」は立ってプレイするタイトルですが,銃撃戦シーンなどでは,机で周りを囲まれる形になりますよね。ああいう状況になると,プレイヤーはそこから出ていこうと思わないわけですが,あれには,安全性を高める効果もあります。
4Gamer:
家庭での使用時に思わぬ事故が起こる可能性は否定できないと思いますが,何か対策はとられているのでしょうか。
吉田氏:
「PlayStation Camera」でのトラッキングを利用するPSVRには,一定のプレイエリアが存在するので,その中で遊ぶようなゲームデザインにするよう,デベロッパさんに伝えています。プレイヤーさんに対しても同じような情報をお伝えして,最初に部屋のプレイエリアを確保することをアナウンスします。
4Gamer:
分かりました。では続いてPSXの基調講演についてお聞きします。今回は「FINAL FANTASY VII REMAKE」「ACE COMBAT 7」「Rez Infinite」など,日本製のタイトルが多く紹介された印象を受けました。
吉田氏:
欧米の方々が日本のゲームに注目してくれるおかげですね。日本のタイトルの発表がアメリカで行われるというのは,日本人としてはちょっと疑問に思われるかもしれないですけれども,海外の人は日本人以上に日本のゲームを評価してくれていると感じます。今回の「二ノ国II レヴァナントキングダム」や,E3 2015での「シェンムーIII」も反響がすごかったですね。
4Gamer:
確かにあの熱は日本人以上かもしれません。
吉田氏:
その評価が日本のパブリッシャさんの背中を押せるのは,PS4が世界中で売れているからだとも思っています。そこにビジネスチャンスを見出していただいて,少々ニッチなタイトルであっても,日本だけでなく海外まで届くという,いい循環になっています。
4Gamer:
日本のパブリッシャやデベロッパは世界を意識してゲームを作るべきなのでしょうか。
吉田氏:
日本のゲーム市場も全体で言えば成長していますので,場合によりけりで考えればいいのではないでしょうか。PS4などのコンシューマゲーム機向けの内容だったり,欧米にも多くのファンがいるシリーズやクリエイターの新作であったりすれば,当然ながら海外を意識したほうがいいと思います。
4Gamer:
海外で期待されながらも販売が見送られた「DEAD OR ALIVE Xtreme 3 Fortune/Venus」のようなケースもありますが……。
吉田氏:
あれは逆の形で海外を意識して,日本市場だけを狙ったほうがいいと判断されたということでしょう。そこはやっぱり,文化的な違いですね。欧米では,ゲームなどの媒体で女性をどのように表現すべきかという意識が日本とは違いますから。
私個人としては,日本文化の中で一般的な人に受け入れられる表現ならば,日本は日本で構わないと思いますが,難しい問題ですよね。
私は「ドラゴンズクラウン」(PS3 / PS Vita)がすごく好きなのですが,あのタイトルはそういった批判があったことで,極端に低いレビューの点数を付けられていましたし。
4Gamer:
確かに難しい問題ですね。では少し話題を変えて,PS4の実売台数が発売後2年間で3020万台を超えましたが,感想はいかがでしょうか。
吉田氏:
びっくりしました。発売時の勢いにも驚きましたが,それが今日まで続いています。初年度は500万台くらいと言っていましたが,700万台くらいまで行くなど,予想を上回るペースで売れ続けています。これは本当に嬉しいですね。
さっきの日本のコンテンツの話もそうですし,PSVRを出すにあたっても,本体の実売台数だけ買っていただくチャンスがあるということなので,すべての面でプラスになっています。
4Gamer:
成功した最大の理由は何でしょうか。
吉田氏:
予想を超える状況の原因というのは,よく分からないんです。我々としては一生懸命に考えて,PS3までとは違う思想でPS4を作りました。根幹にあるのは「ゲームを作りやすく」ということと,「ユーザーさんが扱いやすく」ということで,ダウンロードをバックグラウンドでできるようにしたり,ゲームが起動するまでを早くしたり,そういった工夫をしています。
4Gamer:
ゲームの作りやすさはよく言われるところですね。
吉田氏:
インディーズゲームの開発チームはごく少人数のプログラマーで構成されることが多く,作りにくいハードだとゲームを作ってもらえません。PCやモバイルで止まってしまいます。
PS4はPCアーキテクチャですから,UnityやUnreal Engineなどのマルチプラットフォーム対応エンジンならばすぐに開発できます。PSVRもそういったゲームエンジンで作られるケースが多いので,PS4のアーキテクチャ選択は正解だったと思います。
4Gamer:
4Gamerでは以前に伊藤雅康氏(SCE 執行副社長 兼 PSプロダクト事業部 事業部長 兼 ソフトウェア設計部門 部門長)から「高性能版PS4」の可能性をうかがいましたが,実際そういった商品が出る可能性はあるのでしょうか。
吉田氏:
あくまでハードウェアエンジニアとしての伊藤による「過去のハードより比較的容易にできる」というアーキテクチャ論ですね。私としては,商品に関する話ではないと解釈しています。
4Gamer:
分かりました。そろそろ時間も残り少ないようなのですが,吉田さんが注目しているインディーズタイトルはありますか。
吉田氏:
「Super Time Force Ultra」(PS4 / PS Vita)ですね。
4Gamer:
吉田さん自身が出ているタイトルじゃないですか(笑)。
吉田氏:
ええ。やっと日本で出ます(笑)。
4Gamer:
吉田さんは一種のアイドルと化していますよね。会場でTシャツも販売されていると知って,驚きました。
吉田氏:
それはkindafunny.comというYouTubeチームに「PSXでしか売らないから作っていいか?」と聞かれたものですね。「お好きなだけどうぞ!」と答えました(笑)。
4Gamer:
吉田さんのような人がスタジオのトップにいるというのも,ゲームの作りやすさにつながっているかもしれませんね(笑)。今後の展開にも期待しています。本日はありがとうございました。
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