レビュー
「パトリシアン」「ポートロイヤル」の遺伝子を受け継ぐ海運シミュレーション
ライズ オブ ヴェニス
本作は2013年9月にKalypso Media Digitalからリリースされた「Rise of Venice」の日本語版で,「パトリシアン」や「ポートロイヤル」といった交易シミュレーションゲームシリーズの開発元であるGaming Mind Studiosの最新作にあたる。
そんな本作を,発売前に時間をかけてじっくり遊び込むことができたので,ゲームの概要やプレイフィールをお伝えしたい。
なお,Gaming Mind Studiosの近作で,本作とも共通する要素が多い「パトリシアンIV」のレビューも合わせて読むと,より理解しやすくなると思うので,興味がある人はこちらも参照してほしい。
シンプルながらもやり応えのある交易システム
本作でプレイヤーが操ることになるのは,ヴェネツィアの若き商人。「これをやったらゲームクリアですよ」という明確なゴールこそないが,黒海からイタリア半島にかけての海域での貿易を通じて資産を貯め,本国ヴェネツィアでの立身出世を目指すのがゲームの大まかな目的になる。
前述のとおり,ライズ オブ ヴェニスは交易シムだ。従って,プレイ中に最も重要なのは,当然ながら損をしないことである。プレイヤーは所有する船や施設などの維持費を日々支払っていかなければならないので,これらの支出をカバーするだけの利益を上げないといけない。
そのコツは,これまた普遍的だが「安く買って高く売る」ことだ。マップ上の各都市にはそれぞれいくつかの特産品が設定されているので,「ある都市の特産品を,その品が産出されない都市で売る」ということを繰り返せば資産を増やすことができる。もっとも主人公の身分が低いうちは,市場で売買できる交易品も利潤の出にくい日常品に限られているので,序盤では資金を貯めるのに時間がかかるだろう。
陶器はザーラの特産品の一つ。ギアのマークはその商品が都市で生産されていることを示している |
ザーラで1樽79の陶器はヴェネツィアだと1樽132で売れる。大量に売ると値崩れを起こすので注意 |
ここで気をつけないといけないのは,開始時点ではすべての都市が発見されているわけではなく,発見した都市で交易をするためには市庁舎で金銭を支払い,許可を得る必要があるということ。
この金額はヴェネツィアのライバルであるジェノヴァの影響力が強いシチリアやイタリア半島の都市では非常に高くなっている。したがって,ゲーム序盤はすでに交易許可を得ているヴェネツィア,ザーラ,ラグーザなどのアドリア海沿岸都市を行き来して資金を集め,社会的地位を高めた後にギリシャや中東の都市へと進出することをオススメしたい。
余談だが,ゲーム中にみられるヴェネツィア内部の身分と経済活動との相関関係には史実が反映されている。アレキサンドリアやコンスタンティノープル(イスタンブール)における香辛料や絹織物など,アジアからもたらされる高価な交易品の取引は大商人たちによって独占されており,中小規模の商人がそこに割り込む余地はほどんどないのだ。
アテネの交易許可費用は良心的 |
ジェノヴァの勢力圏では一気に値段が跳ね上がる |
エーゲ海の諸都市は序盤で最も頻繁に訪れることになる。交易許可はなるべく早く入手しておこう |
また,交易シミュレーションゲームの鉄則ともいうべき「三角貿易システム」は,資金や船団の積載能力が低いゲーム序盤に限って言えばそれほど必要とはされない。
「三角貿易システムって何?」という読者のために説明しておくと,これは「都市Aで商品Xを買い,それを都市Bで売る→代わりに都市Bでは商品Yを買い,それを都市Cで売る→さらに都市Cでは商品Zを買い,スタート地点の都市Aで売る」という交易ルートを構築することだ。これによって,交易品の物価や市場在庫を調整しながら持続的かつ効率のいい交易ができるのだが,ありがたいことに本作ではこのあたりが比較的緩く作られている。さすがに「俺はヴェネツィアとザーラをひたすら往復し続けるぞ」というポリシーを貫こうとすると支障が出てくるが,各都市で扱っている交易品は生産量も多く,また都市間で重複していない特産品もかなりあるので,風や波のまにまに漂いながら交易をしてもなんとかなってしまうのだ。
船団に自動交易を指示する場合は,まず都市を選択し,続いて市で行う商品の積み下ろしなどの行動を決める |
青く表示されている都市は,そこにプレイヤーの所有する倉庫があることを示している |
交易ルートを緻密に計算しなければならなくなるのは,ゲーム中盤以降だ。このあたりになると,交易可能な都市が増える一方で,それらの都市すべてに倉庫や生産施設を配置するのは難しくなってくる。また,複数の船団を運営するようになると,それぞれの交易ルートの役割を分担する必要も生じてくるだろう。さらに,コンスタンティノープルやアレキサンドリアなどの東方都市,あるいは西方のローマやジェノヴァとの交易では,移動に必要な日数分の出費をカバーするだけの利益を出せるかどうかにも注意しなければならない。
この段階になって始めて,「どの都市を重点的に開発し, それらの都市を結ぶ交易ネットワークをどうやって構築するか」がプレイヤーにとって大きな課題となるのだ。
海の旅には危険がつきもの。海戦に関するワンポイントアドバイス
海を巡るシミュレーションゲームとなれば,海戦は欠かせない要素。カトウコトノ氏の漫画「将国のアルタイル」で描かれた,ヴェネツィアとジェノヴァをモチーフにした架空国家同士の海戦は実に熱かった……という個人的な感想はさておき,ライズ オブ ヴェニスにも当然のことながら船団による戦闘がある。
とくにキャンペーンで発生するいくつかの戦闘は手動での操作が必須になっているので,海戦の基本的な操作方法について説明しておきたい。
とはいっても,「Total War: Rome II」の海戦で連戦連敗を誇る猛者(?)の筆者でもなんとかなるのが本作の戦闘なので,身構えなくても大丈夫だ。
まずは戦闘前の準備だ。各船団は,前もってどの船が戦うかを決めておく必要がある。戦闘を行う「護衛艦」は3隻までしか設定できないので,戦闘力が最も高くなるようにしてやろう。たいていは自動で設定してやれば大丈夫のはずだ。また,白兵戦に備えて船員や武器を補充しておくことも忘れないようにしよう。
戦闘では,護衛艦のうちの1隻をプレイヤーが,それ以外の船をAIがコントロールすることになる。右クリックしながらマウスを動かすことで船の進路を変更できるが,攻撃は基本的に両舷に備え付けられた大砲を使って行うことになるので,敵船に対して有利になるポジションを維持するように気をつけよう。
攻撃が可能な敵船には点滅する丸印が表示されるので,左クリックで攻撃合図を出す。この,「マウスの右ボタンを押さえながら左ボタンを押す」操作は少々トリッキーだが,慣れるのにそれほど時間はかからないはずだ。
戦闘中,プレイヤーは砲弾の種類を変えたり,接舷しての近接戦闘を選んだりといったこともできる。キャンペーン中のいくつかの戦闘は,敵船団の殲滅ではなく,接舷しての拿捕がクリア条件になっているので,忘れずに覚えておこう。
そして,キャンペーンイベント以外の戦闘でどうしても負けそうな場合は,潔く降伏することも選択肢として残しておくのがいい。このゲームの海賊は某タイトルと違い,降伏した相手の積荷を根こそぎかっさらっていくような,あこぎなまねはしないようだ。運が良ければ80〜100樽程度の積荷を失うだけで済むだろう。
本作では,さまざまな船種を選んで思いのままに船団を編成できる。史実のヴェネツィアのように商船団を戦闘用のガレー船が護衛するコンボイ型式にしてみたり,武装商船隊方式にしてみたりなど,海戦への臨み方はプレイヤー次第でいくつもの可能性が考えられるのではないだろうか。
パトリシアンシリーズを継承し,より洗練された「モノポリー型ゲーム」へ
「ライズ オブ ヴェニス」のシステムは,根本の部分ではパトリシアンやポートロイヤルと同じだ。だが,本作は従来の作品,とくにパトリシアンシリーズと比べて,歴史を扱ったシミュレーションゲームとしての完成度が高まっているように感じられる。
その理由の一つに,ゲームのマップが地中海を中心としたものであることが挙げられるだろう。本作ならではの歴史的要素としては,「東方からもたらされた香辛料や絹織物の取引」や「イタリア都市で勃興するルネッサンス文化」など,世界史の教科書にも出てくるものが数多く存在する。日本人を含めた多くのプレイヤーにとっては,「中世末期のハンザ都市同盟と北ヨーロッパ」という,なかなかマニアックなテーマのパトリシアンシリーズと比べて,より感情移入しやすい舞台といえるだろうし,ゲームを制作する側にとっても歴史上のさまざまなネタを仕込みやすかったのではないだろうか。
一方西洋史ファンにとっては,時代設定がビザンツ帝国の首都コンスタンティノープルが陥落する1453年前後に設定されている(実際にゲームが始まるのは1454年末)のがたまらないところだろう。本作のタイトル「ライズ オブ ヴェニス」は「ヴェネツィアの台頭」を意味しているが,プレイヤーが成すべきなのはむしろ「全盛期のヴェネツィアの中で主人公をいかに国家の頂点へと導くか」であったり「ジェノヴァやオスマン帝国,あるいは北アフリカの海賊などのライバルの狭間でいかにヴェネツィアの勢力を維持していくか」であったりする。こうしたテーマは「1453」という象徴的な年によって強調されることとなる。
積年のライバル,ジェノヴァもまだまだ健在だ。さまざまな手段でヴェネツィアに妨害をしかけてくる |
ときには教皇が都市を破門することも。商業活動への影響も当然出てくるだろう |
2つ目の理由は,本作ではヴェネツィアの政治体制が(完璧にではないにしても)再現されていることだ。「主人公が一介の商人から国家元首へとのし上がっていく」という筋書きそのものはパトリシアンシリーズと共通するが,本作では元首(ドージェ)や十人委員会など,ヴェネツィア独自の国家システムが再現されているので,どの都市を選ぼうがそれほど違いのなかった従来のシリーズよりもリアリティが増している。
理由の3つ目として,グラフィックス面の向上も付け加えておきたい。ほかのタイトルでは都市の俯瞰図が実際のそれとはまったく異なっていて非常にがっかりした記憶があるが,本作では各都市のディテールにも力が入れられている。ヴェネツィアにはちゃんと聖マルコ広場があり,ピサの塔はしっかりと傾き,ナポリ近郊のヴェスヴィオ火山は時折思い出したように噴火する。ゲームの進行そのものには影響しないが,こうした雰囲気づくりは,さまざまな都市を舞台とする交易シミュレーションゲームの大事な要素として評価したい。
筆者のような西洋史ファンはこれらの歴史的フレーバーだけでも十分楽しめるくらいだが,そうでない人にとって本作が面白いゲームであるかどうかは,やはりその人が蓄財活動を飽きずにできるかどうかに左右されるように思う。「マップを周回して資金を増やし,それを各拠点に投資して更なる利益の足掛かりにする」というルールは,プレイヤーがとれる選択肢の多寡こそ違えど,Gaming Mind Studioが開発したほかの交易シムはもちろん,モノポリーのような経済ゲームであっても根っこは同じである。
ただ,本作には,単調になりがちな交易作業に刺激を与えるためのさまざまな工夫がなされている。商人から貿易商を経て元首へと段階的に進む昇進システムや,さまざまなお使い的ミッションはゲーム中の手頃な中間目標となりうるものだし,海賊討伐や宝探しのイベントは,交易路を外れて航海することをプレイヤーにうながすのに一役買っている。交易路を厳密に検討して最適化を図ることがそれほど得意ではない人であっても,これらのギミックによって本作を楽しめるはずだ。
それ以外の面でも,前述したように,ルネサンスやシルクロードといった分かりやすいキーワードを押し出しながら,歴史ファンに響く「1453年」をしっかり設定していたり,序盤はかなりゆるめながらも,中盤以降ではしっかりとした交易の計画が必須となるゲームバランスになっていたりと,本作は硬軟がうまく織り交ぜられている印象だ。幅広い層が楽しめる,完成度の高い海運シミュレーションと言えるだろう。
昇進のハードルは徐々に上がっていく。十人委員会の懐柔を忘れないように |
ヨーロッパの地理を知っていれば,宝探しはそれほど難しくはないだろう |
最後に注意点を一つ。現在Steamで配信されている英語版のDLC「Beyond the Sea」を本作で利用することはできない。もっともMAGES.によると,こちらについても日本語版をリリース予定とのことなので,そう遅くないうちにプレイできるのではないだろうか。続報に期待しよう。
「ライズ オブ ヴェニス」公式サイト
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