インタビュー
「疾走、ヤンキー魂。」がスマートフォンで復活。スクウェア・エニックスの安藤武博氏と伊勢友光氏に意気込みを聞く
ヤンキーが活躍するゲームの先駆けとして,2003年にサービスが開始された“第一期”,運営会社が変わった2007年からの“第二期”は,一部の熱狂的なファンからの熱い支持を集めるも,システム障害や開発会社の解散などのトラブルが続き,満足なアップデートも行われぬまま,2010年4月にサービスが完全終了。その顛末については,当時の4Gamerのインタビューでもお伝えしている。
そして昨年5月,ヤン魂。10周年記念祭斗(サイト)がオープンし,その1年後となる今年5月には,PCからスマートフォンへプラットフォームを移した本作の存在が明らかにされていたわけだが,そんな作品が,いよいよプレイできるようになったのだ。
今回の制作プロデューサーは,ヤン魂。第二期の運営会社ゲームポット(現GMOゲームポット)からスクウェア・エニックスへと移籍した伊勢友光氏。安藤武博氏はゲーム開発から一歩引いた立場の“エグゼクティブ・ヤンキー魂。”として,ゲームに携わることとなった。
今回は4Gamerでもお馴染みのこのお二人に,スマホ版ヤン魂。始動に向けた意気込みについて聞いてきた。
スクウェア・エニックス 安藤武博氏 ヤン魂。シリーズでは長らくプロデューサーに就いていたが,本作では一線から身を引き,“エグゼクティブ・ヤンキー魂。”として,プロジェクトをあえて“見ない”という立場で参加している | スクウェア・エニックス 伊勢友光氏 ヤン魂。第二期の運営会社ゲームポットから,セガを経てスクウェア・エニックスに移籍し,本作のプロデューサーに就任。かつて警察庁で刑事の職に就いていたという,異例の経歴の持ち主 |
「疾走、ヤンキー魂。」公式祭斗
「疾走、ヤンキー魂。」ダウンロードページ(Google Play)
スマホ版「疾走、ヤンキー魂。」は,“疾走”の看板に偽りのない作品。そして何より,ちゃんと遊べるゲームだ
安藤氏は関わらず,今回のヤン魂。は伊勢氏が作る
4Gamer:
安藤さんには,実はちょうど昨年の今頃に別件でお伺いしたときに,ヤン魂。のお話を聞いているんですよね。
そういえばお話しましたね。その頃には伊勢もうちに来てもらっていて,開発もぼちぼち始まっていました。
4Gamer:
そもそも伊勢さんは,どのような経緯でスクウェア・エニックスに入社されたんでしょう?
伊勢友光氏(以下,伊勢氏):
本当は独立して会社を作る予定だったんですけどね。
4Gamer:
ということは,社長になっているはずだったのに,気付けばここにいる,と。
安藤氏:
ゲームポットでヤン魂。の第二期を作り終えてから,僕とはしばらく疎遠になっていたんですよ。別れた恋人じゃないですけど,なんか気まずくて(笑)。ところがその後,彼が転職をするという話を風の噂で聞いて,「それなら言ってよ!」と声をかけてみたんですね。すると彼も「まさかそんなこと言われるとは!」と返してきたんです。
そのときは転職先が既に決まっていたので,それならばそこでしっかりと仕事をしてもらって,ごくごく近い将来,うちでヤン魂。を一緒に作ろうという約束をして,現在に至るというわけなんです。
4Gamer:
では伊勢さんがスクウェア・エニックスに移ってから,すぐにヤン魂。の製作に入ったんでしょうか?
伊勢氏:
いえ,少し落ち着くまでは別の仕事をしていました。移籍後に安藤が部長になったので,まずはマネージャーとして彼をサポートしていましたね。人事やら会計やら本当に大変で,落ち着くまでに1年間かかりました。
安藤氏:
そして満を持したところで,このヤン魂。の製作に入ってもらったということですね。
4Gamer:
そんなお二人にとってヤン魂。はとても愛着のある作品だとは思いますが,先ほどの“別れた”きっかけとなった作品でもあり,二度あることは三度あるとも言いますし,あんまり縁起の良い状態ではないと思うんですよ。
そんなヤン魂。を,どうしてもう一度やろうと思ったんでしょう?
安藤氏:
愛着ということもあるんですが,あのヤン魂。終了時のインタビューの最後にお話した,「僕ではない誰かがヤン魂。を作るべきだ」ということをいつか実現したくて。実は当時も,それを実現するのは(伊勢氏を指差して)この人だと思っていたんです。
なぜかというと,ヤン魂。には「単車の虎」でも「喧嘩番長」でも「クローズ×WORST」でもない,独自の世界がある。それを構築するためにゼロから,安藤流ゲームの作り方とヤン魂。とは何ぞや? を,手取り足取り3年間やりとりしたのはこの人だけなんです。何しろ警察庁の捜査一課から,いきなりゲームの世界に飛び込んで来た人ですから,ゲームに関するノウハウはまるで持っていなかったんですよ。
4Gamer:
取り締まりのイロハは知っているのに。
安藤氏:
そうそう,いろんな手口も知ってるけど,ゲーム作りはまるで分からない状態でしたから。そこに,ゲーム中のテキストの改行の仕方みたいな細かい部分から,もっと大きなことまでのノウハウを,第二期の頃に徹底的に叩き込んだので,ヤン魂。に関してはある意味僕の分身とまで呼んでいい人です。だから,ヤン魂。を僕以外が作るならば彼以外しか考えられないと。
僕が関わった第一期と第二期があの顛末だったので,この第三期は彼に任せてやってみたかったというのもあるんですけど。
4Gamer:
つまり,安藤さんが一線を退いて,伊勢さんが手掛けるヤン魂。を世に出したかったと。
安藤氏:
そういうことです。あともう一つの理由は,この数年間で先ほど挙げた“ヤンキーもの”と呼ばれる作品がスマートフォンでバンバン当たっているわけですよ。元祖“ザ・つっぱりネットワークゲーム”のヤン魂。としては,指をくわえて見ているわけにはいかないということで,満を持してスタートしましょう,と。
酔狂なゲームを作ってもらうために,開発会社を説得
4Gamer:
先ほど伊勢さんがスクウェア・エニックスに移籍後に企画が始まったとのことでしたが,具体的にいつ頃からだったんですか?
安藤氏:
伊勢が移籍したのが2012年の8月で,そこからいつでも作り始められるように,開発会社を探していたんです。スマホとはいえ,ヤン魂。を作るからにはちゃんとネットワークゲームの部分を出したかったので,それができる開発会社を口説く必要があったんです。
4Gamer:
最近はそういう経験のある開発会社も少なくはないと思いますが……。
安藤氏:
でもね,ヤン魂。というタイトル自体が,関わったことのない人から見ると,酔狂で突拍子もないタイトルですから,それに乗ってもらうのに説得する時間がかかってしまったんです(笑)。
4Gamer:
ああっ。
安藤氏:
いろんなところに当たって,最終的にヘッドロックさんに落ち着きました。
4Gamer:
見つかって良かったですねぇ。
安藤氏:
ええ,本当に。岡田信之社長と,取締役の宮路洋一さんを引っ張り出してきて,「これからはヤンキーの時代だ」って何度も力説しましたから。また運がいいことに,ヘッドロック側に,第一期のヤン魂。で最も有名なファンサイトを運営していた方がいて,内外からのヤン魂。プロモーション工作ができた(笑)。そういった甲斐もあって,開発をお願いすることができたんです。
実はヘッドロックは第一期の頃に僕らが参考にした「ディプスファンタジア」を作っていた会社でもあって,当時,ディプスの制作チームにはいろいろなことを教わった経緯があるんです。めぐりめぐってお願いできることになったのは運命的でしたね。
そこまでに約半年がかかって,具体的に動き始めたのは2013年の2月頃で,そのあとさらに社内調整があったので,実製作がスタートしたのはちょうど1年ぐらい前のことになります。
私はそれまではマネージャーとして財務管理などをしていたこともあって,どうすれば社内で企画が通るのかという部分について,ほかのゲームの様子を見ながらノウハウを掴むことができたんですね。それもあって,なんとか通すことができました。
安藤氏:
2回失敗しているゲームをもう一度復活させるって,サラリーマンとしてはけっこう難度が高いんですよ。
伊勢氏:
非公式な場で和田会長にヤン魂。をやることを話したら,「またぁ」って言われましたからね(笑)。
4Gamer:
でしょうね(笑)。ではその段階から,スマホ向けというのは決まっていたんですか?
伊勢氏:
ええ。PCでやりたい気持ちもあったんですけど,スマートフォンだからこそ通った企画だと言えますし。まずは3度目を成功させることが最大の目標ですからね。もちろん,現在,お客様が一番大勢いらっしゃる市場で出したかったという狙いもあります。
ただ“ザ・つっぱりネットワークゲーム”という初期コンセプトは必ず残したかったので,何かしらのネットワーク機能が使える環境で作りたかったことは間違いないです。
4Gamer:
このインタビュー前に開発中のサンプルを見せていただきましたが,いくつかの比較的軽めのゲームがあって,それを循環させるという,すごく現代的な内容になっていると感じました。
かつてのヤン魂。は,いわゆるMMORPGならではの重さがあったからこそ,支持された部分もあると思いますし,それによってプレイヤー間のコミュニティが強固なものになっていった気もするんです。今回は,そういったにおいが希薄になってしまうのではないかという懸念もあるんですが……。
伊勢氏:
ゲームの重さ軽さという部分については,確かにこれまでの反対側に位置するものですね。ただ,もともとヤン魂。って,ほかのプレイヤーとのチャットが面白いとずっと言われていて,さらに安藤からも最初に唯一「チャットだけは入れてね。コンビニだけは必須で」と念を押されていたので,私もそこはこだわりをもって用意させていただいています。
4Gamer:
ゲーム自体は軽くなっても,ちゃんとほかのプレイヤーとコミュニケーションを楽しむ要素は残っている,と。
伊勢氏:
ええ。ヤン魂。は第一期も第二期も,ゲームは何をしていいのかよく分からないけど,チャットだけは面白いという,ある意味ヤンキーのライフシミュレータ的に成立していたところがありましたし。
今回は族の抗争という部分をメインに持ってきたので,プレイヤー同士のチームワークを楽しむという部分に関しては,これまでよりも進化していると思います。
安藤氏:
最初のヤン魂。は,ゲームじゃなかったですからね。ただのごっこ遊びみたいな感じで。プレイヤーの皆さんが自分達で遊びをなんとか考案していたぐらい,ゲームの常識から外れていた(笑)。
伊勢氏:
「並んで震える」とか「人間で絵文字を作る」とか(笑)。
今回,それができないというのは,以前のプレイヤーさんにはさみしいかもしれませんが,現在ヤンキーのゲームを楽しんでいる方は,オープンワールドのMMORPGみたいな内容はあまり求めていないように思うんですよね。
4Gamer:
高い自由度よりも,ある程度の範囲でやるべきことがおさまっているほうが良いだろう,と。
伊勢氏:
ええ。そうはいっても今回のゲームも,やり込もうと思えば,バイクのパーツの組み合わせなども億単位までありますし,軽いながらも奥は深いものになっていると思います。
口は出したかったがとにかく我慢
4Gamer:
安藤さんは本当にチャットについての助言以外は関わっていないんですか?
安藤氏:
ええ,安藤が関わっていないゆえに“ちゃんとしたゲーム”になっているので,そこはご安心ください。
4Gamer:
は,はい……(笑)。
安藤氏:
実際,僕も見なかったし,伊勢も見せてくれなかったですからね。向かいの席なのにも関わらず(笑)。
でも実は一度だけ開発中に見せてもらったことがあるんです。その段階では,ゲーム中の“疾走感”みたいなものが今より足らなくて,「もしこのままでいくならばタイトルの“疾走”の部分は変えたほうがいいよね」というアドバイスはしました。
結果,タイトル名は変えずに,バイクで走ったり廊下を走ったりするときのスピード感とか,受け身ではなく能動的に青春を駆け抜けていくという意味での疾走感を感じられるものになっていったので,アドバイスした甲斐がありました。
4Gamer:
本当はもっと言いたいことはあったんじゃないですか?
安藤氏:
それはありましたよ! いま一番仕事で我慢しているのがそこですからね。すべてのタイトルにおいて!
現場のゲームクリエイターから管理職になった人は,この業界に大勢いると思うんですが,その中でも我慢をしている度でいえば,歴代一位だと自負してますよ! 我慢するぐらいなら,いっそ一切見ないほうがいいなって。
でもそうすることによって,新しいヤン魂。や「乖離性ミリオンアーサー」(iOS / Android)なんかも,自分の枠では生み出せない可能性が出てきているんですよ。
4Gamer:
安藤さんもジャージを脱いで,大人になったと。
安藤氏:
いや,それはないです(笑)。むしろ「作りてーっ!!」って凶暴になっているぐらいで。この熱はほかのものに向けることができない類のものなので,必ずもう一度,一から何かを作るつもりではいます。
4Gamer:
おっ,何か新しいものを?
安藤氏:
もちろんですよ! ずっとは我慢できないですからね。第三期ヤン魂。を世に出して思ったのは,やっぱりテーマ自体がすごく目立つんですよ。今のスマホのゲームの,はやりのゲームシステムやはやりのマネタイズが入っているから売れるという市場は,まだ成熟の余地があると思うんです。そうなると今後は,コンソールやネトゲと同様に,テーマの面白さが問われていくのは間違いないでしょう。
僕ももう一度現場に戻って,突き抜けたテーマで勝負するためにネタをためていて,それが今パンパンに膨れあがってどうしよう!? という状態なんです(笑)。
4Gamer:
それはちゃんと実現できそうですか?
安藤氏:
やりますよ! 今までもやるって言ってきたじゃないですか。この混迷としたゲーム業界で,次の何かを生み出しますよ。
4Gamer:
やはり,スマートフォン向けのものなんでしょうか?
安藤氏:
実はそこはあまりこだわっていません。「拡散性ミリオンアーサー」(iOS / Android / PlayStation Vita)はPlayStation Vitaでもやりましたし,第一期のヤン魂。も当時コンソール中心の市場でPCでやったりしていますし。僕にとってお届けする環境の垣根は完全になくて,その都度,最適なプラットフォームを選びたいと思っているだけなんです。
ただスマホって,わざわざゲームをしない大勢の人にも刺さる可能性があるので,奇抜なテーマをやりたい僕にはすごく嬉しいプラットフォームではあるんですよね。
4Gamer:
なめこが育つプラットフォームですし。
安藤氏:
でしょう?(笑)
アイコンをタップすればすぐにゲームが手に入って,無料で納得できるところまではプレイできますからね。そもそも僕のゲームって,前払いでお金を払いたくないと言われてきたことが多いですから(笑)。そういった意味では,スマホの市場は僕にとって相変わらず魅力的ではあります。それに最近ではスマホ発のタイトルが,ほかのプラットフォームへ移植されることも増えていますし,いよいよ垣根はなくなってきましたよね。
2003年にヤン魂。を始めたときと比べると,だいぶ環境は整ってきたな,と。
4Gamer:
俺の時代が来た! と。
安藤氏:
来ましたね。“10年早いは10年遅いと一緒”とはよく言ったもので,今まではそういった感じで旬からズレルことも多かったですが,今,ちょうどいい具合になってきたのかなと思います。
第三期ヤン魂。がスマホで動いてこれだけの色気が出ているところを見ると,10年前に考えた,やりたいことができるようになってきているなぁ,って。
4Gamer:
時期としてはヤン魂。の第二期が終わったあたりで,すでにスマホの可能性は見えていたんじゃないですか?
安藤氏:
あのときはちょうどiPhone版の「CHAOS RINGS」を出すぐらいのタイミングでしたが,まだ今のような考えはなかったと思います。
あの作品はパッケージゲームの内容をスマホに持ってきた形でしたけど,ソーシャルの文脈でありつつ,パッケージゲームのような演出が入るという融合体になった現在の様子は,まだ予想できていませんでした。そのときはむしろ,次はPCが来るのではないかと思っていたぐらいで。
伊勢氏:
あの頃だと,DeNAさんやGREEさんがとにかくカジュアルな内容で勃興していて,一方で安藤は高額売り切りハイクオリティのものを作っていて,両極を行っているというのが,外から見ていた印象でしたね。
4Gamer:
一時期はカードゲームばかりでしたからね。
伊勢氏:
そうでしたね。そういう意味でこのヤン魂。の“ザ・つっぱりネットワークゲーム”というジャンルは,唯一のものだという自負はあります。
4Gamer:
そんな伊勢さんも,ヤン魂。との出会いによって,どんどんおかしな方向へと引っぱられているんじゃないですか?(笑)
伊勢氏:
引っぱられていますね。ヤン魂。をやりたいと思っていたら,なぜか安藤のもとでスクウェア・エニックスの管理職をしていますからね。彼から「人生変わっちゃったね」って言われて,本当にその通りだと思って(笑)。
でも,自分の人生を賭けるぐらい価値のあるコンテンツだと思って育てていますから,絶対に喜んでもらえると思っています。これをやっておかないと先には進めない,ぐらいの考えで挑んできましたから。
安藤氏:
いろいろと顛末はありましたけど,提供する環境が整えば,みんなに可愛がってもらえるタイトルだと10年前から考えていましたから,いよいよそれが実現するときが来たんですよ!
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