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[GDC 2014]次世代家庭用ゲーム機はストリーミングCG+ローカルレンダリングCGのハイブリッドに? Amazonが実動デモを公開
PlayStation 4(以下,PS4)やXbox Oneの先にあるとも言われる「半分ローカル,半分クラウド」のハイブリッドゲームアーキテクチャが実際に動作するデモも披露された,その内容をレポートしてみたい。
Amazon AppStreamとは何か
冒頭の繰り返しとなるが,AppStreamはAWSが提供するサービスの1つとなるストリーミングサービスである。一般的なビデオオンデマンドのようなストリーミングサービスと違うのは,リアルタイムアプリケーションにも対応できる仕組みを持っている点だ。「なので,クラウドゲームサービスを実現するのに適している」とDavis氏は述べている。
AppStreamは,次に挙げる2つのサービスからなる。
- クラウド側で実行しているプログラムに従って映像とサウンドをリアルタイムH.264エンコードしてUDP転送するサービス
- ユーザー側のレスポンスなどといったデータをTCP転送でクラウド側に戻すサービス
クラウド側で動いているものがゲームプログラムで,ユーザー側が返すデータがゲームの操作だとすれば,AppStreamでクラウドゲームを実現できそうだということは想像できるのではなかろうか。
Amazonでは,この仕組みを「STreaming eXperience」(以下,STX)と名付けている。
AppStreamでは,クライアント用とクラウド側のホスト用のそれぞれにSDK(ソフトウェア開発キット)が提供される。対応プラットフォームはWindows 8とAndroid,iOSだ。
DirectXベースのゲームをクラウド側で動かすためのSDK |
クライアント側のアプリのSDK |
AppStreamを活用したゲームの実動デモが公開に
Amazonでは,このAppStreamを応用したクラウドゲームのプロトタイプ開発プロジェクトを発足したとのことで,セッションでは,その開発秘話が披露された。
ちなみにゲーム自体はシンプルなもので,古代のカタパルト式投石機をメインに,魔法などの支援攻撃も交えながら居城を守るというものだった。実際のデモを撮影したものが下のムービーだ。
このゲームデモにおいて,クライアント側はそれほど性能が高くないタブレットやスマートフォンが想定されているが,その割にグラフィックスがリッチだと思った人もいるのではなかろうか。そう,このデモでポイントとなるのは,ハイエンドPCゲームレベルのグラフィックスを,自然な形でタブレットやスマートフォンのユーザーに提供できている点である。
実際,このゲームデモでは,ハイダイナミックレンジレンダリング(High Dynamic Range Rendering)に加え,ブルーム(Bloom)などといったフォトリアル系ポストプロセス,各種エフェクトを大量に描画し,さらに2500体に達する敵兵のAI制御を行っている。もちろん,これはとてもではないがモバイルデバイス側では処理できないタスクだといえる。
「負荷の高い処理をクラウド側で行い,そうでない,あるいはリアルタイム性の要求される処理はクライアント側で行う」という,クラウドゲーミングと通常のゲームアプリのハイブリッドな設計のデモになっているのだ。
今回のデモで使われたクラウド側のスペックは,1ノード(node,ここではサーバー1台,くらいの意)あたりで,CPUが8コア16スレッド対応,メインメモリ容量が16GB,ストレージは容量60GBのSSDで,グラフィックスカードはNVIDIA GRIDに対応する「K520」となっている。K520はCUDA Core数1536基の「GK104」コアを2基採用し,GPUあたり容量4GBのグラフィックスメモリが組み合わされた製品だ。
Davis氏によれば,このスペックがあれば,今回のゲームを1ノードで10台のモバイルデバイスに向けてサービスできるという。
リアルタイムゲームと言えば,遅延時間が重要視されるが,Amazonのデータセンターは世界各地に設立されていることもあって,条件が整えば10ms未満の遅延時間でストリーミングできるとのことだ。「1フレーム単位を競うハイレベルな格闘ゲームプレイヤーやFPSプレイヤーからすると不満かもしれないが,一般的なゲームファンなら満足できるレベルだ」とDavis氏は言う。
ハイブリッドゲームアーキテクチャの有効性は?
クラウドゲームサービスに懐疑的な立場の人も,このハイブリッドゲームーキテクチャには将来性を感じるのではないか。
現在でも,PCゲームなら,スペックの低いPCで動作させるときに遠景のグラフィックス品質を落としたりするといった調整は可能だが,今回Amazonが示したハイブリッドゲームアーキテクチャはそうではなく,ローカル側で処理するには性能が足りない部分をクラウド側にオフロードするという考え方になっている。
今回の試作ゲームで示されたように,最も単純で効果が高いのは,直近のゲーム処理には影響しないはずの背景描画や遠景描画などをクラウド側にオフロードするというものだが,大局的な物理シミュレーションや,更新頻度の低いAIなども,クラウド側へのオフロードするのに適しているテーマだといえるだろう。
かつてマルチコアCPUが登場したとき,プログラミングパラダイムに革新が起きたが,今後,クラウドが身近になれば,「ゲームエンジンの設計においてクラウドをどう活用するか」が重要になってくるかもしれない。さらに予測を進めるならば,数年後,ユーザーの目が肥えて,PS4やXbox Oneの性能に飽き足らなくなったとき,より高度な処理はクラウド側で行い,リアルタイム性の高い処理や,あるいは近景のみのレンダリングをローカルなゲーム機側で行う実装を採用すれば,プラットフォームの延命を図れるかもしれない。
また,別の側面からもハイブリッドゲームアーキテクチャは優れているという意見がある。それは,ゲーム本体や修正パッチのダウンロードが最小限で済んだり,ゲーム改造によるクラックやチートもかなりの割合で未然に防げたりするといった,ゲームの取り扱い面においてだ。マルチプレイが主体となるオンラインゲームでは,管理しやすいことが大きなコストメリットになるのである。
これまでゲームスタジオは,「自社作品をどのプラットフォームに出すか」を,対象ゲーム機の性能や普及率から判断しなければならなかったが,クラウドゲームやハイブリッドゲームアーキテクチャでは,当該ゲームが動くスペックのサーバーに投資すればいい。ハイエンドGPUが必要ならクラウド側でそれを用意すればいいのだ。プラットフォームごとに必要な調整は,クライアント側で動作する部分だけになり,最も手間のかかる「ゲーム本体を各プラットフォームへ移植する作業」から解放される。
たとえばスクウェア・エニックスは,この分野に向けて先行開発に取り組んでいる。実際,2013年11月に発表された「Project FLARE」はまさに,クラウド対応型ゲームエンジンとして位置付けられていたりする。
クラウドを取り巻く,今後のゲーム技術動向は,かなりホットなトピックなのだ。
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