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リアルな仮想世界はかえって違和感が増す? NDC 2016のセッション「仮想世界と現実逃避:仮想現実の未来を探る」をレポート
登壇したのは,ustwo gamesのスタジオリーダーを務めるDaniel Gray氏。Gray氏はスマートフォン向けのパズルゲーム,「Monument Valley」の開発のほか,Lionhead Studiosの「Fable」シリーズに携わったり,Hello Gamesの制作部長として「Joe Danger」シリーズをPCやコンシューマ,モバイル向けに展開したりといった経歴を持つ人物だ。
リアルに再現されたVR世界はホンモノらしく見えない?
操作を意識せず(つまり,コントローラの存在を忘れて)ゲームにのめり込んだという経験はゲーム好きなら誰でも持っているはずで,Gray氏の話は理解しやすい。
そんなGray氏が制作した「Monument Valley」は,騙し絵のような不思議な世界から脱出するパズルゲームだが,本作について同氏は,ゲームの中に思わずほほえみを浮かべられるような憩いの場を用意し,通勤のときなどにポケットからスマートフォンを取り出し,そこに現実逃避できるゲームを作りたかったと述べた。
さて,ゲームに没頭するという視点から見て,VR(仮想現実)ゲームはどうだろうか。プレイヤーが見える世界も聞こえる音も,さらに自分の体の動きさえもVR世界のものになり,一方で外からの情報は遮断されるため,その世界にさらに没頭できるだろうとGray氏は述べ,ustwo gamesが制作したGear VR専用の「Land's End」を紹介した。
「Land's End」公式サイト
本作の中でプレイヤーは,3000種類の地形が用意された幻想的な世界を冒険するという。なぜリアルな世界ではなく,ファンタジー世界を舞台にしたのか。その理由としてGray氏は,もしタクシーが走りビルが建つようなリアルな世界を作った場合,実在の世界を知り尽くしたプレイヤーにとって,細かな部分の違いがあるだけで,そこが偽物であると認識してしまうからだという。
そうではなく,「少し現実離れした世界」を作ることで,プレイヤーは想像力でその世界を補い,信頼性のある世界になるという。
このリアルに近づけることで増える違和感を,嘘やデフォルメを混ぜることで受け入れられるものにするというのは,いわゆる「不気味の谷」とその対処法に似ている。
VRと「前向きな現実逃避」
続いてGray氏は,そんなゲームの中への「現実逃避」がなぜ重要なのかについて述べた。現実逃避という言葉は,どちらかと言えば否定的なニュアンスを持つが,氏は「前向きな側面もある」とする。
Gray氏は16歳前後まで体が弱く,ずっと病院にいたという。長い入院生活で気持ちも落ち込み,短い時間でいいから外に出たいといつも考えていた。しかし,入院で脚が弱くなっており,医師の許可も出なかった。そこで,父親に協力してもらい,1時間だけこっそり病院を抜け出したという。
時間は短かかったが,病院の外にいるだけで,かなりリフレッシュできたという。17歳の誕生日を迎えたときも,入院していたので当然パーティなどはできなかった。そのときも,父親と車でこっそり病院の外に出たという。
Gray氏は,このように,実際に外に出ることはできなくてもVRで「現実逃避」し,どこか違う場所にいるような感覚を提供できれば,患者の気持ちが慰められるだろうと,実体験を交えて話した。治療と一環として,VRを使用するような病院も出てきているという。
ちなみに氏は未来の姿として,「ソードアート・オンライン」を例に出し,実現にはさまざまな問題はあるだろうが,仮想現実によって,現実とは異なる世界で別の豊かな人生を送ったり,不治の病に悩む人々が厳しい現実から逃れたりできる世界が来るかもしれないと述べて,セッションを終えた。
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Monument Valley
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